Partnership with Robots

2023.06.16(Fri)

「リアルタイム遠隔操作」の壁を越える。
“ロボットと人との共生”に不可欠なイノベーションとは

#Smart World #セキュリティ #AI #デジタルツイン #ロボティクス #5G #IoT
遠方のロボットをリアルタイムに操作できれば、時間や場所の障壁を乗り越えられます。こうした世界を実現するために研究開発が進められているのが「テレプレゼンス×XR」の技術です。NTTコミュニケーションズ(以下、NTT Com)では、2020年4月に設立した「NTT Comイノベーションセンター」にて、技術研究やビジネス展開の検討を進めています。「ロボットと人との共生」を目指す取り組みの現在地点について、同センターのプロデュース部門に所属する丸山純平、上村芳徳の2名から話を聞きました。

“遠隔操作の最前線”を切り拓く。
イノベーションセンターの取り組み

——はじめに、イノベーションセンター(以下、IC)とはどのような組織なのでしょうか。NTT Com全体のロボティクス事業の取り組みにおける全体像と、その中でのICの位置付けを教えてください。

丸山純平(以下、丸山):イノベーションセンターは、5年後や10年後などの中長期的な視点で、未来の事業の柱の「種」を生み出すことにチャレンジしている組織です。新規事業および「新たな常識」の創出を担う出島のような役割であるのと同時に、Center of Excellence(CoE)として社内のイノベーションの推進・支援ならびに人材育成を行っている組織となります。

その中で、「物理的な距離を障害にせず、自由に活動できる社会にする」というミッションのもと、遠隔操作ロボットを活用した技術開発、ビジネス開発を行う「テレプレゼンスプロジェクト」が、私の担当している領域です。よりわかりやすくいうと、「いつでも 誰でも どこからでも(ロボットを経由して)世界中を旅したり、いつでも 誰でも どこからでも(ロボットを経由して)仕事ができる世界を創造する」ための活動といえます。

丸山純平|NTTコミュニケーションズ イノベーションセンター プロデュース部門 主査
イノベーションセンター・プロデュース部門発足当時からテレプレゼンスプロジェクトを担当。プロジェクトリーダーとして部門間のコミュニケーションを図り、お客さまからのヒアリング内容を反映させながら、研究開発およびビジネス開発の方針を策定している

昨年度より、NTTグループ全体のAIロボット戦略を検討するワーキンググループにも参加し、テレプレゼンスを中心に担当しています。このワーキンググループは「ロボットと人との共生」を目指しており、3つのテーマ——(1)テレプレゼンス×XR技術、(2)市街自動運転ロボ+管制PF技術、(3)コミュニケーションAI技術——に活動を分類し、テーマごとに事業化に向けて取り組んでいます。

「市街自動運転ロボ+管制PF技術」では、街を軸としたロボットとの共生を目指しています。「コミュニケーションAI」の領域では. 「⼈間の⼼」を理解し、リテラシー・状況・話題に合わせた会話ができるAIによって、仕事や⽇常⽣活のあらゆる場面でサポートがなされる世界を目指しています。

こうした全体像の中で、私たちは「テレプレゼンス×XR技術」の開発およびビジネス化を推進している、という位置付けになります。

上村芳徳(以下、上村):現在のNTT Comは、従来のネットワーク/クラウドビジネスという枠組みを超えて、ICT(情報通信技術)を駆使した豊かな世界「Smart World」の実現をキーワードに、より社会や人間に寄り添う形で事業を展開していますが、ICはさらに未来を見据えて、将来的に1,000億円レベルの事業になり得るジャンルについて研究開発を進めています。

ICは、大きく4つの部門——(1)テクノロジー部門、(2)プロデュース部門、(3)デザイン部門、(4)技術戦略部門——に分かれています。こうした部門が、プロジェクト単位で協働して研究開発を進めており、テレプレゼンスプロジェクトについては、この中のテクノロジー部門とプロデュース部門が協働しています。

上村芳徳|NTTコミュニケーションズ イノベーションセンター プロデュース部門 主査
2022年度まで丸山の1名体制だったテレプレゼンスプロジェクトに2023年度から加入。社内外でのデモ、データセンターを含めたさまざまなユースケース検討など、丸山が1人でプロデュースしてきた業務をスピードアップ&スケールアウトするための役割として従事している

“ロボットの進化”だけでは足りない?
テレプレゼンス技術が重要視される理由

——テクノロジー部門とプロデュース部門は、具体的にどのような業務を進めているのでしょうか。

丸山:まず、テクノロジー部門では、ロボットの遠隔操作における通信エンジンの研究開発をメインに行っています。遠隔操作は多くのロボットメーカーが取り組もうとしている分野ですが、通信におけるさまざまな課題もあり、実用化に至っていないケースが多いのが現状です。通信会社であるNTT Comとしては、遠隔操作ロボット向けに簡単に利用できる通信エンジンを提供できるようにしたいと考えています。

一方、我々が所属するプロデュース部門では、テクノロジー部門の研究開発の成果として出てきたものを、お客さまに届けるためにいかにビジネス化していくか、という部分に取り組んでいます。例えば、お客さまと一緒に実証実験を行ったり、通信エンジンを使って新たなソリューションを生み出したり、といったところを担っています。

ちなみに、遠隔操作ロボットというのは、具体的に3つの技術的な要素で成り立っています。(1)動作制御を担う「アクチュエーター技術」、(2)IoTでも使われる「センシング技術」、そして(3)通信遅延を少なくするような「通信技術」です。すでに、アクチュエーターは小型化が進んでいますし、センサーもさまざまな種類が登場していて、成熟してきています。

3つめの通信は、NTT Comが大きな強みを持つ領域です。IOWN構想でのAPN(All-Photonics Network)や6Gなどを通じて、将来的に通信遅延を限りなく小さくしていけると期待しています。

上村:ひと言で「遠隔操作ロボット」と括っても、さまざまな姿があります。わかりやすくいえば、建設現場では大きなパワーが主に求められますが、人と触れ合うロボットなら繊細さが求められますし、どちらも安全面には気をつけなくてはいけません。

丸山の話した3つの要素というのは、ユースケースによって求められるバランスが変わってくるものなのです。だからこそ、必要に応じて部門の垣根を越えて連携し、社内のアセットを十分に活用しながら、常に最適なソリューションへと発展させていける体制を構築しています。

——そもそも「テレプレゼンス」とはどういった技術なのでしょうか。テレプレゼンス技術がロボティクス分野において重要視されている理由を教えてください。

丸山:日本では「テレイグジスタンス(Telexistence)」と表現されることも多いですが、グローバルでは「テレプレゼンス(Telepresence)」の方が通じやすいので、我々は後者を使っています。和訳すると、「遠隔実在」という意味で、文字通り「自分が遠隔に実在している」というイメージです。

ロボットを介してテレプレゼンスの価値を提供するためには、「自律制御」のほかにも、「リアルタイムでの遠隔制御」や「感覚フィードバック」をうまく組み合わせる必要が出てきます。特にリアルタイム制御は重要で、遅延があると、操作する人の感覚に違和感が生まれます。ビデオ通話くらいなら会話の間がズレるくらいで済みますが、例えば演劇や遠隔での手術といったユースケースを考えると、遅延は大きなストレスとなるだけでなく、事故にもつながり兼ねません。

上村:ロボットを遅延の少ないネットワークに接続すればそれで良いかというと、話はそう単純ではありません。企業や社会において通信の安全性は必須要件になっており、セキュリティ対策の影響で、遠隔操作する人とロボットとの間には、遅延やブロックという要素が付随します。そういった障壁を一つひとつクリアしていかなくてはいけません。

テレプレゼンスをやりたいというロボットメーカーが多い一方で、なかなか実現されてこなかったのは、やはりこういった通信面での課題が多いことも理由のひとつだと思います。NTT Comとしては、この領域のソリューションを提供していくことは、意義があることだと考えています。

最適なソリューションへとスピーディーに導く
内製システムの強み

——テレプレゼンス技術の開発は、具体的にどういったビジネスに発展しているのでしょうか。

丸山:お客さまからのニーズがあり、我々もアセットを持っていた「データセンター」の運用監視業務について、テレプレゼンスを活用する取り組みを進めています。

データセンターにおける、トラブル時に人が駆けつけたり、毎日同じ時刻にランプのチェックをしたり、といった人の稼働が求められる単純な業務には、自動化の余地があります。また、データセンターを利用される企業にとってシステム障害は大きな損害になり得ますので、ロボットが即座に稼働することで自社の人員が駆けつけることなく現場のオンサイト業務ができる、ということに価値を感じていただけます。

実際、こうしたソリューションはお客さまからも好評で、実証実験から実案件としての導入につながるケースも出てきました。またロボットにとって、データセンターは雨風がなく温度が一定で、通常は人の往来も少ないので、導入するのに適した環境であるというメリットもあります。

——データセンターでのテレプレゼンス実証実験には、どのようなロボットを採用しているのでしょうか。

丸山:ノウハウの蓄積のため、テクノロジー部門の内製で「AVATANK(アバタンク)」というプロトタイプのロボットを最初に製作しました。こちらはランプチェック業務を遠隔で行う点に特化して、検証のために製作したものです。

AVATANK(アバタンク)。データセンターでの作業を想定し、360度方向への移動やカメラの昇降ができるように仕上がっている

通信エンジンには、テクノロジー部門が保有する「Skyway for ROS(仮称)」を活用しました。このように自社で物理設計から通信・制御、ユースケース検証までを垂直統合で取り組むことで、NTT Comの強みを活かし、検証速度も向上させやすくなるメリットがありました。

一方、AVATANKは機能検証の用途で制作していたため、モーターや配線などの内部構造がむき出しになっている部分もあり、これをそのまま顧客に納品するということはできません。そこで、ロボットベンダーと協力しながら、PL法などの法律的な観点をクリアして、お客さまに実際に提供できるレベルまで整えたロボットを現在開発中です。

開発中のロボットは、充電ステーションから該当ラック前まで移動してランプチェックを行う、人が近くにいたときにぶつからないように回避する、といったタスクや条件をクリアしながら、データセンターの運用監視業務に最適化させたロボットです。もちろん、自動制御の見回り監視業務だけではなく、リアルタイムで運用者が遠隔操作することができます。AVATANKで得た知見を活かしながら、ニーズとコストのバランスを踏まえた実装を意識して開発しています。

ちなみに現在は、次のステップへ向けたVer.2モデルの開発にも着手しています。

——遠隔操作ロボットの設計から検証までをNTT Com内製で行えることには、ロボット利用を検討している企業やロボットメーカーにとってどのようなメリットがあると感じていますか?

上村:まずテクノロジー部門がいることで、物理ロボットから通信・制御に至るまでの技術検討を多角的な視点でしっかり行えます。ロボットメーカーのみに技術部分を頼ってしまうと、どうしてもメーカーの得意な領域に偏ってしまう恐れがあるのです。また、お客さまから「こういう機能を付加できるか?」という相談を受けたときにも、テクノロジー部門と連携することでスピーディーに検討できます。

一方で我々プロデュース部門は、ひとつの技術にとらわれることなく提供価値を中心に議論を展開し、ビジネスとしての着地点を見据えた上でのロボット導入に注力します。例えば「どの機能を削る必要があるか?」「提供価値はコスト換算しやすいか?」「信頼・安心という価値は提供できているか?」といった議論も欠かせません。

このように、同じラボの中という近い距離で、強みが異なるリソースが協働できるというのが、ICの強みだと捉えています。

丸山:また、グループとして既存の法人とのつながりが強いことも、NTT Comの強みのひとつだと認識しています。お客さまと協業して何かを創り上げるときに、早い段階から中に入り込んで進めていけるスピード感は、NTT Comならではのものです。

XR活用×IOWN構想の実現でここまで変わる。
理想的な「ロボットと人との共生社会」とは

——今後「テレプレゼンス×XR」の領域としては、XR技術をどのようなユースケースで活用していく可能性があるのでしょうか。

丸山:大前提として、テレプレゼンスに必ずしもXRが必要かというと、そうではないと思っています。例えば、我々が今取り組んでいるデータセンターの事例では、現時点ではXRを活用せずに成立しています。

一方で、XRを組み合わせると、より鮮明に情報を取得できるというメリットが生まれます。ユースケースによっては、XRを活用することでサービス品質を上げられると思っています。ドコモグループにはNTTコノキューというXRに特化した企業がありますので、AIロボットワーキンググループでは、このNTTコノキューと連携してXR関連の事業検討を進めています。

上村:例えばXRは、医療や介護、災害対応での活用が有効だと考えられます。単に映像を見ながらリアルタイムに遠隔操縦を行うだけではなく、XRを用いることで現場の状況を把握しながら複数人でシミュレーションや共同作業を行う、といった活用ができるからです。災害現場における復旧の段取りを遠隔であらかじめ行ってから共同作業に臨む、といったイメージですね。同様に、遠隔からのスキル支援などにも活用できるでしょう。こういったユースケースには、XRやデジタルツインといった技術とロボットを組み合わせたソリューションが活きてくるのではないかと考えています。

——IOWN構想で、低遅延性のリアルタイム制御の実現が目標とされています。こうした進化の先に、テレプレゼンス×XRにおいては、どのような可能性が広がっていくのでしょうか。

上村:大容量・低遅延の通信が実現した世界では、スポーツ観戦が8K映像によって臨場感が増したり、複数のカメラの映像から3D空間を合成する「ボリュメトリックビデオ技術」などによって好きな角度から観戦できたりするような体験が可能になっていきます。

ここにさらにテレプレゼンス×XRが加わると、例えば、選手をロボットやアバターに置き換えた競技などが実現できるかもしれません。もしそうなれば、選手は世界各国、それぞれの国にいながら対戦が実現する。しかも対戦はロボットを通じて行われるので、複数のリアル会場で試合が再現され、観客は好きな会場に見に行く、といった楽しみ方も実現するかもしれません。距離に関係なく好きな場所で熱狂を味わえ、さらに同時にVR空間にも反映できる。そういったことが実現する可能性があるのではないでしょうか。

丸山:ほかにも、日本にいながらアメリカにあるロボットを経由して現地の人と会話する。それが終わったらフランスにあるロボットを動かす——といったように、ロボットを介することでグローバルな働き方が可能になるかもしれません。その上で、APNを駆使した低遅延の通信の実現は、とても重要になってくるでしょうね。

OPEN HUB Parkに展示されているロボット「Toala」。動きの自由度が高いこのロボットをベースにお客さまと議論を重ね、共創を進めている

——今後のロードマップやテレプレゼンス×XRで実現したいことを教えてください。

丸山:まずは、データセンター用途で開発中のロボットをしっかりと実用レベルまで落とし込んでいこうと考えています。そして、ここで蓄積したノウハウをほかに活かしていくことを次のステップとして想定しています。

データセンターは、自社での運用のみならず、多くの事業者への展開、グローバルへの展開などが見込めますので、ロボット技術のみならずビジネススキームを含めて確立することが重要だと考えています。

それと並行し、ほかの領域に対しても適用可能な技術については、研究開発を目的とするグループ会社などとも連携しながら、市場の変動に柔軟に対応できるように進めて行くつもりです。

——こうした取り組みの先に見えてくる「ロボットと人との共生」社会は、どのような世界なのでしょうか。

丸山:小さいころから、ロボットが生活の上で当たり前になる世界を夢に見てきました。いろいろなロボットと共に働く世界が待っていると思っていましたが、残念ながら現在でも、まだまだ生活の中でロボットに出会う機会は限られているように思います。ICでテレプレゼンスロボットの事業に携われるこの機会を最大限に活かし、自分たちで掲げた世界観を実現したいですね。

これから5~10年かけて「いつでも 誰でも どこからでも(ロボットを経由して)世界中を旅したり、(ロボットを経由して)仕事ができる世界を創造する」という世界観を本当に実現したいと考えています。

上村:ひと括りに「ロボット」といっても、自律的に動くロボットや、人が動かすロボットなどさまざまな種類があります。テレプレゼンスプロジェクトでは、ロボットが人間の分身のようになることで不便さの解消に役立つ、という文脈で未来を描いていて、私はそこに共感しています。

今後、人だけでなく、ロボットにとっても動きやすい環境・インフラが整っていき、「ロボットフレンドリー」な社会が整備されていけば、結果として人間は、限られた人生の中で、活躍の場をさらに広げたり、より人生を楽しめたりするようになるのではないでしょうか。私はそんな世界に憧れています。