Carbon Neutrality

2022.03.16(Wed)

CO2削減量はいかほど? 業界別に見る効果的な脱炭素の方法とは

#サステナブル #環境・エネルギー
2050年までのカーボンニュートラルを掲げる日本。目標を達成するためには、CO2排出量削減のための企業のアクションが必要です。では、どのような取り組みをしていけばいいのでしょうか。経団連が脱炭素に取り組むことで影響力が大きいとする製造業、流通・小売業、不動産・オフィスビル業の3つの業界に絞り、それぞれが直面している課題と解決策について、気候科学者・江守正多氏が監訳を務めたアメリカの環境保護活動家ポール・ホーケンの著書『ドローダウン 地球温暖化を逆転させる100の方法』を参照してCO2削減量もふまえて紹介します。

※本記事に記載しているCO2削減量は、『ドローダウン 地球温暖化を逆転させる100の方法』を参考に、現状維持の世界と比較した際に2050年までに削減可能な数値を記載しています。

目次


    製造業に必要な、「つくって捨てる」からの脱却

    世界のCO2排出量は、2018年時点で約33.5Gt(335億トン)。日本は世界で5番目に多くのCO2を排出しています。また、環境省が2021年12月に発表した「2020年度(令和2年度)の温室効果ガス排出量(速報値)」によれば、2020 年度における日本の温室効果ガス総排出量は約1.1Gt(11 億 4,900 万トン)。そのうちの4分の1となる約24%が産業部門(工場等)からの排出とされています。日本の脱炭素化を進めていくうえで、産業部門の変革が非常に重要なことが分かります。

    【循環型経済(サーキュラーエコノミー)へのシフト】世界における2050年までのCO2削減量:2.8Gt

    産業部門における再生可能エネルギーへの展開は言うまでもありませんが、産業廃棄物と家庭廃棄物の65%を再利用することで、2050年までに2.8GtのCO2排出を回避できる見込みがあります。そのためのアクションの1つとして求められているのが、生産・消費・廃棄という直線型経済(リニアエコノミー)から、資源を循環させる循環型経済(サーキュラーエコノミー)への転換です。再利用できる仕組みをつくることで、資源採取・輸送・原材料加工によって生じる温室効果ガスの排出を削減できるほか、資源不足の対策にもなるといわれています。

    また、原料をリサイクルしやすいものに変換したり、リサイクルや再利用できる商品への切り替えを強化したりすることも欠かせません。アメリカでは再生資源の仲介プラットフォームとして「Materials Marketplace」が2015年に創設され、関係者をつないで必要に応じて企業間の取引を仲立ちする役割を果たしています。日本の企業においても、需給者間で再生資源を有効活用する仕組みを提供し、サーキュラーエコノミーの実現を推進する「再生資源循環プラットフォーム」の実証実験が行われています。

    【バイオプラスチックへの変換】世界における2050年までのCO2削減量:4.3Gt

    私たちの生活のさまざまなものに取り入られているプラスチックは、過去50年で約20倍に生産量が急増。加えて、化石資源の枯渇や海洋汚染などの問題を引き起こす要因にもなっています。

    そこで期待されているのが、従来のプラスチックをバイオプラスチック(※)に変換し、資源循環型社会を実現すること。2022年4月1日から「プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律」が施行され、バイオプラスチックの導入はより加速していくでしょう。
    ※バイオプラスチックには、植物など再生可能な原料を用いるバイオマスプラスチックと、土壌中などの微生物によって分解されてCO2と水になる生分解性プラスチックの2種類がある。

    後れを取る小売業、まずは再エネ導入から

    他業界に比べてカーボンニュートラルに向けた取り組みが遅れているといわれている小売業ですが、ステークホルダーの意識の変化に呼応するようにして、アクションを起こす企業が増えています。また、食品小売りでは食料廃棄も向き合うべき課題の1つ。私たちが無駄にする食料は、毎年4.4GtのCO2を大気中に放出しているのと同等といわれており、人間活動に由来する温室効果ガス排出量の合計の8%に当たります。

    【再生可能エネルギーへの転換】世界における2050年までのCO2削減量 陸上風力発電:84.6Gt/洋上風力発電:14.1Gt/屋上ソーラー:24.6 Gt

    水力・風力・地熱・バイオマス・太陽光といった再生可能エネルギーは、発電時にCO2を排出しない環境にやさしいエネルギー源。2015年7月に経済産業省から発表された「長期エネルギー需給見通し」では、2030年度までに再生可能エネルギーの比率を22~24%に引き上げることが目標とされています。大手流通・小売企業が店舗運営における使用電力100%再生可能エネルギー化の実現を目指すことを表明し、一部の店舗でグリーン発電所からの電力導入をスタートしています。

    また、日本のエネルギー供給は海外からの輸入に依存しており、エネルギー自給率は約12%。安定したエネルギーの確保のためにも再生可能エネルギーの普及が望まれます。日本では陸上風力発電の設置が進んでいるほか、洋上風力発電も検討・計画が進み、屋上ソーラーを導入することでもエネルギーコストを落とすことができるといわれています。

    【食料廃棄量の削減】2050年までのCO2削減量:26.2Gt

    農林水産省の調査によれば、日本の事業系食品ロスの発生量は309万トン。令和元年に公表された「食品循環資源の再生利用等の促進に関する法律(食品リサイクル法)」において、2030年度までに事業系食品ロスを半減(2000年度比)する目標が設定されており、廃棄を未然に防ぐことが求められています。世界でもさまざまな施策が実施されて、フランスではスーパーマーケットが売れ残った食品を捨てることを禁じ、代わりに慈善団体や動物飼料・堆肥会社に譲渡することを義務付ける法律が成立。イタリアもそれに追随しています。世界では投資家が廃棄食品に投資しつつあり、売り物にならない果物や野菜をジュースにする、コーヒーかすでキノコを栽培する、醸造所の廃棄物を動物飼料に変えるといったサーキュラー型のビジネスも増えています。

    食料廃棄を防ぐためには、食べ残しの持ち帰り、商慣習見直し、小容量販売などできることが数多くあります。需要予測の精度向上もその1つ。製造から、小売店までサプライチェーン横断で、商品の在庫や流れを管理する実証実験が行われています。

    環境型オフィスビルへ。不動産・オフィスビル業にできること

    日本におけるCO2排出量の約50%が都市活動に由来するとされています。カーボンニュートラルを実現するためには、都市部での努力が必要不可欠。都市部のオフィスビルや商業施設にも環境への配慮が求められています。

    【ビルディング・オートメーション・システムの導入】2050年までのCO2削減量:4.6Gt

    建物のエネルギー効率を見直すだけでも、一定の効果を得ることができます。エネルギー制御を自動化するビルディング・オートメーション・システム(BAS)を導入して効率化を実現できると、冷暖房は最大20%、照明や電化製品などに消費するエネルギーは11.5%節約でき、建物所有者は8,810億ドルの運用コストが節約可能に。導入コストがかかるので短期的な回収は難しいですが、BASの導入は入居者にとっても快適な空間を実現できます。ビルは一度建てたら長く使うもの。BASは長期的な投資として考えるべき解決策の1つでしょう。

    【ネット・ゼロ・エネルギー・ビルの導入】2050年までのCO2削減量:7.1Gt

    新築物件に対しては、省エネ家電を活用することで消費エネルギーを減らすと同時に太陽光発電や風力発電などによってエネルギーを創り、建物のエネルギー収支をゼロにするネット・ゼロ・エネルギー・ビル(ZEB)の導入も検討したい方法の1つです。新築建物の9.7%をネット・ゼロにすると仮定すると、合計7.1Gtの二酸化炭素を削減可能に。日本では、不動産協会を中心に2030年までに新築オフィスビルの平均でBEI(省エネルギー性能指標)=60%以下の実現を目指しています。またZEBの建物に対しては国からの補助金が出されています。

    今回、製造業、流通・小売業、不動産・オフィスビル業の3つの業界における脱炭素に向けた取り組み方法の一部を紹介しました。より効果的、効率的に実施するためには、あらかじめどれほどの効果があるのか見定めることが必要です。今回解決策とともに提示したCO2削減量はその指標の1つ。また、サプライチェーンを含め、事業や製品の製造過程で使用されるエネルギー量を把握することも欠かせません。こうしたデータの可視化は、環境型ビジネスへの転換の第一歩。現状や導入する施策の効果、そして結果をしっかり把握しながら、脱炭素へ向けて取り組みを前進させていきましょう。

    『ドローダウン 地球温暖化を逆転させる100の方法』の監訳を務めた気候科学者・江守正多氏の記事はこちら

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