Carbon Neutrality

2022.02.09(Wed)

脱炭素の世界へ向けて、いま問われる企業の姿勢

#サステナブル #環境・エネルギー
世界で頻発する、熱波や洪水などの異常気象。その一因とされているのが、CO2をはじめとした温室効果ガスによる地球温暖化です。2050年までにカーボンニュートラルを掲げる日本ですが、企業にもアクションが求められています。地球の現状をあらためて顧みながら、企業はどうあるべきか、国立環境研究所の気候科学者・江守正多氏とともにOPEN HUB のCatalystである福原伸太郎、細井尚美が考えました。

目次


    経済発展と引き換えに失われた自然との調和

    ここ数年で話題にのぼることが増えた地球温暖化。2021年に公表された「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」の報告書によれば、世界の平均気温は産業革命以前と比較すると約1℃上昇しているといいます。

    その主な原因とされているのが、CO2排出量の増加です。特に先進国では、石炭や石油などの化石燃料を大量に消費して工業化を実現し、経済発展によって豊かさを手に入れた一方、そうした人間活動が自然のバランスを崩すきっかけに。その大きな皺寄せがきているのです。

    江守 正多|国立環境研究所 地球システム領域 副領域長
    1970年神奈川県生まれ。1997年に東京大学総合文化研究科で博士(学術)を取得後、国立環境研究所に勤務。2021年より現職。社会対話・協働推進室長を兼務。東京大学 総合文化研究科 客員教授。専門は気候科学。IPCC(気候変動に関する政府間パネル)第5次および第6次評価報告書 主執筆者。著書に『異常気象と人類の選択』『地球温暖化の予測は「正しい」か?』など。

    「世の中には『はたしてCO2濃度の増加が地球温暖化の原因なのか』と勘ぐる人もいますが、特に20世紀後半からの著しい気温上昇は、人間活動が関わっていなければ説明がつかないほど急速なものです。温室効果ガスの排出や森林伐採が主な原因になっていることは事実です」と江守氏。

    世界の平均気温の推移を見ると、人間活動による温暖化は疑う余地がない。
    出典:「IPCC WGI AR6 Figue SPM.1b」

    このままの人間活動が続けば、今世紀末には最悪の場合5℃程度平均気温が上昇するともいわれます。

    「気温が上昇することで気候変動が起きるといいますが、地球に暮らす私たちは、実際どのような影響を被ることになるのでしょうか」(細井)

    「気温が上昇すると大気中の水蒸気量も増えるので、大雨が降りやすくなります。それによってまず水の被害を受ける地域が増えます。例えば、2011年にタイで洪水が発生しましたが、そのときは現地の工場が水没してしまい、日本への製品の部品供給が途絶えるなど産業への影響もありました」(江守氏)

    海面水位の上昇もまた、地球温暖化がもたらす影響の1つ。IPCCによると、現時点で産業革命前から20cm程度上昇しており、今世紀末には気温上昇が最も低いシナリオでも50cm程度まで、最も高いシナリオでは1m近くまで上昇すると予測されます。加えて南極大陸の氷床が不安定化し、崩壊した場合は1.7m程度上昇すると考えられています。

    実際に南極氷床が不安定化するかは現時点の科学では不確かであるものの、可能性を排除できない。
    出典:「IPCC WG1 AR6 Figure SPM.8d」

    「海面水位が上がると、海沿いの低い土地や小さい島国では高潮で浸水するエリアが増えていきます。また、暖かくなると蚊の生息域が広がり、マラリアやデング熱など蚊を媒介とする感染症のリスクも上昇していく可能性があるともいわれています。シベリアの永久凍土には未知のウイルスや病原菌が眠っているともいわれ、気温上昇によって活性化して世界に拡散する危険性もあります」(江守氏)

    産業革命以来の不可逆的なパラダイムシフト

    こうした最悪のシナリオに進まないための鍵を握るのが、カーボンニュートラルです。

    2015年にパリで開催された「国連気候変動枠組条約締約国会議(COP)」で、温室効果ガス削減に関する国際的な取り決め「パリ協定」が策定されました。そのなかで世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く保ち、1.5℃に抑える努力をするという目標が掲げられ、「今世紀後半に温室効果ガスの排出と吸収をバランスさせる」カーボンニュートラルを表明。2020年から本格的な活動が始まりました。

    「国や地域を超えて議論が進む一方、企業による環境対策がなかなか進まなかったのは、『経済と環境をどう調和させていくべきか』という議論が付きまとっていたという面もありますよね。経済成長を目指すのが企業の使命であるとするならば、どのようにバランスを取って環境問題に取り組んでいけばいいのでしょうか」(福原)

    福原 伸太郎|NTTコミュニケーションズ OPEN HUB Catalyst /Business Producer
    入社以来、音声サービスのデリバリ改善、NTTグループ連携推進、フロントセールス、業界戦略検討支援といった幅広い業務を経験。現在はOPEN HUB カタリストを統括する立場で、共創案件を推進するためのプログラム「PLAY」の設計・運営やカタリスト間連携をリードしつつ、複数の実案件支援にも携わり”現場感覚”を重視した共創案件創出に注力している。

    「数年前までは環境問題を一時的なブームとして捉えている人も多く、企業に呼ばれて講演をしても『環境問題のトレンドはいつまで続きますか』といった質問を受けることがありました。つまり、どこか他人事だったわけです。しかし現在は、世界全体が脱炭素化に向けてかじを切っています。これから先、環境問題をどのように解決していくかが企業活動の前提になるわけです」(江守氏)

    「事実、世界では環境問題への取り組みをミッションに掲げる企業が増えていますよね。例えば金融業界はグリーン投資が目立つようになるなど、変化が大きいように感じます」(福原)

    「おっしゃる通り、金融は大きな変化が見られる業種の1つです。グリーン投資が増加し、環境に配慮する企業を重視して投資が行われるようになっています。それによって脱炭素化が難しいといわれるエネルギー産業や製造業などでも再生可能エネルギーへの積極的な投資が行われ、ポジティブな変化が生まれています」(江守氏)

    世界でも国内でも、太陽光・風力発電をはじめとする再生可能エネルギー、環境不動産など、環境改善に資する事業に資金使途を限定して発行する債券=グリーンボンドの発行が増加し続けている。
    出典:Climate Bonds Initiative “Climate Bonds Partner Zone” 取得データをもとに環境省作成(2022年1月20日時点)

    出典:各発行体ホームページ等をもとに環境省作成(2022年1月10日時点)
    ※外貨建て発行分については、1米ドル=110円、1ユーロ=135円、1豪ドル=90円にて円換算。

    「化石燃料から再生可能エネルギーへの移行が実現すれば、産業の構造自体が変わります。事業の傍らで省エネ化に取り組むといった小手先の対策ではなく、事業の真ん中に環境問題を据えて、炭素排出量がゼロになった世界で自分たちのビジネスが成立しているのかを考えていく必要があると思います」(江守氏)

    ICTで貢献する炭素削減への道

    これまでNTTコミュニケーションズは、地球温暖化を抑止するために「通信設備」と「オフィス」の2つの側面からCO2削減に励んできました。また、2021年からは環境マネジメント体制の見直しを図り、グループ一丸でさらなる地球環境の保護活動を推進しています。

    「企業が脱炭素へ向けて歩みを進めるためには、エネルギー使用量などを見える化して状況を把握していくことが今後は不可欠ですよね。例えば、新商品を開発する際に製造工程におけるCO2の排出量を考慮に入れて取り組む企業も増えていくはずですし、見える化した中で必要に応じて改善策も講じなければならなくなる。データの利活用を通して、そのような活動に寄与していくことがNTTグループに求められていると感じます」(福原)

    「CO2の排出量を減らすと聞くと、不便を強いられると考える人もいるでしょう。そうではなく、むしろ快適にしていくのがICTの役割だと私も思います。残念ながらまだ日本では、”やらなければいけない”という意識でカーボンニュートラルに取り組む企業も少なくありません。よりポジティブな活動に変えていけると社会の認識も変化していくと考えています」(江守氏)

    「ヨーロッパでは、ビジネスを転換していくことをポジティブに捉え、企業が環境問題に対して積極的に取り組んでいるケースもあると聞きます。グローバルで見ると、日本は遅れている状況にありますが、今後、日本でもグリーン経済の実現に向けて活動を活発にしていくために、ICTの取り組みが一助になれたらと思います」(細井)

    細井尚美|NTTコミュニケーションズ OPEN HUB Catalyst/Media_Community
    入社後、法人営業を経て、個人/法人向けのプロモーションやデジタルマーケティング業務に従事。OPEN HUBにおいて、OPEN HUB JournalやOPEN HUB Baseの運営に携わり、最新ビジネストレンドや先進事例の情報発信に取り組んでいる。

    「現在、日本では大企業を中心にカーボンニュートラルに向けた機運が高まっている状況だと思いますが、中小企業はどのような姿勢でいるべきでしょうか?」(福原)

    「大企業の方が取り組みが進んでいるのは確かです。しかし、中小企業においても、サプライチェーン全体での排出削減を目指す取引先の大企業などから、目標設定などの排出削減の取組みを求められるようになってきており、徐々にその流れが波及していくはずです」(江守氏)

    そのとき、いかにICTをはじめとする最新技術や、大企業が培ってきた知見を通じて、日本経済全体の再生可能エネルギーへの転換やシステムの刷新をサポートできるかが重要です。

    炭素排出量ゼロの世界で、そのビジネスは成り立つか?

    カーボンニュートラルへの取り組みは、企業のこれまでの活動を省みる良いきっかけにもなると江守氏は説明します。

    「今でこそ奴隷制度はひどい行為だったと認識されていますが、当時は当たり前のこととされていたわけです。脱炭素の問題も、未来から見ると同じような存在になる可能性があると考えています。カーボンニュートラルが実現した社会からすると、現在の私たちは平気でCO2をたくさん出して、とんでもない仕事や生活をしているように思われるかもしれません。その見直しを図るのが、これからの企業に必要なことではないでしょうか」(江守氏)

    そして、これからの企業には“優しさ”が求められる、と江守氏は続けます。

    「環境問題は、今を生きる私たちだけでなく、将来世代にも関わってくる重大な問題です。いまの自分たちの取り組みが人や社会にどのような影響を与えることになるのか、近視眼的にならずに考える必要があります。遠い世界だから自分には関係ないと捉えるか、世界が少しでもよくなるように考えるきっかけにするかで結果は変わるのではないかと私は思います」(江守氏)

    「もはや1社だけ、1人だけが儲かればいい状況ではなく、企業や業界の垣根を越えて一緒に考えていく必要性がありますね」(細井)

    炭素排出量ゼロを前提としたとき、自社がやっているビジネスは果たして成り立つのか? そう事業を省みるタイミングが、まさに今なのだと江守氏は言います。視点を変えれば、脱炭素に向けて成長できるビジネス創出の可能性は大いにあるということです。そして、脱炭素が叶った先にある新しい時代についても思い描きながら、ビジネスも、人と地球の関係もデザインしていくべきではないでしょうか。

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