01
2024.04.20(Sat)
目次
――GX-ETSが本格稼働したことで、企業のカーボンクレジットに対する向き合い方は変化していますか。
大北氏:関心は非常に高まっています。GX-ETSは、自社に割り当てられた温室効果ガス(GHG)の排出枠に対して、その過不足分を市場で取引する制度です。企業がカーボンクレジットを購入して使用(無効化・償却の手続き)すると、各年度の実排出量の10%を上限に控除できるとされています。つまり企業は、自社でGHG排出量の削減を行い、それでも超過した場合は、排出枠の調達(GX-ETS)とカーボンクレジットの購入(カーボンクレジット市場や相対取引)・償却を組み合わせた対策を取ることになります。超過したままだと、金銭的ペナルティにあたる「未償却相当負担金」を払わなくてはいけません。
GX-ETSの対象企業は、毎年9月30日までに各種の届出をし、その後、排出枠の割り当てや、排出実績量の報告、保有義務の履行が順次進んでいきます。しかし、2030年に向けて自社の削減実行計画を具現化し、排出枠の取引やカーボンクレジットの調達に関する戦略をしっかり策定できている企業はまだ少ない状況です。
一方で、不確実性への備えとして、カーボンクレジットを求める企業は増えています。例えば、燃料価格の高騰などで老朽化した石炭火力発電所を稼働させなければならなくなるなど、将来の排出量を正確に予測するのは難しいことです。加えて、将来的に未償却相当負担金やカーボンクレジット価格が上がっていく可能性もある。そこで、一定量のカーボンクレジットを安価なうちに調達し、将来に充当しようという動きがあります。今後、クレジットの需要はさらに高まり、供給が足りなくなると予測されています。

――カーボンクレジットにはどのような種類があるのでしょうか。
大西:GHG排出削減の方法論により、いくつかの分類方法があります。J-クレジット制度では、6つの分野で方法論を定めており、「省エネルギー」「再生可能エネルギー」「工業プロセス」「農業」「廃棄物」「森林」に由来するクレジットがあります。中でも、「農業」「森林」と「廃棄物」の一部は、自然の生態系や土壌、植物を利用するため「自然由来のクレジット」、それ以外は、設備や技術の導入による「技術由来のクレジット」と呼ばれています。
また、方法論は、大きく「削減系」と「吸収・除去系」の2つにも分けることができます。「削減系」は、エネルギー効率の良い設備への更新や、風力・太陽光などの再生可能エネルギーの導入により、本来発生するはずだったCO2の排出を抑えるアプローチ。もう一方の「吸収・除去系」は、大気中にすでにあるCO2を取り除くアプローチです。
「吸収・除去系」で最も分かりやすい例が、森林の光合成を利用した自然由来のクレジットです。ほかにも、空気中のCO2を専用の装置で直接回収したり、回収したCO2を地中に貯留したりする機械由来もあります。ただ、現状は、クレジット全体に占める吸収・除去系の割合は大きくありません。

――クレジット取引において、高く評価されるカーボンクレジットはあるのでしょうか。
大北氏:現状のGX-ETSでは、J-クレジット制度や二国間クレジット制度(JCM)で認証されたクレジットであれば、どれでも使用(償却)できます。それゆえ、価格の低さを優先してカーボンクレジットを調達する企業が多いです。
しかし、世界的な潮流を踏まえると、価値が高いのは「吸収・除去系」のクレジットだと考えます。削減系はCO2を排出することが前提で、排出量を少なくするアプローチなので、絶対的な排出量をゼロにはできません。対して、吸収・除去系は空気中にあるCO2をマイナスにすることができます。ただし、削減系であっても、自然由来のカーボンクレジットは、森林保全、生物多様性、水資源、地域経済への貢献などの効果が期待できます。そういった多面的な価値も含めて、評価される場合もあります。

――吸収・除去系や自然由来など、価値の高いカーボンクレジットを購入することで、企業経営にはどのようなメリットがあるのでしょうか。
大西:有価証券報告書などにおける企業のサステナビリティ情報開示では、カーボンクレジットを使用する場合、「自然由来」か「技術由来」か、「削減系」か「吸収・除去系」かなどの種類まで記載が求められます。そういった意味では、より価値の高いクレジットを購入していることは、投資家に対するアピールになるでしょう。
大北氏:ブランディング面でのメリットもあります。例えば、創業地の森林など、自社にとって意味のある場所で創出するカーボンクレジットを求める企業は少なくありません。海に関わる企業が、海藻による光合成で創出されたブルーカーボンクレジットを選ぶケースもあります。購入するカーボンクレジットの種類によって、自社の姿勢を示そうとしています。
大西:もうひとつ、地域経済への還元という点も、企業にとっての有力な発信材料になります。例えば、森林由来のカーボンクレジットを購入した場合、自治体や森林組合といった森林の所有者が売却収入を森林保全活動へ再投資することができます。単なる売買にとどまらず、地域社会への貢献や経済の循環を生み出しているというストーリーは、多くのステークホルダーに好意的に受け止めてもらえるでしょう。
――Green CarbonとNTTドコモビジネスは、自然由来のクレジット創出に取り組んでいます。まず、Green Carbonは、どのような戦略を描いているのでしょうか。
大北氏:弊社は「生命の力で、地球を救う」というビジョンを掲げ、自然由来のカーボンクレジット創出に特化した事業を展開しています。また、約40の大学と提携し、植物のCO2吸収量を増やすゲノム編集技術や微生物の研究、牛のゲップに含まれるメタン(CH4)を削減する研究など、ディープテック領域の研究開発にも注力しています。
事業の大きな柱は、東南アジアを中心とした水田由来のカーボンクレジット創出・販売支援事業です。日本の大企業が求める自然由来のカーボンクレジットは、国内の森林や水田だけではまかなえません。そこで、海外で地域の営農改善と両立させながら、大規模にクレジットを創出します。ベトナムのゲアン省では、約6万ヘクタールの大規模プロジェクトが進行中です。水田の土壌を乾燥させたり、水を張ったりというプロセスを繰り返す「AWD(間断かんがい:Alternate Wetting and Drying)」という農法を導入し、水田からのメタン発生を抑えます。約7万人の農家と連携しており、2034年までの10年間で累計約250万トンのカーボンクレジット創出をめざしています。

私たちが強みとするのが、水田を起点としたサーキュラーエコノミーの構築です。稲作の過程で生じるもみ殻や稲わらを燃やさずにバイオ炭にして農地に撒けば、吸収・除去系の「バイオ炭クレジット」になります。また、稲わらを寝床や飼料にして育った牛のゲップを減らせば「牛のゲップに含まれるメタンを減らしたクレジット」へとつながります。そして、水田に必要な水を育んでいる山や森林を育てていけば、「森林クレジット」も生まれます。このように、ネットワークを広げるように複数の自然由来クレジットを連鎖的に生み出していくことで、持続的な社会の実現をめざしています。
――NTTドコモビジネスは住友林業と共同で森林価値創造プラットフォーム「森かち」を運営し、森林由来のカーボンクレジットの創出を後押ししています。これは、どのような取り組みなのでしょうか。
大西:森かちは、森林由来のカーボンクレジットの創出・審査・取引を包括的に支援するプラットフォームです。森林を持つ自治体、森林組合、社有林を持つ企業などカーボンクレジットをつくりたい「創出者」、カーボンクレジットを買いたい「購入者」、そして、プロジェクトの方法論への適合性や、吸収量の算定・モニタリングの妥当性を確認する「審査機関」の3者を支援します。
創出者に対しては、カーボンクレジット創出時に必要となる煩雑な申請手続きを、書類作成や森林データの一元管理によって支援。審査機関に対しても、森林の写真や図面、各種データをGIS(地理情報システム)上で統合管理し、審査の効率化を図ります。
また、プロジェクトの魅力を伝える情報発信によって、森林由来のカーボンクレジットの価値の見える化にも取り組んでいます。購入者は、その森林が持つ歴史や活動、生物多様性や水資源の保全状況などを理解し共感した上で、クレジットを購入することができます。

――2025年11月にGreen CarbonとNTTドコモビジネスは資本業務提携の契約を締結しました。今後どのようなビジネスを展開していく予定ですか。
大西:国内におけるカーボンクレジットの流通強化と、NTTドコモビジネスによるGXソリューションの販売連携です。両社が国内・海外の水田プロジェクトなどで創出したクレジットを国内企業に還元するとともに、現地での営農改善や脱炭素化支援を進めます。また、GHG排出量の可視化、クレジットの創出・流通、将来的にはIoTセンサーを活用したCO2排出量・吸収量の計測効率化まで、Green Carbonが持つノウハウ・専門性とテクノロジーを掛け合わせながら、企業のGX推進を総合的に支援していきます。
大北氏:NTTドコモビジネスは、以前から水田の中干しや森林保全などネイチャーベース(健全な自然生態系が有する機能を活かして社会課題の解決を図ること)の取り組みに積極的で、弊社がめざしている世界観や理念と非常に近いものを感じていました。私たちはカーボンクレジットを創出するノウハウを持っていますが、それをより効率的に行うには、IoTやシステム開発、衛星関連などテクノロジーの活用が欠かせません。自然とテクノロジーを結びつけるパートナーとして、一緒に取り組めるのではないかと考えています。
――最後に、企業のサステナビリティ担当者へ向けたアドバイスをお願いします。
大西:価値の高いクレジットの活用には、大きく3つの効果が期待できます。1つ目は、投資家やステークホルダーに向けた対外的な発信力が強化され、企業価値の向上につながることです。2つ目は、インナーブランディングへの効果で、社内報などを通じて「自社が環境に対して意味のある投資をしている」と伝えることで、社員の環境意識やエンゲージメントが高まります。3つ目は、地域社会への具体的な貢献。購入したクレジットの創出地である森林や農地を社員が訪れ、林業や農業を体験したり地元の食材を楽しんだりといった交流を生み出し、関係人口を創出することで、地方創生に対する強いメッセージを発信することができます。
大北氏:自然由来のカーボンクレジットに投資することは、日本の国力を高めることにつながると信じています。現在、東南アジアやアフリカなどでは水田面積が拡大し、GHG排出量が増加しています。こうした課題に、日本の農家や企業が持つ技術やテクノロジーが寄与できるはずです。また、カーボンクレジットによる新たな収入源は、農業や林業、畜産業の活性化や担い手不足といった課題解決にも役立ちます。カーボンクレジットを単なるオフセットとしてだけではなく、社会価値を生み出す支援といった視点で、多くの皆さまと一緒に取り組んでいければと思っています。
OPEN HUB
THEME
Carbon Neutrality
#脱炭素