Smart City

2026.07.10(Fri)

自動運転は“走る技術”から“続く仕組み”へ
NTTモビリティと描く「移動の自由」「事故ゼロ」の未来

高齢化やドライバー不足を背景に、地域交通の維持、安全確保が大きな社会課題となっている日本。政府は2027年度までに100カ所以上の地域での自動運転移動サービスの実現を掲げており、社会実装の準備期に入りました。そこで重要になるのが、自動運転技術だけにとどまらない、地域社会との調整や運用の設計、事業性の確立といった多層的な課題への対応です。

NTTは、グループ各社が推進してきた全国各地での自動運転サービスの導入・運用を、ワンストップでサービス提供する新会社・NTTモビリティを設立。NTTドコモビジネスも、街づくりとモビリティを一体で捉える体制を整えました。社会に「移動の自由」と「事故ゼロ」の安心をもたらす自動運転を、持続的な社会システムとしてどう実現していくのか。NTTモビリティ 代表取締役社長 山下航太氏と、NTTドコモビジネス ソーシャルイノベーション部 シティ・モビリティ部門 塚本広樹に聞きました。

目次


    街の機能と一体で取り組むべき地域交通の再構築

    ――最初に、日本で自動運転が求められている背景について教えてください。

    NTTドコモビジネス 塚本広樹(以下、塚本):日本では高齢化が進み、65歳以上の方が3割に迫る状況です。バスドライバーも、2020年には12.5万人ほどでしたが、2022年には約11.4万人まで減少。2030年には9.3万人まで減少するという推計もあり、地域交通システムは厳しい状況になるでしょう。都心部に住んでいると、車がなくても生活できる感覚がありますが、地方では違う風景が広がっています。ある程度の規模の地方都市でも、主要駅から少し離れると、移動に車が必要になる地域が多い。これらの構造的な背景が、自動運転に期待が集まる最大の理由だと考えています。

    ――自動運転の実証実験は日本各地で行われています。社会実装に関しては、どのフェーズにあるのでしょうか。

    塚本:これまでは技術開発フェーズに、相当な時間を費やしてきました。ここからは、2028年をめどに社会実装をめざす移行期。社会受容性や運行モデルをどう設計すれば持続的に事業が成り立つかを考え、実行していくフェーズになります。

    ――社会実装に向けた課題は、どう捉えていますか。

    塚本:日本の都市では、同じ市内でも、交通量や人流が多い中心部、生活道路や幹線道路が混ざった郊外、交通量も人流も少ない過疎地域など、多様な交通環境が存在しています。また、道路幅も海外と比べて非常に狭く、運転が難しい道路も多い。そういった地域ごとの特性を把握しつつ、安全性を担保する運用設計をつくり込むのは簡単ではありません。

    NTTモビリティ 山下航太氏(以下、山下氏):他にも課題はあります。交通事業者の体制です。ヨーロッパなどでは、定路線バスは公共交通機関として都市ごとに1〜2社にまとまっていたり、自治体が都市運営に必要なコストと割り切って運営したりするケースが多いです。しかし日本の場合、都市ごとに複数の民間バス会社が並立して運行しています。タクシー会社に至ってはさらに小規模な事業者が多数存在します。このため、自動運転の導入・転換に必要なリソースを単独で担える事業者が少ないのが実情です。だからこそ、各社が個別に自動運転の仕組みをデザインするのではなく、車両調達や運行管理、遠隔監視といった自動運転に必要となる機能を「共通化・共用化」することによってコストを下げていく発想が不可欠になります。すでに検討開始している地域もありますが、まだ手が付けられていない領域は広いです。

    ――そうした複雑な社会課題や実装に向けたハードルを乗り越えるために、NTTドコモビジネスでは、「スマートシティ推進室」と「スマートモビリティ推進室」を統合し新体制を発足させました。この狙いについて教えていただけますか。

    塚本:NTTドコモビジネスは、これまでもビルや街区開発におけるデジタル化、いわゆるスマートシティ事業を手掛けてきました。街には必ずタクシーやバス、コミューター(多人数が乗車できる送迎用の車)が存在しており、スマートシティづくりにおいて、モビリティをセットで考えることは極めて自然です。

    一方、モビリティ単体で見ると、現状は自動運転を事業として収益化するのは簡単ではありません。正直、補助金や実証実験の予算といった先行投資に支えられている部分もあります。自動運転の社会実装を加速するには、移動サービス単体ではなく、MaaS、観光、医療といった街の機能と組み合わせて事業化し、収益性を高めることが重要です。そのために2つの組織を統合しました。

    ■塚本 広樹|NTTドコモビジネス ソーシャルイノベーション部 シティ・モビリティ部門 部門長
    1996年4月 日本電信電話株式会社 入社。法人事業に従事し、法人営業、ISP・データセンター事業、新規ICTサービス企画、モビリティ分野を経験。現在は、モビリティ、街区開発、産業社会向けAIを横断し、事業構想から社会実装までを主導。AIOWNを前提としたMaaS、街づくり構想や、設計から運用までを含む垂直統合型のビジネスモデルの推進をリードしている。

    山下氏:私もスマートシティとモビリティの統合は必然だと考えています。NTTモビリティでは、車両そのものが収集する情報のほか、道路側や周辺環境に設置された信号、カメラ、センサー類から情報を吸い上げ、それを車両側にフィードバックすることで死角を減らし安全性を高める「路車協調」という取り組みを掲げています。この技術を実装するには、自動運転と都市インフラを連携させた街づくりが欠かせません。

    NTTグループのアセットを自動運転の共通基盤に活用

    ――続いて、NTTがNTTモビリティを設立した経緯についてもお聞かせください。

    山下氏:NTTモビリティ設立の理由と狙いは、大きく2つあります。1つ目は、これまでNTT東日本やNTT西日本、NTTドコモ、NTTドコモビジネスなど、NTTグループの各事業会社が個別で進めていた自動運転に関する実証実験の知見を集約し、商用化を加速することです。分散していた取り組みを一つの「器」に束ねることで、普及に向けたスピードを高めていきます。

    2つ目は、普及に求められる効率的な投資を行う主体となることです。これまでは、お客さまからいただいた予算や補助金の範囲内で、自動運転の仕組みを組み立てていました。しかし、普及期となる今後は、自ら車両を購入して検証したり、システム開発を行ったりする先行投資に踏み切らなければ、自動運転の商用サービスでシェアを取ることはできません。こうした資本を各社に分散して投下するのではなく、NTTモビリティに集約することで、より機動的かつ効率的な投資を可能にします。

    ――NTTグループ全体では、全国各地で35件以上に及ぶ自動運転の実証実験を行ってきました。ここから得られた知見をどう活かしていくのでしょうか。

    山下氏:これまでの実証実験で得られた最大の知見は、自治体や交通事業者とのディスカッションから聞こえてきた現場の声です。「このコストでは導入できない」「この路線や車両サイズでは収益化できない」といったリアルな声をNTTグループ全体で共有できました。この現場感覚があるからこそ、自治体や地域交通事業者に寄りそうNTTグループ各社は、自動運転の実際の導入を見据え、サステナブルな事業モデルを構築するための真の相談相手になれると考えています。

    全国にある通信局舎や人員体制は自動運転事業における強みとなります。例えば、局舎は自動運転車両の駐車場や充電スポットに活用していきたいと考えています。また自動運転のような物理的なサービスを実装するには、地域の人員体制が必要です。具体的には、交通事業者や自治体など多様な関係者と伴走して現実的な導入モデルを検討し推進する人材、各地域ごとに走行する車両の運用・管理等に必要な体制などです。そういった地域に根ざして動ける人材体制を全国規模で持つ企業は決して多くありません。地域に合わせたビジネスを展開できるといったアドバンテージも、しっかり活かしていきたいと思います。

    ■山下 航太|NTTモビリティ株式会社 代表取締役社長
    2001年NTTコミュニケーションズ(現 NTTドコモビジネス)へ入社。自動車業界向け法人営業、海外事業開発、広報など幅広い分野で経験を重ねる。2021年より日本電信電話(現NTT)の広報部門にて報道担当部長を務め、2024年からはNTTドコモビジネスにおいてグローバル事業を統括。2025年12月の会社設立とともに、NTTモビリティ代表取締役社長に就任。

    社会実装を支えるNTTモビリティの3つのサービス

    ――それらの強みも活かしながら、NTTモビリティが具体的にどのようなサービスを提供するのかもお聞かせください。

    山下氏:大きく3つの軸があります。1つ目は、「自動運転車両提供・管理サービス」です。技術革新やベンチャーの台頭で、自動運転のソフトウェアや車両を提供する企業は国内外で増加しつつあります。地域ごとに道路事情やコスト制約もあるなかで、地域特性に応じて最適なソフトウェア・車両を選定しご提供します。すでにNTTグループは、自動運転システムを開発する米国のMay Mobilityをはじめ、Navya Mobility SAS、ティアフォー、先進モビリティなどと連携していますが、今後、さらなる協業の拡大も考えています。

    2つ目は、「自動運転導入・運用支援サービス」です。自動運転を導入・運用するには、走行ルートの設計、試験運行、品質確認や調律、システム構築、プロジェクト管理など多くのタスクがあり、このプロセスが不十分だと、自動運転の品質そのものが低下します。安全・安心な形で提供するには、コスト制約がある中でも、プロセス自体を丁寧につくり込まなくてはいけません。NTTグループは通信インフラや企業のIT基盤など、品質要件の高いモノの設計・導入・運用を担ってきた歴史が長く、得意としていかなければならない、そして外部からの期待値も高い領域です。

    3つ目が、「遠隔監視システムの提供」で、先ほど話に出た共通化・共用化につながる部分です。ドライバーがいなくなる自動運転車の運行においては、遠隔での監視などの体制整備が法制上も求められており、従来ドライバーが担っていた役割・責任を遠隔拠点側で補完します。この領域は、各社がさまざまな遠隔監視システムを手掛けており、激しい競争環境にあります。その中で勝ち抜くには、遠隔側で役割・責任を全うするために必要な通信・システム自体の安定化と、いかに多くの車両を共通の基盤・少ない人数で対応するかという効率性が肝となります。例えば、複数の自動運転の車両・ソフトウェアをひとつの遠隔監視システムに集約する、AIによる処理範囲を最大化する、といった手段が有効だと考えています。

    2026年5月には、NTT武蔵野研究開発センタ周辺の公道を含むエリアに、自社の自動運転実証フィールド「Co-Creation Hub」を立ち上げ、自動運転車両の遠隔監視・管制の確立・効率化を進めています。

    通信・AI・データが支える自動運転の未来像

    ――NTTモビリティがめざす2028年のレベル4実現に向けて、両社はどのような体制で連携し、シナジーを生み出していくのでしょうか。

    塚本:遠隔監視システムでは、車両から高精細な映像データを遅延なく送り、運行状況をリアルタイムに把握して、異常を早期に検知する仕組みが不可欠です。そこで最も重要となるのが、安定した通信です。われわれは、IOWN構想にも含まれる「Cradio」「協調型インフラ基盤」を含む通信安定化ソリューションなどを活用し、途切れない通信環境を提供する仕組みを整えており、実用化も視野に入っています。また、こういった通信ネットワークの基盤に加え、AIを活用した検知や遠隔監視の仕組みを一体で整備していく予定です。

    また、dアカウントやdポイントといった圧倒的な顧客基盤の活用でもシナジーが見込めます。例えば、dポイントやdカードを使ってバスに乗れるようになれば、利用者にとって利便性は大きく高まります。さらに、運賃精算などのバックヤード業務も、そうした仕組みで支えることが可能です。また、配車についても、より効率的な運用が可能になります。利用者の移動需要に対して最適なルートで配車する「AI運行バス」は、交通空白解消を目的とした移動サービスとして活用が進んでいます。移動サービスと決済、ポイント付与を連動させることで、デジタル領域が苦手な交通事業者にとっても、利便性の高いパッケージを提供できます。商業や観光との連携も含め、柔軟な運行をサポートしていく考えです。

    山下氏:自動運転の社会実装においては、自治体や多様な企業を巻き込み、自動運転も含めた複数の交通手段を組み合わせ、利用者が選択可能な移動サービスとして提供することが理想です。ステークホルダーが多岐にわたるため、地域交通全体をデザインすることは容易ではありませんが、複数社による共創ビジネスの推進を得意とするのがNTTドコモビジネスです。各地域においてフロントを担い、全国各地の自治体や交通事業者、企業と商用化に向けた粘り強い議論を行う役割を強く期待しています。

    ――最後に、自動運転が社会に実装された際の本質的な価値と、その可能性についてお考えを聞かせてください。

    山下氏:本質的な価値は、移動の自由が確保されることにあるのではないでしょうか。都心部に住んでいれば、電車、バス、シェアサイクル、カーシェアなど複数の選択肢から選べる恵まれた環境があります。しかし、少し都心から外れると、コミュニティバスの減便や最終バスの繰り上げなどにより、夜間の外出にも不便を感じるといったケースが少なくありません。地方都市ならば、なおさらでしょう。移動の制約を取り払い、誰もが自由に移動できる権利を担保することは、それ自体が社会として投資する価値がある取り組みだと考えています。

    そして、もうひとつ忘れてはならない重要なミッションが、事故ゼロの世界を実現することです。自動運転技術の安全性は高いレベルに至りつつありますが、それでも車両だけに頼らず、交差点の電柱等に設置するセンサーと車両との連携など、路車協調技術も活用してさらに安全度を高めている理由もそこにあります。日系自動車会社各社との連携も含め、事故ゼロに向けた取り組みを継続する意義は大きいと考えています。

    塚本:自動運転は、単なる新しい乗り物ではありません。現在の自動車交通が、高速道路や一般道路、信号システムといった社会基盤の上に成り立っているのと同じように、自動運転もまた社会インフラとして捉えるべきものです。だからこそ、その仕組みをきちんと整え、守り、持続可能な形で社会に実装していくことが必要です。

    日本は高度経済成長期、全国各地に街や産業が広がったことで、国全体の豊かさを築いてきました。私たちNTTドコモビジネスが目指している自律分散型社会も、その延長線上にあります。地域ごとに必要な機能が備わり、人々がそれぞれの場所で豊かに暮らせる社会をつくっていく。NTTグループは、電話というインフラから出発し、社会基盤を支えてきました。その責任を踏まえ、新しいモビリティインフラの構築にも取り組んでいきたいと考えています。

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