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2024.04.20(Sat)
目次
──まず、「STELLAR HUB™」とは、どのような課題を解決できるサービスなのかを教えてください。
エムエム建材 高山裕次氏(以下、高山氏):一言でいえば、金属スクラップのトレーサビリティを実現するプラットフォームです。
国際情勢が不安定な状況が続く今日において、多くの資源を輸入に頼る日本にとって、国内で発生する資源をいかに有効活用するかが、これまで以上に重要な課題となっています。そのような中、建設現場などで発生する金属スクラップは、「リサイクルの優等生」とたとえられるほどに高い再利用率を誇ります。
一方で、金属スクラップという資源がどのように循環しているのか、その全体像は見えていませんでした。取引は現在も紙の帳票を中心に行われており、関係者が増えるほど情報が分断されてしまうからです。また、法令に違反した保管や処理を行う「不適正ヤード」が社会問題となる中で、そうしたリスクがどこにあるのかを把握するのも難しい状況でした。
さらに近年は、企業に対してサプライチェーン全体での環境情報の開示が求められるようになり、「どの資源が」「どこから来て」「どう使われたのか」を正確に説明する責任が求められるようになってきています。このような背景を踏まえ、これまで見えなかった金属スクラップの動きを“点”ではなく“線”でつなぎ、全体を可視化する仕組みとして開発したのが「STELLAR HUB™」です。

──「STELLAR HUB™」の特徴や強みはどこにあるのでしょうか。
NTTドコモビジネス 青砥正英(以下、青砥):資源が「どのルートを通ってきたのか」という“取引経路”だけでなく、「どれだけ動いたのか」という“量の動き”まで追える点です。これは、金属スクラップという資源の特性に対応した仕組みといえます。
金属スクラップは、金属リサイクル事業者や鉄鋼メーカーなどを経由する中で、別の現場のものと混ざったり、形や性質が変わったりします。そのため、「どこから来たか」だけでなく、「どれくらい移動したのか」もあわせて見ていくことが必要です。
そこで私たちは、その“量の動き”を“取引の流れ”と結びつけて管理する「トークン」という仕組みを取り入れました。たとえば、A事業者で発生したスクラップのうち一部がB事業者に渡る場合、「A事業者の10トークンのうち2トークンがB事業者に移る」といった形で整理されます。

──このように取引ルートと量を合わせて管理する仕組みは、特許を取得しているほか、第三者による評価も受けているそうですね。
青砥:その通りです。「STELLAR HUB™」はCoC認証(Chain of Custody:管理の連鎖認証)という、原材料が適切なプロセスを経て取引されていることを証明する国際規格に準拠しています。また、トレーサビリティの適切性について第三者認証機関による評価を受け、資源循環性証明を付与した鋼材「STELLAR HUB STEEL™」を展開しています。
エムエム建材 前澤沙月氏(以下、前澤氏):トレーサビリティを実現するだけでなく、第三者認証機関による評価を得てその信頼性を客観的に担保することが、ステークホルダーにとって大きな価値になると考えました。適正なルートが担保されているという裏付けがあるからこそ、安心して取引でき、対外的な説明もしやすくなります。

──「STELLAR HUB™」のプロジェクトは進行中だと伺いましたが、現在はどのような段階にあるのでしょうか。
前澤氏:まずは第1ステップとして、建設業界にフォーカスし、建築物の解体工事で発生したスクラップが建設鋼材へと生まれ変わるまでの一連の取引を可視化しています。
現在はエムエム建材が窓口となる取引に対象を絞り、運用の中で得られた気づきをシステムに反映しながら改善を進めていますが、将来的には業界全体のあらゆるステークホルダーへと展開していくことを想定しています。
──解決する課題や強みが明確で、非常にわかりやすいサービスだと感じました。一方で、現在の形に至るまでには紆余曲折もあったと伺っています。プロジェクトの前段として、両社が手を組んだきっかけを教えてください。
NTTドコモビジネス 鈴木毅(以下、鈴木):NTTドコモビジネスはもともと、DXに関する技術や社会課題の解決に向けた思いを持ち、それらを実装する場所を常に模索してきました。そのため、現場とつながりのある企業や団体と協力しながら、新たな価値を生み出す「共創」に力を入れてきました。
そうした中で2021年後半に、エムエム建材をご紹介いただき、「デジタル技術を活用して何かを一緒に実現できないか」というところから議論が始まりました。

青砥:エムエム建材が鉄鋼の専門商社であることから、私たちは鉄スクラップの資源循環というテーマに着目しました。NTTドコモビジネスでは、資源の流れや属性情報を一元管理するICT基盤として「CEMPF®(Circular Economy Management Platform)」を展開しています。「CEMPF®」は、資源の“流れ”だけでなく、“由来”や“環境価値”といった情報も含めて管理し、複数の企業・工程をまたいでデータをつなぐことを前提としたプラットフォームです。この基盤を鉄鋼業界に実装することで、個社単位ではなく業界全体で資源循環を捉え直し、その価値を社会に対して説明できるようにしたいと考えました。
──取引をデータで管理するという、DXの要素を含んだ提案だったのですね。この提案を、エムエム建材はどのように受け止めましたか。
エムエム建材 牧野健一郎氏(以下、牧野氏):前々から業界のDXの遅れに対する危機感がありましたが、「自社が主体となってこの課題を解決しよう」というモチベーションが生まれたのは、NTTドコモビジネスとの出会いがあったからこそだと感じています。資源循環という切り口で提案をいただいたことで、自社の取引量の拡大につながる可能性に加え、環境配慮の強化という社会的意義もより具体的にイメージできるようになりました。
正直なところ、当時は社内で新規プロジェクトに取り組んだ経験も少なく、IT領域の知見も十分ではなかったため、共創に対して慎重な声もありました。それでも、国内市場の縮小を見据えて営業力を強化する必要があるという強い思いで社内を説得し、2023年11月に連携を開始しました。

──その後、どのようにサービス開発が進んでいったのでしょうか。
鈴木:まず、業界の構造、事業プロセスの理解を深めつつ、両社で事業の方向性を検討した上で、現場の課題を把握するためにヒアリングを行うことにしました。施主、デベロッパー、総合建設業者、金属リサイクル事業者、鉄鋼メーカーなど、10社以上をエムエム建材にご紹介いただき、共同で訪問をしました。
その中で見えてきた課題が、金属スクラップの資源循環は行われているものの、全体像を可視化することができていないということと、金属スクラップ回収における配車の効率性です。そこで、「金属スクラップ資源循環トレーサビリティ」と「解体現場へのスクラップ回収配車最適化」をソリューションとして構想し、複数の回収業者の協力を得て、2024年1月にPoC(概念実証)を開始しました。
ただ、当初期待していた通りの結果は得られませんでした。
──それはなぜですか。
エムエム建材 浅野萌氏(以下、浅野氏):金属スクラップの回収は、一般的なゴミ回収のように複数の現場を回るのではなく、現場ごとに往復する“ピストン型”の運用が主流です。そのため、配車を効率化しづらいという構造的な課題があるのです。

NTTドコモビジネス 三浦章絵(以下、三浦):さらに大きかったのは、車両の手配が決まったルール通りではなく、人の判断を中心として行われている点です。たとえば、解体現場から「引き取りに来て」と連絡が入ると、回収に向かう金属スクラップ事業者は経験則で「この現場であればどの程度の量になるか」に加えて、「現場の状況に応じてどのような積み込み作業に対応できる車両が必要か」を判断し、適切な車両を手配します。つまり長年の経験に基づく“暗黙知”によって運用されているのです。
こうした判断プロセスをデータとして再現することについても検討を行いましたが、そのためには、積載物の重量だけでなく体積や長さ、種類・特性、さらには現場の作業環境や作業状況など、多くのパラメータを入力・管理する必要があることが分かりました。検討の結果、これらの情報を解体工事の現場監督の方に入力していただく運用は、現場での指揮・判断を優先すべき状況においては負担が大きく、現実的ではないという結論に至りました。
また、金属スクラップ事業者は、現場実務を担う方々が中心であり、デジタルツール活用や追加的なデータ入力を前提とした運用は、運用負荷の増大につながりやすいという課題もありました。

浅野氏:ただ、こうしたPoCを通じて金属スクラップの流れを追っていたからこそ、今回のサービスの方向性が新たに見えてきました。サプライチェーン全体でのトレーサビリティの証明が求められるようになる中、金属スクラップの移動を“効率化する”こととは別に、それを“可視化する”こと自体が、利用する企業にとって価値になるのではないかと気づいたのです。
──だからこそ、PoCで終わらせず、サービス化に進んだのですね。
高山氏:その通りです。施主やゼネコンなどにヒアリングを重ねながら、サービスの方向性を見直しました。
まず、私たちが取り組んだのは、追跡範囲の拡大です。PoCでは解体現場から回収業者までの取引を対象としていましたが、その先の鉄鋼メーカーでの製品化や納品まで含め、一連の流れを追えるように見直しました。また、「信頼性が担保されていた方が使いやすい」という声を受け、第三者認証機関による評価も前倒しで受審しました。
──PoCから約2年、2026年3月にサービス提供を開始されましたが、手応えはいかがですか。
浅野氏:短期間でトレーサビリティへの関心が急速に高まり、追い風を感じています。PoC実施時は、温室効果ガス削減への関心が優先され、トレーサビリティはまだ優先度が高くありませんでした。また、取引関係や商流を可視化することに対してリスクを感じるステークホルダーも一部いらっしゃいました。
しかし現在は、トレーサビリティの担保がほぼ前提となりつつあり、「STELLAR HUB™」の活用への期待が高まっています。「資源が循環していることを改めて実感できる」という反応もあり、これまで当たり前とされてきたリサイクルの価値が見直されていると感じています。
──今回のパートナーシップについてはどのように評価されていますか。
三浦:サービス化まで進めることができたのは、NTTドコモビジネスがシステム実装を、エムエム建材が現場調整をそれぞれ担う、という役割分担が明確だったからだと思います。また、業界の専門家であるエムエム建材の皆さまから鉄鋼業界特有の前提条件についても丁寧にご共有いただき、仕様へのフィードバックも詳細に出していただきました。実際の現場に即したサービス設計ができたのは、そうしたパートナーシップがあったからこそです。
浅野氏:NTTドコモビジネスは、議事録や進捗管理の共有が丁寧で、プロジェクトが着実に進んでいる実感がありました。また、「NTTドコモ」というブランドの信頼性も高く、PoCの段階から多くのステークホルダーに協力をしていただけました。
さらに、多様な業界や企業での取り組みを通じてソリューションの引き出しが豊富なことも、大きな魅力でした。配車の効率化から金属スクラップのトレーサビリティへと、当初の想定と異なる方向にサービスを再設計する際も柔軟に対応いただきました。今後の事業拡大においてもさまざまなサービスや機能を追加していける大きな可能性を感じています。
──「STELLAR HUB™」のプロジェクトについて、今後の展望を教えてください。
牧野氏:まずは、トレーサビリティの実現にとどまらず、取引先さまの支援、さらには物流の最適化まで、バリューチェーン全体に機能を広げていきたいと考えています。それに伴って、ユーザーもサプライチェーン全体のステークホルダーに拡大していきたいです。
さらに、現在は建設業界にフォーカスしていますが、今後は自動車や船舶、航空機といったモビリティ分野への展開も視野に入れています。また、産業領域や資源循環のニーズが高い分野への応用可能性も見据えています。対象となる資源についても、鉄を起点としながら、将来的には市場やお客さまの要請、社会的な課題の変化に応じて、適用範囲を段階的に広げていくことを検討しています。このように、まずは現在の取り組みを着実に進めながら、サービスの活用領域を広げていくことが当面の目標です。
三浦:「STELLAR HUB™」を通じて資源循環の実態を“説明できる形”でデータとして蓄積し、個別の取り組みを可視化・連携していくことで、業界全体としての信頼性や評価の基盤を整えていくことが非常に重要だと考えています。そうした基盤が広がっていくことで、資源循環の取り組み自体がより実装されやすくなり、将来的には業界標準、さらには社会インフラとして定着していくことを期待しています。
青砥:サービスを広げていくうえでは、ユーザーの課題をきちんと解決できていることが前提になります。一方で、ユーザーが増えるほど、立場の違いによる要望のズレや、相反するニーズも出てきます。
だからこそ、事業としての優先順位を見極めながら、できる限り多くのステークホルダーが資源循環の輪に入ってくれるような仕組みを設計していくことが重要です。
──最後に、今後の取り組みに対する意気込みを教えてください。
牧野氏:本来我々が考えなければならない、地球環境の保全という現在の人類が抱える大きな問題を解決するための流れが一気に加速する、と見ています。これを支える一つのツールとして、「STELLAR HUB™」は単なる管理システムではなく、「循環型鉄鋼エコシステムの中核」に、将来は「資源の流れを記録する事業」から「環境価値を証明・流通・取引する事業」へ進むことを考えています。資源循環をはじめとした環境への配慮は、単なるコストではなく、産業の持続性や企業価値を高める成長戦略として捉えられるようになってきています。だからこそ、個社の取り組みにとどまらず、業界横断や官民連携、さらには国際的な連携へと拡げていくことが求められます。
実際に、行政側の政策提言でも、再資源化拠点の整備、動静脈連携、トレーサビリティ基盤の実装、循環資源の海外流出抑制、再生材需要の拡大、日本をハブとした国際的な資源循環ネットワークの構築が示されています。エムエム建材としても「STELLAR HUB™」の実装を進めて業界のスタンダードとして定着させ、将来的にはさまざまな資材を対象とし、現場で機能する仕組みを業界標準へ、さらに社会インフラにまで育てていきたいと考えています。
環境対応を「義務」で終わらせず、産業を強くする「仕組み」に変える。
これが我々の目指す社会実装です。資源循環を見える化し、信頼できる流れを社会に根付かせることで、持続可能性と産業成長を両立する未来を切り拓いていきたいと考えています。
青砥:「STELLAR HUB™」は、私たちが構想してきた「CEMPF®」の考え方を、エムエム建材とともに鉄スクラップ領域で具体化した取り組みだと捉えています。
今後は対象資源を鉄以外の素材へと拡張するとともに、異なる産業領域とのデータ連携も進めていくことで、資源循環データが横断的につながる基盤へと発展させていきたいと考えています。
鈴木:国際情勢の変化によって資源確保の不確実性が高まる中で、資源循環は環境対応にとどまらず、安全保障の観点からも、経済活動や産業基盤を支える「サーキュラーエコノミー」の中核的なテーマになりつつあるといえます。そのうえで、社会を支えるICTプラットフォームとして「STELLAR HUB™」を着実に進化させ、利用する事業者を増やしていくことで、徐々に状況は変わっていくと考えています。資源循環の先駆者として、今後もサービスの拡大を、エムエム建材と協力して続けていきたいと思います。

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