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Generative AI: The Game-Changer in Society

2026.05.13(Wed)

蓄積した情報を地域の資産へ──
新潟日報生成AI研究所が描くローカルメディアの未来

人口減少やデジタルメディアの浸透によって近年、地方新聞社のビジネスモデルが揺らぐなか、各社の模索は続いています。新潟市を拠点とする株式会社 新潟日報社はこうした厳しい環境を乗り越えるべく、自社の記事アーカイブと生成AIを組み合わせたサービスを新潟県内の企業や自治体に提供。この試みは、利用者の生産性向上だけでなく、地方紙の役割を再定義するものとして注目を浴びています。そこで、この生成AIサービス立ち上げを指揮した鶴間尚氏(株式会社 新潟日報生成AI研究所 代表取締役社長)と石山洸氏(株式会社 新潟日報生成AI研究所 所長)のお二人に、地域情報と生成AIが生み出す新たな可能性についてお話をお聞きしました。

目次


    15年分の記事データが、地方新聞社の事業の可能性を拡張

    ――近年、紙メディアを取り巻く市場環境が悪化する中で、地方紙である新潟日報はどのような危機感を抱いていたのでしょうか?

    鶴間尚氏(以下、鶴間氏):ここ数年、新聞や雑誌といった紙媒体は急激な勢いで部数が落ちてきています。本来であれば本格的に紙からデジタル媒体へと転換すべきなのかもしれません。ですが、これまでの「新聞販売+広告収入」という大きなビジネスモデルと比べると、デジタルへの移行だけでは同レベルの収益を確保できないだろう、というのが率直な見立てでした。他の新聞社も次の一歩を踏み出せない中で、このままだと数年のうちに事業が成り立たなくなるのではないかという強い危機感を抱いていたのは確かです。

    ――そのような状況で、生成AIを活用したサービスのローンチに至った経緯についてお聞かせください。

    鶴間氏:知人でもあり、以前からAIを軸に事業展開していた株式会社エクサウィザーズの石山洸氏からAIを活用したサービスの提案をいただき、「これは未来の新聞事業の可能性を開くものになるのではないか」と感じたのです。あらゆる業界で生成AIが注目を集め始めていた一方、著作権との関係で日本新聞協会としても生成AIの導入には非常に警戒していたので、地方紙としてあえてそこに足を踏み込むのは正直、かなりリスクがあるとも思いました。それでも、次の展開を始めるとすればこの事業の可能性を信じて挑戦するしかない、という判断で生成AIを活用したプロジェクトが具体化していったのです。

    鶴間 尚|株式会社 新潟日報生成AI研究所 代表取締役社長/株式会社 新潟日報社 執行役員

    石山洸氏(以下、石山氏):私には新聞の市場縮小スピードより、AIの市場拡大スピードの方が圧倒的に大きいという確信がありました。そこで2024年、鶴間氏とともに株式会社 新潟日報生成AI研究所を設立し、地域の中に眠っているアセットと生成AIを結びつけていくプロジェクトを本格化させていきました。

    石山 洸|株式会社 新潟日報生成AI研究所 取締役 研究所 所長

    “学習させない仕組み”で、新潟の情報に詳しい生成AIを実現

    ――新潟日報生成AI研究所の生成AIサービスは、既存の紙メディア事業とどのように結びつき、どのような強みを持っているのでしょうか?

    鶴間氏:新潟日報は以前から記事のデータベースをアーカイブとして販売してきましたが、ご利用いただける企業や団体は限定的で、ビジネスが大きく広がっていく状況にはなっていませんでした。一方で、これだけAI活用が広がる中で、私たちも生成AIを地域の活性化に生かせないだろうかという発想が前提としてありました。そこで、私たちが有する最も大きな資産である記事のデータベースと生成AIを組み合わせれば、新しい価値を生み出せるのではないかという議論になり、著作権の側面も含め、手探りで開発を進めていったのです。

    結果として、15年分の新潟日報の記事アーカイブを生成AIの検索機能と組み合わせることで、企業や自治体が「新潟のことを深く調べ、すぐに業務に活かせるサービス」へと行き着いたわけです。言い換えれば、もともと休眠状態だったアーカイブが、地域のビジネスや行政の現場でリアルタイムに「使えるデータ」になったということでしょうか。

    石山氏:技術的な観点での強みは大きく3つあり、1つ目が、セキュリティです。一般向けの生成AIをそのまま企業で使うと、入力内容がそのまま機械学習用に利用されてしまうケースがあり、情報漏洩のリスクが非常に高くなります。会社側が生成AIを安全に使える環境を用意しないと、いつの間にか、重要な情報がどんどん外へ出てしまいかねません。そこで「学習されない設計」「日本国内で閉じる運用」「個人情報のフィルタリング」「利用ログからの費用対効果の見える化」「コスト管理」など、企業の利用に必要な機能をフルスペックで備えることにしました。

    2つ目の強みは、マルチベンダー対応です。ChatGPTなのか、Geminiなのか、Anthropicなのかと、どのモデルを利用するかで悩む企業は多いですが、実際には日進月歩で優位性が変わる世界ですから、マルチベンダー対応が理にかなっているでしょう。ですから私たちのサービスは主要なプラットフォームを一通りカバーし、用途に応じて最適なモデルを選べるようになっています。

    3つ目の強みは、地域情報に関する圧倒的な「深さ」です。一般的な生成AIは世界中の情報を学習していますが、地方のディープなビジネス情報や生活情報までは網羅しきれません。そこで、新潟日報が蓄積してきた15年分の記事データを、RAG(検索拡張、Retrieval-Augmented Generation)によって検索し、その情報を基に回答する仕組みとしました。新潟日報のアーカイブを本棚のように外側につなげて参照することで、世界の情報に加え、新潟の詳しい情報をセットで扱えるようにしたのです。

    生成AIに直接学習させるのではなく、外側から参照する構造にすることで、有料の付加価値コンテンツとしても提供しやすい設計になり、著作権の課題も解消しています。

    ――ユーザビリティの面ではどのような特徴を持っていますか?

    石山氏:プロンプトを書かなくても使える、ことが大きいですね。スライド資料の作成や議事録作成のような典型的なビジネスタスクはほとんどエージェント化されていて、テンプレートもかなりの数を用意しています。カスタマイズもできますので、特定の業務に特化した使い方も簡単に導入できます。加えて、新潟日報のアーカイブを日次で更新しながら紐付けることで、特定の作業だけに使うツールではなく、ほぼ全ての業務に使える基盤になってきています。


    幅広い業種のユーザーが利用することを想定し、簡単な操作でテンプレート一覧を表示できる仕組み。

    ――では、ユーザーが新潟の地域情報を取り込んだ生成AIサービスを、どのような時に使うことが想定されますか?

    石山氏:たとえば、新潟でラーメン屋を開業したい時にこの生成AIサービスをフル活用すれば、できることの幅が飛躍的に拡がります。最初のリサーチ段階で、生成AIにネット上の口コミサイトや飲食店データベース、行政のオープンデータなどを自動収集させて、「どの商圏に」「どのような系統のラーメン店が」「何店舗あるか」という情報を一気に洗い出します。これによって、競合分布、価格帯、営業時間、レビュー評価の傾向まで、一個人では数週間かけても集めきれないような情報を、短時間で、しかもマップ付きのリサーチレポートに仕上げることができます。

    その上で、「このエリアでまだ空いている場所はどこか」「既存店が提供していないコンセプトは何か」を生成AIに質問すると、味の系統(家系・あっさり系・九州系など)、ターゲット層(ファミリー、学生、深夜需要など)、価格戦略、出店場所の候補地リストといった情報をまとめ、仮説ベースの戦略案として提供してくれます。ユーザーは、生成AIが提供した仮説を持って実際に街を歩き、店舗を見て、匂いを確かめ、客層を観察して、総合的に検証する、という少し高度なリサーチサイクルを行えばよいでしょう。

    さらに、ある地方で創業した家系ラーメンの店舗がその後、全国各地で人気チェーンとなり、時価総額数百億円を超えたという情報も、生成AI経由で簡単に知ることができます。その事実をもとに、「新潟で展開後、全国的なスケールを目指せるラーメンブランドをつくるにはどのようなビジネスモデルやオペレーションが必要か」という議論を生成AIと交わすこともできるわけです。

    一方、汎用の生成AIだけでは、地元紙が長年蓄積しているような県内のとある商店街の変遷、特定エリアの客層の微妙な変化、地域ならではの味の好みといったディープな情報を拾うことができません。つまり、新潟の地域情報に詳しい生成AIを活用することで、個人でもかなり高い解像度でマーケットを読みながら、新潟の土地柄に合わせたラーメン屋を立ち上げられるということになります。

    生成AI活用の間口を広げ、地域の活性化に貢献

    ――新潟の企業や自治体はこの生成AIサービスをどのように受け止めていますか?

    石山氏:ローンチ前は、ユーザーがこのサービスをいかに使いこなせるかが懸念材料でした。生成AIを軸としたソリューション型サービスは、導入までスムーズに進んでも、しっかり使い倒す前につまずくケースが非常に多いのです。世界的ブランドの生成AIプロバイダーに直接使い方を相談することはできませんよね。その点、新潟日報生成AI研究所の場合は、ユーザーが使い方に困った時に、「ちょっと教えて」という感覚で問い合わせることができます。ユーザーにとって聞ける相手がいる、つまり私たちがサポート体制を整えているということが、大きな価値になっているのです。

    AIサービスを提供し始めたことで、ユーザーの皆さんに、新潟日報の記事のコンテンツとしての価値を認識いただけたと同時に、「地域で伴走してくれる存在」として改めて認めていただけているという実感がありますね。

    ――当初、前提とされていた地域の活性化を実現するプロジェクトになっているということですね。

    鶴間氏:まさにそう感じています。新会社の目的は、地域の課題解決や地域の活性化でした。生成AIを地域に普及させることで産業が活性化し、企業ごとの課題に寄り添うことで新しい事業が生まれたり、既存の事業が膨らんだりと、いろいろな可能性が広がっていくでしょう。新潟県内の企業だけではなく自治体にも少しずつ導入が進んでおり、ここからが本当のスタートだという思いで取り組んでいるところです。

    ――具体的には、ご利用されている企業側にどのような効果が表れていますか?

    石山氏:県内の中核企業では、本格的な導入から3カ月ほどの時点で、20項目の業務フローすべてにおいて数十パーセント以上の生産性向上が見られたというケースもあります。これは、生成AIそのもののポテンシャルに加え、新潟の情報に特化したサービスであることに価値を見出してもらい、目に見える効果を得た事例だとも言えるでしょう。地域のナレッジを握っている新潟日報というメディア価値の再定義が始まっていると感じています。

    地方9紙が連携 全国的な「地域知のインフラ構築」も視野に

    ――今後、この生成AIサービスをどのように発展させていこうとお考えですか?

    鶴間氏:将来の売上目標として、10年間で100億円という大きな数字を掲げており、今後は福祉、健康、農業といった分野で生成AIを活用した事業を展開していこうと考えています。新聞を発行する会社という枠にとどまらず、「地域特化型のプラットフォーム」、「総合コンサル事業」といった役割を担いながら、県内企業、自治体などとも関わりを深めることで、新たな事業も生まれてくるでしょう。

    同時に、県外の地方紙への横展開にも大きな可能性を感じています。すでに新潟日報社と同様の仕組みを、他の地方紙のアーカイブにも適用する取り組みが進行中で、現時点で8社との連携を実現しています。一見、競合他社との連携のように思えますが、地方紙の場合は、各社の販売エリアが重ならないため、ビジネス上の利害がぶつかりにくく、横展開が非常に実現しやすいのです。すでに人口比では全国の約一割、面積では全国の約二割をカバーする規模感となっています。今後この輪が広がれば地方紙ネットワーク全体で「地域知のインフラ」をつくれるのではないかと期待しています。

    日本各地への生成AIの普及と地域課題の解決を目指し、「地方新聞社生成AI研究会」が発足。新潟日報生成AI研究所が事務局を務め、岩手日報社(盛岡市)、山形新聞社(山形市)、下野新聞社(宇都宮市)、福島民報社(福島市)、茨城新聞社(水戸市)、信濃毎日新聞社(長野市)、北日本新聞社(富山市)、徳島新聞社(徳島市)との9社連携で今後、新たな取り組みが順次、スタートする。

    石山氏:たとえば教育の領域では、県立新潟高校で先生方向けのAIリテラシー向上研修や、生徒の探究学習の支援を、当社の生成AIを使いながら行っています。これは、従来の新聞社のイメージからするとかなり新しい役割です。もう少し長いスパンで考えれば、これまで手つかずだったクローズドなデータに光が当たっていくはずです。地域企業の業務データ、医療や福祉、行政などの現場データは、一般的な生成AIがほとんど触れてこなかった領域です。世界中の情報を学習した生成AIモデルに、地域のディープな文脈を接続していく試みは、今後ますます注目されるようになっていくのではないでしょうか。

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