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2025.07.18(Fri)
目次
――まず、NEWGREEN、井関農機それぞれの事業内容についてお聞かせください。
山中氏:NEWGREENは「未来を拓く農業者に、次世代の農業モデルを。」をミッションとした、農業ソリューションを提供している会社です。アイガモロボをはじめ、水を張らない米作りの技術開発など、特に日本の米農家の皆さんに対して「よりラクに、より高付加価値の」稲作のための仕組みづくりを提供しています。
冨安氏:井関農機は1926年に「農家を過酷な労働から解放したい」を理念として愛媛県で創業した農業機械の総合専業メーカーです。お客さまに喜ばれる製品・サービスの提供を通じて、豊かな社会の実現へ貢献することをパーパスとしており、「食」「農」「大地」にまつわる社会問題の解決に取り組み、事業を展開しています。
――「アイガモロボ」プロジェクトについて伺います。中村さんは日産自動車でエンジニアをしていたとのことですが、アイガモロボを開発した経緯について、お聞かせください。
中村氏:日産自動車では開発の取りまとめをしており、車に関わるすべての部品に携わっていました。自動車エンジニアとしてのキャリアを積む中、2011年に東日本大震災が発生しました。東京でも食料品が手に入りにくい状況が続く中で食糧供給について危機感を抱き、大型機械や化学肥料が使えない状況でも米や野菜を自給できるようになっておきたいと考え、土日に通いで有機農業を始めました。
有機農法はなんといっても除草作業が一番の重労働でした。ある時、地元農家の方から受けた『車を作る技術で、除草作業をなんとかできないか?』という相談を“安請け合い”したことがきっかけで、抑草ロボットを開発し始めました。

――アイガモロボは、具体的に農業におけるどのような課題を解決するのでしょうか。
中村氏:日本の田んぼの99%は雑草対策に除草剤を使っています。雑草対策が一番手間とコストがかかり、できれば減らしていきたいと農業者の皆さんが要望されていらっしゃいましたが、これを解決できる手だてがありませんでした。
アイガモロボは、水田の泥を撹拌することで濁らせ、光を遮ることで雑草の光合成を抑制し成長を妨げます。さらに、雑草が稲よりも根を張る前に、スクリューで小さな雑草を抜きます。雑草は田植えの後に生えてくるため、除草のタイミングも理にかなっています。
「自動で動く」かつ「ソーラーエネルギーで動く」、つまり人手もエネルギーも要らない、さらに農薬を減らすことができます。実際に販売して、農家の方からは「除草作業を軽減できた」、さらには「全くしなくてよくなった」という声もいただいております。
――除草だけでなく、ジャンボタニシによる食害の抑制にも効果があると聞きました。このような効果はどのようにして見つけたのでしょうか。
中村氏:とにかく田んぼにずっといて、観察し、気づいたことを調べ続けました。農家の方からも話を伺い、「子供を田んぼで遊ばせる」「アイガモを放つ」など雑草抑制に効果があるとされていた方法に、「水が濁ることで雑草が生えにくくなる」というメカニズムが共通していることを発見し、その状態を再現できるロボットを開発しました。
ジャンボタニシについても同様で、ジャンボタニシが嫌がる環境を分析しました。一つめは単純にブラシで叩く。二つめは「音」。ジャンボタニシが嫌う周波数帯を見つけ、第二世代のアイガモロボ(アイガモロボ2)からはこの周波数の音を出せるようにしました。
三つめは土壌の環境で、ブラシで水田を攪拌すると、土壌に酸素が入り、微生物帯が変わります。この過程でジャンボタニシが嫌がる物質が増えることで、動きを抑制します。
直接的に駆除するのではなく、動きが鈍る環境を整えることで、ジャンボタニシによる食害を防ぐ仕組みを作りました。
――どのような過程を経て、アイガモロボを事業化させたのでしょうか。
中村氏:アイガモロボの取り組みを当時の日産自動車の広報部長に紹介したところ関心を呼び、日産自動車の広報から公式YouTubeで紹介されました。社外からも大きな反響を呼びましたが、当初は事業化は念頭にありませんでした。
しかし、全国稲作経営者会議の会長から事業化の要請をいただいたり、東京農工大学からの産学連携の提案、また山中が山形県で立ちあげたSHONAIからの事業化の申し出といった後押しを受け、2019年に日産自動車を退職し、山中と共同でSHONAIの子会社としてNEWGREENを設立しました。
山中氏:有機農法は収穫量が少ないため、農業経営には不向きと考えられています。しかし、化学肥料は日本での算出がほとんどない枯渇資源を使用し、輸入に頼らざるを得ません。日本の農業を持続可能なものにするためには、環境負荷の少ない有機農業の方が、結果的に省エネ・省コストを実現できると考えています。その視点から、中村のロボットには大きな可能性を感じました。

中村氏:社内で事業化する道も考えましたが、事業化の準備に時間がかかり、年に一度の米作りのタイミングに間に合いません。アイガモロボの事業化を最優先で考えた時に、幅広い事業を展開し、多様な販路や別の収益方法が見込めるSHONAIに合流することを決めました。このまま車作りに関わっていたいという気持ちもありましたが、『これをやれるエンジニアは自分しかいない』という社会的責任を感じたことが決断を後押ししました。
――井関農機とのコラボレーションは、どのようにして生まれたのでしょうか。
中村氏:NEWGREENが前身の「有機米デザイン」という社名だったときに、ある農業のイベントに参加しました。そこで小・中学校の同級生が、井関農機さんでスマート農業を担当していることを偶然知りました。アイガモロボの話をし意気投合した結果、最終的には販売のみでなくアフターメンテナンスまで井関農機さんでやってもらえることになりました。
山中氏:「研究や試作機の開発」と「製品化」では求められることが大きく変わります。ベンチャー企業であっても優秀なエンジニアがいれば、試作機をつくることまではできます。一方で、特に全国津々浦々にいらっしゃる農業者に新製品をお届けする物流・販売網や、使用を始める際のサポート・故障時のメンテナンスを行うための人員体制を整えることはベンチャー企業である私たちには難しく、大手の農機具メーカーのチカラが必要でした。
中村氏:安価なロボットを開発して小規模で売ってもビジネスにならないことは試算して分かっていたので、全国で販売して一定台数以上を確保することは必須でした。その為、私たちが開発と製造に特化し、販売とアフターメンテナンスを全国規模で行うことのできるパートナーと組む必要がありました。販売はするがアフターメンテナンスは行わないというスタンスの農機製造販売会社が多い中、井関農機さんは販売とアフターメンテナンスを受けてくださったので、パートナーとなることは必然でした。
――井関農機は、NEWGREENとの共創をどのように捉えていますか。
冨安氏:井関農機は100年にわたり、農業機械を作り、販売してきました。しかしすべてを一社だけカバーできるわけではありません。NEWGREENさんのようなスタートアップ企業とのコラボレーションしていくことは非常に重要です。
アイガモロボの開発プロセスに触れ、有機農業にはまさにこのような機械が不可欠だと考えるに至りました。環境問題解決も私たちの大きなテーマですから、「よくぞ井関を選んでくださった」と、ご縁を強く感じました。
また、本プロジェクトでは、熱血漢である山中さんのリーダーシップ、そして技術にこだわり、自ら農業に携わり私たち以上に農業についてのノウハウを持っている中村さん、このような方々としっかりとタッグを組み、信頼関係を構築できました。これが共創を成功させた最大のコツだと信じております。

――共創を進める上でぶつかった壁や、その壁をどのように乗り越えたかをお聞かせください。
山中氏:まずそもそも「商品化すること」が課題でした。「決められたコストターゲットの中で、最大限の機能性を担保する」というところが開発で一番大変なところだったと言えます。
“農機具あるある”ですが、田んぼや畑は一枚一枚環境が違います。どの環境にも合うパーフェクトなものを作ろうとするとどうしてもコストが上がってしまいます。
それにただ良いものを作りたいとプロダクトアウトで作っても物は売れません。農業という厳しいコスト環境で、どうやって農家を救える商品をつくるか、井関農機さんと侃々諤々の議論をして試行錯誤を重ねながら、アイガモロボ2というある種コストも機能性も私自身はパーフェクトと思っているものを作り出せる段階に至りました。
――東京農工大学から産学連携の提案があったと伺いましたが、新たな事業を生み出すにあたり、アカデミアとの連携の重要性について実感されたことがあれば教えてください。
中村氏:ベンチャー企業は実績と信用がないため、ビジネスを軌道に乗せるには実績と信用のある第三者にアイガモロボの効果を評価し、発信してもらう必要がありました。そこで東京農工大学や農研機構、井関農機さんと連携し、抑草効果を確認する実証試験を全国36か所で行いました。その結果、アイガモロボの使用により、除草作業が6割低減し、お米の収穫量が1割増えたという論文を発信するに至り、多くの農業者にとって、購入に向けた安心材料を提供することができました。それが商品のヒットにつながったと思います。
実証実験では全国で210台が利用され、「非常に抑草効果があった」「除草にかける時間を他の作業に割り振れた」と、全国の農家からも高い評価を受けました。
一方で開発コストも膨らみ、資金が底を尽きるかどうかの瀬戸際に迫った2022年に、井関農機さんから2億円の出資による資本業務提携を決断いただきました。もしもこのタイミングで出資をいただけなかったとしたら、その年の実証実験、翌年の発売発表はなかったと思います。

――国際的にも温室効果ガスの削減など持続可能な農業の拡大の取り組みが必要になっており行政の取組も有機農業をはじめとする環境保全型農業への取り組みに力が入れられています。日本の農業の今後、そして海外展開について、どのような展望をお持ちでしょうか。
中村氏:お米を自国で消費する日本以上に、むしろ海外のほうが需要は旺盛な印象です。特に主要産業としてお米を輸出する国々では、輸出先から求められる温室効果ガスの排出量削減が喫緊の課題になっているなかで、有機農法が重要な施策になっています。中でもベトナムとは国の機関、大手流通企業と連携した国家プロジェクトとしてMOU(基本合意書)を締結し、アイガモロボの実証・認証・普及・定着まで一貫した推進を行っています。
日本が1年間で食べる量と同じくらいの米需要が、世界では伸び続けています。需要に対し供給を維持していくことが世界的にも重要課題となる中で、「日本の主要産業としての農業」に高めていき、サポートする存在となっていきたいです。
山中氏:アイガモロボの価格は1台25万円ほどです。高機能と手頃な価格を両立しているため優位性は高いと考えていますが、おそらく海外の後発企業がキャッチアップしてくるでしょう。その時にアイガモロボが日本代表として、アジアのマーケットを制しているほどの販売スピードで成長していくことが私たちの戦略です。2030年ごろまでに、どれほどのシェアが取れるかが勝負です。
今回、このタイミングでこういった賞をいただけるとは思っていませんでした。なぜかというと、「アイガモロボのポテンシャルはこんなもんじゃない」と考えているからです。
10年後、私たちの成長した姿によってこの賞に箔がつけられるように、また、アジアの米作りのイニシアチブを取るのはこのチームだと思っているので、井関農機さんと一緒に邁進したいと思っています。
冨安氏:国際的にも温室効果ガスの削減など持続可能な農業の拡大の取り組みが必要になっており、行政の取組も、有機農業をはじめとする環境保全型農業への取り組みに力が入れられています。
NEWGREENさんとさらに連携を深め、アイガモロボの機能向上やさらなる活用範囲の拡大を通じ、持続可能な農業の普及に貢献していきたいと考えています。
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