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2025.07.18(Fri)
目次
エネルギーミックスとは、太陽光・風力・水力・火力・原子力など複数の発電方法を組み合わせ、電力の安定供給を目指す考え方です。電力分野に限った構成は「電源構成」と呼ばれ、エネルギーミックスと重なる部分が大きいため、同じ意味で使われる場面も少なくありません。
発電方法にはそれぞれ、コストが安い・CO₂が少ない・天候に左右されにくいといった異なる強みがあります。裏を返せば、どの発電方法にも苦手な分野があるということです。
たとえば、太陽光や風力はCO₂を出さない反面、天候によって発電量が大きく変動します。一方、火力発電は出力を柔軟に調整できるものの、燃料費やCO₂排出の課題を抱えています。
こうした凹凸をうまく組み合わせ、全体として安定供給と環境対応を両立させるのがエネルギーミックスの基本的な考え方となります。
エネルギーミックスが重視されているのは、日本のエネルギー供給が構造的に不安定な要素を抱えているからです。その理由をいくつかご説明します。
●低いエネルギー自給率を補うため
最大の理由は、日本のエネルギー自給率の低さにあります。
経済産業省によると、2024年度における日本のエネルギー自給率は16.4%で、先進国の中では低い水準にあります。一次エネルギー供給の約8割を石油・天然ガス・石炭などの輸入化石燃料に頼っているのが実情です。
特定の燃料に依存しすぎると、国際情勢の悪化や資源価格の高騰が起きた際に、国内のエネルギー供給が不安定になるリスクがあります。実際に1970年代の石油危機(オイルショック)では、原油の調達が滞り、国内経済に深刻な打撃を与えました。
だからこそ、調達先と燃料の種類を分散させるエネルギーミックスの重要性が高まっているわけです。
出典:経済産業省「令和 6 年度(2024 年度)エネルギー需給実績(速報)を取りまとめました」
●予期せぬ災害や事故のリスクを分散するため
特定の電源に頼りすぎると、災害や事故で発電が止まったときに代わりがありません。
その教訓となったのが、2011年の東日本大震災です。全国の原子力発電所が停止に追い込まれ、電力供給の逼迫が深刻な社会問題に発展しました。
当時、火力発電のフル稼働で急場をしのぎましたが、燃料費の急増が電気料金の値上げにつながり、企業や家庭の負担は大きく膨らんでいます。
複数の発電方法を組み合わせておけば、一つが止まっても他の電源で補える余地が生まれます。電源の分散は、供給途絶のリスクに備える基本的な対策です。
エネルギーミックスのあり方は国ごとに大きく異なります。ここでは、主要4カ国の現状をご紹介します。
●アメリカ
アメリカの電源構成を大きく変えたのは「シェールガス革命」(地下の岩盤層から天然ガスを低コストで採掘する技術の実用化)です。2000年代以降、安価な天然ガスが大量に供給されるようになり、電源構成の主力となりました。
同時に再生可能エネルギーの導入も加速しています。2022年には再生可能エネルギーの年間発電量が初めて石炭火力を上回り、2024年にはその差がさらに拡大しました(再エネ約25%、石炭約15%)。連邦政府と州政府で政策方針が異なるケースもありますが、全体としてエネルギー転換は着実に進んでいます。
出典:EIA(米国エネルギー情報局)「Renewable generation surpassed coal and nuclear in the U.S. electric power sector in 2022」
出典:EIA(米国エネルギー情報局)「Electricity in the U.S.」
●フランス
フランスは電力の約67%を原子力でまかなう、世界でも有数の原子力大国です(2024年、EIA)。1970年代のオイルショックを機に原子力推進へ舵を切り、その方針が現在のエネルギー自給率の高さにつながっています。
近年は陸上風力と太陽光の導入にも力を入れ、再生可能エネルギーのさらなる拡大を掲げています。原子力と再生可能エネルギーを組み合わせることで、低炭素社会の実現を目指す戦略です。
出典:EIA(米国エネルギー情報局)「France’s increase in nuclear and hydropower in 2024 led to more electricity exports」
●ノルウェー
水力発電が電力の約88%を占めるノルウェーは、世界で最もクリーンな電源構成を持つ国の一つです。
特徴的なのは、自国ではクリーンな電力を使いながら、北海で採掘した石油や天然ガスを輸出に回すという二層構造の戦略です。日本とは条件が異なるものの、自然エネルギーの潜在力を考えるうえで参考になる事例です。
出典:Chambers and Partners「Power Generation, Transmission & Distribution 2025 – Norway」
●中国
世界最大のエネルギー消費国である中国は、いまも化石燃料が発電電力量の約6割を占めています。その大半は石炭火力で、大気汚染や温室効果ガスの排出増加が深刻な課題です。
一方で、太陽光と風力を国策として急速に普及させており、再生可能エネルギーの設備容量はすでに世界最大規模に達しました。経済成長とエネルギー転換をどう両立させるかが、今後の焦点です。
出典:Ember「China」
石油危機では燃料の多様化が進み、東日本大震災では原子力の停止が電力供給を揺るがしました。こうした転機のたびに電源構成は見直されてきましたが、日本は依然として火力発電が約7割を占める電源構造が続いています。
ここからは、日本のエネルギー政策の方針と目標、残された課題を確認します。
●日本のエネルギーミックスの基本方針「3E+S」
日本のエネルギー政策は「3E+S」という基本方針を土台に組み立てられています。
「S」はSafety(安全性)で、すべてに優先する大前提です。「3E」はEnergy Security(エネルギーの安定供給)、Economic Efficiency(経済効率性)、Environment(環境への適合)を指します。つまり、安定供給を確保しながら電気料金の上昇を抑え、同時に環境問題にも対応するという、三方向のバランスを目指す考え方です。
ただし、この3つはときに相反します。たとえば、CO₂排出を減らすために再生可能エネルギーを増やせば、発電コストの上昇が経済効率性を圧迫するためです。
エネルギー基本計画はこうしたトレードオフを踏まえて策定されており、電源構成の比率も「3E+S」のバランスをもとに検討されています。
●日本のエネルギーミックスの2030年までの目標
| 電源種別 | 2030年度の目標シェア |
|---|---|
| 再生可能エネルギー | 36~38%(太陽光・風力・水力など) |
| 原子力 | 20~22% |
| 天然ガス(LNG) | 20% |
| 石炭 | 19% |
| 水素・アンモニア | 1% |
| 石油等 | 2% |
この表は第6次エネルギー基本計画(2021年策定)に基づく2030年度の目標です。再生可能エネルギーを36〜38%に引き上げ、火力を41%まで抑える構成を目指しています。ただし、2024年度の実績では火力が約67%を占めており、目標との開きは依然として大きい状況です。
2025年2月に閣議決定された第7次エネルギー基本計画では、さらに先の2040年度を見据え、再生可能エネルギーを40〜50%に拡大する方針が新たに打ち出されました。再生可能エネルギーが初めて最大の電源に位置づけられており、日本のエネルギー政策は大きな転換点を迎えています。
●日本のエネルギーミックスにおける課題
・火力依存からの脱却と再生可能エネルギーの主力化
最大の課題は、発電電力量の約7割を占める火力をどこまで減らせるかです。温室効果ガスの削減目標を達成するには、石炭や天然ガスの比率を段階的に引き下げる必要があります。
その受け皿として期待されるのが再生可能エネルギーですが、太陽光や風力は天候によって発電量が大きく変動します。蓄電池技術の進化や洋上風力発電の拡大など、主力電源として機能させるための長期的な技術投資が欠かせません。
・エネルギー自給率の向上
化石燃料の大半を海外に頼る日本は、国際情勢の変化が電力供給に直結する構造を抱えています。サプライチェーンの途絶リスクを抑えるには、国産エネルギーである再生可能エネルギーの導入量を増やし、自給率そのものの改善が急務です。
・コストと安定供給の両立
再生可能エネルギーの導入には、送電網などのインフラ整備や供給安定化に膨大なコストがかかります。その費用が電気料金に上乗せされるのは避けられません。
| メリット | デメリット | |
|---|---|---|
| 火力発電 | ・電力を安定して供給できる ・燃料の貯蔵や運搬も容易 |
・発電時に大量のCO₂を排出する ・燃料の多くは輸入に依存するため価格変動に弱い |
| 原子力発電 | ・発電時にCO₂をほぼ排出しない ・少量の燃料で大量の電力を長期間にわたって生み出せる |
・事故が発生した場合の被害が甚大になる ・使用済み核燃料の処理や廃炉には長い期間と多額の費用がかかる |
太陽光発電 | ・発電時にCO₂を排出しない ・屋根や遊休地など設置場所の自由度が高い |
・天候や日照時間によって発電量が大きく変動する ・夜間は発電できない |
| 風力発電 | ・発電時にCO₂を排出しない ・洋上風力であれば大規模な発電が可能になる |
・風の強さや方向に発電量が左右される ・騒音や景観への影響が指摘される場合がある |
| 水力発電 | ・発電時にCO₂を排出しない ・出力の調整がしやすく需要の変動に対応しやすい |
・大規模ダムの建設には環境への影響や多額の初期費用がともなう ・適地が限られている |
| バイオマス発電 | ・廃棄物や間伐材など未利用の資源を活用できる ・燃焼時のCO₂は植物の成長過程で吸収されるためカーボンニュートラルに近い |
・燃料を安定して調達し続けることが難しい ・発電効率が他の方式と比べて低い傾向にある |
| 地熱発電 | ・天候に左右されず24時間安定した発電ができる ・CO₂の排出量も少ない |
・開発には長い調査期間と高額な初期投資が必要になる ・温泉資源への影響を懸念する声もある |
表からもわかるように、安定供給に優れた火力や原子力はCO₂排出や安全性に課題を抱え、環境性能の高い再生可能エネルギーは天候や立地条件に左右されます。
すべてを満たす万能な発電方法は存在しません。だからこそ、それぞれの凹凸を補い合うエネルギーミックスの考え方が大切です。
ここでは、エネルギーミックスに関連する代表的な制度と取り組みをご紹介します。
●FIT・FIP制度
再生可能エネルギーは導入コストの高さが普及の壁になっています。この課題を解消するために、国は2つの支援制度を設けました。
*FIT制度(固定価格買取制度)
*FIP制度(フィード・イン・プレミアム制度)
まず2012年にスタートしたFIT制度は、再生可能エネルギーで発電した電気を国が定めた固定価格で一定期間買い取る仕組みです。売電収入の見通しが立ちやすくなるため投資判断がしやすく、太陽光を中心に導入量は大幅に拡大しました。
FIP制度は2022年に始まった新しい仕組みで、市場価格に補助金(プレミアム)を上乗せして電力を売買します。FITとの最大の違いは、売電価格が市場に連動する点です。電力が不足する時間帯に売れば収入が増え、余っている時間帯なら下がるため、需給バランスに沿った発電が促されます。
●RE100
RE100は、事業で使う電力を100%再生可能エネルギーでまかなうことを目指す国際的な企業イニシアチブです。2014年の発足以降、世界中の大企業が参加しており、日本からもさまざまな企業が加盟しています。
参加企業が増えている背景には、GX(グリーントランスフォーメーション)への対応だけでなく、経営面でのメリットもあります。RE100への加盟は、取引先や投資家に対してSDGsやサステナブル経営の姿勢を示すシグナルとなり、企業価値向上につながると期待されているためです。
こうした流れを受けて、電力の調達先や電源構成を見直す動きが広がっています。
出典:環境省 「気候変動時代に公的機関ができること~「再エネ100%」への挑戦~」
エネルギーミックスについて、よく寄せられる疑問にお答えします。
●エネルギーミックスとはどういう意味?
太陽光・風力・火力・原子力など、複数の発電方法を組み合わせて社会全体の電力をまかなう考え方です。発電方法ごとに異なる強みと弱みを補い合うことで、安定供給と環境対応の両立を目指します。
●2030年のエネルギーミックスとは?
日本の2030年度における電源構成の目標は、第6次エネルギー基本計画(2021年策定)で示されました。この目標は、2025年2月に閣議決定された第7次エネルギー基本計画でも変更されていません。
目標値は、再生可能エネルギー36〜38%、原子力20〜22%、天然ガス20%、石炭19%、石油等2%、水素・アンモニア1%です。現状の火力比率が約67%であることを踏まえると、5年間で20ポイント以上引き下げる必要があり、目標達成のハードルは決して低くありません。
出典:経済産業省「第7次エネルギー基本計画」
●エネルギーミックスの理想の割合は?
唯一の正解はありません。どの電源をどれだけ組み合わせるかは、その国が持つ資源や地理的条件、経済状況によって変わります。日本の場合は「3E+S」の方針に基づき、安全性を大前提としたうえで、安定供給・経済効率性・環境適合のバランスがとれた構成を目指しています。
●日本のエネルギーミックスの現状は?
2024年度時点で、日本の電源構成は火力発電(天然ガス・石炭・石油)が約67%を占めています。再生可能エネルギーは約23%まで伸びてきたものの、2030年度目標の36〜38%にはまだ開きがあります。今後は、原子力発電の再稼働の進み具合や、洋上風力をはじめとする再生可能エネルギーの導入拡大がカギを握ります。
万能な電源がない以上、それぞれの強みと弱みを補い合うエネルギーミックスの設計が欠かせません。日本は2030年度に再エネ36〜38%を目指していますが、現状との差はまだ大きく、企業にもエネルギー戦略の見直しが求められています。
電源構成の変化は、企業のコスト構造と環境対応に直結します。今から備えを始めた企業が、将来の競争力で差をつけると考えられます。
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