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2025.07.18(Fri)
目次
——改めて、「OPEN HUB for Smart World」を立ち上げた当初の狙いをお聞かせください。
戸松:OPEN HUBは、事業共創を進めるための舞台装置です。取り組みの入口を「コンセプト」、出口を「社会実装」と定義してきました。コンセプトとは、つまり問いの立て方です。新しい事業に取り組む際、問いの立て方を間違えるとその後どれだけ努力しても共感も得られず、仲間も集まりません。もちろん成果にもつながらないでしょう。
一方で、出口である社会実装は非常に力のかかる仕事です。NTTグループに対して社外パートナーの皆さんが期待してくださることは、NTTが持つセミパブリックな機能、つまり民間企業でありながら公共性を帯びた社会インフラとして新しい価値を現実社会に実装する機能です。その期待に応えるべく取り組みを進めてきました。

——現在、スタートしてから4年以上が経ちましたが、これまでの成果はいかがですか。
戸松:現在、オウンドメディアの会員は約50万人、コミュニティーには約2万人が参加しており、この4年間で累計1,000件以上のプロジェクトに取り組んできました。
OPEN HUBは、「人」「技」「場」の3つを軸に役割を担っているのですが、まず人の面では、カタリストと呼ぶ触媒役の人材を当初100人から開始し、現在は約1,200人にまで拡大しています。さまざまな知見を持つカタリストをロールプレイングゲームのパーティーのように編成して課題に向き合う体制です。
技術面では、IOWN(Innovative Optical and Wireless Network)をはじめとするNTTグループすべての最先端技術を提供しています。
そして場については、大手町のOPEN HUB Parkには年間1,200社以上、約3,000人が来場されます。1日3組限定で、1組ごとに丁寧な準備をした上でご案内しています。おかげさまで3〜4カ月先まで予約が埋まっている状況です。
——佐藤さんは「場」の運営に携わる立場から、OPEN HUB Parkをどう見ていますか。
佐藤:OPEN HUB Parkはコロナ禍というさまざまな制限があった時期に生まれた場所です。リモートという働き方が普及していった一方、リアルな場所だからこそ創られる価値を大切にしてきました。先進的な技術を、ある種不完全なものも含めお客さまにご提示していくことで、“これであれば自社のアセットと掛け合わせて”と、新たな議論を生み出せるように日々活動し、実際に多くのお客さまにご来訪いただいています。ただ物理的な「場」ですので、たとえば地方のお客さまにとっては大手町のOPEN HUB Parkに足を運ぶこと自体がハードルになるなどの物理的な場所の課題も見えてきました。

——戸松さんの視点では、どのような課題が見えてきたのでしょうか。
戸松:一つひとつの事業共創にはもちろん大きな価値があります。ただ、4年間やってみて痛感したのは、1対1の企業間の共創には限界があるということです。1社ではできないからパートナーの皆さんと取り組むわけですが、では2社ならできるかというと、そうでもない。たとえば自動運転のような大きなテーマになると、さまざまなステークホルダーが関与し、さらにはルールメイキングまで視野に入れていく必要があります。民だけでは不十分で、官や学も巻き込んだエコシステムがなければ、大きな問いには答えられないのではないか。4年間の実感として、強くそう思いました。
——具体的な事例で教えていただけますか。
戸松:ヤンマーさんとの事例を紹介しましょう。2社間の共創であれば、たとえば「農作機械にセンサーを搭載してIoT化して生産性を上げる」という方向になりがちです。それ自体は良い取り組みですが、センサー付きのハイエンドな農機を全ての農家が購入できるわけではありません。
そこで視点を変え、農地から発生する「メタンガスの問題」に着目しました。水田の稲作は牛のゲップに次ぐほどのメタンガスを排出しており、環境負荷がかかっています。ヤンマーグループで食関連事業を手掛けるヤンマーマルシェさんとの取り組みでは、水田の中干し(稲の生育途中に水を抜いて乾かす工程)期間を延長する管理手法によってメタンガスの排出を抑え、その削減分をJ-クレジットとして認証取得する仕組みを実現しました。削減した分は農家に収益として還元されます。
すると、農業×ITという同じ文脈でも問いそのものが変わります。つまり、農業の生産性向上という問いが、農業の持続可能性という問いに変わるのです。J-クレジットの認定には官の関与が不可欠ですし、低メタンで栽培したお米にはオーガニック志向の流通事業者や飲食店が関心を寄せます。このように、農機メーカー、IT企業、行政、流通といった多層的な関係性からなるエコシステムが出来上がり、大きな問いに答えられるようになると考えています。
——「Smart World」というコンセプトにも課題を感じていたのでしょうか。
戸松:「Smart World」という言葉自体は今でも大事なコンセプトです。ただ、多くの方は「デジタルで効率を極限まで追求する」というイメージを持たれます。スマートシティやスマートヘルスケアなど、実際に取り組んできた中で分かったのは、デジタルは万能ではなく、さらに効率を突き詰めた結果が幸せかどうかはまた別の問題だということです。
加えて、今の時代は一つの強大な組織が全てをコントロールするというモデルはもはや成り立ちません。自律した個がそれぞれ分散して存在し、協調しながら価値を生む。そうした時代認識の中で、「Smart World」という言葉は経営戦略としても少しずれ始めてきた。

——「for Smart World」から「for Plural Futures」へとリブランディングされましたが、この言葉に込めた思いを聞かせてください。
戸松:根底にあるのは、問いのベクトルを変えたいという思いです。「社会課題解決」という言葉をよく耳にしますが、これはノーマルな状態が前提にあり、そこに至っていないことが問題であるという響きがあります。つまり、マイナスをプラスマイナスゼロに戻す発想です。でも、それで本当に仕事をしていて元気が出るでしょうか。特に若い世代にとっては、自分たちが生み出したわけでもない課題の尻拭いをさせられているように聞こえかねません。
だからこそ、私は社会課題解決ではなく「社会可能性発見」と呼びたい。未来に向かって問いを立て、ゴールから逆算して実現方法を考える。問いのベクトルを未来に向けることで、取り組む人自身のモチベーションも変わってくるはずです。
——「Plural(プルーラル)」という言葉には、「複数の」「多元的な」「多様な」という意味がありますが、この言葉を選んだ理由について、もう少し詳しく教えてください。
戸松:これには強いこだわりがあります。Pluralと似た言葉としてまず挙がるのがDiversity(ダイバーシティ)ですが、ダイバーシティは定義が年々変わりつつも、社会的合意や制度として一定の方向性に収束していく印象があります。英語で言えば、それはPluralistic(プルーラリスティック)に近い。多元的ではあるけれど、一つの結論を持った哲学のようなもので、言葉のニュアンスとして将来像は一つに収束しそうに聞こえます。
一方で、私たちが掲げているPluralでは、結末がいくつもの可能性に開かれていることを意味します。何か一つの正解に収束させる必要はありません。ここ2〜3年だけを見ても、想像もしなかったことが次々に起きています。そうした時代にフィットする言葉としてPluralを選びました。
そして「Futures」が複数形になっているのも同じ理由です。多元的な社会であるなら、一人ひとりが持つ視点ごとに異なる未来があるはずで、それぞれの未来を持ち寄るところがスタートだという意味を込めて「Plural Futures」としています。
——新しいコンセプトをどのように発信していきますか。
戸松:大切なのは、コンセプトを口で語るだけでなく、自分たちの提供するサービスがそれを体現しているかどうかです。たとえばNTTドコモビジネスが掲げる「AI-Centric ICTプラットフォーム」は、まさに自律・分散・協調を形にした構想です。AIは自律的かつ分散的に駆動し、時にAgentic AIが協調的に連携します。よって、AI時代のネットワークも従来の個社専用の排他的なインフラから、使いたいときだけ使えて分単位で課金でき、セキュリティが最初から実装された柔軟なサービスへ転換しようとしています。
サービスの世界では、自らが最初の顧客となる「クライアントゼロ」という考え方がありますが、それと同じ思想です。コンセプトを掲げる以上、まず自分たちがその実践者でなければなりません。自律・分散・協調を目指すのであれば、自分たちの働き方やお客さまとの関係性もそうなっているかを、一つひとつ問い直していく必要があります。
佐藤:社内のカタリストや関係者への浸透も重要です。「Plural Futures」は、まだ聞き馴染みがない人も多い言葉だと思います。そのため、その言葉がどのような未来を目指し、どのような目的を持ち、叶えるための提供価値は何かを順序立てて整理していきました。具体的にはOPEN HUBのコアバリューである「人・技・場」により、社会可能性の探求と実装をし、多元的な社会を目指していきます。2026年4月にはOPEN DAYを開催し、OPEN HUBのリニューアルとともに新コンセプトや各種コンテンツを社内に向けてお披露目する予定です。

——首都圏以外の地域への展開も進んでいると伺いました。
佐藤:はい。これまでは大手町にあるOPEN HUB Parkを起点とした中央集権的な考え方で進めてきましたが、今後はより各地域の施設と連携を深めていきたいと考えています。名古屋や福岡など、各地域に存在する施設CROSS LABとIOWNによりシームレスに接続することで、大手町でしか体験できなかったコンテンツを各地で見ることができたり、複数拠点で同時に議論ができる環境を構築中です。場所にとらわれず距離を越えて、さまざまな地域の企業や自治体の皆さまと情報やテクノロジー体験を共有し議論を深め、事業共創を加速させていきたいと考えています。
戸松:重要なのは、他の地域を東京色に染めないことです。たとえば、名古屋には名古屋の文化があり、固有のお客さまやパートナー、そして独自の課題があります。そのための解決策は名古屋が自律的に作り上げていくものです。東京にはなかった発想が地域から生まれてくるという動きを期待しています。
——OPEN HUBを今後どのような場に育てていきたいですか。
佐藤:OPEN HUBは「半歩先」であることを大切にしています。遠い未来ではなく、半歩先の実現できそうな未来を常に描き続ける。半年も経てば状況は進んでいきますから、意識的にその先を作り続けなければなりません。
戸松: 言い換えると、デザイン原則として語られる「MAYA」、つまり、Most advanced(より先進的)であると同時に、Yet Acceptable(広く受け入れられる)である必要があります。ここに集まった方々が受け止められるものでなければ対話は生まれません。先端的であること自体を否定するものではありませんが、少なくともこの場の機能としては、議論が生まれることが最も重要です。佐藤が申し上げた「半歩先」というのは、まさにそのバランスを言い当てた言葉だと思います。
——最後に、これからOPEN HUBに関わる方々へメッセージをお願いします。
佐藤:OPEN HUBは「ついてきてください」というタイプのプログラムではありません。お客さまやカタリスト、営業など社内外関わらず各関係者が、それぞれ点で活動を進めるのではなく、一つの面となり、ありたい姿を一緒に作っていきたいと思っています。エコシステムとして「多様な人が集い、共に創る」という姿勢こそが、このプログラムの本質です。
戸松:社会課題解決ではなく、社会可能性発見と言ったとき、その起点になるのは一人ひとりが心に描いている希望です。「こうあるべきだから」ではなく、「こういう社会の方がいい」と自ら思えること。その未来に起点を置ける方と、ぜひご一緒したいです。
そして、未来に向けた問いを発することを躊躇しなくていい環境を、我々は用意したいと考えています。「こんなことを言ったらおかしいと思われるだろうか」「飛躍しすぎだろうか」と感じる必要はありません。そういう場でありたいのです。自分自身のアジェンダをお持ちの方にこそ、ぜひ参加していただきたいですね。
OPEN HUB
THEME
Co-Create the Future
#共創