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2025.07.18(Fri)
この記事の要約
2025年SXSWでも注目された「専門特化型生成AI」は、一般LLMが扱えない企業固有の知見を活用する仕組みで、ニーズが高まっています。
モルガン・スタンレーはLLMとRAGを組み合わせて金融ナレッジをAI活用し、効率化と顧客満足度向上を実現。とある製造業の企業では、特許DBをAI活用して新規特許創出に応用しました。
専門特化型生成AIは「LLM+RAG」と「DSLM(領域特化型生成AIモデル)」の2方式があり、一長一短。最近ではNTT「tsuzumi 2」など新たな有力SLMも登場しています。
国産開発はソブリンAIの観点からも重要で、日本の製造業や職人技術をAIに事業承継すれば、新たな価値創出や海外展開も期待されます。さらにAIエージェントの進化により製品開発の速度と品質は飛躍的に高まり、日本企業も触れて試し、未来を描きながら共創を進める姿勢が求められています。
※この要約は生成AIをもとに作成しました。
――2025年3月に開催された「SXSW(サウス・バイ・サウスウエスト)」でも、今後3年の生成AIビジネスにおけるブレイクスルーとして「Domain Specificity(領域固有性)」がキーワードとして話題になるなど、「専門特化型生成AI」のニーズがグローバルに高まっているといわれています。そもそも専門特化型生成AIとはどんなものか、ニーズが高まる理由を踏まえて教えてもらえますか。
馬渕邦美氏(以下、馬渕氏):OpenAIの「GPT」やGoogleの「Gemini」、Anthropicの「Claude」など、LLM(大規模言語モデル)をビジネスに活用することが世界で当たり前になりつつあります。
さらに最近は、「AIエージェント」も一般的になってきました。単にユーザーの指示に応じるだけではなく、AIが自律的にタスクを計画し、実行していく。まさにエージェント(代理人)のような役割を果たす生成AIが、ビジネスの現場に浸透しつつあるのです。
もっとも、こうしたちまたの生成AIは、パブリックに公開されたオープンデータを学習しています。それゆえに極めて幅広くバラエティに富んだタスクを高い精度で実行できるわけですが、学習データには特定の企業や組織だけが持つ機密性・専門性の高いデータはほぼ含まれていません。
指摘されたSXSWのキーノートでも、IBMのCEOであるアービンド・クリシュナ氏が「LLMに学習された企業データはわずか1%程度に過ぎない」と発言していましたからね。

――99%はパブリックデータで、企業内のデータは既存の生成AIにはほぼ活用されていないわけですね。
馬渕氏:そうなのです。とても賢くタスクをこなしてくれる生成AIですが、知識の質としては「浅く広い状態」ともいえる。ビジネスの現場で培われ、企業や社員の中に蓄積する濃密な知見や専門性の高いナレッジは活かされていないままです。
裏を返すと、こうした企業や産業の中にロックされた付加価値の高いデータを生成AIに学習させることができれば、現場の業務により効果的に生成AIを活用できるのはあきらかです。こうした流れで今、専門特化型生成AIのニーズが高まっているのです。
――なるほど。改めて、専門特化型生成AIとはどのような仕組みなのでしょう?
馬渕氏:いくつかバリエーションがありますが、すでに普及が進んでいる仕組みを2つの事例で説明しましょう。
アメリカの金融最大手のひとつであるモルガン・スタンレーは、LLMが回答する際に外部データベースを検索・参照できる「RAG」という付加機能を活用し、GPTと同社の膨大な金融ナレッジを、秘匿性を担保して組み合わせることで、専門特化型生成AIとして活用しています。仕組みとしては、「LLM+RAG」というパターンですね。
モルガン・スタンレーが積み上げてきた10万件以上の専門的なドキュメントをRAGでデータ活用することで、金融商品の詳細な特徴や条件をすぐさま回答し、データにもとづいた市場動向や投資戦略のスピーディーな分析なども可能になりました。過去に活躍してきた素晴らしい金融パーソンたちの知見を効率的に引き出して、分析の最適化に活かしています。
同社のアドバイザーチームにおける導入率は98%で、検索時間の大幅な短縮ができたそうです。加えて、アドバイザーたちは、空いた時間を顧客との関係構築や丁寧な戦略提案にあてられます。
――効率化のみならず、顧客満足度を上げることにも寄与しているわけですね。
馬渕氏:まさにそこが専門特化型生成AIのメリットで、導入のインセンティブになる部分です。生成AIのビジネス活用といっても、現状は部分的な業務効率化にとどまっているケースも多く、経営層としてはそれだけでは導入コストをかけ続ける意義を見いだしにくい。しかし、売り上げ・利益のトップラインに影響する投資になるなら、話は変わってきますからね。
もうひとつの例としては、ある製造業の会社では、社内の特許データベースを学習させた独自の言語モデルをつくり、特許データをチャットベースで自在に引き出せる仕組みをつくりました。これは独自に専門特化型生成AIモデルを開発したパターンです。過去事例の検索・参照を効率化するだけではなく、新たなユースケースを考えるアイデア出しや壁打ちのツールとして使い、売り上げ・利益の向上に役立てています。

ただ、いずれの例も、現時点では社内利用として活用が進んでいる段階にあります。機密性の高い社内データを学習させた言語モデルの開発にはさまざまなハードルがあり、それをサービスとして外部に提供するとなればなおさらです。
ゆえに“どうすればロックを外せるか”が議論のテーマになっている、というのが現状ですが、移り変わりの早いグローバルな生成AIビジネスにおいては、そうした成功事例も3年以内には台頭してくるだろうと予見されているわけです。
――北川さんは、すでに企業の生成AI活用の現場に多く携わってこられていますが、日本国内でも似たような状況にあるのでしょうか?
北川公士(以下、北川):そうですね。日本においても、専門特化型生成AIが極めて可能性のある領域だという認識は広まりつつあると思います。現に我々も、すでに複数の企業から受注、あるいはご相談も受けています。
ただ、自社に最適な専門特化型生成AIを築き上げる方法論や、それをビジネスに活用して成果を上げるためのメソッドに関しては、まだまだ定まっていないなという実感もあります。
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