2025年7月より、NTTコミュニケーションズはNTTドコモビジネスに社名を変更しました

Global ICT

2025.11.26(Wed)

生成AI時代、日本企業のグローバル戦略に求められる
「データ主権」への視座とは

クラウドサービス、生成AI、データ流通といった技術は、今や企業競争力の根幹を担う存在です。一方で、地政学リスクの高まりや各国の法制度の違いにより、これらの技術活用には新たな課題も生まれています。データをどこに置くか、どのクラウドを選ぶかといった判断が、企業の市場戦略を左右する時代になったのです。

このような環境変化のなかで、グローバル展開を目指す日本企業はどう対応すべきなのでしょうか。今回は、テクノロジーの最前線を追い続けてきたNTTドコモビジネスのエバンジェリスト・林雅之に、企業が押さえるべき重要なトレンドについて伺いました。

目次


    「データ主権」の確保が、グローバル展開の成否を分ける

    ──最近世間で注目されている地政学リスクや関税問題は、グローバル企業のIT戦略やデジタルインフラにどのような影響を与えるのでしょうか。

    林:特定の国に依存すること自体が大きなリスクになってきた、という認識です。結果としてサプライチェーンを再設計する動きが加速しており、企業のテクノロジー選択にも大きな影響を与えています。

    この変化を象徴する具体例として、帝国データバンクが公開した「自動車業界サプライチェーン動向調査」があります。これまで自動車業界のサプライチェーンの上位を占めていたのは、エンジンやブレーキなどの物理的な部品を製造する企業でした。

    しかし最近では、車載ソフトウェアの開発を手がける「受託開発ソフトウェア業」の企業が急速に存在感を増し、部品製造業と肩を並べるほどの地位にまで上がってきています。

    なぜこのような変化が起きているのでしょうか。理由の一つには関税にあります。物理的な部品を国境を越えて輸送する際には関税がかかりますが、ソフトウェアにはかかりません。そのため企業は、従来のように完成した製品をパッケージで輸入するのではなく、最低限のハードウェアは自国で調達し、機能はソフトウェアで後から追加するという戦略に転換しているのです。

    車の新機能を追加する際に、以前は物理的な部品交換が必要でしたが、ソフトウェアのアップデートだけで対応する比率が高まっていくと考えています。

    林雅之|NTTドコモビジネス エバンジェリスト
    クラウドやデータ活用のマーケティング担当等を経て、現在はイノベーションセンターIOWN推進室に所属。次世代通信基盤・IOWNのマーケティングに従事しながら、IOWNのキーテクノロジー「光電融合技術」や、AI連携による分散型ネットワーク構築といった未来のテクノロジーのリサーチ・開発なども兼務している。国際大学GLOCOM客員研究員。クラウドサービスにまつわる著書を手がけるほか、DXとビジネスをテーマにした記事も多数執筆している

    ──サプライチェーンがソフトウェア重視に変わる一方で、企業が自社のデータをどう管理・保護するかという「データ主権」の考え方も重要になってきていると思います。この概念がなぜ注目を集めているのでしょうか。

    林:「経済安全保障」が関係していると思います。経済安全保障とは、重要な先端技術や機密情報の流出を防ぎ、経済面から国の安全を守る取り組みのことです。国の産業にとって大切な技術や情報が他国に流出するリスクを避けるため、グローバル企業には自分たちの競争力のあるデータは自分たちで守る姿勢が求められるようになりました。

    実際のところ日本国内でも、信頼できるデータ流通の基盤を整えていこうという機運は高まってきています。2025年4月に経団連が発表した「産業データスペースの構築に向けた第二次提言」の「トラスト基盤の整備」の項にもその必要性が記されています。こうした取り組みはEUがいち早く動いており、やがて世界的にも広がっていくと考えられます。日本もグローバルでのデータ連携やエコシステムを通じて、社会実装を加速させていかないと、国際的な競争で後れを取ってしまう懸念もあります。

    適材適所のクラウド運営でデータを管理する

    ──データ主権を確保するという観点で考えると、企業が海外のデータセンターやクラウドサービスを利用する際には、どのような点に注意すべきでしょうか。

    林:まず重要なのは「どこの国にデータを置くか」を戦略的に考えることです。各国ごとにデータ活用やデータ保護に関する法制度が存在するので、現地のルールを踏まえて運営していかなくてはなりません。

    日本国内なら安全かというと、そうとも限りません。個人情報保護法などは整備されていますが、データ保護に関する法規制はまだ十分とはいえないからです。だからこそ、データを管理する場所を戦略的に考えなくてはならないのです。

    そこで注目されているのが「ソブリンクラウド」という考え方です。これは、プライベートクラウドをベースとしながら、さらに「主権」を確保できるクラウド環境のことです。

    プライベートクラウドは自社専用のクラウド環境を指しますが、ソブリンクラウドはそれに加えて、データの物理的な保管場所を自国内に限定し、運用管理者も自国民に限定するなど、法的・政治的な主権まで確保する仕組みです。つまり、技術面だけでなく、どこの国の法律に従ってデータが管理されるかまでコントロールできるのが特徴です。

    一般的なパブリッククラウドでは、データが海外のデータセンターに保管され、外国の法律の影響を受ける可能性があります。一方、ソブリンクラウドなら自国内でデータを管理し、自国の法律に従って運用できるため、より安全にデータを扱えます。ただし、すべてを自前で用意するとコストが膨らんでしまうため、重要なデータはソブリンクラウド、それ以外はパブリッククラウドといった使い分けが現実的です。

    実際に政府機関などでは、独自のクラウド環境を構築するケースも増えており、これも一種のソブリンクラウドといえるでしょう。

    ──ソブリンクラウドやパブリッククラウドを使い分ける基準を教えてください。

    林:本社や中核となる国の拠点だけはソブリンクラウドでデータを管理し、周辺の支店や支社レベルの拠点はパブリッククラウドで運用する方が現実的だといえます。要するに、本当に外せないところだけを守るイメージです。もちろん、スケールメリットが出る領域はパブリッククラウドを使うのが良いでしょう。

    ──今のお話では、重要なデータはソブリンクラウド、それ以外はパブリッククラウドという使い分けが現実的とのことでしたが、このような複数のクラウドを組み合わせる、いわゆるハイブリッドクラウドについて詳しく教えてください。

    林:そうですね。ハイブリッドクラウドの強みは、一つの事業者に依存する「ベンダーロックイン」のリスクを避けられる点にあります。リスク分散に加えて、適材適所でクラウドを選ぶことでコストの最適化も可能になります。パブリッククラウドのシェアはGAFAが大きくリードしていますが、利用するコンテンツや用途次第では国産クラウドという選択肢もあると思います。

    ただし、メリットがある一方でハイブリッドクラウドの運用はかなり複雑です。また、それとは別の課題として、各事業部門が独自にクラウドを導入してしまい、全社的にコントロールできていないケースも多く見られます。そうした課題を補うにはNTTドコモビジネスのような外部事業者に頼るのも有効で、運用やセキュリティをサポートするマネージドサービスを利用する方法があります。

    また、クラウドサービスのコスト管理も忘れてはなりません。基本的に従量課金制なので、しっかりと管理していないと無駄に課金され続けることになります。いわば、水道の蛇口を開けっ放しにしているようなものです。これを防ぐために、クラウドの利用状況とコストを可視化・最適化する「FinOps」という概念が広がってきています。

    生成AI時代に求められるグローバルインフラ戦略

    ──最近のテクノロジーのトレンドとして生成AI活用が挙げられます。生成AIが普及する中で、データ主権の観点から、グローバルに展開する企業がインフラ面で検討すべきポイントはどこでしょうか。

    林:まず重要なのは、AI処理に必要なGPUサーバーをどこに配置するかという判断です。GPUはAIの学習や推論に必要な高性能の計算装置ですが、これを膨大なデータを処理するAIストレージなどとどう連携させるかが課題になります。

    こうした複雑なAIインフラを統合的に運用してくれる事業者を選ぶことが重要で、NTTドコモビジネスでも、ネットワークやデータセンター、GPU基盤などをパッケージで提供しています。

    特にグローバル企業にとって重要なのは、先ほどお話ししたデータ主権の観点です。ChatGPTのような一般的なAIサービスに加えて、「プライベートLLM」という選択肢も検討されることをおすすめします。これは大量の文章データを学習した生成AIを自社の管理下で運営する仕組みです。

    これにより、重要なデータを海外のAIサービスに送信することなく、安全に処理できます。

    加えて、プライベートLLMは情報の信頼性の観点からも重要です。一般的な生成AIには「ブラックボックス化」の問題があり、なぜその結果が出たのか説明できなかったり、ハルシネーション(誤った情報の生成)が起きたりします。企業が安心して生成AIを活用するには、自社でコントロールできる信頼性の高い環境が必要なのです。

    ──そうしたAIインフラを支えるデータセンターにも変化が起きているのでしょうか。

    林:大きな変化が起きています。特に注目すべきは、AIの処理に必要な大量のGPUを効率的に運用するため、データセンターの分散配置という新しいアプローチが生まれていることです。

    従来はすべてのコンピューティング資源を一箇所に集約していましたが、NTTグループが展開するIOWN(アイオン)という光技術を使った次世代通信基盤を活用すると、地理的に離れたデータセンター同士を高速かつ低遅延でつなげることができます。例えば、電力消費の大きいGPUを北海道と東京に分散して配置しても、まるで一つのAIシステムのように扱うことも現実的なものとなっていくでしょう。

    グローバル企業にとっては、この分散配置の考え方を各国で応用することで、それぞれの国での電力コストや立地条件を考慮した最適な配置が可能になります。

    日本も世界と同等に闘える環境が整いつつある

    ──これまでデータ主権の確保からAIインフラの分散配置まで、さまざまな技術戦略についてお聞きしました。こうした複雑化するITガバナンスを企業内でリードしていくのは、やはり情報システム部門が中心になるのでしょうか。

    林:一概には言えませんね。確かに情報システム部門が中心となって取り組むケースもありますが、それだけでは十分ではないと思います。企業のなかには、チーフAIオフィサー(CAIO)、チーフデジタルオフィサーやチーフデータオフィサー(CDO)などの人材、あるいはAIやデータのガバナンスを専門とする部署が牽引する場合もあります。

    情報システム部門はシステム面の実装や運用といった面で力を発揮しますが、ガバナンス全体を主導するのは、経営により近い立場にあるチーフデジタルオフィサー(CDO)などが担った方が望ましいと感じています。

    ──最後に、現在グローバル展開を行っている企業が、これらの技術変化にどう対応していけばよいか、お聞かせください。

    林:重要なのは、変化する環境に対してスピード感を持って柔軟に対応することです。これまで日本企業はガラパゴス化が課題とされてきましたが、近年はグローバル志向へとシフトしつつあります。

    そのなかで、日本独自の強みをいち早く外に発信することができれば、先行者利益につながるはずです。大切なのは、失敗を恐れず、軌道修正しながら前に進んでいくこと。そうした柔軟なアプローチが求められるのではないでしょうか。

    今は生成AIの進化によって言語の壁が薄れ、世界と対等に戦える環境が整いつつあります。それを踏まえると、日本企業に大きなチャンスが訪れているといえるでしょう。

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