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2025.03.06(Thu)
目次
戸松正剛(以下、戸松):各務先生には今年から審査員にご参加いただきましたが、Xtrepreneur AWARDをどのようにご覧になりましたか。
各務茂夫(以下、各務):私は内閣府の日本オープンイノベーション大賞の審査委員長を7回務めた経験がありますが、Xtrepreneur AWARDは「意外性」という審査基準が特に印象的でした。2社以上の、比較的ステークホルダーが少ないミニマルなプロジェクトであり、「日本発・グローバル」という視点が明確で、とんがったイノベーション創出を目指している点が素晴らしいですね。
戸松:まさにそこが、我々の狙いでもあります。今回特に印象に残ったプロジェクトはありましたか。
各務:印象的だったのは、集英社、スタートバーン、伝統工芸の担い手たち、セイコーエプソンによるアートプロジェクト。ブロックチェーン技術でアート作品の真正性を証明し、原作者への継続的な利益還元を可能にするシステムです。日本のコンテンツが国策的に重要視される中で、単なるエンターテインメント消費ではなく、文化的価値を技術で支える仕組みとして興味深いと感じました。
もうひとつ、NEWGREENと井関農業によるアイガモロボについても、「雑草が生えにくい環境を自律的に維持する」という根本的な発想の転換に感心しました。
戸松:先生が挙げてくださっているプロジェクトはまさに、我々が求めている「意外性のある組み合わせ」の象徴ですね。特に集英社のプロジェクトは興味深くて、漫画・アニメコンテンツを世界に売っていくのは当然の流れですが、そこに「ひねり」が入っている。日本の工芸品をいかに掛け合わせ、真正性をテクノロジーで担保し、制作者が長期的に制作できるよう利益が回る仕組みをつくる。そこの切り取り方が心を動かします。
こうした事例を見ていると、アイガモロボのように、単純に技術やサービスを提供するだけでなく、皆さんそもそもの課題設定から見直しているところが興味深い。これこそが真のイノベーションの源泉だと思います。
戸松:アワード自体も3年目を迎え、今年は経済産業省の後援もつきました。企業の共創に対する意識の変化を感じています。もはや企業や組織の枠を超えた共創以外の選択肢はない状況になってきている。今やNVIDIAのようなプレイヤーとは桁違いのR&D費用の差があり、自前でできる企業はひと握りです。
各務:平成以前の日本は自前主義が主流でしたが、現在はひとつの医薬品をつくるにも自社の研究開発部隊だけでは成り立たなくなり、バイオ・スタートアップを買収したり大学から技術移転を受けなければ事業のパイプラインが維持できません。日本企業のROEが上場会社平均で8〜9%なのに対し、アメリカの優良企業は25%以上が当たり前。日本企業はオープンイノベーションの果実を本気で求めないとグローバル競争に勝てない状況で、自前主義の限界を示しています。
アメリカでは、尖った技術を持つスタートアップが大きなイノベーションを主導し、大企業のグローバル展開のリソースや産業知見をしたたかに活用しているようにも見える時もある。日本の大企業は、自前主義的なマインドセットからの大きな転換が必要です。
戸松:まさにその転換を促すために、我々のOPEN HUBでは新しいアプローチを取っています。完成品を待つのではなく、未完成な技術の断片をあえて展示し、外部の視点から新たな使い道を発見してもらう。大企業が抱える「眠れる技術」と、スタートアップの斬新な発想が出会う場をつくることで、予想もしなかった価値が生まれるのです。
各務:その好例がアイガモロボですね。日産自動車のエンジニアだった個人が開発した技術は、当初事業化の道筋が見えていなかった。しかし、その「未完成」な状態をオープンにしたことで井関農機との出会いが生まれ、初回販売分500台を完売し、黒字転換を実現できた。
さらに重要なのは、この成功の背景には複層的な共創があったということです。表面的には2社共創に見えますが、実際にはエンジニア個人の発想を起点に、農林水産省の政策的後押し、アカデミアからの技術的知見、そして井関農機の販売・メンテナンス体制という多様なステークホルダーが関わっているはずです。真の共創とは、点と点をつなぐだけでなく、それを支える面的なエコシステム全体で価値を生み出すということです。
戸松:まさにそこが「共創」の本質です。我々がイノベーションという言葉をあえて使わないのも、ひとつの技術がブレークスルーを起こすという印象が強いから。実際には、異なるアセットを持つ複数の主体が強みを持ち寄ってはじめて社会課題の解決につながります。
各務:大谷翔平選手を例に挙げるなら、個人の才能は確かに際立っていますが、花巻東高校の指導体制、日本ハムでの育成環境、そして最終的にはメジャーリーグという世界最高峰のプラットフォームがあってはじめて、あの成果が生まれたはずです。共創とは、個々の力を否定するのではなく、むしろそれを最大化するためのエコシステムを構築することなんですよね。
戸松:これからの共創成功の鍵は、越境を恐れず好奇心を持つ人材の育成だと考えています。OPEN HUBでは「カタリスト」という独自の仕組みを設けていて、異なる企業や技術の組み合わせを促進する専門人材として、各分野のエキスパートを集めています。現在約1,100人のカタリストが登録されていますが、異なる文化や価値観を持つ組織間の橋渡しができる人材は、まだまだ不足しているのが現状です。
ただ、希望も見えています。最近、若い世代から「社会課題解決」から「社会可能性発見」への発想転換が提案されるようになってきました。従来の問題解決型ではなく、「こういうことができるようになったら社会がもっと面白くなる」という可能性創造型の発想です。この前向きな視点と、大企業が持つ技術やインフラが掛け合わされれば、日本発のイノベーションはもっと世界に羽ばたけるのではないでしょうか。
各務:重要な視点ですね。日本の若い世代はテクノロジーネイティブかつソーシャルネイティブで、自己体験に基づく社会課題解決に積極的です。東京大学だけでも年間500〜600件の発明がありますが、グローバルな勝ち筋を見出し社会実装することが課題です。
戸松:重要なのは、初期段階からグローバル市場を見据えることです。日本の多くの取り組みが「日本のなかで勝てるか」という感覚に留まってしまっています。
各務:まさにその点です。地政学的分断が進むなか、課題先進国である日本が解決策をグローバルに発信できれば、アジア諸国への展開も期待できます。
戸松:3年目を迎えたXtrepreneur AWARDが、真のグローバル志向の共創プロジェクトを発掘し、日本発の新たな可能性を世界に発信する起点になれば、それが我々の目指すところです。企業のレガシーとスタートアップの尖った技術、アカデミアの知見が組み合わさることで、日本から世界を変える可能性は無限に広がっているはずです。
各務 茂夫(かがみ・しげお)氏
開志専門職大学学長、東京大学特命教授・名誉教授。東京大学産学協創推進本部教授イノベーション推進部長、大学院工学研究科教授等を経て現職。20年以上にわたり大学発スタートアップ・エコシステムの構築、アントレプレナーシップ教育を推進。内閣府「日本オープンイノベーション大賞」選考委員主査(初回~7回)。現在は新潟において大学を核とした地方創生に挑戦。
戸松 正剛(とまつ・せいごう)
NTTドコモビジネス 統合マーケティング部長、事業共創プログラム「OPEN HUB for Smart World」代表。NTTグループ各社にて、主にマーケティング/新規事業開発に従事。米国留学(MBA)を経て、NTTグループファンド出資のスタートアップの成長/Exit支援、Jリーグ他プロスポーツ業界とのアライアンスなどを手掛ける。2021年OPEN HUB for Smart Worldを設立、代表に就任。統合マーケティング部長(現職)として、ABM、デジタルマーケティング、インサイドセールス、カスタマーサクセス、セールスイネーブルメント、会員コミュニティーなど、B2Bマーケティング全般を統括。
Promoted by NTTドコモビジネス / text by Sei Igarashi / photographs by Shuji Goto / edited by Miki Chigira
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#共創