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2024.10.02(Wed)
Generative AI: The Game-Changer in Society
2025.05.30(Fri)
目次
冒頭、観光庁 参事官(産業競争力強化)の本村龍平氏は、観光庁では「観光DX」の推進施策として、2025年度から新たに、観光地・観光産業におけるデジタルツール導入支援と専門人材による伴走支援の補助事業(全国の観光地・観光産業における観光DX推進事業)を開始することを説明しました。
また、先進的なモデル創出に向けた実証事業(観光DX推進による地域活性化モデル実証事業)についても言及し、令和7年度は生成AIやオープンデータ化などを通じた、地域全体の消費拡大や地域活性化の好循環に取り組むモデルを支援することを説明しました。
観光DXにおけるデータ仕様の標準化については、観光庁 参事官(産業競争力強化)付 主査の山根知明氏が報告しました。
宿泊施設では、顧客予約管理システム(PMS)の導入が進む一方、スマートチェックインやスマートキーなどの周辺機器の導入は限定的です。その要因となるのが、PMSと周辺機器の連携ルールが統一されておらず、汎用性・互換性が低いことです。
そのため、観光庁は2023年度に受付機、スマートキー、クレジットカード決済端末とPMSのデータ連携仕様の作成に取り組みました。
さらに、2024年度には標準仕様を作成・普及促進する体制の構築にも取り組み、2025年3月には宿泊団体、PMSなどのデジタルツール提供ベンダー各社などにより、「日本ホスピタリティテクノロジー協議会(JHTA)」が設立されました。山根氏は「JHTAを中心にデータ仕様の標準化の取り組みが進むことで、PMSと周辺機器の連携が容易になり、宿泊業の生産性向上を図るとともに、取り扱うデータの高度化により、宿泊業がより稼げる産業、地域がより稼げる地域へと変わっていくことを期待しています」と述べました。
続いて、生成AI活用の実証報告の中から4つの事例をご紹介します。
温泉や流氷観光など多彩な観光資源を持つひがし北海道エリア。お宿欣喜湯 別邸忍冬(すいかずら)の榎本茂人氏は、課題について「繁閑差が激しく、通年雇用の維持が難しい。生産性向上が急務で、特定の従業員に業務ノウハウが集中している」と説明。ひがし北海道自然美への道DMOの阿部誠氏は「20年以上にわたる交通データや対面調査の蓄積を、より効果的に活用したい」と語りました。
実証事業では、データ分析による販売戦略の立案、多言語対応の標準化、シフト作成業務の効率化の3点に取り組みました。DMOのアンケートデータから旅行者ペルソナを作成し、宿泊施設のPMSデータと組み合わせ分析した結果、従来半日以上かかっていた販売戦略の立案作業が15分程度に短縮され、戦略立案の頻度が向上しました。
また、フロント業務の多言語対応を統一するため、スマホのボタン操作で対応できるアプリを開発し、英語での接客を標準化。シフト作成業務では、半日かかっていた作業をボタン操作で即時作成できる仕組みとし、精度は7〜8割ながらもスタッフの負担が大幅に軽減されました。
榎本氏は「現時点でも十分活用できるものがあると分かったのが最大の収穫」と評価し、阿部氏は「データ量をさらに増やし、精度を高めたい」と今後の展望を語りました。取り組みを支援したNTTコミュニケーションズの西田仁徳は、「データ量が増えることで、より多角的な分析が可能になります。過去の成功施策も取り入れながら、さらなる高度化も期待できる」とまとめました。
創業165年を誇る老舗旅館 西村屋の池上桂一郎氏は「インバウンド顧客の宿泊単価は高いものの、飲料やお土産の売上は日本人客より約2割低く、客室係の言語対応も課題です」と指摘しました。また、豊岡観光DX推進協議会も「40施設以上の予約・在庫データを活用した需要予測システムを効果的に運用したい」と課題を述べました。
実証では、生成AIを活用してPMSデータに基づくマーケティングの高度化、飲料の英語レコメンドなどの検証を実施しました。PMSデータの分析により、「台湾の方はフルーツジュースを好む」といった国籍ごとの飲食消費傾向をボタン操作で把握し、最適なドリンク提案を自動生成する仕組みを構築。さらに、スマートフォンで簡単に操作できる多言語対応の提案文生成ツールを開発し、翻訳を含め約20分かかっていた作業をボタン一つで完了できるようになりました。
また、地域DMOである豊岡観光DX推進協議会が提供する需要予測データとPMSデータを組み合わせ、売上が低い日を自動検出し、シフト状況に応じた販売施策を「アグレッシブ」「標準」「控えめ」の3段階で提案。こうしたデータ分析や販売施策立案にはこれまで30分程度かかっていましたが、作業を約10分に短縮できたほか、提示を3段階にすることで実効性を高めています。NTTコミュニケーションズの西田は「専門的なスキルが必要だったデータ分析も生成AIで代替でき、業務の平準化と時間短縮が実現しました。さらに、需要予測データを組み合わせることで、より高度な経営判断が可能になります」と成果を語りました。
この成果を受けて池上氏は「業務の効率化に加え、接客業におけるやりがいにもつなげていきたい」と今後の展望を話しました。
箱根湯本で創業72年の大規模温泉施設 ホテルおかだの常務取締役営業部長で、箱根DMOも兼務する原洋平氏は、部署間のローテーションによるノウハウの分散、新任スタッフの情報アクセスの難しさ、予約情報をもとにした受注判断の遅れ、分散した顧客データの一元管理の欠如といった課題を提示。また、口コミの点数は確認できても、内容の詳細な分析が不十分という問題も挙げました。
実証では、スタッフが日常的に使用するLINE WORKSのインターフェースに生成AIを組み込み、社内FAQ、予約状況分析、顧客データ管理、口コミ分析の4つのユースケースに対応。社内FAQでは、LINE WORKSのチャットボットに生成AIによる回答機能を付与し、業務中の疑問を即座に解決。予約状況分析では、PMSデータと連携し、営業先でもスマホで予約情報を確認できるようになり、判断の迅速化とシフト作成の最適化が進みました。
さらに、顧客データを統合し、リピーター情報をスタッフに通知することで接客の質を向上。口コミ分析では、部屋タイプや食事内容ごとに生成AIが要約・分析し、改善点を明確化しました。
原氏は取り組みを振り返り「日常的にAIを使うなかでヒアリングを重ね、改善を繰り返してきました。ただ、LINE WORKSでは見られないデータもあるため、スタッフが使いやすい環境を整えつつ、生成AIの活用をさらに進めていきたい」と今後の展望を語りました。
箱根芦ノ湖畔で開業30年以上を迎えた16室の温泉旅館 和心亭豊月の専務取締役である杉山慎吾氏は「旅館はホスピタリティ産業として感性が重視されがちですが、商売である以上、合理的に商品をつくる視点も必要です」と述べ、技術を活用した「旅館を科学する」方針を紹介しました。
実証では、従業員主導での生成AIツール作成、POPデザイン、メールドラフト作成、多言語対応の4つに取り組みました。伴走支援をしたNTTコミュニケーションズの箱崎竜生は「生成AIの場合、少し変更を加えればすぐに出力が変化する手触り感があるので、小さなアイデアを試行錯誤する機会が増え、改善の活発化が期待できます」と利点を説明しました。
シフト作成ツールを担当した山下佳輝氏は「生成AIは考えを深め、行動を後押ししてくれるパートナーのような存在」と語り、メール作成を担当した市本渓氏も「手軽に業務改善ができるようになった」と変化を実感。お品書きの翻訳では、作業時間が20分以上から7分に短縮され、担当した石口菜月氏は「余裕を持って接客できるようになった」と成果を述べました。
杉山氏は、「生成AIにより、気づきをすぐに実践できる環境が整い、従業員が業務改善を主導する動きが生まれました」と総括し、全国の宿泊施設でも導入が進めば、高付加価値の提供につながるのではないかとの期待感を示しました。
トークセッション「観光分野における生成AIの活用について」では、事例報告をした登壇者が集まり、さらなるノウハウ共有や将来展望について議論を交わしました。
まず観光庁 参事官(産業競争力強化)付 専門官の秋本純一氏が、最新の調査結果を紹介しました。「宿泊施設における生成AIの活用状況を調査したところ、現時点で業務に活用し効果が出ていると回答した施設はわずか3%でした。しかし、すでに業務で使用している、またはトライアル中の施設を含めると20%、さらに検討中の施設も加えると50%に達します。」と説明。現在検討中の施設が本格的に生成AIの導入を進めることで、観光産業の変革につながる可能性があるとの見解を示しました。
NTTコミュニケーションズの西田は「生成AIは先行者利益が非常に大きい技術です。技術の進化が早く、先週できなかったことが今週にはできるようになることもよくあります。早い段階で使い始めることで、トレンドが見え、新たな発想が湧いてきます」と強調しました。
ホテルおかだの原氏は実体験を盛り込みながら「生成AIの活用によって開発スピードが2〜3倍になりました。また、生成AIを使っている人同士で会話していると『そんな使い方があったのか』と学びながら、どんどん新しい発想が生まれています」と語りました。
株式会社リクルート じゃらんリサーチセンター研究員の松本百加里氏は、若者の生成AI利用実態について「大学生に調査したところ、7割以上が既に生成AIを使っていました」と話し、「観光領域の活性化において、デジタルネイティブからAIネイティブの若者と同じ目線で会話できるようになることも重要です」と指摘しました。
また松本氏は「十分なデータがない状況でも生成AIを活用できます。熱海市では、インバウンド旅行者の誘客実績が少ない状況で、世界中のネット情報を使って仮説を立て、マーケティングをスタートさせました。間違っていても大きな問題にならないところから始め、徐々に情報を蓄積していく形で進めています」とスモールスタートの重要性を語りました。
トークセッションの後半では、登壇者が「生成AIを明日から使える方法」としてデモを交えながらノウハウを披露。会場の参加者は熱心に操作の様子を見入っていました。
観光庁の秋本氏は、生成AIの活用を推進する一方で、個人情報保護や著作権保護、誤情報の拡散防止にも配慮することが大切であると説明。観光庁ウェブサイトにて、観光地・観光産業における生成AI活用の際に、事業者が具体的な取り組みや対策を講じることができるよう、「観光地・観光産業の生成AIの適切な活用に向けて」を公表。「生成AIを適切に活用できているかを確認するチェックリストなども活用しながら適切かつ効果的に活用してほしい」と呼びかけました。
今や、日本を訪れる外国人旅行者の数は年間3,687万人にも上ります。NTTコミュニケーションズでは生成AIサービス含めた新しい技術の提供を通じて、観光客の利便性・快適性の向上と、観光事業者の業務負担軽減の両立を支援していきます。
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