Hyper connected Society

2025.03.07(Fri)

豊かで持続可能な暮らしへ
国内外のIoT最新事例─ライフスタイル編

#IoT #事例
公共、一次産業、医療・ヘルスケア、小売業界などの分野では、IoTによるサービスの高度化、効率化が図られ、人々の暮らしを豊かにする新しい価値が生まれています。今回は、デジタル都市として暮らしの質を向上させた中国・杭州市の事例から、日本のスマート農業を支援する栽培支援システムや陸上養殖の新ビジネスモデル、フィンランドのパーソナライズド・ヘルスケア、そして日本での次世代型スーパーのリテール開発まで、これからのライフスタイルのスタンダードを先取りする国内外のIoT事例をお届けします。

目次


    公共|快適で安全な暮らしを司る都市管理システム

    中国・杭州市では、深刻な交通渋滞や公共サービス、公衆衛生上の課題が都市問題化していました。その解決の一手を担ったのが、アリババグループの都市管理システム「ET City Brain」です。2016年から導入されたET City Brainは2,000〜3,000台のサーバーと4,000台以上のカメラ、クラウドとAI機能を搭載。道路や公共施設の交通量をリアルタイムに解析し、交通渋滞や事故対応、環境汚染の改善に役立てられます。

    特に効果が見られるのが交通面です。AIが交差点ごとの交通量を分析し、信号のタイミングを自動調整することで、自動車の平均移動速度は15%向上、移動時間は3分短縮されるなど、渋滞解消に大きく寄与しました。また、安全面では、カメラ映像の分析で事故や異常を92%以上の精度で検出。緊急車両の対応時間は 50 %短く、救急車の到着約7分早まったといいます。さらに、大気や水質、騒音といった環境データもモニタリング。新型コロナ禍ではビッグデータを活用した追跡システムで感染拡大の抑制にも寄与しました。

    ET City Brainは1.0から2.0、3.0へと進化を遂げながら、さまざまな行政部門を横断するデータ連携を実現しています。この「デジタル管理都市」としてのモデルケースは他の都市でも公共サービスの効率化に応用されるなど、IoTで暮らしの質を向上させる取り組みが広がっています。

    一次産業|センシングで作物の体調管理をサポート

    農作物の生育環境を左右する日射量や湿度や気温。これらの管理は生産者の長年の経験と勘に支えられてきました。しかし近年、IoTとAIを組み合わせた「Plantect」のような次世代型の栽培支援システムが、データにもとづく新しい日本の農業の在り方を実現しています。

    農薬や防疫用薬剤の開発から製造、輸出入、販売を行うバイエル クロップサイエンスが開発したPlantectは、配線不要のセンサーと通信機を設置するだけで導入できる手軽さが特徴です。ハウス内の温度、湿度、CO2濃度などを10分ごとに測定し、AIがそのデータを解析。病害リスクを約92%という高い精度で予測します。2日後までのリスクを先読みできるため、発害前の対応が可能です。また、農薬散布の回数を減らせるため生産コストの削減や食の安全にも寄与します。導入した生産者からは、「トマトの成長点にあわせてセンサーを付け替えられて便利」「イチゴの生育に欠かせない窒素供給の調整がしやすくなった」との声が寄せられています。個々の生産者にあわせたIoTソリューションによる生産性の向上と、持続可能性の両立が目指されます。

    一次産業|魚食文化と地方創生の循環型モデル

    NTTコミュニケーションズは紅仁との共同研究を通じ、ICTを活用した循環式陸上養殖システムを開発。新会社NTTアクアを2024年に設立し、日本全国にこのシステムを提供することで、地域活性化・食糧安全保障の強化に取り組んでいます。

    同社の掲げる「誰もが参加できる陸上養殖」を実現するのが、陸上養殖ICTプラットフォーム。水温や酸素、塩分濃度、pHなどの水質データと装置の稼働状況を一元管理するダッシュボードです。NTTアクアが遠隔でこれを監視・支援し、異常時の早期対応をサポートするほか、魚種ごとに異なる最適な水温・水質の閾値をあらかじめ設定することで、養殖経験がない事業者でもスムーズな運営が可能になります。

    まずは、ハタ類2種の養殖システムを提供開始し、順次対象魚種を拡大していく予定です。過疎地域の廃校や未利用施設を活用して養殖事業を立ち上げやすくするなど、漁業権を必要としない陸上養殖のメリットを生かして多くの参入希望者を支援します。ICTを軸にした陸上養殖プラットフォームが、日本各地で新たなビジネスチャンスを生み出し、地域を元気づけそうです。

    医療・ヘルスケア|電子カルテで個々に寄り添う次世代医療モデル

    フィンランドでは電子カルテの普及率がほぼ100%に達しています。この基盤を活用して次世代の個別化医療を実現するべく推進されているのが「Personalized Health Finland」プログラムです。電子カルテのほかに、ウェアラブルデバイスから取得するバイタルデータやゲノム情報、バイオバンク※1情報などを統合。患者一人ひとりに最適化された治療を提供します。

    同プログラムを率いるBusiness Finlandは、バイオバンクや研究機関、ライフサイエンス企業、製薬・診断・データ分析企業をはじめさまざまな業界と連携し、治療の効果アップや予防医療の促進、医療コストの適正化を目指します。アメリカ、イギリス、日本など、他国との連携も視野に入っており、世界的にも注目が高まっています。

    電子カルテをベースとした医療システムのメリットを最大化しているのが、ヘルスケアセンター併設のコールセンターです。患者は受診の要否を判断するのが難しい場合、まずコールセンターへ連絡し、電子カルテにもとづく的確なアドバイスを受けます。これが医療機関の稼働を最適化し、人的コストも削減しているのです。また遠隔看護・介護の場でも、電子カルテによるデータ連携が、患者のスムーズな状況把握に役立てられています。今後、IoTを活用したパーソナライズド・ヘルスケアがどのような医療モデルを築き上げるのか、フィンランドの動向に期待が寄せられています。

    ※1 バイオバンク 血液や組織などの生体試料や診療情報を保管し、医学研究に活用する仕組み。認可を受けた研究にのみ使用することができ、診断法・治療法の開発や予防医療に役立てられる。

    小売|データで切り開く購買体験の最前線

    九州から日本全国でスーパーマーケットを運営するトライアルは、ITを駆使した次世代店舗「スマートストア」を展開しています。同社が独自開発したセルフレジ&スキャン漏れ防止機能付きの買い物カート「Skip Cart」は、スキャナーで商品のバーコードを読み取り、専用レーンを通るだけで決済完了。クーポン配信やレコメンド機能など、パーソナライズドサービスも搭載しています。レジ待ちの必要がなく、合計金額が見えるため日々の買い物がぐっと便利になります。2024年12月末時点で、稼働台数は約20,000台以上。世界一使われているスマートカートシステムです。

    2024年11月にオープンのスーパーセンタートライアル浜松若林店では、80台のSkip Cartに加え19台の「インストアサイネージ」が導入されました。ここでは関連性のある商品やプロモーション情報に加え、購買意欲を喚起するビジュアルを活用。AIやIoTとうまく連動させて「非計画購買」のタッチポイントを多く築いています。これにより、焼き芋の出来たて映像の放映で売り上げが114%アップするなど、購買促進効果が実証されています。

    さらに、店内で取得されるカメラ映像やPOSデータは、AIプラットフォームに集約され、卸売業者やメーカーとも共有。発注や棚割りの最適化が進み、大幅な省人化が実現しています。完全無人店舗の実現に向け、さらなる効率化と新たな購買体験の創出に向けたトライアルの挑戦は続きます。

    IoTが提示する豊かなライフスタイル

    衣・食・住さまざまなシーンで未来の当たり前をつくるIoT。今回紹介した事例は、効率化や省力化を超えて、ビジネスや地域社会の持続可能性にもつながっています。
    IoTはこれまで見えなかったものを可視化し、新たな価値を生み出すヒントを私たちに与えてくれるテクノロジーです。より豊かな暮らしに向けて、その可能性はますます広がっていくことでしょう。

    【関連ウェビナーのお知らせ】

    EVENT
    「超接続社会」を考える。IoTで日本の未来を変えられるのか?
    ※本ウェビナーは、2025年2月5日にOPEN HUB Parkで開催されたイベントの模様を録画、編集したものです。 ヒトやモノがあらゆる形でつながる「超接続社会」。私たちの生活やビジネスはどのように変わるのでしょうか。 社会変革と医療分野の未来研究で知られる慶應義塾大学医学部教授の宮田裕章氏をゲストにお迎えし、「超接続社会」がもたらす変革について掘り下げていきます。 後半では、「超接続社会」に向けて企業がIoTを駆使してどのようにビジネスをスケールさせていくべきなのか、クロストークをお届けします。ぜひご視聴ください。 <このような方におすすめ> ・企業の情報部門や戦略に携わっている方 ・自社のDXに積極的に取り組まれている方 ・IoTの領域に興味がある方
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