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Co-Create the Future
2024.07.09(Tue)
この記事の要約
東京都大田区の大森東小学校では、2023年12月からOGC(おおたグローバルコミュニケーション)海外体験ルームを活用した英語教育が始まりました。このプロジェクトは、大田区が掲げる「国際都市おおた」の実現に向け、グローバル人材の育成を目的としています。NTTコノキューのVRシステム「360Media」を使用し、アメリカの街並みや店舗を再現したバーチャル空間で、子どもたちは生きた英語でのコミュニケーションを体験します。
OGC海外体験ルームでの授業は、英語のフレーズを学んだ後、VR空間内で実際に使ってみるという流れで行われます。こどもたちは買い物や道案内などの課題解決的な内容に取り組み、自発的に英語を話す機会が増えました。VRコンテンツは操作性とリアリティーを追求し、こどもの視点に立った工夫が施されています。
今後は他校展開や他教科での活用も視野に入れており、こどもの学ぶ意欲を高め、一人ひとりに寄り添える教育環境づくりを目指しています。NTTコノキューとNTT Comは、先進的な取り組みを通じて、新しい授業のかたちを提案していきます。
※この要約は生成AIで作成しました。
目次
――大森東小学校では、「OGC(おおたグローバルコミュニケーション)海外体験ルーム」を校内に設置し、2023年12月から実際の英語の授業で活用されているそうですね。このプロジェクトがどのような経緯で始まったのか教えてください。
江袋勇樹氏(以下、江袋氏):大田区では「国際都市おおた」を掲げていて、将来、地域社会や国際社会において活躍できる人材の育成を目指しています。また、令和6年度より実施している第4期大田区教育振興基本計画であるおおた教育ビジョンにおいても、基本方針1に「持続可能な社会を創り出すグローバル人材を育成します」と掲げるなど、世界とつながる国際都市おおたを担う人材を育成したいと考えています。こどもたちには、そのために、積極的に英語を使ってコミュニケーションを取りながら関係を構築する力を育てています。また、2023年度から大田区教育ICT化推進計画を進めてきました。これは「ICTを活用して授業デザインを変容し、新たな学びの実践につなげる」という取り組みで、英語だけでなくさまざまな教科を対象にしています。
そうしたなか、今回OGC海外体験ルームを開発するに至った背景には、「英語を使ったコミュニケーションの成功体験をこどもたちに提供して、自己肯定感を養ってほしい」というねらいがありました。教室で教科書とノートを使って行う座学ではなく、プロジェクターで海外の空間を映し、まるでそこにいるかのような没入感のなか、実際に英語を使ってやりとりをする。そうすることで、「英語で会話ができた」という自信が育まれ、英語でのコミュニケーション力の向上につながることを期待しています。
――VR空間の開発には、NTTコノキューのVRサービス「360Media」を活用されていますが、どのような経緯で導入されたのでしょうか。
仮屋園都萌(以下、仮屋園):大田区様とは以前からICT環境の整備を支援させていただくなど、お付き合いがありました。小・中学校ともに児童・生徒や教職員の方を含めて「1人1台端末環境」を実現しており、当社のクラウド型教育プラットフォームである「まなびポケット(※)」も導入させていただいております。こうした背景もあり、2022年7月に「ICTを活用した先進的な授業に取り組みたい」というご相談をいただきました。
そして、実際に大手町のOPEN HUB Parkにお越しいただき、さまざまな商材を見ていただきながら、どのようにこどもたちの人間性の育成を目指しているのか、どのような学びが不足しているのか、といったディスカッションを経て、360Mediaの導入に至りました。
※まなびポケット:教職員、児童・生徒が多種多様な学習コンテンツを選択できる環境を通じて、個々に最適化された学びの場の提供を目指す 「クラウド型教育プラットフォーム」 。 NTT Comが無料提供する機能と、コンテンツ会社が提供するデジタル教材や授業支援ツールなどの多種多様な学習コンテンツを利用することができます
山﨑美佐(以下、山﨑):ディスカッションのなかで、大田区様からは「海外に行かなくても現地にいる感覚を味わえるような、没入感や臨場感を重視した学習を実現したい」というご要望をいただきました。
最初はゴーグルを装備するタイプのVRもご紹介したのですが、ゴーグルの推奨年齢が13歳以上なので年齢的にマッチしないことや、クラス全体で体験できる空間を実現したいというビジョンをお持ちだったことも踏まえ、今回のような、プロジェクターで投影するスタイルをご提案しました。
江袋氏:プログラムのモデルとして思い描いていたのは、東京にある体験型英語学習施設「TOKYO GLOBAL GATEWAY」です。非常に学習効果が高い施設なのですが、「こういう施設が仮想的に学校の中にあればいいな」と考えていたのです。
仮屋園:OGC海外体験ルームは、大田区様の抱える課題の解決やご希望を具現化したプロジェクトです。NTT Comは、プロジェクトマネジメントというかたちで全体統括を担いつつ、実際にOGC海外体験ルームの設営に伴う整備・構築を担当しました。
山﨑:NTTコノキューでは、360Mediaを活用した学習コンテンツの企画・制作を担うとともに、学習機能の要件の洗い出しや空間設計を行いました。学習コンテンツの企画・制作にあたっては、まずは小学校で実際に使われている英語の教材を参照し、それらをベースにしながら学習内容や範囲を策定しました。そこから、OGC海外体験ルームで教壇に立つ「OGCティーチャー」の協力のもと、プログラムのための具体的なコンテンツ案を固めていきました。
――OGC海外体験ルームではどのような授業が行われるのでしょうか。
江袋氏:授業の前半は、コミュニケーションルームと言われる別の教室で英語のフレーズを学び、後半部分で学んだフレーズをOGC海外体験ルームで実際に使ってみる、という流れで行っています。
OGC海外体験ルームでこどもたちが参加するのは、主に「OGC City」というコンテンツです。このOGC Cityのなかで、こどもたちは買い物や注文をしたり、道案内をしたりします。生きた会話フレーズに触れ、主体的に学べるよう、課題解決的な内容になっているのです。
主な対象年齢は小学校4年生に設定していますが、小学校1年生から中学校3年生の授業で使っても問題なく、教科書にはない生きた英語フレーズを学ぶことができます。
山﨑:実際の授業では使いやすさが非常に重要になってきますので、操作性については事前の調整を重ねました。VRコンテンツの制作にあたっては、「これはこどもが喜びそうだね」「ここにカラフルな色があるといいね」など、こどもの視点に立ったアドバイスをOGCティーチャーからいただきながらつくり込んでいきました。
また、今回はプロジェクターによる投影ですので、視認性を高めるように配色にもこだわりましたし、こどもの目線の高さで没入感を演出するための調整も行いました。また、「VR空間酔い」をしてしまわないように、画面遷移の動作のスピードを落とすなどの工夫もしています。
さらに、例えばスーパーやカフェの店内は実際の店舗で撮影した実写素材を使うなど、実写とCGを組み合わせることでリアリティーを演出しています。
山﨑:街並みの再現をするにあたっては、人種や性別、年齢、身体の自由度などを区別、さまざまな属性の人物を配置し、多様性を意識して制作しました。空間内に配置されたそれらのアバターは、クリックするとあいさつをしてくれたり、声をかけてくれたりします。そこで、先生は「どう答える?」とこどもたちを促していくのです。
――実際に体験したこどもたちや先生からの反響はいかがですか?
江袋氏:こどもたちの様子を見ていると、「話したい」という気持ちが生まれて、自発的に発言するこどもが増えたようでした。通常の授業では恥ずかしがってなかなか発言ができないこどもでも、意欲的に話したい、しゃべりたいという思いが高まるようです。OGC海外体験ルームを設置した大森東小学校には、JICA(国際協力機構)をはじめとする海外からの訪問客も多いのですが、そういう時にこどもたちが積極的に英語を使って会話をするといった変化も出ています。
また教員からは、社会科や音楽など他の教科の授業でも活用したいという声もあり、非常に好評です。
山﨑:画面を見ながら「こういう場所に行ってみたい」と話していたこどももいました。VR空間での学習や体験が、異国の文化に興味を抱くきっかけになることも期待しています。
――期待される成果や学習効果について教えてください。
江袋氏:中学生になると英語のスピーキングテストがあるのですが、そこでは「自分の考えたことを自分なりに英語で表現して伝える」技術をどうやって鍛えていくかが課題になります。ここで求められる力は、自分の考えを難しい英語で表現するのではなく、瞬間的に自分の知っている表現で伝え、会話する、という力です。このOGC海外体験ルームでの英語によるコミュニケーションは、そうした力を養う場になるのではないかと期待しています。
また、こうした実践的な英語によるコミュニケーション能力を育成することはもちろんですが、先ほど述べたように、普段なかなか自発的に発言ができないこどもに変化をもたらすことができるといった点も重要で、こどもの積極性や人間関係の構築力の向上にも貢献してくれるのではないかと考えています。
――今後、大田区教育委員会様とNTT Com、NTTコノキューの共創事業はどのように展開していくのか教えてください。
江袋氏:まず目指しているのは他校展開です。いまは1つの小学校で運用していますが、いずれは他の小学校や中学校でも活用できるようにしたいと考えています。
山﨑:おっしゃるとおり、いまは1つの小学校に特別な設備をつくり込んで運用している状態です。これをすべての学校にそのまま転用することはできませんので、柔軟性のあるかたちでコンテンツ整備ができるような環境構築を視野に入れています。また、OGC Cityも、固定のフレーズや同じ音声だけではなく、より柔軟に自由なやりとりができるように発話機能などを強化していきたいと考えています。
仮屋園:現在は英語を中心にコンテンツを制作していますが、先ほど江袋様からもお話があったとおり、他の教科での展開も模索していきたいです。また、職場体験などのプログラムにおいても、実際に行くことが難しい場所を体験できるなどバーチャルだからこそのコンテンツを提供していく機会を創出していきたいです。
――最後に、教育ICTの取り組みを通じてどのような教育環境をつくっていきたいですか。
江袋氏:まずは、こどもの学ぶ意欲が高まるような教育環境を整備したいですね。それに加えて、こどもが持つ力が最大限に活かされる、そして苦手意識を抱えているこどもにきめ細やかに寄り添える教育環境をつくっていきたいと思います。
山崎:今回のプロジェクトを通じて、XR技術の活用により、こどもたちが体験して楽しみながら学ぶという効果や可能性を実感できました。こうしてこどもたちが自分から学習したいという意欲を高めていくことができれば、現場の先生方の準備や負担を減らすことができるかもしれません。そういうビジョンのもとに、新しい授業のかたちをつくっていくことに挑戦したいと思います。
仮屋園:NTT Comが提供している「まなびポケット」では「“誰もが自分らしく学べる社会”の実現に向けて」というビジョンを掲げています。このビジョンに向かって、時代に即した先進的な取り組みに挑戦しつつ、教育の可能性を日々考え、高めていきながら、今後もさまざまな教育現場の発展をご提案・ご支援していきたいです。
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