Carbon Neutrality

2024.03.22(Fri)

企業の垣根を越え13社1,348名が参加した従業員参加型エコプロジェクト「ONE TEAM CHALLENGE」の裏側

#環境・エネルギー #サステナブル

#44

2023年夏、NTTコミュニケーションズ(以下、NTT Com)とNTTコムウェアは、従業員の脱炭素活動を促す業種横断型のエコプロジェクト「ONE TEAM CHALLENGE」を実施しました。全13企業1,348名が参加した同プロジェクトでは、「従業員一人ひとりのエコアクションによってどれだけCO2削減に貢献したかを数値で可視化できるアプリケーション」と、「データを分析して企業ごとに傾向の把握や比較ができる分析ソリューション」を組み合わせ、参加者の行動変容や意識の向上を促しました。イベントに参加したYKK AP 芋川千賀子氏とONE TEAM CHALLENGEの事務局を担ったNTT Comの上田耕佑、NTTコムウェアの佐藤千晴に、プロジェクトの狙いと展望について話を聞きました。

目次


    異業種企業が集まり従業員の脱炭素活動を促す「ONE TEAM CHALLENGE」

    ——2023年の7月~10月にかけて、NTT ComとNTTコムウェアは企業の脱炭素活動を促進させる「従業員参加型エコプロジェクト(通称:ONE TEAM CHALLENGE)」を開催しました。どのような取り組みなのか教えてください。

    NTT Com上田耕佑(以下、上田):2050年のカーボンニュートラル達成に向けて、環境省は2021年に地球温暖化対策計画を改定し、家庭部門における温室効果ガスの削減量目標を従来の39%から66%へと大幅に引き上げました。これは従来と同じ生活を続けていては到底達成できる数字ではありません。極端な話、全人口の半数の人が温室効果ガスの排出を仮に「ゼロ」にできたとしても達成できない計算になります。一部の人ではなく、すべての人がこの問題を自分ごととして捉えて削減に取り組む必要があるのです。

    そうしたなかで、私どもが着目したのが企業における従業員としての活動でした。プライベート・家庭ではなかなか環境配慮行動(エコアクション)の実践ができていない方も、所属している企業の一員として組織から推奨された取り組みであれば、エコアクションへの第一歩を踏み出せるのではないか、という仮説がありました。そして従業員一人ひとりがエコアクションを積み重ね、その行動の蓄積がどれくらいCO2排出抑制につながっているかを可視化できれば、環境への意識向上や行動変化を促せるのではないかと考えたのです。

    まずはCO2排出量を可視化するアプリケーションを活用し、NTT Com内で「CO2排出量削減をめざす全社イベント」を開催しました。その成果を踏まえ、環境省が推奨する「デコ活(脱炭素につながる新しい豊かな暮らしを創る国民運動)」の一環として今回のONE TEAM CHALLENGEを実施しました。業界を問わずに幅広い企業にお声がけをし、共に脱炭素活動を促進していこうと参加を募りました。

    上田耕佑|NTT Com ソリューションサービス部 ICTイノベーション部門
    NTT Com入社後、法人向けICTシステムの構築や運用を経て、現在はグリーントランスフォーメーション(GX領域)での事業創出に従事

    ——CO2排出量の可視化と分析に用いたアプリケーションとはどういったものなのでしょうか。

    上田:従業員が利用するWebアプリ「Green Program for Employee™」と、アプリに蓄積されたデータを分析する「Stats」です。Green Program for Employee™はNTT Comが開発したアプリで、環境問題や環境に関する知識習得をサポートするほか、日常生活やビジネスシーンでできるエコアクションを選んで実践すると、その行動によってどれだけCO2が削減されたのかを数量で把握できます。

    Green Program for Employee™ 画面イメージ
    「Green Program for Employee™」は、日本市場において事業者や消費者、投資家、市場関係者から評価が高く、優れた環境配慮が組み込まれた製品、サービス、技術、ソリューション、ビジネスモデルといった案件を表彰する「第6回エコプロアワード」にて奨励賞を受賞した

    NTTコムウェア佐藤千晴(以下、佐藤):StatsはNTTコムウェアが開発した分析ソリューションで、Green Program for Employee™を利用している企業のデータを集約して可視化するものです。アクションデータの内訳を確認したり、利用企業全体の取り組み状況を相対比較したりしながら、環境への取り組みの立案や、社内外に実績を発信するなどといった場面に活用していただけます。

    佐藤千晴|NTTコムウェア エンタープライズソリューション事業本部 ビジネスイノベーションソリューション部
    NTTコムウェアにて新規サービスの企画立案、公共領域の営業などを経て、2022年よりスマートシティ分野でのサステナビリティや環境に関わる新規ビジネス企画に従事し、現在はStatsを担当

    ——ONE TEAM CHALLENGEには、メーカーや流通小売、金融などさまざまな業界の企業13社が参加していました。その1社であるYKK APはどのような理由で参加されたのでしょうか。

    YKK AP芋川千賀子氏(以下、芋川氏):YKK APでは、脱炭素の実現は全社で取り組む必要があるという考えのもと、2014年より夏と冬の年2回、全従業員を対象にした脱炭素活動を進めてきました。現在の参加率は98%以上で、参加者の数が着実に増えているのですが、一方で取り組みによってどれほどのCO2が削減できているかが可視化できていないという課題がありました。

    今回のONE TEAM CHALLENGEでは、アクションごとのCO2削減量をアプリで把握できるので、これまで弊社が抱えていた課題を解消できると考えました。自分の貢献度が把握できることで、脱炭素活動の効果が見える化できるという点に魅力を感じ、参加を決めました。

    芋川千賀子|YKK AP株式会社 安全環境管理部 環境管理室
    YKK APにおける全社の環境政策推進部門として環境コミュニケーション政策の企画・推進に従事。社内外への環境情報の発信や従業員への環境教育、全員参加の環境活動推進を担当する

    CO2削減量をアプリで可視化、モチベーションが向上

    ——ONE TEAM CHALLENGEへ参加したことで、従業員からはどのような反響がありましたか。

    芋川氏:今回のONE TEAM CHALLENGEに関するアンケート結果によると、社内からの声として「環境への関心が高まった」「環境負荷軽減に貢献している実感が得られた」といった意見を聞くことができました。今後も弊社で脱炭素活動を推進していく自信にもつながりましたし、データ集計を効率化できたという成果もありました。

    社内での脱炭素活動についても、CO2削減量が可視化できることによって「前年度よりもさらに削減する」「CO2削減量の目標値を決める」など、削減量を目標にできるようになりました。これにより、1ステップ上がった活動になることを期待しています。

    ——ONE TEAM CHALLENGEにおいて従業員が行ったエコアクションとしてはどのようなものがあったのでしょうか。

    佐藤:業種・業界の違いに関わらず、エコアクションのカテゴリーとして特に多かったものは、「住居」と「食」に関する行動でした。

    住居のアクションで多かったものは、「エアコンの使用時間を減らす」「乾燥機を使わず自然乾燥にする」「クールビズを心掛ける」などです。食の分野では「肉を減らした食事スタイルに変える」「ペットボトルではなく、マイボトルを利用する」といった日常生活に取り入れやすいアクションが多く実施されていました。今回のチャレンジをきっかけに環境配慮への意識が高まり、習慣として根付きやすくなることを期待しています。

    ——業種や業界によってエコアクションの行動傾向に違いはあるのでしょうか?

    佐藤:企業によっては、自社事業と関連性が高い行動について平均よりも多く実施されている傾向が見られます。例えば環境に配慮した洗剤を出されている生活用品メーカーの従業員は、洗濯機のすすぎ回数を減らすアクションが平均より多かったり、家電メーカーに勤める方々は、エアコンの使用時間を減らすといったアクションが多く見られました。

    また、Green Program for Employee™には食事記録機能があるのですが、「肉を減らした食事に変える」というアクションが多かった食品メーカーの方々はそうした機能もよくご利用されていて、ご意見もたくさんいただきました。

    従業員の環境意識をより高め、参加を促進することが大きな課題

    ——今回のイベントを踏まえて改善したい点があれば教えてください。

    上田:今回のエコアクションが家庭での取り組みに偏っているというご指摘もいただきました。この取り組みに着手した時期がコロナ禍によるリモートワークへのシフトが盛んな時期だったために、家庭でのアクションを重視した内容になっていたのです。現在はオフィスでのアクションも項目として増やし、「オフィス時」「在宅時」の両面における総体的な脱炭素活動の支援を図っています。

    ——オフィスでのエコアクションの具体例を教えてください。

    上田:一例を挙げると、「エレベーターの代わりに階段を使う」「印刷時に白黒での印刷や両面印刷をする」「定時退社する」などといったものがあります。また、車通勤は公共交通機関に切り替える、電子契約を推進する、分別リサイクルを意識したゴミ捨てをする、などといったアクションも追加しています。

    ——なるほど。今後注力していきたい点についてはいかがですか?

    上田:参加企業数を増やすことと同時に、各企業の中で従業員の参加数を増やしていくことも効果を最大化するためには重要です。
    参加する従業員を増やすためには、日ごろからこういった従業員参加型の活動を継続的に実施していくという企業文化の定着が必要だと感じました。
    YKK AP様はそういった活動を継続的に実施されていますので、企業間交流の中で成功企業におけるノウハウの共有なども、今後注力すべき点であると考えています。

    また、参加メリットの拡大も狙っていきたいと思っています。ONE TEAM CHALLENGEの参加・実行を担っていたのは、各企業のサステナビリティ系の部門の方が多かったのですが、一口でサステナビリティと言ってもその中で優先する分野は企業によって異なります。例えば、脱炭素を重視する場合はONE TEAM CHALLENGEのように横連携で複数企業が集まったイベントに参加することで、各企業の担当部署の方の負担を減らしつつ、社会全体の意識・行動変容を促すことができるかもしれません。さらに、複数企業が集まってこうした活動を進めることで、新たな共創につながる基盤となれば、より脱炭素が加速する可能性があります。

    ——最後に、脱炭素に取り組んでいる企業や、今後取り組んでいきたいと考えている企業に向けてメッセージをお願いいたします。

    上田:今回、参加企業にアンケートを取ったところ、「こういったプロジェクト形式の方が環境への知識や関心が高まる」「実際に行動に移すことができた」という回答が非常に多かったことが印象的でした。従業員の意識改革や行動変容は、自社単独で行うよりも、ONE TEAM CHALLENGEのような企業横断型のプロジェクトに参加いただいた方が高い効果を得られる場合があります。なかなか効果が出ないという悩みを抱えている企業は、ぜひ参加を検討してみてほしいと思います。

    また、本プロジェクトの知見も生かし「環境領域における新たな価値の共創」を目的とした新たなコンソーシアムの立ち上げも予定しています。例えば参加企業が社内外からさらに評価されやすくなる仕組みや、得られたデータを利活用して参加企業間で活用できる仕組みなど、現在さまざまなアクションを検討しているところです。この活動をより多くの企業へ拡大し、脱炭素社会の実現につなげていきたいと思います。

    佐藤:脱炭素社会を実現するために、個人ができることはとても小さいことかもしれません。しかし、企業が従業員を巻き込んで活動を重ねて、参加企業がどんどん増えていけば、非常に大きなインパクトを世の中に与えられると思います。今回のONE TEAM CHALLENGEはまさにこの実例だと思いますので、今後もこの活動をより広げたいと思っています。

    芋川氏:一人ひとりが取り組んでいくことでしか脱炭素社会の実現はあり得ないと思っています。そのためには、やはりみんなが一緒になって、楽しく参加していける枠組みが必要だと思います。関心のある企業の皆さま方とは一緒に歩んでいきたいと思いますし、次の機会にもぜひ参加させていただきたいと思っています。

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