2024.11.15(Fri)
Partnership with Robots
2024.01.17(Wed)
#40
目次
―今回の「無人航空機等を活用したラストワンマイル配送実証事業」は、どのような課題意識を持って発足されたプロジェクトなのでしょうか。
平谷洋氏(株式会社ケーエスケー 以下 平谷氏):私たちケーエスケーは、近畿地方で活動する地域密着型の医薬品卸です。「地域に寄り添う、健康スペシャリスト企業へ」というビジョンのもと、地域が抱えている課題の手助けをすることをミッションに掲げています。
医薬品を安定的に患者さんに届けていくことを第一に考えるなかで、近畿地方では南海トラフ地震という大きな課題があります。このリスクにどう向き合うかということを、弊社の物流本部では長年考えてきました。
陸路が遮断された場合は、空路という選択になります。空路ならばドローンが活用できないかと考え、NTT Comと医薬品配送におけるドローン活用について検討を開始しました。検討のなかで、和歌山県立医科大学へ協力を仰ぐ案が固まり、国土交通省の「無人航空機等を活用したラストワンマイル配送実証事業」への採択を経て、実証実験の実現に至りました。また、このプロジェクトは災害時だけでなく、平時のへき地への輸送を可能にすることも想定しています。
―過去にも自然災害で陸路が分断されてしまうケースはあったのでしょうか。
平谷氏:大きな台風が接近または直撃した場合などにそういった問題が実際に発生しています。陸路が分断された場合、例えば私たちの物流センターでは、自家発電を採用してセンターの機能が止まらないような対策を講じています。またシステム面では他のセンターにも代替機能を持たせています。
しかし、陸路の配送ルートが断たれた場合の対策としては、別の陸路のルートを選択するという代替案しか用意できていませんでした。
―2023年10月24日に和歌山県の日高川町で実施された実証事業の目的として、「ドローンのレベル3相当の飛行における医療品配送の実用性の確認」「へき地医療への長距離飛行の可否」「次回以降のレベル4飛行に向けた課題の抽出」が挙げられていました。それぞれ、どのような狙いを持ったものなのか教えていただけますか。
平谷氏:まず2023年3月30日にレベル2飛行での実証実験を行い、約1.5kmという近距離のドローン輸送を検証しました。同年10月24日の実験では、日高川町までの24.5kmという長距離かつ高高度の輸送を想定し、繊細な医薬品が振動に耐えうるのか、温度管理が実現できるのかといった、より本番環境に近いかたちでの実証実験を行ったのです。飛行距離が長くなると、保冷ボックスに入れた医薬品の品質を維持できるかといった部分だけでなく、例えば飛行の妨げになるような建物や通信環境に影響を与えるような障害物への対策や、上空の気温によって消費スピードが変わるバッテリーが問題なく目的地まで持ってくれるか、といった実際のへき地医療への長距離飛行で想定される課題についても実験によって検証したいポイントでした。
また、レベル4飛行を実現させるための課題抽出を行うことも大きな目的の1つでした。レベル4飛行を見据えたときにBCP対策(緊急事態時の被害を最小限に抑え、事業が継続できるような対策)だけではなく、例えば街中に医薬品を緊急で届けたい場合の使用も想定しています。
―今回はレベル3相当の飛行実験だったとのことで、飛行ルート上には複数人の補助者が配置されていました。そうした制約やルールと付き合いながら社会実装を目指していくことになると思うのですが、法整備についての現状を教えていただけますか。
鍛地啓太(NTT Com 以下 鍛地):ドローン飛行においては、まず安全性が最優先で、国土交通省もさまざまな方法で法規制の整備をしています。
2022年12月5日には有人地帯・目視外エリアでの飛行を可能にしたレベル4が解禁されました。しかし、レベル4に対応した機体として認証を受けているものがまだ1機種しかないというのが実態です(2023年11月時点)。技術面で業界がレベル4に追いついていない部分があるのです。
そんななか、2023年11月にはレベル3.5という新たなレベルが設けられることが発表されました。レベル3では、立入管理措置として飛行ルート上に補助者を置いたり看板などを設置したり、道路を跨ぐ際には補助者が安全確認をし、地上で通行があれば一時停止するなどのルールがあったのですが、レベル3.5では、操縦ライセンスの保有、保険への加入、機上カメラによる歩行者等の有無の確認に対応するといったことで、道路などの横断時も一時停止不要となりました。
法整備がこれだけスピーディーに改善、改正されている状況は、ドローン活用への追い風であると捉えて良いと思っています。この流れをしっかりとキャッチアップし、今回のような実証実験を重ねてステップアップしていくことが重要だと考えています。
―日高川町で行われた実証実験の内容とはどういったものだったのでしょうか。
置田裕子(NTT Com 以下 置田):大規模災害の発生により陸路での医薬品の長距離配送ができない場合を想定した実証実験です。ドローンを活用して医薬品を遠隔地に配送し、ドローンの着陸地点から患者宅へは配送ロボットが医薬品を運搬します。
ストーリーとしては、血糖値のコントロールが非常に難しくなっている患者さんが日高川町にいて、ケーエスケーが診療所から発注を受けたと想定し、超即効型のインスリンを届けるというものでした。
平谷氏:用意した薬は、配送用ドローンの大きさに合わせて作られた特注の保冷ボックスに格納します。我々が普段使っている保冷ボックスは、もう少しサイズが大きいのですが、それは箱が小さすぎると温度のコントロールが難しくなってしまうからです。今回の保冷ボックスのような特注サイズの製品については、保冷ボックスメーカーも温度データのエビデンスを持っていませんでした。
2023年5月ごろからトライアルを繰り返し、外気温が高いなかでどうやれば2℃~8℃の温度帯を維持できるのか、どれくらいの量の氷を入れるのか、といったことの実験を保冷ボックスメーカーとケーエスケーの物流本部で行い、実用レベルにまで落とし込んでいきました。
―着陸したドローンから保冷ボックスを回収しなければなりませんが、場合によって想定外の人物が取り出そうとすることも考えられます。医薬品という性質上、セキュリティは重要な要素ですが、どのような対策をされているのでしょうか。
大西秀尚(NTT Com 以下 大西):あらかじめ決められた人物以外が取り出せないように、顔認証システムを導入しています。世界的にも受け入れられている「SAFR」というAI顔認証ソフトウェアを使用し、マスクをした状態でも認証ができる精度の高さが特徴です。
受け取り手となる病院の先生方の顔写真をあらかじめサーバーにアップしておき、タブレット端末の中にSAFRのアプリケーションを入れておけば、端末の前に立つだけでその人が登録済みの人物か否かが瞬時に判断できます。認証OKという状態になれば、保冷ボックスにかけている南京錠の暗証番号が表示され、解錠できるという流れになります。
その後、配送ロボットによって患者のもとに運ばれた医薬品は、患者側がロボットに氏名を口頭で伝え、QRコードを配送ロボットにかざすことで、受け取り完了となります。
―今回、配送ロボットは操縦者が付き添うかたちで走行していましたが、今後は自動で動かす想定なのでしょうか。
鍛地:そうです。今回は安全性を考慮して手動操作になりましたが、今後は実際に走らせるルートを3Dモデリングして、それを機体に読み込ませて自動走行させるというかたちにできたらと考えています。
―そうした一連の流れに沿って行われた実証実験ですが、実際に長距離飛行をしてみたことで、どのような発見や課題が見つかりましたか。
平谷氏:配送手段の1つとしてドローンが有効だということが再認識できた一方で、課題として見えたのが、現時点ではドローンは万人が扱える機材ではなく、専門技術を持った人員を用意する必要があるということです。
また、今回は配送ロボットを使ったラストワンマイルの輸送を行いましたが、災害時には陸路をロボットが走れない状況も考えられるので、そういった場合にどうやって医薬品を運ぶかを検討する必要があります。
大西:飛行経路の確認にはGoogle Earthなどのツールを活用していましたが、やはり現地に行って肉眼で確認しないと見えないものや、分からないことが多くありました。例えば、想定飛行ルート付近に送電線や発電所があるということは航空写真から確認することが難しい。社会実装に向けて進めていく上では、経路の目視確認、またはそれに相当する確認手段の考案が必要になってくるだろうと思います。
また、リスクとして懸念していたのが、気象の影響と上空の電波環境です。飛行中に上空のセルラー通信が途絶えないようシミュレーションは重ねていましたが、実際の現地の状況は実験前日のデモフライトの際にしか確認できなかったので、その際に著しく通信が途絶えるような場所があった場合は、飛行経路の変更も検討しなくてはなりませんでした。
しかし、実際に飛ばしてみると、機体の飛行速度が速いこともあり、悪影響があったとしてもそれが如実に現れる部分はほとんどなく、安心しました。
置田:約24.5kmという非常にチャレンジングな距離を、陸路を並走していた車両よりも圧倒的に早い18分59秒で飛行できたことには、私たちも本当に安心しました。
ドローン飛行の社会受容性の観点では、実証実験の前日に離陸地点に地域住民の方が10名ほど見学に来られていたと聞いています。皆さんからはネガティブな発言は一切なく、むしろ我々の試みに対して興味を持っていただけている様子だったとのことです。ドローンに対する住民の方々の心理的な受容度に関して、前向きな気持ちを持つことができました。
―一方で収益性の面ではいかがでしょうか。医薬品のドローン輸送を持続的なビジネスとして成り立たせるためには、どのようなモデルがあり得るのでしょうか。
平谷氏:そこが一番の課題です。例えば、自社でドローンを所有した場合、得意先である各病院と契約をして、1回のドローン配送をどれくらいの価格にするのか、またはサブスクリプションで月ごとの契約を結ぶのかなどといったビジネスモデルが想定されますが、設備投資に見合った収益が上がるビジネスになり得るのか。まだまだ検討が必要です。
コスト面以外でも、先に述べたとおり、ドローンのメンテナンスができる人材を確保する必要があるわけですが、医薬品卸である弊社の中でどのようにしてそうした人材を育て、日常的にメンテナンス業務をこなしていくのか、ということも考えなくてはいけません。
鍛地:ドローンの量産化が進んでいく流れは加速していくことが予想されますので、コスト面はコモディティ化によって解決される部分が大きいのではないかと考えています。
―今回の実証実験を経て、プロジェクトは次のステップに進んでいくことになるかと思います。今後取り組んでいきたいこと、クリアしていきたい課題について教えていただけますか。
平谷氏:レベル2、レベル3の飛行を経て、やはり次はレベル4を実現したいと思います。そのためには、先に述べたような法規制や、レベル4に対応するドローン機体の確保といった部分でクリアしなくてはならない課題はありますが、社会実装性を高めるためには避けて通れない道です。地域の皆さまが必要とする医薬品を届けるということが我々ケーエスケーのミッションですので、そのための輸送手段を実現するべく、課題を1つひとつしっかりと分析し、解決して、次のステップにつなげていきたいと考えています。
大西:NTT Comとしても、積極的にレベル4飛行に取り組んでいきたいという思いです。また、ドローンの機体性能の向上に期待しつつ、お客さまのニーズに合った最適な機体のラインナップをそろえる体制を構築していくことも、我々の武器になると考えています。
鍛地:ドローン輸送の社会実装を実現していくためには、例えばあらゆる気候に対応したドローンの開発や、飛行時の補助者の省人化または無人化など、さまざまな面で課題がありますが、まずは採算性が最大のネックポイントです。それをクリアしている企業は世界を見渡しても極めて少ないと思いますので、そこを突破していくための事業化計画をケーエスケーさまと一緒に考えていきたいと思います。
置田:実証実験自体が目的ではなく、どのように社会実装していくかを考えていくことが重要です。ケーエスケーさまと一緒にビジネスモデルを考えていくために、大学や診療所、行政サイドとも意見を交換しながら、取り組みを継続していきたいと思っています。
2023年10月24日に行われた実証実験には、プロジェクトメンバーでもある和歌山県立医科大学の上野雅巳氏や日高川町長 久留米啓史氏、和歌山県 福祉保健部の岩垣貴也氏も出席。実験の一部始終を視察したのち、取り組みへの期待を以下のように語ってくれました。
和歌山県立医科大学 地域医療支援センター長・教授 上野雅巳氏
へき地の医療の将来像としては、災害時はもちろん、平時においても、オンライン診療をしてドローンで医薬品を配送するというフローを可能にするインフラを整えていく必要があります。10年後には一般化していたいという期待があるので、今から取り組んでいく必要があると考えています。
ドローン配送の仕組み自体は、技術的にも通信環境的にもすでに可能なので、最大の課題はコスト面。ドローン機体などの低価格化が進むことで、取り組み全体が加速していくはずです。
和歌山県 日高川町長 久留米啓史氏
災害時を想定した場合、日高川町のような地域にとってドローンによる医薬品輸送は必ず整えておきたいインフラです。医療分野に限らず、過疎化が進むなかで、ライフラインを確保するためのドローン活用には積極的に取り組んでいく必要があります。
物流・運送においては「2024年問題」のような課題も控えているので、流通が止まってしまってからの対応とならないように前もってこうした取り組みを進めていくことの必要性を痛感しています。
和歌山県 福祉保健部 健康局 医務課 医療戦略推進班 課長補佐兼班長 岩垣 貴也氏
和歌山県には過疎地域が多数あり、へき地医療診療所も34カ所あります。課題を抱えた地域が点在しているなかで、こうした実証実験が進められていることには期待を寄せています。
山間部は人的資源が少なく、レベル4に向けての取り組みを加速させていくためには、そうした部分もケアしていく必要があると考えています。
今後は同様の課題を抱えている和歌山県外の自治体とも連携し、情報共有を進めていきたいと思います。
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