Carbon Neutrality

2023.12.22(Fri)

カーボンニュートラルで注目を集める鉄スクラップ
資源循環の見える化に挑むサーキュラーエコノミープロジェクト

#42

カーボンニュートラルで注目を集める鉄スクラップ 資源循環の見える化に挑むサーキュラーエコノミープロジェクト
鉄は廃棄されスクラップとなった後も、そのほとんどが鉄鋼メーカーでリサイクルされるため、“リサイクルの優等生”と言われています。しかし、鉄スクラップが回収されリサイクルされるまでのフローは確立されているものの、多くの場合は市場原理でフローが決定し、市場の参加者も非常に多いため、可視化が難しく、トレースが出来ない現状にあります。
また、鉄スクラップは建築物の解体や鉄鋼製品の加工過程で生じるものであるため、事前に数量や発生のスケジュールを把握する事が難しく、流動的な輸送形態とそれに合わせた経験則に基づいての対応が通例となっています。

こうした課題を解決すべく、2022年春から鉄スクラップ取扱量において業界トップのエムエム建材(以下、MMK)とNTTコミュニケーションズ(以下、NTT Com)によるプロジェクトが始まりました。「資源回収における物流効率化」と「金属スクラップをリサイクルする上でのトレーサビリティ」をDXで実現することで、サーキュラーシステムを構築することを目指しています。プロジェクトを担当するMMKの浅野萌氏と、NTT Comの三浦章絵に、共創の経緯と目指す未来を伺いました。

目次


    製造業全体の1/3を占める鉄鋼業のCO2排出量

    ――まずは、今回のプロジェクトにお二人がどのようなかたちで携わられているのか、教えていただけますか。

    浅野萌氏(以下・浅野氏):私が所属しているMMKは、2014年に三井物産グループとメタルワングループの建設鋼材事業と製鋼原料事業が統合して生まれた、鉄の専門商社です。

    私は元々統合前の三井物産メタルズ・三井物産スチールで鉄スクラップや合金鉄などの製鋼原料を取り扱う部署で営業事務をしていました。主に電炉メーカー・高炉メーカーへの納入・売買事務業務、解体工事案件・工場から発生する鉄スクラップにおける物流・売買事務業務に、10年以上携わってきました。

    2023年4月に地域総合職に職掌転換したことで部署が異動になり、現在は環境・循環ビジネス推進部に所属し、今までの営業事務で培った経験を活かし、今回の共創プロジェクトに参画させていただいています。

    浅野萌|エムエム建材株式会社
    2010年に三井物産メタルズに入社以降、製鋼原料における営業事務を担当。過去には取引先と協業し、仕入データ連携・システム導入による双方の業務効率化に従事。2023年4月より本プロジェクトに合流。

    三浦章絵(以下・三浦):私はNTT ComにおいてGXソリューションを企画開発提供するグループに所属しており、その中でもサーキュラーエコノミーの実現に関わる事業開発を担当しています。そこでMMKさまとのプロジェクトにも参画させていただいており、日々奮闘しています。また、前職では製造業向けのオンライン機械部品調達サービスでのユーザー支援を行い、お客さまにアップロードいただいた3D-CADデータがうまく読み込めずエラーになった際の原因調査などを担当していました。その経験もあって、NTT Comでは製造業向けのマッチングプラットフォームの構想などに携わってきました。

    三浦章絵|NTT Com スマートインダストリー推進室
    2021年12月に異業種からNTTコミュニケーションズに入社後、製造業共通の課題解決に向けたDX支援に従事。現在は、社会全体のサーキュラーエコノミーの推進につながるプラットフォームの構築に向け、共創パートナーさまと共に活動中。

    ――両社が手掛けるのが、今回の「金属スクラップ・建設廃材資源循環プラットフォーム」のプロジェクトです。その対象となる鉄鋼業において、CO2排出などの環境課題はそもそもどのような状況だったのでしょうか?

    浅野氏:前提として、まず日本における産業別のCO2排出量が最も多いのは製造業で、全体の約1/3を占めるとされます。その製造業の中でも最もCO2排出量の比率が高いのが鉄鋼業で、製造業のうちの1/3を占めてきました。一方で、2020年10月に日本政府が「カーボンニュートラルの実現」を目指して、2050年までに温室効果ガスの排出を全体でゼロにすると宣言したのは周知のとおりです。

    そうした環境のなかで、鉄スクラップを活用した電炉(※)法は、循環型の製造プロセスの要となる上にCO2の排出量も抑制されるため、注目が高まりました。また、企業が実施したCO2排出削減量を製品に配分する「グリーンスチール」という言葉がここ数年で一般的になってきました。業界全体の潮目が変わったのをひしひしと感じています。
    ※ 電炉:建設現場や加工工場から回収された鉄スクラップを、電気炉で溶かして製鋼する手法や設備のことを指す。鉄スクラップを主原料とするため、環境負荷軽減の観点において重要な役割を担っている

    ――なるほど。CO2排出量が大きな産業だけに、DXでその削減の推進と、サーキュラーエコノミーを実現することで大きなインパクトが得られる。そう考えてNTT Comとの共創が始まったわけですね。

    三浦:そうですね。先ほど申し上げたように、我々は各領域においてサーキュラーエコノミーに関する検討を行っています。なかでも「産業の米」といわれるほど、日本の産業発展に不可欠な鉄の領域は、その対象として外せないものでした。

    そんな折に、鉄スクラップ取扱量において業界トップシェアであるMMKさまをご紹介いただき、「弊社のICT技術を生かしてお手伝いできないか」と足並みを揃えた検討が始まったのです。検討フェーズで、MMKさまやそのお取引先さまなどにヒアリングする中で、金属・鉄スクラップの回収業務における課題が顕著であることがわかりました。

    対応が統一されず電話やFAX中心の配車対応

    ――鉄スクラップ回収業務における課題とは?

    三浦:鉄スクラップの回収業務が、標準化されていないことです。

    浅野氏:解体工事案件で発生する鉄スクラップのサプライチェーンを、簡単に説明するとこうなります。まずゼネコンや解体工事業者から弊社が鉄スクラップの回収を受注すると、リサイクラーと呼ばれる金属リサイクル事業者へ依頼を出します。そして、リサイクラーが車両を手配して、解体工事現場などで鉄スクラップを回収し、適切な加工処理を行った後に国内外の鉄鋼メーカーに向けて出荷し、リサイクルされ再び建築現場などで使われる、といった流れです。

    解体工事案件やリサイクラー・解体工事業者などの各社の配車対応がそれぞれ異なり、口頭や紙での管理が多いことが課題とされていました。

    ――電話やFAXで受発注するところもあったということでしょうか?

    浅野氏:まさにそうです。

    というのも、鉄スクラップのリサイクラーは比較的、中・小規模の会社が多いため、経営者が自ら営業現場の第一線で働かれていることが多く、ICTにかける時間がない場合や、リソースに十分時間を割けない場合もあり、DXがなかなか進まない状況があります。

    リサイクラーの中には上場している会社もありますが、会社の規模やデジタル分野に関する環境が異なるため、発注する弊社からしても、A社にはメールで発注、B社にはFAXで、C社は電話で…というような状況です。

    三浦:また、解体工事業者からの配車依頼の内容も現場によってさまざまです。長年のおつきあいの中で「この会社はやや数量を少なめに見積もる傾向があるから、大きな車両を手配しよう」「この会社はギリギリまでご依頼いただけないから、気をつけなければ」といった具合に、実際の量やタイミングなどを長年の経験値を頼りに予測する必要があります。

    例えば、解体工事業者から「回収量は3トン程度だ」とご連絡をいただき、4トントラックで現場に向かったら、実際は5トンの鉄スクラップが現場にあり、2回に分けて回収しなければならなくなったということが頻繁にあるのです。この読みができていないと、余計なコストがかかってしまうわけですが、そうした対応が標準化できていないことも課題の1つです。

    2024年4月からはドライバーの時間外労働時間の上限が年間960時間と規制されます。今後はより厳格に適切な配車が求められることが明らかなため、これらの課題の解消は急務と言えます。

    手つかずだった「静脈」のトレーサビリティ

    ――鉄スクラップの配車対応は、DXによって効率化をはかる余地もニーズも高い。鉄のサーキュラーエコノミーの活性化を後押しする推進力になりえるわけですね。

    浅野氏:そうですね。今回のプロジェクトで踏み込みたいもう1つの課題が、鉄スクラップが発生したあとのフローの可視化です。発生したスクラップがどのようなフローで再資源化されたかというトレーサビリティの実現は喫緊の課題だと感じています。そしてサーキュラーエコノミーを達成し、それをESG経営にいかすには、モノの流れをデータとして可視化する必要があります。

    三浦:建設現場から出る廃材は、1993年に「産業廃棄物管理票(マニフェスト)制度」が施行され、どこの現場で出た廃棄物が、どんな処理を経て、最終的に誰がどこの処場場へ持ち込んだかといったエビデンスを残す決まりになっています。

    ただし、建設現場で発生した鉄や金属だけを取り出した場合、そのほとんどは再生資源として市場で売買される「有価物」となり、産廃物とは異なる扱いになります。

    ――有価物と産業廃棄物では扱いが異なるんですか?

    三浦:そうなんです。売却先、つまり金属スクラップ買い取り業者に到着した時点で廃棄物ではなくなり、有価物となります。有価物はマニフェスト制度の管理対象外になるため、どの鉄鋼メーカーが融解処理をして再資源化したかがデータとしてほぼ残っていません。鉄はリサイクルの優等生といわれますが、鉄鋼製品としての製品寿命が終わったのち、有価物として売却されて以降の鉄スクラップのサプライチェーン、つまり消費され廃棄されたものを再生資源として再加工し、再び社会に流通させる「静脈」のトレーサビリティはほとんど実現していないのが実態です。

    浅野氏:金属・鉄スクラップは廃材などから再利用して、新たな製品にするサイクルがサプライチェーンとしてすでにありました。しかし、厳密には、その流れが可視化できないままでした。今回のプロジェクトでは、この可視化に取り組むことで鉄スクラップのトレーサビリティの領域も、踏み込みたいと考えたのです。

    ――実証実験の予定期間は、2024年1月から4月までの3ヶ月間です。具体的にはどのように「物流効率化」と「トレーサビリティ」を実現しようとしているのでしょうか。

    三浦:物流効率化に関しては、浅野さまが先におっしゃったように配車依頼が電話やFAX、メールなど、手段が異なる問題があります。そこで配車のコンタクトポイントをWebブラウザからの依頼に統一する予定です。

    その上で、これまで培われてきた暗黙知的な顧客ごとの傾向などは、データとして集積し、ナレッジ化していく予定です。取引各社の所有車両数や積載量といったデータを連携して、配車業務をさらに自動化・効率化していきたいです。

    ――トレーサビリティは、スクラップ材にQRコードをつけるわけにもいきませんし、どのような方法で行うのでしょうか。

    三浦:積み込んだ解体現場の位置情報と積み込み日時などのさまざまな情報をタイムラインとして残すことでトレーサビリティのエビデンスにできるような、最適な方法を検討中です。

    浅野氏:今回の実証実験でそこまでできるかは未知数ですが、あらゆる可能性にはチャレンジしていきたいですね。

    ――NTT Comが持つIoTやデータ分析の知見が活用される場面も多そうですね。

    三浦:そうですね。他産業で実装されているテクノロジーやスキームを横展開して、多様な実証実験ができるよう進めているところです。

    今回の実証実験で対象となるトレーサビリティや配車対応は、言葉で端的に言うといろいろ共通的にできるように思えますが、対象の資源や業種・業界により、扱うべきデータ、業務の実情などが異なっており、課題が多いことを実感しています。それぞれの用途においてどういう点を考えなくてはいけないかを、各業界のパートナーさまとの共創で検討し、活用領域を広げていきたいと考えています。

    今回の共創が、他のサーキュラーエコノミーのノウハウや知見につながることも大いに期待しています。そして、将来的には資源循環性のあるさまざまなマテリアルに対する静脈トレーサビリティの確立を目指していきたいです。これまでは企業の生産活動である動脈において、主に品質管理の観点でのトレーサビリティに焦点が当てられていましたが、これからは消費を終えたものが再資源化され、新たに製品として生まれ変わるまでの静脈のトレーサビリティが活発化することで、製品のサステナビリティ・循環性に関する情報の共有が進み、社会全体のサーキュラーエコノミーの実現につなげていけたらと思っています。

    浅野氏:MMKとしてもNTT Comさまの多彩な知見を生かして実証実験に取り組んでいただけることに期待しています。そして資源循環のサークルをつなぎあわせて、大きくしていきたい。現場がどう変わり、どんな未来につながるのか、今後の展開が本当に楽しみです。

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