2024.11.15(Fri)
Coming Lifestyle
2023.10.06(Fri)
#32
目次
―2011年の東日本大震災、近年のコロナ禍を経た現在の福島県の観光業はどのような状況にあるのでしょうか。
桑畠正俊氏(以下、桑畠氏):ここ10年来の福島の観光業は、震災とコロナ禍の影響で大きく落ち込みました。しかし、最近では会津エリアを中心に、観光客数がコロナ禍以前まで回復するなど、全体的に復調傾向にあります。
福島県は大きく3つの地域に分かれています。新潟県に接している「会津」、福島市や郡山市がある「中通り」、そして太平洋側の「浜通り」。3つのエリアは気候も文化もまったく違っていて、それぞれに魅力があります。北海道、岩手県に次ぐ広さを持つ福島県は、決して一括りにはできない文化的ダイバーシティを持っているのです。
会津は観光業が最も盛んなエリアです。白虎隊をはじめ、歴史にまつわる様々な観光資源に富んだ街として全国的に知られています。中通りには、おいしい果物の産地がたくさんあり、裏磐梯(うらばんだい)の山々はスキーやトレッキングなど、アウトドアのメッカとして愛されています。
対して、浜通りは千年以上続く神事 「相馬野馬追」や、映画『フラガール』でも話題になった「スパリゾートハワイアンズ」などの観光資源はあるものの、古くから漁業が盛んで、常磐もの(じょうばんもの)と言われる新鮮な魚介類が売りのエリアです。そして、地域を支えたもう一つの産業が原子力発電所でした。福島第一原子力発電所をはじめとした施設で東京の電気をつくり、供給することで地域の経済を支えていたとも言えます。しかし周知のとおり、この浜通りは東日本大震災の被害が最も大きかった地域の一つです。震災でたくさんの方々が犠牲になっただけでなく、これにともなう原発災と風評被害によって甚大な経済的ダメージを受けたのです。
―その浜通りエリア15市町村での消費を活性化するキャンペーンが「do!浜通り」になるわけですね。JTBがコンソーシアムの中心となって、当エリアの観光振興プロジェクトを推進されているとのことですが、このプロジェクトが立ち上がった経緯について教えてください。
桑畠氏:このプロジェクトは、福島県からの委託を受けて2021年度から実施しているものです。浜通りエリアと福島県内には述べ10名以上の弊社従業員が出向していまして、地域と同じ目線に立って課題解決に取り組んでいます。
先に述べたように、浜通りエリアは震災で大きな経済的打撃を受け、県外からの人の流入も減少しています。したがって浜通りの復興促進のためには、交流人口・関係人口を増やし、エリアにおける消費促進をはかることが必要だということが、本事業の柱となります。
―なるほど。具体的にはどのようなキャンペーンを行ったのでしょうか。
このプロジェクトは受託して、今年で3年目になります。初年度はコロナ禍だったこともあり、県外の人々に福島のモノや情報を届けることに注力しました。キャッシュレスポイント還元キャンペーンに加え、復興支援通販サイト「ふくしま市場」の運営などを手掛ける株式会社スペースワンと協力し、ECサイトでの購入者に対してもdポイント還元のキャンペーンを行うことで、事業のHPを通じた浜通りエリアの認知向上をはかりました。また、他にもECサイトへの流入データの分析やSEO対策、福島最大のポータルサイト「ぐるっと福島」との協業やキャンペーン動画の制作・配信を通じた情報発信なども行ってきました。
2年目は「相馬野馬追」などの観光イベントと絡めたキャンペーンを推進。その具体的な取り組みの一つとして、dポイントのプレゼントサービス「ポイント@ギフト」を活用させていただきました。これにより、イベントに来た方々にその場でポイントをお渡しでき、浜通りエリア内での消費促進にもつながりました。
3年目となる今年は、浜通り地域でのキャッシュレス決済者を対象にした「dポイント30%還元キャンペーン」をメインとし、地域来訪者データの分析により、ターゲット向け広告配信をさせていただきました。
他にも、浜通りでレンタカーを利用していただいた方々に「ポイント@ギフト」をプレゼントしたり、観光客の動線拡充という観点から鉄道会社とも連携してキャンペーン広告を掲出するなど、さらなる誘客促進に努めています。
―「do!浜通り」キャンペーンはJTBとNTT Comの共創事業でもあります。NTT Comは浜通りエリアの課題に対して、実際にどのような施策を行ったのでしょうか?
宮城諒大(以下、宮城):エリア外からの誘客を目指すにあたり、第一に把握しなければならなかったのは「現地を訪れているのはどのような人々か」ということでした。そこで、多様なソリューションを活用し、来訪者の属性や趣味趣向を明らかにすることで、そこから予兆される仮想ターゲットに最適化された、広告内容・配信方法を決定し、展開していきました。
そうしてキャンペーンを認知してもらい、来訪してくださった方々の現地での行動やアンケート結果などをさらにデータとして収集し、フィードバックしていきます。このサイクルを回すことでターゲティングの精度が向上し、より効果的な広告掲出が可能になるのです。
ー具体的にどのようなソリューションを活用されたのでしょうか?
長谷川勇気(以下、長谷川):我々からはデータの収集と利活用のためのソリューションをご提供しました。まずは「モバイル空間統計」です。これによって一定の期間、一定の地域にどれだけの人が訪れているか知ることができます。また、dポイントクラブの会員にアンケート形式でプロモーションやリサーチを行う「プレミアパネル」は、来訪者の満足度をリサーチしたり「どの観光地に行きましたか?」といった質問によって観光地PRにも活用もできるわけです。
次に、「顧客理解エンジン」は、プロファイリングとともに、類縁性の高いユーザーのリストアップが可能です。そのリストを利用して、よりターゲティング精度の高い広告配信が行えます。さらに特定地域の滞在者に配信が可能な「ジオターゲティング」を組み合わせることによって、特定エリアやイベント参加者に向けた広告配信も実施できるのです。
ー共創の過程で、どのように課題を解決していったのでしょうか?
桑畠氏:プロジェクトの初年度では、エリア内消費で還元されたdポイントが浜通りエリア内で使われず、エリア外で使われてしまうことが課題になりました。浜通りで消費をしてもポイントが付与されるのは翌月です。dポイント還元キャンペーンの認知度は高いのですが、意図したポイント利用のされ方をデザインするのが難しいというデメリットがあります。しかし、だからといって地域共通クーポンのようにポイントの使用をエリア限定にすると、他地域の方の利便性が高まりません。
この課題の解決のために、NTT Comさんをはじめ協業するステークホルダーと毎週のようにミーティングを重ねました。そうした雑談ベースで意見交換し合える関係性だったからこそ、シェアできた情報やノウハウがたくさんありましたね。そして、その中から生まれたソリューションが、2年目に実施したイベント来訪者への「ポイント@ギフト」キャンペーンでした。
一方、プロジェクトの効果について、「d払いキャンペーンは、地域在住者の利用だけでなく、エリア外部からの誘客につながっているのか?」との課題を頂戴したこともありました。これに対しては、利用者データから説得力のあるエビデンスを提示できたのがよかったです。データを分析すると、どこに住んでいる人が、どのエリアで、いくらd払い決済をしたかが明確にわかります。データの比較・検討から次の施策を決めることができるのです。
その結果、利用額・割合ともにエリア外(主に東京・神奈川・千葉などの関東圏)の人々の全体に占める割合が前年比で約2倍近くに増加したのです。そしてなにより、これがはっきり数字として現れているというのが、次年度の方針を定める1つの指針になると確信しています。通常のキャッシュレスキャンペーンではここまでの細やかな分析を行うことはないので、これはNTT Comのソリューションを活用することで初めて得られた、大きな手応えの一つですね。
ー「do!浜通り」キャンペーンで今後注力していきたい点について教えてください。
桑畠氏:ポイントがエリア外で使われてしまう問題は依然課題ではあります。ドコモのd払いのスキームを使って、より現地でのポイント利用を促進することが今後の課題ですね。また、首都圏からの誘客は、広告やキャッシュレス決済キャンペーンだけで達成できるものではありません。プロジェクトの年限は残り2年半ですが、NTT comさんのデータ基盤や多様なソリューションを活用しながら、効果的な誘客方法を模索していきたいと考えています。
宮城:より良いソリューションを提供するためには、テクノロジーの担い手である私たち自身が、福島の魅力を知っている必要があります。自分がひかれた福島のチャームポイントを、テクノロジーで的確かつ魅力的に発信することができれば、純粋に福島に来たいと思う人々が増えるのではないでしょうか。キャンペーンによる消費の向上や誘客数だけにとらわれず、福島と県外の人々の心理的・物理的な距離をどう縮めていくか、残り2年半をかけて試行錯誤していきます。
長谷川:ここに挙げたアプローチは、dアカウントに紐づく端末に対して有効なため、キャリアを超えてリーチできる点がdアカウントの強みだと思います。こうした強みを活かして、キャンペーンをフックにしたwebプロモーションを展開し、誘客増を目指していきたいですね。また、NTT comにはデータ利活用以外にも5Gなど様々なアセットがありますし、多彩なDXソリューションもあります。
最近ではJTBさんとXRを活用した観光プロモーションの実証実験を行っていますが、データ利活用による効果的な誘客と同時に、そうした地域の魅力が伝わる“体験”の創出も、今後取り組むべき領域だと思っています。
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