2024.11.15(Fri)
Co-Create the Future
2023.11.22(Wed)
#35
目次
――NTT Comと東京海上日動の事業共創はどのような経緯で始まったのでしょうか。
岩渕康二氏(以下、岩渕氏):東京海上グループは、1879年に日本初の保険会社として創業しました。「お客さまや地域社会の“いざ”をお守りすること」をパーパスとし、お客さまが求めているものは何か、どんな社会課題があるのかを自ら探し、その課題解決に貢献するために、自動車保険や火災保険など時代に応じてさまざまな商品やサービスを提供してきました。
一方、昨今では社会環境が大きく変化し、自然災害の多発化や激甚化、感染症の蔓延、地政学的リスクの増大など、私たちはさまざまな課題に直面しています。このように拡大し複雑化する社会課題を解決すべく、最近ではデジタルテクノロジーやGXなどを重点領域として全社一丸となり取り組んでいますが、NTT Comさんはまさに私たちと同じ思いを持って社会課題の解決に取り組んでいらっしゃる企業だと感じています。
多岐にわたるソリューションをお持ちで、素晴らしいパートナーとなる存在であり、共通の社会課題を一緒に解決しようと意気投合したことから事業共創がスタートしました。
小島大樹(以下、小島):おかげさまで非常に良好な関係を築かせていただいています。当社の取り組みの1つにセキュリティビジネスがありますが、企業にとってリスクとなり得るものに対してソリューションを提供するという点で、東京海上日動さんとは非常に親和性が高いと感じています。
こうしたセキュリティ分野での事業共創が進んでいるほか、当社が独自開発した避難誘導アプリを活用した実証実験を共同で行うなど、誰もが安心・安全に暮らせる社会の実現に向けて防災分野での取り組みにも力を入れています。
両社のメンバーは週に一度「共創定例」というミーティングの場で顔を合わせ、議論を重ねてきましたが、ワーケーションは今回が初めての試みとなります。
――なぜワーケーションを実施することになったのでしょうか。
小島:これまで幅広い領域で事業共創の可能性を模索してきましたが、その時々のタイムリーな話題や注目度の高い事柄に対して「このソリューションとこの保険を組み合わせたらどうか?」といった目先の会話が多く、長い目で見て社会にどう貢献するか、という深い議論があまりできていないという反省がありました。
畑貴之(以下、畑):プロダクトアウトではなく、社会課題を起点にしたアウトサイドインの考え方から我々はどんなアプローチができるのか、腰を据えてじっくり考える機会を持とうということで、オフィスから離れた場所でのワーケーションが適しているのではと考え、日帰りではなく1泊2日のスケジュールをご相談させていただきました。
――ワーケーションの提案を受けてどのように感じましたか。
田口一徹氏(以下、田口氏):モチベーションが一気に上がりましたね(笑)。実際に八丈島の施設を訪れ、集中してディスカッションできるクローズドな環境と、豊かな自然に囲まれたオープンな雰囲気のバランスがとてもいいなと感じました。
都内でもレンタルオフィスなどを借りて合宿をすることはできますが、缶詰め状態になり息が詰まってしまうことも多いと思います。今回のワーケーションでは、八丈島という素晴らしい環境の中でリフレッシュしながらいつも以上に深いコミュニケーションができたと感じています。
――今回の八丈島でのワーケーションはIsland and officeさんが運営する施設で行われました。日常から離れた空間でワーケーションを実施するメリットについてどのようにお考えでしょうか。
柏木彩氏(以下、柏木氏):当社は企業向けに新しい働き方の提案を行っています。本日はNTT Comさんの本社に伺っていますが、都心にこうした素敵なオフィスがあっても、それが日常になってしまうとどうしても新鮮味は薄れてしまいますよね。そこであえて非日常な場所と機会をつくることで、創造性や生産性、人と人との関係性が高まり、日常にもメリハリが生まれると考えています。
「モチベーションが上がった」という田口さんのお言葉はまさに私たちが目指しているところであり、日々仕事をするうえでエンゲージメントが上がるってとても重要で幸せなことですよね。そうした人や企業をもっともっと増やしていきたいと考えています。
――コロナ禍でワーケーションという働き方が注目されるようになりましたが、導入を検討している企業はどのような期待やニーズを持っているのでしょうか。
柏木氏:リモートワークが多くなり、リアルな場でのコミュニケーションが減っている中で、同じ場所に集まって一緒にご飯を食べて泊まって、という多くの時間を共有することでチームの関係性を強化したいという企業や、最近では未来を担う経営幹部を育成する場としてご利用いただくことも増えています。
日常から距離を置き、頭の中が整理整頓されると「余白」が生まれ、新しいことを吸収したり、新しいアイデアが浮かんだりしやすくなりますよね。私たちが提供する空間が、未来につながる何かを生み出す場所になれたら、そんな思いを持っています。ちなみに2社の企業に共同でご利用いただくのは今回が初めてで、とても興味深いケースなんですよ。
小島:異なる企業のメンバーが寝食をともにするというのはなかなかハードルが高いですが、快く受け入れていただけてありがたい限りです。
岩渕:最初にお話を聞いたときからとてもワクワクしていました。八丈島は今回初めて訪れましたが本当に自然豊かな場所で、集中して議論をするにはとても良い環境なのではと感じていました。
柏木氏:八丈島はそれほど観光地化されていないので人が少ないですし、車の通行量も多くないので集中するにはもってこいの場所なんです。飛行機の本数も1日3便と意外に多く、さらには羽田空港から55分とアクセスが良く、空を飛ぶことで日常から非日常へ、自然と頭が切り替わりやすいというメリットもあります。
――ワーケーションはどのようなスケジュールで行われたのでしょうか。
畑:1日目は複数のテーマで集中討議をして、2日目はその議論内容をまとめあげるというステップを踏みました。さらにスキマ時間などを使って八丈島のアクティビティに参加することでチームビルディングも図りました。どんなテーマで討議を行うかは事前にご相談させていただき、その中で「2~3年後に実現したいテーマについてディスカッションしてはどうか」と提案いただいたので、これをもとに個別のテーマを設定していきました。
――どんなテーマでどのような議論が行われたのか、具体的に教えてください。
田口氏:より快適で効率的な都市や地域社会を目指す「Smart City」の領域ではこれまで、NTT Comさんの避難誘導アプリと当社の保険を組み合わせたソリューションの検討を進めてきました。
今回のワーケーションではさらに一歩進み、NTTグループのVRソリューションを活用した防災教育や、デジタルとファイナンスの力を活かした、災害から早期復旧を図るための取り組みの実施など、災害発生時だけでなく災害が起こる前後にも焦点を当て、より長期的な目線での議論ができました。
小島:そのほかにも両社のシナジーを活かせる領域を検討し、「Smart City」に加え、建設現場のDX化を図る「Smart Worksite」、医療におけるさまざまな課題解決を目指す「Smart Healthcare」、教育向けソリューションを推進する「Smart Education」の各領域において解決すべき課題を洗い出し、そこにどうアプローチできるかアイデアを出し合い、議論を深めていきました。
Smart Worldを実現するために必要なことの棚卸しができたのは大変価値のあることであり、これまでの議論以上に、本質的な部分のすり合わせをしっかりできた感覚があります。
田口氏:我々も同感です。Smart Cityを例に出すと、これまでは災害発生時に避難誘導アプリをどう活用するかといった議論が多かったのですが、実際に避難を行うとなると自治体には多くの費用がかかるため、「ファイナンスに関するソリューションを合わせて提供してはどうか」といったより現実味のある話ができたと思います。
岩渕氏:両社のアセットを活かしてどう社会課題を解決していくのか、「ここに向かって一緒に歩んでいこう」という方向性をしっかり定められたのは大きな成果ですよね。
畑:そうですね。集中討議の際は皆で1つのテーブルを囲み、オンライン参加のメンバーはモニターに顔を映して議論をしましたが、なかなか白熱しましたね。
岩渕氏:窓の外にはたくさんの自然があり、オフィスにいるときよりもリラックスした状態なので発言しやすい雰囲気がありましたね。休み時間は外に出て新鮮な空気を吸って、ランチも一緒にいただいて。柏木さんが「余白」というお話をされましたが、まさに自由な発想がしやすい環境だったと思います。
柏木氏:普段はメールやアプリを頻繁に開いては返信して、というようにスマホやPC操作に多くの時間を取られている方が多いと思いますが、非日常な空間で、あんなにも豊かな自然の中に身を置いていると、ふっとスイッチが切れて、デバイスを触る時間が自然と減るんですよね。その分、目の前のことに思考を深められる効果があるのではないでしょうか。
岩渕氏:確かに、いつもと比べて明らかに集中度が高かったと思います。
畑:せっかくワーケーションに来たのだからしっかりアウトプットを出さなければ、という良い意味でのプレッシャーも、集中度を高めるきっかけになったように思います。
2日目は、1日目の議論でまとまった方向性を一気に資料に落とし込んでいきました。普段であれば仮説を提出し、フィードバックをいただいてブラッシュアップして、というやりとりを2~3往復しているのが、相手が目の前にいて「これでどうでしょう?」とすぐに聞けて合意が取れるので、スピード感が全然違うなと感じました。
田口氏:意見を徹底的に突き合わせていくので、ズレがあればその場ですぐに修正できますし、その分アウトプットも早くでき、事業共創の醍醐味を体感できました。
岩渕氏:「議論して終わりではなくアウトプットにつなげよう」というイメージを全員が共有できていたのが大きいですよね。何も決めずに始めるとダラダラしてしまい、結論がよく分からないまま議論が終わってしまうなんてことになっていたかもしれません。畑さんをはじめとした、NTT Comさんのプランニングとファシリテーションのおかげです。
――集中討議以外の時間はどのように過ごしたのですか。
小島:1日目の夜は皆で温泉に入ってからBBQをして、2日目は山登りをして夕方の便で帰りました。集中討議のときとは違うさらにリラックスした状態でいろいろな話ができたので、お互いのプライベートな部分も見えてとても新鮮でしたね。
畑:チームビルディングの一環としてカードゲームをしたのですが、仕事の話はもちろん、普段はしないような会話も自然とできて距離がぐんと近づいたように思います。
――日常に戻ってからも、ワーケーションの体験が活きていると感じることはありますか。
岩渕氏:お互いへの理解が進んだので、同じテーマについて議論するにしても、ワーケーションに行く前よりも話が進みやすくなったと感じています。
田口氏:大きな変化としては、これまで事業共創に関わっていなかった当社のメンバーに新たに議論に参加してもらうことになりました。ワーケーションの場で事業共創の方向性をしっかりとすり合わせることができたので、社内の巻き込みが以前よりもしやすくなり、共創の輪が大きく広がった感じがします。
畑:これまでは「言おうかどうしようかな…」と迷っていたようなことも躊躇せずに発言できるようになりましたね。メインイベントである集中討議のほか、美味しいご飯に温泉に、朝ヨガに登山と、いろいろな体験を共有したことが関係性を深めるきっかけになったのではないでしょうか。
小島:議論の質も変わってきたように思います。これまではお互いが持っているソリューションなどの「点」同士を結び付ける作業がメインだったように思うのですが、これから進むべき方向性がクリアになったことで「面」でのアプローチができるようになり、事業共創の可能性が一層広がったなと感じます。
柏木氏:こうして皆さんが手ごたえを感じていらっしゃるのは、ワーケーションのゴールがはじめからしっかり定まっていたからだと考えています。現地でもお話しさせてもらいましたが、「言われたからとりあえず来た」という方が1人もいなくて、全員に主体的にコミットしようという気持ちがあったからこそ成果につながっているのだと思います。
――最後に、今後への意気込みをお聞かせください。
岩渕氏:互いの強みを活かしながらどう社会課題を解決していくか、というゴールを共有できたので、今後はこれをいかに具体化していくかが重要です。ビジョンを描いて終わりではなく、我々2社がしっかりと社会に貢献しながら、さらには新たなパートナーも巻き込みながら多面的な取り組みを加速させていきたいです。
小島:東京海上日動さんはファイナンス分野において今後も業界をリードされる存在であり、我々もICTで業界をリードする存在でありたいと思っています。力を合わせて新たな価値を生み出し、社会課題を解決して、世の中にインパクトを与えていきましょう。
畑:八丈島で検討した内容が、2~3年後には両社のニュースリリースで続々と発表されている、そんな未来を描いています。アイデアを形にし、世に出していくことで、個人も企業もハッピーになれる世界を一緒につくっていきましょう。
田口氏:今取り組んでいる社会課題解決のプロセス自体にとてもワクワクしています。この積み重ねこそがSmart Worldの実現につながる歩みだと信じています。
柏木氏:改めて皆さんからじっくりお話を伺い、たくさんの発見がありました。事業共創には大変なことも多くあると思いますが、社会に新しい価値を生み出していくためのアイデアがより多く、よりスピーディーに生まれ、形になっていくきっかけを今後も提供できたらと思っています。また、「ワーケーション」という言葉を聞くと仕事よりも休暇のイメージを持たれる方が多いかもしれませんが、私たちは「合宿」や「オフサイト」と呼んでいて、こうした新しい働き方をしっかりとサポートしていけたらいいですね。
畑:今回の取り組みについてはNTT Comのカタリストたちにも共有していて、とても好意的に受け止められているので、今後さまざまなプロジェクトで“非日常”な空間の活用が広がればいいなと思っています。
田口氏:当社でも非常にポジティブに受け止められており、これまでは1つのソリューションを軸に議論をしていたのが、「この領域でこんなこともやってみたいね」と多様な角度から幅広いアイデアを出し合うなど、深い会話が増えているなと感じます。
岩渕氏:今後も定期的に開催できたらいいですね。
小島:非日常をうまく活用してさらに議論を深めていきたいですね。今後ともよろしくお願いします!
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