Co-Create the Future

2023.06.21(Wed)

AI診断で見つける新しい私!
BOX型パウダールームから見えた潜在市場ニーズとは

#AI #小売・流通 #共創 #CX/顧客体験 #事例

#29

数年続いたコロナ禍を経て、マスクなしでも外出できるようになった2023年春。これまで落ち込んでいた化粧品の売上も回復傾向にある中、2023年4月23日から5月1日まで原宿駅前の商業施設「WITH HARAJUKU」の地下1Fスペースに設置されたのが、自分に似合うメイクやコスメをAIが教えてくれる「Smart Powder Room」です。NTTコミュニケーションズ(以下、NTT Com)、オカムラ、AGCの3社の技術を掛け合わせてできたBOX型パウダールームから見えてきた、顧客の潜在ニーズを開拓するアイデア創出の可能性とは。企画から実証実験までを実行したNTT Comの坂口広樹、川島美由紀に聞きました。

目次


    その人に合うメイクやコスメをAIがレコメンド

    ——WITH HARAJUKUに設置した「Smart Powder Room」は、これまでにない新しい化粧品体験を提供する個室空間としてニュースにも取り上げられ、多くの利用者が訪れたそうですね。どのような試みだったのでしょうか。

    坂口広樹(以下、坂口):個室ブースでAIによる顔のタイプ診断を行うことで、自分に似合うメイクや化粧品がレコメンドされるサービスです。ブース内にはディスプレイ一体型ミラーを設置しており、鏡で自分の顔を見ながらAIによる診断が受けられます。画像での顔診断や事前の質問により、16種類の顔タイプからその方に当てはまるタイプをAIが選び出し、似合うメイクやコスメを提案します。

    WITH HARAJUKUに設置された「Smart Powder Room」。株式会社オカムラが提供する遮音性の高い個室ブース「テレキューブ by オカムラ」を使用することで、プライベートな空間を演出する
    ブースに入って、まずはAIによる16種類の顔タイプ診断からスタート

    商品やブラシなどもブース内に置いているので、レコメンドされた化粧品をその場で試すことができます。「コスメ売り場の美容部員さんに話しかけづらい」という声の多い、Z世代をターゲットとして企画しました。

    ——設置期間中、何人の方が利用されたのですか?

    川島美由紀(以下、川島):想定の1.5倍の275名の方にご利用いただきました。AIの顔のタイプ診断が話題となり、多くの方がいらしたようです。診断には「Who AI(フーアイ)」というAIの顔のタイプ診断サービスを活用しました。NTTグループのAI「corevo®」を採用したNTT Comの画像認識エンジンを用いて開発されたものです。

    コロナ禍で減った顧客接点を補う

    ——本企画が生まれた背景を教えてください。

    川島:社員自らが消費者目線で新しいビジネスアイデアを発案する、新規事業創出に向けた営業部の取り組み「全員参加型案件創出アイディエーション施策」を進めている中で、自動車向けの営業を主に担当されている坂口さんが出してくれたアイデアの種が発端です。

    坂口:アイデアを出したのは2022年4月のことです。当時はまだコロナ禍でさまざまな業界で影響が出ていましたが、なかでも 化粧品業界は顧客接点が大きく減少しているのではないかと感じました。また、消費者の方も「店舗で商品をゆっくり体験できない」という課題がありました。

    一方で、コロナ禍に開業した商業施設は感染対策もしっかりされており、より綺麗で清潔感のある空間という新たな価値を提供しています。その空間内に、化粧品に関する課題を解決できる付加価値のあるパウダールームを設置することで、ニーズを掘り起こせるのではないかと考えました。

    坂口広樹|NTT コミュニケーションズ 第三BS部 自動車営業グループ OPEN HUB Catalyst Business Producer

    川島:実際に坂口さんのアイデアをもとに社内アンケートを取ったところ、使ってみたいという声が非常に多かったのです。潜在的な市場ニーズがあると確信し、今回の実証実験に至りました。

    既存技術を組み合わせてスピーディーに開発

    ——開発にあたり、工夫した点やこだわったポイントは何でしょうか?

    川島:作り込みに時間をかけず、迅速に世の中に出して実証を重ねたいという思いがあったので、スピード感にはこだわりました。社内の既存の技術や仕組みで活用できそうなものを洗い出し、Who AIを使うことを決めてからは実現に向けて一気に加速しました。

    もう1つはディスプレイ一体型ミラーの採用です。スマホやタブレットのカメラ画像を使ったバーチャルメイクや顔診断だと、利用者が自宅で試す体験とあまり違いはありません。そこで鏡に自分の顔と診断結果を映しながら診断を受けられるように、社内SEの協力の下、AI診断の結果をディスプレイ一体型ミラーに映すための作り込みを行いました。

    ブース内にあるAGC株式会社独自の光学設計技術を駆使したディスプレイ一体型ミラー「ミラリア」。大きなディスプレイの半分は鏡として使えるため、右側に映し出されるアドバイスを見ながらその場でタイプ別にセレクトされた商品を試すことができる

    カウンセリングとセルフのバランスの良さで88%が「また利用したい」との意向

    ——実際の利用者の反応はいかがでしたか?

    川島:「非常に良かった」という声を多数いただきました。詳しく話を伺うと「セルフで試せるコスメショップはあるけれど、何が似合うかわからないので選べない。だけど、店頭のカウンセリングは行きづらい」と答える方が多く、まさに想定していたとおりのターゲット課題を確認することができました。今回のSmart Powder Roomは、カウンセリングとセルフのちょうどいいバランスの体験を提供できたと考えています。

    アンケートで「Smart Powder Roomをまた利用したいですか」と尋ねたところ88%の方に利用したいという意向を示していただき、さらに「レコメンドされた化粧品を今後も使用したいですか」という質問に対しても82%の方が「使用したい」と回答してくださいました。なかには男女のグループで利用された方もいて、男性のニーズもあると感じています。

    坂口:実際に商品を試すことができる点も大きかったと思います。香りや色、質感などは実際に使ってみないとわかりません。Smart Powder Roomはプライベート空間で商品を手に取れるので官能評価しやすく、継続利用したいという思いを生んだのだと思います。

    診断結果からレコメンドされたリップを実際に手に取って試す

    本格的なサービス展開を目指しパートナーを開拓中

    ——今後のサービス化の可能性はいかがですか?

    坂口:今回実証実験を行ったことで多数の気付きがありました。特に個室の運営について、今回は運営メンバーが分担してこまめに清掃しましたが、サービスとして展開する時に個室の清潔感や安全性をどう維持するかは課題になります。今後、ほかの個室サービスの事例や技術などを洗い出し、最適なものを組み込んでいきたいと考えています。

    川島:ほかにもAIの顔のタイプ診断についていろいろなご要望をいただきました。「似合うメイクだけでなく、実際に塗り方を図示してほしい」という声や「カラー診断もしてほしい」という声があり、こうしたニーズに合わせてブラッシュアップしていく必要があります。

    そのうえで、新たな価値を提供していきたいと考えています。例えば、より消費者の方に合わせたレコメンドを行うには、ID認証を使って個室ブースに入室し、属性情報や購買履歴データを組み合わせて活用することで、きめ細かな提案ができるかもしれません。ブースに設置したサンプル商品に二次元コードを付けてECサイトに誘導し、その場で購入を完了できるようにするアイデアもあります。

    川島美由紀|NTTコミュニケーションズ 第三BS部 ビジネスデザイン部門 第二グループ OPEN HUB Chief Catalyst Business Producer

    化粧品メーカー等に対しても、購買傾向を把握してマーケティングの施策に活用するという価値提案が行えるでしょう。どのような層にどのような商品が人気なのか、あるいは「手に取ったけれど購入をやめた商品は何か」など、収集したいデータは企業によってさまざまですので、ヒアリングを重ねながら、消費者と企業の双方に良い価値提案ができるよう進めていきたいと思います。

    ——Smart Powder Roomをどんな場所に設置したいかなど、アイデアがあれば教えてください。

    川島:2つの利用シーンを想定しています。まずは今回行ったような「自分に合う化粧品を見つける/購入する」というもの。百貨店やコスメセレクトショップなどに設置してご利用いただくイメージです。

    もう1つ考えている利用シーンが「化粧直しのスペースとしての価値提供」です。ホテルに設置し、結婚式など大事なイベントの前にメイクを直したり、イベント会場に設置してコスプレや推し活イベント用にメイクをしたりするシーンなどが考えられます。

    ——最後に今後の構想をお聞かせください。

    川島:Smart Powder Roomに対する社会需要は予想以上にあることがわかりました。次のステップとして、ビジネス化を見据えて、本サービスを活用いただけるパートナー企業を見つけ、具体的なビジネスモデルの検証やビジネス化を進めていきたいと考えています。

    坂口:まず今回の実証実験にご協力いただいた企業の皆さまに感謝すると共に、今回の成果を受けて、NTT Comではその中核となるAIや通信技術を組み込むことで、お客さまにとって良い体験価値が提供できるようなサービスを構築していきます。

    たとえば今回の取り組みも、パウダールームという個室空間に新たな価値を実装しましたが、個室という点に絞れば、建物だけでなく自動車などのモビリティも当てはまります。この取り組みを糧に、さらに幅広いパートナー企業の皆さまへ向け、これからもよりイノベーティブな提案や実装を推進していきます。

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