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Co-Create the Future

2023.04.07(Fri)

コロナ直撃の鉄道業界。
データの力で切り拓く新たな未来とは

#公共

#27

日本の発展の礎として鉄路を広げ、社会に欠かせないインフラとなっている鉄道会社が今、大きな岐路に立っています。人口減少などの日本社会の変化、ITなどのデジタルテクノロジーの台頭などを踏まえて、鉄道会社はいかに進化を遂げようとしているのか。西武鉄道株式会社のマーケティング部に所属する手老善氏と片山陽介氏、NTTコミュニケーションズ(以下、NTT Com)の萬國谷(まくにや)忠による対話を通じて、今後の方向性を探ります。
※サムネイルの画像提供:西武鉄道

目次


    コロナ禍で受けた鉄道業界の打撃

    ―はじめに、鉄道各社が抱える共通の課題について聞かせてください。また、西武鉄道における課題や特色も教えてください。

    手老善氏(以下、手老氏):まず鉄道業界全体として、コロナ禍による世の中の変化で大きな影響を受けました。「でかける人を、ほほえむ人へ。」というスローガンを掲げている西武グループの弊社でも、1回目の緊急事態宣言が発出されていた2020年は特に厳しい状況に。ただ、コロナの影響や規制が緩和しはじめている現在は、徐々にお客さまも戻りつつあります。

    コロナ禍を通じ、通勤をはじめとした定期券をご利用されるお客さまには大きな行動変容がありました。2022年9月から12月までの定期券以外(定期外)でご利用の輸送人員は2019年の同時期との対比で94.5%まで回復しているものの、定期券ご利用のお客さまは、同じレベルまでは回復していません。

    手老善|西武鉄道株式会社 マーケティング部 課長補佐

    片山陽介氏(以下、片山氏):かつては定期券で毎日通勤していた方も、通勤が週1日だけになったり、定期券を購入せずに定期外の利用にシフトしたりすることも多く、ニューノーマルな生活の定着もあり、今後もコロナ以前の水準まで戻ることは厳しいだろうと予想しています。

    定期外のご利用も一見すると数字上は回復しているように思えますが、定期券利用から定期外利用に移っている部分があると考えられ、弊社としてもお客さまは戻り切っていないという危機感のもとに取り組みを進めています。

    片山陽介|西武鉄道株式会社 マーケティング部 課長補佐

    手老氏:日本には新幹線やローカル線などの列車も含め、多くの鉄道会社がありますが、業界全体として、利用者が減少傾向にあることは共通しているはずです。

    また、西武鉄道は都心部とともに秩父のような観光エリアにも路線があります。通勤でご利用されるお客さまだけでなく、特急列車で旅行するお客さまもおり、他の鉄道会社との相互乗り入れも行っております。さらに後ほどご紹介しますが、西武グループ全体で見れば、沿線開発やレジャー施設の運営、プロ野球球団やホテルの運営なども手がけています。このようなさまざまな事業とも関連するところが西武鉄道の特色の1つと言えるかもしれません。

    萬國谷忠(以下、萬國谷):NTT Comから見た鉄道業界の特色は、一番は“場”に対して事業が強く結びついているところです。例えば、観光地をはじめとする魅力的な場所を、いかに消費者の方に気づいていただき、体験・満喫していただけるかが重点になるのではないでしょうか。

    萬國谷忠|NTT Com 第四ビジネスソリューション部 Catalyst

    私たちとしては、西武鉄道をはじめとするグループ各社をICTの面でサポートしていくことから協業がはじまりました。鉄道は止めることのできないサービスですが、私たちも鉄道事業と同様に「質の高さを維持していかにサービスを提供し続けるか」という事業を続けてきています。そうした経験も踏まえて、支えられる部分があるのではないかということで協業がスタートしました。

    最近は、鉄道利用者や沿線にお住まいの方々の生活や移動の利便性向上に向けたデータ活用のご支援を始めています。特に生活の変化やニーズ多様化に合わせ、データを駆使して一人ひとりに適したサービスを提供するためのサポートをさせていただいています。データによってまだ気づかれていないニーズを発見して、西武鉄道の成長につながる事業共創などを実現できればと考えております。

    西武鉄道が進めるデータ活用の現在地

    ―事業継続には「売上の向上」は欠かせません。そのためには「顧客体験の最適化」や「顧客データの利活用」などが考えられます。売上向上への施策について、両社の視点からお聞かせください。

    手老氏:私たちは利益に直結する事業や将来への種まきなど、多面的に展開しています。現在所属するマーケティング部なら、集めたデータの活用がカギを握るでしょう。現状としては、情報を集めて分析した結果、どう生かすかという企画の段階になります。

    現在、西武鉄道はもちろんのこと、西武グループとして商業施設やプロ野球の埼玉西武ライオンズも含め、所沢周辺の開発を積極的に進めています。データの活用では、電車の利用を増やすほかにも、情報発信によって利用者の方々に関連施設へ足を運んでもらえるようなきっかけづくりにもつなげていきたいと考えています。

    大規模開発が進む所沢駅(画像提供:西武鉄道)

    片山氏:やはり現在の厳しい環境の中で今後もお客さまに選ばれ続けるには、しっかりとニーズをつかみ、ベストなタイミングでサービスを届けることができるかがカギになるはずです。

    同じ外出でも通勤と休日では気持ちやニーズも異なるでしょうから、データの活用でその微妙な変化を捉えることに注力していきたいですね。

    萬國谷:NTT Comとしては、西武鉄道の利用者や沿線の住民の一人ひとりの好みや事情に合わせた、観光や日々の生活のサポートを念頭に置いています。これまでドコモグループ全体で携帯電話事業なども展開し、幅広い消費者とお付き合いさせていただいてきました。そのなかで、消費者のさまざまなデータが蓄積されています。

    データをもとに西武鉄道沿線の魅力を一人ひとりに伝えることで、消費者の方々に今までにない経験や体験をしていただきたい。私たちの持つデータと西武鉄道様でお持ちの鉄道利用者のデータをうまく融合させることで、そのためのサポートができるのではないかと考えています。

    片山氏:現在の施策として西武鉄道では、グループ共通の会員サービスである「SEIBU PRINCE CLUB」に登録したPASMOを使っていただくことで、平日朝に定期券でピーク時間帯を避けた乗車を対象にした「オフピークプラス」と、西武線沿線の観光地やイベントなどにでかける際の西武線の乗車を対象にした「おでかけプラス」で、「SEIBU Smile POINT」が貯まります。また、今年4月から同一月内に同一運賃区間の複数回ご乗車でポイントが貯まる「リピートプラス」もスタートしました。

    これら3本立ての施策により、鉄道利用に対するポイント還元や情報をお届けすることで、より一層の“おでかけ”を喚起したいという狙いがあります。ほかにも、乗車中の電車の現在地や下車駅までの所要時間を表示し、下車駅の1つ前の駅を出たらプッシュ通知でお知らせする機能などがある、「西武線アプリ」も提供しております。

    西武鉄道ではさまざまな車両が走り、相互直通という形で横浜方面などから他社の車両も乗り入れています。アプリでは自社はもちろん、他社の車両の情報も提供しています。さまざまなサービスを織り交ぜ、顧客接点をいかにキープしていくかは、日頃の取り組みから意識している点です。

    「西武線アプリ」の表示画面。スマートフォンにダウンロードして利用可能に。

    萬國谷:沿線活性化では私たちもアイデアがあります。まずは利用者一人ひとりに合わせた、おでかけネタをおすすめすること。例えば子供連れに向けて、お子さまが喜んでくれそうなおでかけ先を提案したり、女性向けでは女子旅にぴったりな雑貨屋やカフェの情報を提供したりすることが考えられます。

    もう1つは、実際に訪れている観光地における、現在のシチュエーションに合わせた場所やイベントのレコメンド機能です。いざおでかけしてみたものの、目的のお店が閉まっていることもあるはず。そんなとき、「現在地付近の人気スポット」といったおすすめ情報は大いに役に立ち、沿線地域の活性化につながるのではないでしょうか。

    手老氏:地域の活性化という点では、西武線沿線にはアニメ制作会社のオフィスも多く、つながりも深いため、協業が進んでいます。アニメ作品に西武線が登場することが少なくないため、そのご縁から、制作会社と練馬区などの自治体、それに私たちの三位一体での取り組みも行っています。アニメ作品をモチーフにしたラッピングトレインの運行などの取り組みも西武鉄道の特徴かもしれません。

    変化の激しい時代に西武鉄道が掲げるビジョン

    ―西武鉄道が描くビジョンや、今後取り組みたい新たな施策などを教えてください。

    片山氏:外出を生み出す観光という点では、西武線沿線にはすでに秩父と川越という二大観光地があります。特に西武秩父駅前には「祭の湯」という温泉を核とした施設があるため、地元と一体となった賑わいの創出に引き続き取り組んでいきたいところです。

    さらに所沢では、埼玉西武ライオンズのホームスタジアムである「ベルーナドーム」が大規模改修を終え、近隣の「西武園ゆうえんち」もリニューアルしています。また所沢駅直結の「グランエミオ所沢」という大型商業施設があるほか、所沢駅近くの車両工場跡地で大規模商業施設の建設が進んでいます。こうした大型投資がしっかりと花開くように取り組んでいきたいと考えています。

    おかげさまで最近は20代女性からも高い支持を受けて、所沢は「首都圏住みたい街ランキング」でTOP30に入るなど人気が高まっています(出典:「住みたい街ランキング2023 首都圏版」SUUMO調べ)。

    グランエミオ所沢(画像提供:西武鉄道)

    手老氏:また西武線沿線には、一見すると観光とイメージが結びつかないものの、自然豊かな公園や文化的な施設も充実しています。おでかけの需要を喚起するためにも、沿線にお住まいの方々をはじめ、多くの人々にそういった存在をお伝えしていくことは重要だと考えています。

    特に文化面ではKADOKAWAが展開する「ところざわサクラタウン」による広がりが大きく、多くのイベントなどの開催によって、リピーターも増えることで沿線の価値の上昇も期待されます。

    ―NTT Comは、変革の時を迎える西武鉄道をどのように支援していきたいと考えていますか。

    萬國谷:私たちも「西武線アプリ」などを通じたサポートを考えております。お話に出てきたような沿線にある、まだ知られていない魅力的なスポットの情報提供は、その1つと言えます。所沢で誕生するような新たなスポットだけでなく、まだ知られていない隠れた名所も新たに出てくる可能性もあるでしょう。私たちとしては、データの力を駆使することで、そういった隠れスポットを見いだしてお届けするお手伝いができるのではないかと考えます。

    手老氏:沿線のみなさまと西武鉄道が一体となった地域活性化も進めています。例えば、石神井公園駅の高架下では、練馬エリアをはじめ、西武線沿線の農産物や特産品、ご当地食材を集めた「西武グリーンマルシェ」を開催し、イチゴなどの人気商品は大変ご好評を頂いております。

    「沿線の魅力を再発見して、親しみを持ってもらいたい」「その駅や街での暮らしをもっと好きになってもらいたい」といった思いを込めて開催し、私たちと地域とのつながりはもちろん、出店者と地域がつながる機会にもなっているようです。

    「西武グリーンマルシェ」が開催される石神井公園駅(画像提供:西武鉄道)

    片山氏:マルシェは石神井公園駅の高架下などでの開催のほか、ECサイトで商品の購入も可能となっています。商品は季節によって変化する商品もあり、沿線地域の特産品を楽しんでもらうことで、実際に現地を訪れてみたいという、外出機会の創出にもなっていますね。

    手老氏:マルシェの開催日は降車によるポイント進呈も設定しており、地元ではすっかり定着したイベントに成長していると言ってもいいでしょう。このようなイベントを開催して発信することで「沿線に住みたい」と思っていただき、西武鉄道の利用者増につなげていきたいですね。

    片山氏:テクノロジーの利用としては、以前から特急列車、座席指定列車では特急券・座席指定券の購入にスマートフォンを利用したチケットレスサービスを展開していましたが、2022年12月に大規模リニューアルを行い、特急券購入の際にポイントが貯まる新サービスもスタートしています。

    さらに、「西武線アプリ」の電車の位置を知れる「列車走行位置」サービスで特急のアイコンを押すと、そのまま特急券を購入できる機能も新たに導入しました。特急はビジネスや観光など、ニーズもさまざまですが、お客さま一人ひとりに合った形でサービスを今後も続けていきたいところです。

    この取り組みがうまくいけば、特急利用者が増加し、運輸収入の単価向上にもつながります。特急列車のリッチな乗車体験を一人でも多くの方にご提供したいですね。

    (画像提供:西武鉄道)

    萬國谷:コロナ禍により、これまでは我慢の生活が続いていたので、今後は魅力的な場所や体験によって、人生を豊かにしていく時代に入っていくと予想されます。私たちも、西武鉄道が取り組んでいるアプリやポイントプログラムが一層周知され、活用されていくための一助になれれば幸いですね。

    片山氏:加えて、コロナ禍以前から叫ばれていた、少子高齢化の問題への取り組みも必須になります。今後は沿線に居を構える家庭のお子さまに西武グループになじみを持っていただくとともに、西武グループとしても、その成長を見守って応援していきたいと考えています。実際に、4月からは「西武線アプリ」を通じてお子さま向けのサービス「西武鉄道キッズクラブ」を開始いたしました。

    手老氏:プリンスホテルでのパティシエ体験など、すでにお子さま向けに特別な体験機会の提供は続けているものの、今後は日常的に親しみを感じてもらえる機会を増やせればいいですね。

    所沢駅南改札内の屋外デッキをはじめ、沿線にはお子さまが電車を眺められる人気スポットが数多くあるため、アプリと連携することで、「次にどんな色の電車が見えるか」といった、親子で楽しめる体験を作り出していきたいところです。

    片山氏:今でも所沢駅のスポットは、電車を眺めるお子さまが離れないほどの人気になっていますからね。やはり、私たち西武グループは沿線住民の方々などにおでかけしていただくことで事業が成り立ちますから、「おでかけしやすい」「子育てしやすい」といった沿線の環境づくりで今後も社会に貢献していきたいです。

    ここまでお伝えしたように、西武鉄道は鉄道の運行だけでなく、それに付随する事業やサービスの提供にも携わっており、かつ沿線自治体においても大きな役割を担っています。さまざまなステークホルダーがいらっしゃいますが、皆さまに満足していただけるような新たなビジネスを生み出していきたいですし、その過程でNTT Comとも関係をより深めていきたいですね。

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