2024.11.15(Fri)
Co-Create the Future
2023.03.08(Wed)
#26
目次
ー官民学連携で行われている今回のプロジェクトは、どのようにして始まったのでしょうか。
渡辺大介氏(以下、渡辺氏):仙台市では現在、市内の指定避難所となる小中学校など約200カ所に太陽光パネルと蓄電池を設置しています。これらの効率的な運用を検討するため、東北大学さんと連携し、避難所運営に必要な防災性を確保しつつ、蓄電池の負荷の少ない運転による長寿命化などを目的とした、蓄電池の最適制御に関する実証事業を行いました。
実証事業を行うなかで、最適制御を行うことができる蓄電池が特定のメーカーに限られてしまうという課題があることがわかったため、さまざまなメーカーに対応可能で、ネットワークシステムの技術や携帯電話の基地局に設置された蓄電池を監視・制御するノウハウをお持ちのドコモさんのお力を借りながら一緒にやらせていただくことになりました。
ー避難所となる仙台市内のすべての小中学校への導入を目指しているそうですが、災害対応型エネルギーマネジメントシステムとは、どのようなものなのでしょうか。
川村聡氏(以下、川村氏):災害対応型エネルギーマネジメントシステムは、太陽光パネルと蓄電池を設置した各施設の電力使用量や蓄電量の「見える化」や、遠隔での故障状況の監視を行ったり、蓄電池の充放電を遠隔制御できる仕組みを構築することで、災害対応力の向上と電力の有効活用を目指す取り組みです。
現在は市内13施設に導入されており、2023年度中に約90施設、将来的には全施設への導入を目指しています。
ー開発の背景には、どのような課題があったのでしょうか。
川村氏:2011年の東日本大震災では、電気・ガスなどの供給が途絶し、避難所の運営に必要な電力の確保が困難になったことを受けて、こうした事態への対策の必要性を痛感しました。この経験をふまえて、仙台市では市内のすべての指定避難所に太陽光パネルと蓄電池を設置したのですが、各施設がネットワークでつながっているわけではないため、電力使用量や蓄電量、故障などの状況は、設置している場所に直接行って確認しなければわからないという課題がありました。
また、電力使用量や太陽光パネルによる発電量には、それぞれ時間帯によってばらつきがあります。例えば、せっかく晴れているのに電力が使われないままだと、発電量が使用量を上回ってしまい、その分の電力を使うことができないということが起きます。そのため、電力使用量や気候予測データなどを使って蓄電池の充放電をコントロールし、余剰電力を効率的に使用するための方法を検討しました。これが実現できれば、電力会社からの受電電力量の減少や、電力のピークカットが可能となります。電気料金のうち基本料金は、ピーク電力によって決まるため、電力のピークカットを行うことでコストを下げることができるのです。
ー電気を効率的に使用することで、災害対策だけでなく、コスト削減や環境負荷の軽減にもつながるんですね。このようなエネルギーマネジメントシステムに関するドコモの技術は、どのようにして培われたのでしょうか。
角谷昌恭氏(以下、角谷氏):現在、全国約20万カ所にドコモの通信基地局があるのですが、これらの基地局の電力使用量を見える化し、一括で管理・制御するための仕組みとして、エネルギーマネジメントシステムの技術が発展しました。
なぜ、基地局の電力使用量を管理する必要があるのかというと、基地局で使用される電力量が非常に大きいためです。日本の通信会社の基地局が使用する電力の総量は国全体で使用している電力量の約1%にも上り、その一端を担っているドコモには、基地局で使用される電力量を削減するために努力する義務があると言えるでしょう。
また、地震や台風などの災害では、これらの基地局も被害を受け、大規模な停電が発生します。特に2011年の震災時に、多くの基地局がダウンしてしまったことを契機に、ドコモでは基地局の「グリーン化」を進めてきました。具体的には、各基地局に太陽光パネルと蓄電池を設置し、AI技術を活用した管理システムの開発に取り組むことで、各拠点で電気をつくり、充放電の最適化によって使用電力を減らし、災害時にも安定的に稼働できる仕組みづくりです。現在は、約250カ所の基地局が、グリーン基地局として稼働しています。
ーまさに仙台市と同じ課題感のもと、10年以上もの期間にわたって技術開発が進められていたのですね。仙台市との実証実験を始めるきっかけはどのようなものだったのでしょうか。
角谷氏:我々としては、これまで培った技術やノウハウを活用する機会を探っていました。このシステムのメリットは、多数の拠点を一括で管理することによって発揮されるので、地方自治体のように拠点数が多いほど効果が見込めます。その中でも仙台市は、太陽光パネルや蓄電池の設置が最も進んでいる自治体です。ドコモとしても非常に魅力的なフィールドであり、今回の共同実証実験につながりました。
ー共同で実証実験を進める中で、どのような困難さがありましたか?
川村氏:仙台市では現在、4社以上のメーカーの蓄電池を設置しているのですが、蓄電池の内部データは基本的に外部と通信できないようになっています。そのため、最初は各メーカーさんにデータの規格や仕様に係る情報を提供いただき、実験にご協力いただくよう交渉することから始まりました。
角谷氏:交渉で取り付けて出てきたデータも、外部に見せることを想定しているものではありません。そのため、メーカー側からサポートや開発仕様は展開していただけたものの、遠隔監視・制御に関するマニュアルは存在しておりませんでした。そうした状況のなかで、信頼のおけるエネルギーマネジメントシステムとして稼働させるために、社内試験などを通して自社製のマニュアルとなるものを作成する作業を最初に行う必要がありました。システム開発においては、そこが一番苦労をした点ですね。
また、メーカーが変わると、当然通信仕様も変わります。そのため、メーカーの枠を超えてデータを集約することは1つの大きな課題であり苦労したポイントです。
ー2020年4月からいくつかの拠点でシステムの実証事業が開始されたとのことですが、データを取り始めて見えてきたことなどはありますか?
渡辺氏:現在は市内の学校にシステムが導入されているのですが、学校ごとに電力のピーク時間帯にばらつきがあることがわかってきました。夕方にピークを迎える学校もあれば、1日に2度のピーク時間帯がある学校もある。学校とひとくくりにしても同じような電力使用の傾向や特徴があるわけではないのです。
電力使用のピーク時間帯に蓄電池から放電することで電力のピークカットを実現し、基本料金を抑えることが可能になります。そのためには、それぞれの施設のピーク時間帯において適切な予測に基づいた蓄電池の充放電制御の最適化が不可欠です。
ーピークカットを行うことで、どのくらいのコスト削減が見込まれるのでしょうか?
角谷氏:ピークカットの試験が去年ようやく3拠点で開始したという状況なので、具体的な検証はまだまだこれからという段階ではありますが、2022年の夏に1拠点で先行して試験を行った結果から、1kW分の電力を削減できたのではないかという試算が出ています。
ピーク時の電力使用量を1kW削減することで、月々の電気料金を約1,600円下げることができますので、年間にすると約2万円。例えば、将来的に200拠点で1kWのピークカットを実現する場合、1年あたり400万円の電力コストを削減することができます。
とはいえ、指定避難所の蓄電池は災害対策用であり、ピークカットがメインの目的ではないため、災害対策の機能を保ちつつ、どこまでピークカットできるかは、データを取りながら引き続き検討していくことになります。
ー最後に、今回の実証実験を通じて、実現したい都市についてのビジョンを教えてください。
川村氏:この事業により、太陽光パネルと蓄電池を設置した各施設にエネルギーマネジメントシステムを導入することで、災害レジリエンスの確保と電力の効率的な活用が可能となります。仙台市では、東日本大震災を契機に、将来の災害や気候変動リスクなどの脅威にも備えた「しなやかで強靭な都市」の創造に向け、「防災環境都市づくり」を進めていますが、今回の取り組みは、まさにこのコンセプトを体現するものだと思います。
渡辺氏:このプロジェクトを通じて、災害に強く、環境負荷の小さい再生可能エネルギーを最大限活用する取り組みを本市が発信することで、企業や個人によるエネルギーの地産地消・自家消費の促進にもつなげていきたいと考えています。
仙台市は、2050年までに温室効果ガス排出量の実質ゼロを目指す「ゼロカーボンシティ」を宣言しています。この実現のためには、市はもちろんのこと、事業者や市民の皆さまにも再生可能エネルギーを導入していただいたり、利用していただく必要があります。そのために、市としてもさまざまな支援を行っていきたいと考えています。
角谷氏:ドコモはより快適な通信環境を実現するために、現在で言えば5G、将来的には6Gといった新たな通信技術を、今後も開発し続けていきます。しかし、どれだけ快適な通信環境を実現しても、自然を犠牲にし、住環境の快適性を失ってしまっては何の意味もありません。
今回の実証実験のように、さまざまな組織の皆さまと連携しながら環境保全や防災の課題に取り組み、数十年、数百年後も広い意味で快適に過ごせる未来をつくることに、貢献していけたらと思います。
また、2022年にドコモグループの法人事業ブランドは「ドコモビジネス」として再スタートしましたが、NTTコミュニケーションズを含めたドコモグループ全体で共創ビジネスを推進していければと思っています。
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