DIVE to METAVERSE

2022.09.09(Fri)

VRで次なるアート体験を。代官山T-SITEに誕生した永井博ワールドの舞台裏

#CX/顧客体験 #事例 #メタバース

#15

美しい景色を見た時に「まるで絵画のようだ」と表現することがあります。しかし、実際に絵の中に入りこんだ時、人は何を思うのでしょうか。代官山 T-SITEにて開催された展覧会「Hiroshi Nagai Exhibition TROPICAL MODERN VR」では、アーティスト・永井博氏の作品世界に5GとVR技術を使って入り込める体験を提供。新時代のアート体験が生み出す価値とは? 展覧会の企画・運営を担当したNTT コミュニケーションズ(以下、NTT Com)の久米井静香と菊地寿尚に話を聞きました。

目次


    2Dにはない臨場感と没入感

    ー代官山 T-SITEでの展示が盛況に終わった「Hiroshi Nagai Exhibition TROPICAL MODERN VR」は、永井博さんの作品を新しい視点で楽しめる画期的な内容でした。改めて、どのような展示だったのか教えてください。

    久米井静香(​​以下、久米井):毎年代官山T-SITE で開催されていた永井博さんの新作展示を今年はVR空間上でも行いました。お客様にはヘッドマウントディスプレイを着用していただき、最大4人1組でVR空間内の5つのフロアを約15分間かけて楽しむツアー形式になっています。

    360度の視界全てを作品世界にすることで、空間の拡がりを実現しました。また、プールの波の音や鳥の鳴き声だけでなく、空に打ち上がる花火の演出も加えることで、まるで作品世界に入り込んだかのような臨場感と没入感を味わうことができます。

    2022年7月16日から24日にかけて代官山T-SITEで開催された「Hiroshi Nagai Exhibition TROPICAL MODERN VR」。数多くのアーティストのレコードやCDのジャケットを飾るイラストで知られるアーティスト、永井博氏の世界観をVR空間で表現し話題を呼びました

    体験中の様子

    VR空間内では、5Gで接続された遠隔解説者による説明を聞きながら作品を体験

    空間内では、永井博氏の作品を鑑賞するだけでなく、作品集やグッズを購入することもできます。2つのフロアに商品棚を配置し、体験者が任意の商品をカートに入れると、店舗側で紙の伝票を発行し、商品が用意されます。購入者は鑑賞体験後に伝票を受け取り、レジで購入するという流れです。

    VR空間内のギャラリーショップ

    アート体験が生み出す、新しい可能性

    ーどのような背景で今回の企画が実現したのか教えていただけますか。

    久米井:本展示は、蔦屋書店などを運営するカルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社(以下、CCC)が主催したもので、弊社は主に技術面を担当しました。CCC様が考える今後の新しい店舗体験にITを活用したものを組み込みたいという要望があり、それに応えるべく始まったプロジェクトです。

    代官山T-SITEを訪れるお客様に驚きを与えたい、というコンセプトのもとに1年半ほど議論を重ねた結果、VR空間をつくってそのなかでアート体験をしてもらうという方向性に固まりました。

    また、展示を行うだけではなく、空間内での行動データ、アンケートによる満足度調査、通常の展覧会よりも細かいデータ解析を実現することも目的のひとつです。今まで見えなかった顧客行動の流れを可視化し、新たなビジネスを生み出せるのか検証していきたいと考えています。

    久米井静香|NTT コミュニケーションズ

    ーなるほど。実際に展示をかたちにしていく上で、特に苦労したのはどのような点でしょうか。

    久米井:永井さんの作品にどこまで手を入れるべきなのか、という点はとても慎重に議論を重ねました。絵画をそのままVR上に映し出すのでは、体験として2Dの展示と変わらないものになってしまいます。そこで、複数の作品を組み合わせることで、永井さんの描くさまざまな景色をひとつの空間に同居させ、永井博ワールドに浸れる世界をつくり出しました。個々の作品の世界観を損なわないよう、永井さんとも話し合いながら、色調のバランスなど繊細な調整を行いました。


    菊地寿尚(以下、菊地):最も苦労したポイントは、VR展示によって生まれる新しい顧客体験のかたちと、共創パートナーであるCCC様のビジネスメリットの両立です。お客様が楽しめるVR体験を提供することも重要ですが、それがアーティストや会場にとってメリットのあるものになっていることが、VRのアート体験が進化していく上で重要だと考えています。

    菊地寿尚|NTT コミュニケーションズ

    「まるで夢のよう」な鑑賞体験

    ー実際に展示を終えてみて、どのような成果を得ることができましたか。

    久米井:小売店舗と協業して店舗の中で新しい顧客体験をつくるという、NTT Comにとって新しい取り組みが実現できたと思っています。

    菊地:来場者アンケートでは約90%の方に「展示に満足している」という回答を頂くことができました。永井さんのファンからは「大好きな永井さんの世界に自分が入り込めたのが、まるで夢のようだった」という声も上がっていました。

    また、VR体験自体に興味を持って来場し、そこから永井さんの作品の魅力を知ったという人もいて、新たなファン層を広げることにも貢献できたのではないかと思います。

    グッズや作品集の売れ行きもとても良かったですね。しかし、VRのカート機能を使って購入した人はごく少数で、リアル空間のグッズ陳列から選んで買っていかれる方が大半でした。ビジネスとしてのVRの価値を訴求していく意味でもカート機能の利用促進を狙っていたのですが、想定した購買行動につながらなかったのは今後の課題点です。

    会場横に陳列されたグッズ

    リアルとバーチャルの併用で強化される購買体験

    ーそうした課題に対してどのようなアプローチを行っていく予定ですか。

    菊地:VR空間上で決済まで行い、商品は後から自宅に配送されるという仕組みも技術的には可能なのですが、VR空間内で作品の世界に浸ってもらった上で、店舗で実物を見て、購買を生みだす、リアルとバーチャルがうまく絡み合えるような仕組みを構築したいですね。

    今回販売した永井さんの作品集を購入した方は、VR体験の段階では購入の決断ができておらず、実際の作品集を手にとって中身を見てから買いたいと思った方が大半だったようです。購入判断というところでは、その一押しがあるフィジカルな店舗は、有効な存在だと考えています。

    ー今後、VRを活用してどのような顧客体験を生み出していきたいですか。

    久米井:VR空間だからこそ実現できるデータ利活用によって、サポートやレコメンドなどを充実させていき、さまざまなニーズを持ったお客様に最適な体験を届けていきたいです。

    菊地:今回はアートとのコラボレーションでしたが、例えばファッションブランドなど、他業種、業態との共創も行なっていきたいですね。

    OPEN HUB
    Issue

    DIVE to METAVERSE

    ビジネス“プレイヤー”
    のためのメタバース

    OPEN HUB
    ISSUE

    DIVE to METAVERSE

    ビジネス“プレイヤー”
    のためのメタバース