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Carbon Neutrality

2022.08.05(Fri)

名古屋から全国へ。都市の脱炭素技術を実装する「街づくりDTC®」の現在地

#スマートシティ #事例 #環境・エネルギー

#13

使う人にとって心地よく、そして無駄なエネルギーや資源を消費しない、環境にも優しい街を設計する。

2022年1月、名古屋市東区東桜に誕生した「アーバンネット名古屋ネクスタビル」は、NTTアーバンソリューションズが手がける次世代型先進オフィスビルの第1号案件。デジタルツインで街区を最適化する「街づくりDTC®」の実証実験の場でもあります。環境負荷を抑えながら快適な空間を実現した注目のプロジェクトの全容について、NTTアーバンソリューションズとNTT Comのキーパーソンの3人に話を聞きました。

目次


    パラコンシステントな街づくりをかたちに

    ―NTTアーバンソリューションズは、街づくりにおいて「パラコンシステント(二項対立・二律背反などの矛盾の内包)」にもつながる取り組みをされているように感じますが、詳しく教えていただけますか。

    藁谷至誠(以下、藁谷):まず街づくりを開発事業と捉えてしまうと、デベロッパーが資金力と開発の実績と経験にもとづいて、働きやすい・暮らしやすい都市をつくるというイメージが先行してしまいがちです。もちろん、実績と経験にもとづいて、賑わいがあって安全安心な環境やビルを提供することも街づくりの1つですが、私たちNTTアーバンソリューションズは街づくりをサポートする立場で捉え、街づくりの主体は街に住む住民であり、街で活動する人々(企業)であるとの理念をもっています。

    街づくりは、経済発展の基盤と仕組みをつくることだといえます。多様な関係者が街づくりに関わることで生み出される価値提供の仕組みを設計します。

    一方で、新たな開発を行うことを地球環境の観点からみると、多くの資材とエネルギーが使われ、大量の温室効果ガスが発生することにもつながります。そこで、NTTグループのICT技術を駆使し、これまでになかった発想や技術で環境負荷を軽減しつつ、経済成長にもしっかりと貢献する、パラコンシステントな街づくりや街の運用を実践していきたいと考えています。

    藁谷至誠|NTTアーバンソリューションズ 街づくり推進本部 建築エネルギー戦略部 次長
    NTTファシリティーズ入社直後から武蔵野研究所で通信用エネルギーシステムの研究開発を担当。熱制御のための装置やオペレーターをつなぐコミュニケーション技術の開発、運用などに従事。2019年のNTTアーバンソリューションズ創設と同時にジョインする。

    高田照史(以下、高田):我々のめざす街づくりは「ヒト中心の街づくり」であることを大切にしています。経済発展や効率化だけを目標に街づくりを考えるのではなく、使う人が幸せを感じられるかどうか。デジタルを、人を幸福にするためのツールとして使うことが肝要と考えています。

    高田照史|NTTアーバンソリューションズ デジタルイノベーション推進部 ICTソリューション担当部長 日比谷プロジェクト推進室担当部長
    NTT Com在籍時は中央官庁にデジタルを活用したBOP(Base Of the Pyramid=途上国を中心とした低所得貧困層)向けの社会課題解決につながるビジネスの提案など、新たなビジネスモデルやスキームづくりを手がける。2019年からNTTアーバンソリューションズ デジタルイノベーション推進部にてICTソリューション部長を務める。

    ―環境負荷を抑えながら、使う人にとっても心地よい街づくりをめざされているわけですが、どのような方法で実現しようとしているのでしょうか。

    藁谷:「街づくりDTC®」という技術が要になります。これは、DTC(デジタルツインコンピューティング)を活用して、街区をあらゆる側面から最適化してつくりあげるNTTグループ独自のデジタル基盤です。

    今環境問題のなかでクローズアップされている温室効果ガスの排出抑制、いわゆる脱炭素の観点から街づくりを考えてみます。ビルをつくってビルで経済活動をするモデルを想定した場合、ビルが一生涯で排出するCO2(換算)は、ビルをつくったり壊したりする建設工事起因の排出が約3割、電気やガスを使って働きやすい状態に維持していく運用起因の排出が約7割です。

    つまり、環境に優しいビルをつくると同時に、ビルや街の運営でいかに環境負荷を抑制していくかも非常に重要であり、街やビルの運営そのものが街やビルの価値を左右するといえるのです。

    街や建物のつくり方がその運営にも影響するので、数十年という建物のライフサイクルを踏まえた設計や建設はもちろん、常に最適な状態で永続的に街を運営していくことをめざしていく必要があります。そのためには、街や建物の運営状態を的確に把握し、めざしたい理想の状態とのギャップに対して打ち手を施していく。ここにICT、デジタル技術の活用が期待されています。現状と理想のギャップの要因をデジタル空間で解き明かし、未来を予測することを可能にする技術が「街づくりDTC®」なのです。

    高田:現実世界のあらゆるものをセンシングして情報源とし仮想空間に再現するのがデジタルツインですが、そこでシミュレーションを行うことで精緻な予測を立て、製造ラインや店舗の在庫管理などを最適化できるわけです。

    すでに先端的な企業で使われ始めているデジタルツインですが、ビルや工場、店舗、道路など、それぞれの領域でバラバラに運用しているのが現状です。しかし、我々の「街づくりDTC®」では、それらを1つの街区のなかでつなげているのが特徴です。

    ―街全体がデジタルツインになるような状況をつくれば、行動データなどの個々のデータを連携させるより、精緻な予測と、それにもとづく最適なサービスの提供ができるというわけですね。

    高田:そうです。例えば、オフィスビルに着いたらエレベーターが感知し、オフィスのある階数まで自動で昇降する。ワークフロアに着いたら、自分好みの快適な明るさと温度に調整される。ランチタイムには、健康状態と好みにあった食事メニューがレコメンドされる。就業後は、家族と予定をいれていたレストランに自動運転のタクシーが送ってくれる――。そんなライフスタイルを描くことができます。

    塚本広樹(以下、塚本):そうしたビジョンを携えて街づくりを進めていく上で、NTTアーバンソリューションズと私たちNTT Comは、お互いに足りないものを提供し合える補完関係にあるといえます。「ICTを使って何を生み出せるか」を起点にゼロから発想をふくらませるNTT Comに対して、NTTアーバンソリューションズは目の前にある街と常に向き合っている。リアルな世界を常に見ているからこそ「そこで働く人のために」というビジョンが描けるわけです。

    藁谷:そうですね。NTTアーバンソリューションズは理想像を描くことはできますが、それをかたちにする手段が全て揃っているわけではない。NTT Comが持つ技術や研究が、理想に輪郭を与えるためのエンジンになるんです。

    デジタルツインテクノロジーが、街づくりを変える

    ―なるほど。「街づくりDTC®」が環境負荷を低減する仕組みについても教えてください。

    藁谷:まず、エネルギーの流れを「見える化」することで、無駄な消費がなくなります。例えば、自宅のコンセントには電気が常に届いていますが、その電気が火力発電でつくられたのか、太陽光発電でつくられたのかは誰にも分かりません。一方で、電気を供給する側も、それぞれの家庭に送っている電気が、洗濯機に使われているのか、テレビに使われているのかまでは把握できません。

    しかし、発電からエンドユーザーの消費までのデータがすべて連携していれば、電力の使われ方を可視化することができます。

    そうなれば、脱炭素に貢献したい企業や個人が「再生エネルギーで発電された電気だけを使いたい」という選択をすることも容易になります。また、例えばビルとEV(電気自動車)が連携していれば、ビルが余らせているグリーン電力をEVに供給し、または稼働する予定のないEVのグリーン電力をビルで消費する、という合理的なコミュニケーションもあり得ます。

    高田:さらに、「街づくりDTC®」であらゆる人流、物流がシミュレーションできれば、仕入れや店舗の人員配置も最適化することができます。それによって食品ロスの削減や、人材不足の解消といった社会課題にも寄与できるわけです。

    塚本:これまでの街づくりでは、どこに何を建てれば理想とする人流をつくれるかを、過去の交通データなどを参照しながら予測してきました。しかし、人の流れは常に変化しているので、リアルタイムのデータでシミュレーションができるデジタルツインコンピューティングは、今後の変化にも対応して最適化を繰り返すためには必須の技術なのだと思います。

    塚本広樹| NTT Com ビジネスソリューション本部 スマートワールドビジネス部 スマートシティ推進室 室長
    法人事業のBtoBtoX(ビジネスパートナーを介してエンドユーザーにサービスを提供する事業モデル)の領域を長期にわたって開拓。そのほか、データセンターの立ち上げや電子マネーのクレジット決済サービスの開発、住宅メーカー向けに家電ネットワークの仕組みづくりなども手がける。現在はMaaSも含めたスマートシティ事業にビジネスプロデューサーの立場から携わる。

    AI空調制御によって電力消費量を大幅削減

    ―そのような構想を実現する足がかりとして、「街づくりDTC®」を活用した「アーバンネット名古屋ネクスタビル」がつくられたわけですね。このプロジェクトについて詳しく教えてください。

    高田:「時間と空間の制約からの解放」「新たな発見と創造」「環境負荷低減」「安心安全」の4つのコンセプトを打ち出しています。

    具体的には、センシングと人流データの活用で、今どこがどれくらい混雑しているかをアプリで可視化できるようにして、オフィス空間を無駄なくストレスなく使えるようなシステムを実装しています。

    例えば、ワーカーズラウンジと名付けたオープンスペースは、混雑具合をアプリでリアルタイムに把握でき、商業施設の飲食スペースは、将来的にはすべてモバイルオーダーにしてロボットが配送する仕組みにしていきたいと思っています。

    アーバンネット名古屋ネクスタビル

    塚本:環境負荷を低減させるためには、AIを使った空調制御システムがCO2削減に寄与しています。空間の人流データをとらえて、AIが最適な温度に設定していく。そうすることで、快適性とエネルギー効率を最適化して、CO2の排出量を削減する仕組みです。

    AI空調制御システムが導入されたアーバンネット名古屋ネクスタビルの内観

    そもそも、ビルや街区で空調が使うエネルギーの消費量は、同じエリアにおける消費エネルギー全体の約50%を占めるといわれていて、環境負荷が非常に大きい設備です。しかし、使用時間帯ごとに稼働を最適化することで、かなりの無駄を削減できます。

    ビル内にセンサーを配置して、スマホの位置情報とともに「いつ、どこに、どれくらい人がいるか」をセンシングし、日々の気温と、気温の予測もパラメータとして取り込んだAIが最適な計算結果を出す。それによって空調を24時間適切な温度にコントロールすることが可能になります。

    塚本:このプロジェクトによって、センサーの種類や配置の仕方、あるいはシステムのソリューションなど、多くの精緻なデータが蓄積されています。これらのノウハウは、すでにダイキン工業さんやアズビルさんとの共創事例にいかされています。今後はさらに横展開をしていくことで、ほかのオフィスビルや街区、ひいては日本や世界の空調を最適化していきたいというビジョンを持っています。

    ――なるほど。NTTアーバンソリューションズとしては、今回のアーバンネット名古屋ネクスタビルの取り組みを起点に、どんな街づくりの未来像を期待していますか。

    藁谷:繰り返しになりますが、これまで難しいとされていた経済発展と環境を含めた社会課題の解決、相関するこの2つをパラコンシステントに両立させていきたいですね。走り始めたばかりの構想ですが、そのポテンシャルは十二分に感じています。

    脱炭素を例にとると、脱炭素をめざす街で暮らしたり働いたりすることで実現されるウェルビーイングや、そのような状態がつくり出されていること自体が、街や建物といった不動産価値を向上するものだとして認知され、市場メカニズムとして組み込まれるような姿を考えています。地球温暖化対策といった側面だけでなく、脱炭素によって実現される社会的価値を評価し、これを受け入れる市場形成にも貢献していきたいと考えています。

    高田:めざすべきは「街の多様性」の実現だと考えています。多様な個性を持った人が訪れても、自分の居場所と思える場所がある。「自分がいても大丈夫なんだ」という安心と安全、そして幸せを感じてもらえる。「街づくりDTC®」をツールとすることで、そうした誰しもが心地よい場所がつくれると信じています。そんな街を生み出すお手伝いができたら、本望ですね。

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