01
2025.07.09(Wed)
#85
この記事の要約
人口減少と高齢化が進む会津若松市では、若年層流出による生産年齢人口の減少や医療・介護人材不足が深刻化し、独居高齢者や移動困難者が支援や受診の必要性に気づけない「見えない孤立」が課題となっている。こうした状況を受け、竹田健康財団、会津若松市、地域包括支援センター、NTTドコモビジネスグループが連携し、「家から出られなくても孤独にならない地域コミュニティー」を目指す実証実験を実施した。テレビに接続するビデオ通話サービス「ちかく」で自宅と地域サロンを結び、さらに対話型AIエージェントによる雑談や相談を可能にすることで、交流と見守りの両立をシミュレーション。参加者からは安心感や生活意欲の向上が確認され、今後は医療・生活支援と連動した地域基盤への発展が期待されている。
※この要約は生成AIをもとに作成しました。
目次
――地域社会がさまざまな課題を抱える中、医療・介護分野における課題はどのように変化しているのでしょうか。
竹田健康財団 東瀬多美夫氏(以下、東瀬氏):まず、人口減少が全国的な課題となっています。2024年の統計によると、国内の人口は前年より約91万9000人減少しました。会津若松市でも、若い世代の流出によって全国平均を上回る高齢化が進んでおり、生産年齢人口の減少が大きな課題となっています。
医療・介護分野においては、人材確保が特に難しくなっており、会津若松市周辺では入院設備を廃止する医療機関が増えています。これは、地域医療に共に取り組む連携先が減少することを意味します。また、今後も人口が減少して高齢化が進むことを考えると、なかなか医療機関に来られない人や、孤立してしまうことで医療・介護サービスの必要性にそもそも気づけない人が増えることが予想されます。地域医療を継続していくために、離れていても双方向的なコミュニケーションが取れるような基盤整備が必要だと考えています。

会津若松市 山口勝彦氏(以下、山口氏):地域社会における行政の視点では、一人暮らしの高齢者の増加はいまや全国的な課題といえます。見守りや孤立予防、健康状態の把握、地域内のコミュニケーション支援などが必要になるため、会津若松市でも地域包括ケアシステムの充実を進めているところです。
また、会津若松市には雪の多い山間地域も含まれており、冬の間は積雪によって移動が難しくなります。こうした物理的な障壁を乗り越えるためには、ICTの活用も重要なポイントだと捉えています。

――現場で高齢者の支援に当たっている地域包括支援センターでは、どのような変化を感じられていますか。
地域包括支援センター 榎森智絵氏(以下、榎森氏):まず、家族の形が変わりましたね。一人暮らしも増えていますし、高齢者のみで暮らしている世帯も増えています。お子さんが遠方に暮らしているご家庭も多く、以前は家庭内で解決できていた問題に対して、地域包括支援センターが対応を求められるケースが増えました。高齢の方ご自身が「子どもに迷惑をかけたくないので連絡しないでほしい」とおっしゃることもあります。
また、運転免許を返納したことで移動が困難になり、それまでのつながりが途絶えて引きこもり状態になってしまう方もいらっしゃいます。車が不要な近所の人たちとは、それまで関わりがなかったためにうまく馴染めず、結果的に孤立してしまうようです。見守りや継続的コミュニケーションの仕組みが必要になっていると感じます。

――一方、NTTドコモビジネスグループは、これまでも竹田健康財団と医療DXを進めてきました。提供するソリューションはどのように変化し、今回の実証実験へとつながっていったのでしょうか。
NTTドコモビジネスソリューションズ 本田明人(以下、本田):これまでの主な導入ソリューションには、円滑な院内コミュニケーションをサポートする、固定電話と携帯電話を融合させたクラウド型PBXサービス「Smart PBX」や、100台近くもの救急車や介護用車両などを安全かつ効率的に運行管理支援する「Vehicle Manager」、電話対応の効率化や患者の不安軽減に有効な診療予約専用のナビダイヤルなどがあります。
こうしたソリューションは、昨今のAI技術の進展によってさらにステップアップしています。Vehicle Managerは2025年6月から、危険運転を防止するAIを搭載したドライブレコーダー型の車両管理サービス「LINKEETH」に進化しました。また、ナビダイヤルにもAIが搭載されており、予約変更の電話対応、患者からのメッセージの文字起こしなどを行ってオペレーターの作業負担を軽減し、カスタマーハラスメント対策にも貢献します。
さらに並行して、遠隔リアルタイム通信技術も進化しています。こうしたコミュニケーションをサポートするさまざまな技術やソリューションの進化を背景に、高齢者の孤立化対策におけるデファクトスタンダードとなるような、シニアフレンドリーな新しいデジタルコミュニケーションサービスが創出される下地も、今まさに整ってきているように感じています。

――今回の実証実験は、どのような経緯で構想されたのでしょうか。
東瀬氏:家族とは、LINEなどの通話アプリでつながっている方が多いですよね。同じように、近所の人たちや行政、医療機関、介護施設などともテレビ電話でつながれたら、交流を保てるのではないかと思ったのです。また、若い人たちが日常的にAIと話している様子を見て、高齢者も気軽にAIに相談できれば孤独を緩和できるかもしれないと考えました。
このようなアイデアでもっとも重要になるのは、コミュニケーションに必要な通信インフラの整備です。そこで、NTTドコモビジネスに「家から出られなくても孤独にならない仕組みを考えられないだろうか」と相談したところ、すでに使えそうなソリューションをいくつもお持ちでしたので、一緒に取り組むことになりました。
――今回の実証実験の内容と目的について、詳しくお聞かせください。
NTTドコモビジネス 増田哲哉(以下、増田):今回の実証実験は、先ほど東瀬さんが述べられた「家から出られなくても孤独にならない仕組み」の構築を目指したものです。ただ、今回は仕組みづくりのための仮説検証をしっかり行うことが第一。そのためにも、現地で実証実験にご協力いただく皆さまから意見を偏りなく集め、整理することが重要だと考えています。


地域のコミュニティーに属さない高齢者は、孤独を感じやすく、自治体をはじめ地域からの情報が届かなくなるリスクを抱えることが想定されます。また、加齢に伴う身体機能の低下で行動範囲が制限され、買い物を含めた生活インフラへのアクセスにも困難が生じると予想されます。
こうした課題を解決するために、今回の実証実験では、デジタルツールを使った2つの取り組みを実施しています。1つめは、ビデオ通話サービス「ちかく」を使って高齢者の集まる地域サロンと高齢者1名のご自宅をつなぎ、「オンライン井戸端会議」を実現するものです。家の形をしたカメラ内蔵の小型端末をご自宅のテレビに接続することで、テレビ電話が可能になります。体調不良などで地域サロンまで足を運べなくても、ご自宅のテレビでサロンの様子を見ることができますし、いつもの仲間とコミュニケーションを取ることもできます。
2つめは、NTTドコモ・ベンチャーズが出資するイギリスの生成AIベンチャー企業、イレブンラボの音声合成技術を活用した対話型AIエージェントによって、一人暮らしでも雑談や日常の困りごとの相談がいつでもできるようにするものです。イレブンラボのAIエージェントは、感情や抑揚を含んだ人間らしい音声の生成を特徴としています。相手に寄り添った自然な会話を実現することで、孤独の緩和につなげられればと考えています。また、親しみやすいAIアバターを実装しており、人間と話している感覚を少しでも得られるような工夫をしています。

AIやICTを活用する上で、重要なポイントのひとつが安全性です。今回の実証実験でどのように安全性を担保しているのか、AIエージェント機能の調整とイレブンラボとの技術連携を担当している、NTTドコモビジネス ジェネレーティブAIタスクフォースの吉田裕則のコメントを紹介します。
医療・介護分野や自治体サービスといった公共性の高い場面でも安心して生成AIを使っていただけるよう、NTTドコモビジネスでは「chakoshi」というガードレールサービスを提供しています。生成AIの入力(ユーザーの発話)も出力(AIの応答)も、不適切な表現や情報漏洩のリスクから保護されます。(吉田)
――高齢者の方々からはどんな反響がありましたか。
山口氏:「家から出なくても会話ができる」「使ってみると楽しい」といった前向きな声が多く寄せられた一方、今回のような技術をひとりで使えるかどうか、不安に感じる方もいらっしゃるようです。高齢者の方々が新しい技術を使う場合、「これを使って大丈夫」という安心感と使いやすさが鍵だと思っています。最近は80代の方でもスマホを使っていらっしゃいますし、「ちかく」は普段から使っているテレビに接続するだけで利用できるので、全く新しい機器を使うよりはハードルが低いと思いますが、一人暮らしの方や高齢者のみの世帯でも日常的に安心して使えるような仕組みが必要だと考えています。
榎森氏:体調や家族の介護などの事情で外出が難しい方々から、「みんなの顔が見られて嬉しい」「家族以外の人と話ができて楽しい」といった声が上がっています。また、外出しないと身なりに気を使わなくなってしまう方が多いのですが、「私もみんなから見られるから、きれいにしておこう」という声が聞かれたことは新たな発見でした。
機器を使うことに抵抗のある方もいらっしゃいましたが、「ちかく」を設置する段階からご本人に見ていただくことで、「ここに差し込むだけでいいの?」「テレビのリモコンで使えるんだ」と、ハードルが下がった印象があります。


――今後、「家から出られなくても孤独にならない地域コミュニティー」はどのように発展していくのでしょうか。高齢者モニター1名の自宅と公民館をつないだ今回の実証実験を踏まえ、今後予定している複数宅との同時接続や、接続先の多様化が実現した際に、現場で提供可能になる支援のイメージなどを教えてください。
東瀬氏:まず基本的なスタンスとして、“楽しいこと”を実現するのが大切だと思っています。例えば、ちかくを活用して、現地に行かなくても自治体や医療機関などが主催する行事に参加できるようになると良いですね。双方向デジタルコミュニケーションの輪を地域の各施設へと広げて、医療にとどまらず日常生活におけるさまざまな社会活動のプラットフォームにしていけると理想的です。
医療の観点で掘り下げると、服薬確認や居宅の自動巡回などをAIが行えるようになれば、病院や薬局の省力化につながるでしょう。
山口氏:とても良いですね。そうなっていけば、地域のコミュニティーを維持しやすくなるのではないでしょうか。地域サロンは参加者が減ると、小さなコミュニティーになるほど新規に人が集まらず、維持できなくなる傾向にあります。しかし、今回の仕組みがあれば、サロンに出かけられなくなっても今まで一緒に活動していた人たちと交流できます。
行政としては、地域の中で人と人が触れ合う機会が減っていくことをもっとも恐れています。「地域全体で地域全体を支える」という発想で、使えるツールは最大限活用して、移動が難しくてもつながりを保てる環境づくりを進めたいと思います。こうした取り組みが、認知症や介護、孤立の予防にもつながると考えています。
榎森氏:医療・介護の提供が必要な人のさらなる早期発見・早期対応も可能になりそうですね。高齢の方は、電話をかけても「大丈夫です」とおっしゃることが多く、孤立によって医療機関への受診が遅れてしまうことも懸念点のひとつです。しかし、ちかくを使えば顔が見えるため、体調が悪いことに気づきやすく、即時に医療機関につながれます。
また、会話の内容を覚えて、人間味のある応答をしてくれるAIの進化が素晴らしいと感じています。これから認知症の方が確実に増えていく中で、食事や入浴の時間などのスケジュール管理までAIが担えるようになったら、AIが家族代わりとなり、支援者の一員になってくれるかもしれません。そうすれば、高齢者も住み慣れたところで安心して生活を続けられるはずです。
――皆さんのお話を伺って、非常にポテンシャルの大きいプロジェクトだと感じました。NTTドコモビジネスグループとしても、やりがいが大きいのではないでしょうか。
本田:そうですね。期待も可能性も大きく、身が引き締まる思いです。
通信技術で物理的な距離を縮めることはできませんが、心理的な距離はいくらでも縮められると信じています。会津若松市民がつながるコミュニケーションプラットフォームをインフラとして実装につなげ、高齢の方々にも安心して楽しく暮らしていただけるように、ギアを上げてプロジェクトを進めていきたいと思います。
増田:今回の実証実験では、ご参加いただいた皆さまから総じてポジティブなご意見をいただき、非常に励みになっています。今後も皆さまのご意見をしっかりと伺いながら、日常に馴染むプラットフォームを構築したいですね。
さまざまな成果とともに、複数拠点での双方向デジタルコミュニケーションへの期待と可能性も見えてきた、今回の「家から出られなくても孤独にならない地域コミュニティーの構築」をテーマにした実証実験。最後に、ちかくの設計・運用、地域コミュニケーション活性化基盤構築を担当する、NTTドコモビジネス 5G&IoTサービス部の廣田龍太郎と、医療業界の課題解決を目指し地域医療・病院DXを推進している、ソリューションコンサルティング部の波多野竣介からのコメントを掲載します。
今回の実証実験では、地域サロンと高齢者のご自宅を接続していますが、今後は同時に複数のご自宅を接続できるようにして、地域コミュニティーの基盤を拡大したいと考えています。また、医療機関や市役所など多様な場所とつながれば、日常生活や社会参加の支援がさらに進むでしょう。(廣田)
今回の実証実験で活用しているAIエージェントに、スーパーマーケットとの連携による買い物支援や自治体・医療機関間の情報共有などを組み合わせて、生活支援と地域包括ケアを強化する仕組みづくりを進めていきます。今後の進展にもぜひご期待ください。(波多野)
OPEN HUB
Theme
Coming Lifestyle
#ライフスタイル