Co-Create the Future

2024.01.10(Wed)

フェムテック市場をブーストさせる。
共創コミュニティーのシナジーが生み出す、事業創出の可能性

#共創 #ヘルスケア
NTTコミュニケーションズ(以下、NTT Com)が2023年1月に立ち上げた、フェムテック領域に携わる企業同士の連携を生み出すコミュニティー「Value Add Femtech Community」。立ち上げ当初は12社だった参加企業は、この1年間で30社にまで増え、さまざまなコラボレーションの可能性が広がっています。

リアルミーティングとして4度目となる今回は、22社・44名の「Value Add Femtech Community」会員が集まり、各企業による講演と交流会を開催しました。本記事では、当日の様子についてレポートします。

目次


    Webサイト完成&「Forbes JAPAN Xtrepreneur Award」受賞!

    ミーティングの冒頭では、NTT Comスマートヘルスケア推進室長の久野誠史より、「Value Add Femtech Community」のコミュニティーのロゴの完成とウェブページの公開、そして「Forbes JAPAN Xtrepreneur Award 2023(女性活躍/ダイバーシティ部門)」の受賞についての報告がありました。

    完成した「Value Add Femtech Community」のコミュニティーのロゴ。「バイタルデータの活用を通じて、女性のウェルビーイングを実現し、女性がキラキラと輝く社会を創出したい」という思いが込められている

    「Forbes JAPAN Xtrepreneur Award」は、グローバルビジネス誌『Forbes JAPAN』とNTT Com の事業共創プログラム「OPEN HUB for Smart World」が共同で開催する表彰プログラムです。アントレプレナーがゼロから何かを生み出す起業家のことを指すのに対し、「Xtrepreneur(クロストレプレナー)」という言葉を用いて、複数の事業や企業を横断しながら、新たな社会価値の創造に携わる人々に焦点をあてています。「Value Add Femtech Community」が取り組む課題の社会的意義の高さ、複数企業のデータの利活用を目指している点が評価され、今回の受賞に至りました。

    久野誠史|NTT Com スマートヘルスケア推進室 室長

    久野は今回の受賞について、以下の通りコメントしました。
    「コミュニティーとしての受賞ということで、受賞されたのはここにいる皆さんです。本当に、おめでとうございます。今後は皆さん一人ひとりがクロストレプレナーになっていけるような場にしていきたいと思いますので、引き続きよろしくお願いします」

    より実用的なウェアラブルデバイスの普及に向けて

    フェムテック領域のデータの利活用を進める上で、日々のバイタルデータを取得するウェアラブルデバイスは非常に重要なカギを握っています。

    そこで、続いてNTTドコモ プロダクトマーケティング本部の近藤菜菜子より、フェムテック領域におけるウェアラブルデバイス活用に向けたNTTドコモの取り組みについて、説明がありました。

    近藤菜菜子|株式会社NTTドコモ プロダクトマーケティング本部

    「NTTドコモは、2022年に日本国内の移動体通信事業者で初めて『第二種医療機器製造販売業』の許可を取得したことにより、病気の予防や診断などを目的とした医療サービスの開発から販売までが可能となりました。また、2023年7月にプロダクトマーケティング本部を新設し、従来は別々の部署で担当していたデバイスの企画、調達、保守を統合しました。これにより、デバイスとサービスを一体化した顧客価値の創出を一元的に担えるようになりました。

    例えば、フェムテックの領域においては、基礎体温のデータは重要な情報です。特に基礎体温は、毎日決まった時間に口の中に体温計を入れて測定する必要があり、これはユーザーにとって非常に負荷の高い作業でした。

    近年では、基礎体温を測ることのできる、さまざまなウェアラブルデバイスが登場しています。しかし、常時装着が必要なため、寝ている間は違和感があったり、充電ができないといった課題もあります。このようなマイナス要素を解決し、お客さま負担をかけずに必要なデータを収集できるデバイスへのニーズは確実にあると思います。

    また将来的には、全国に2,000ヶ所以上あるドコモショップも活用していきたいと考えています」

    続いて、国内最大級のピルのオンライン診察・処方サービス「スマルナ」を展開するネクイノの代表取締役・石井健一氏が、「世界中の医療空間と体験をReDesignする」というテーマで、「スマルナ」を立ち上げるまでの経緯やその根底にある課題意識、今後のビジョンについてプレゼンテーションをしました。本記事では、講演の内容の一部を抜粋しご紹介します。

    ウィメンズヘルスの課題解決を通じて、業界全体の課題を解決する

    「本日お伝えしたいのは、『見えている課題にとらわれてはいけない』ということです。我々がもし、ピルを売りたい、女性の健康課題を解決したいというところからスタートしていたら、僕は今日この場に立ててはいないでしょう。バックグラウンドにあるのは医療の課題であって、それが表出したものの1つにウィメンズヘルスの課題がある。我々はそうしたウィメンズヘルスの課題と医療の課題を、一緒に解決できるような仕組みをつくってきました。

    石井健一|株式会社ネクイノ 代表取締役
    薬剤師、経営管理学修士(MBA)。アストラゼネカ、ノバルティス ファーマで医療情報担当者として従事。2013年メディノベーションラボ代表取締役。2016年ネクイノ設立、代表取締役就任

    我々のミッションの背景にあるのは、大学院で勉強をしていたときに感じた、日本の医療業界の非効率性です。なぜお医者さんはこんなにも忙しいのかということを明らかにすべく、大学病院の先生たちに1日張り付き、どんな作業にどれだけの時間が使われているのかを計測しました。すると、大学病院の先生たちが専門医にしかできない仕事をしている時間は、全体のわずか17%。残りの83%は、専門医でなくてもできる仕事に費やしていることがわかりました。

    ネクイノでやりたいのは、こうした日本の医療のあり方を再定義し、専門家のリソースを解放することです。テクノロジーを用いて介入することで、病気になる人の絶対数を減らし、専門家がオペなどの彼らにしかできない仕事にさらにリソースを割けるような状態を目指し、ビジネスモデルをつくってきました。

    我々はピルを処方するオンライン診療プラットフォームで事業を拡大してきたわけですが、ではなぜ、数ある医療領域の中から、婦人科領域を、そしてピルを選んだのか。

    下の図は、2010年ごろに非常に流行した『Unmet Medical Needs』と呼ばれる、有効な治療方法がない疾患に対する医療ニーズを可視化した表です。縦軸は治療に対する薬剤の貢献度、横軸に治療に対する満足度を表しており、右上にある病気ほど、すでに薬剤によって課題が解決されていることになります。すなわち製薬会社は、より左下の領域にある病気の新薬開発に投資をしていくことになります。

    我々は、この図にさらに『薬剤の普及度』という軸を足し、その薬がどの程度社会実装されているのかを見てみました。すると高血圧や糖尿病、ぜんそくの薬は、すでに社会実装が進んでおり、新規参入の隙間がない。一方ピルは、40年前にはすでにそのポジションが確立していたにもかかわらず、日本ではコミュニケーションの失敗によって、社会実装が進んでいないことがわかったのです。

    ピルは避妊目的だけでなく、生理痛の改善や月経周期の安定化のためにも使用されてきました。また、最近では子宮体がんのリスクを下げるというエビデンスも出てきています。また、ピルの利用を考えるのはスマートフォンを持っている若い世代の人々がメインであるという点でも、オンライン診療を進めていきたいと考える我々にとって理想的なテーマでした」

    「スマルナ」の立ち上げ前に、別領域でビジネスモデルの構築・検証を行う

    「ネクイノをつくったのが2016年であるのに対し、スマルナのサービスができたのは2018年。実はスマルナが立ち上がる前に、ビジネスモデル検証の段階がありました。

    というのも、当時のネクイノは男性ばかり4人のチームで、女性向けのマーケティングとビジネスモデルの構築を同時にやるのは難しい状況でした。そこで『患者のニーズが明確である』『診療のガイドラインが整備されており、専門医でなくても診察ができる』『薬を多く服用しても死亡事故が起きる可能性がない』という条件のもとで領域を絞り込み、2016年ごろから、ED、AGA、アレルギー性鼻炎の領域からサービスを展開しビジネスモデルを検証していきました。

    ビジネスモデルの検証とマーケティングの検証を同時にやろうとすると、まずうまくいきません。企業が新規事業をやる場合でも、普通は既存の製品やサービスと地続きのものからスタートするでしょう。フェムテックの領域は、いきなり飛び地でやろうとされることが多いのですが、その場合もビジネスモデルの検証を先にするのか、マーケティングを先にするのか、ストラテジーを立ててから始めていくことをおすすめします」

    満を持して「スマルナ」をリリース、根底にある課題は何か

    「その後、待望の女性メンバーがネクイノに加わりました。彼女もまた、看護学校の授業でピルの存在を知るまでピルにアクセスできなかった当事者の一人であり、彼女をペルソナに、2018年6月に『スマルナ』をリリースしました。

    ユーザーへのヒアリングを重ねる中で、『なぜ病院に行ってもらえないのか?』を詳しく言語化してみると、ユーザー側には心理的ハードルと物理的ハードルの両方が存在していることがわかりました。東京にいるとあまり感じないかもしれませんが、実は地方には婦人科が少ないのです。

    また、フルタイム勤務の婦人科の先生は全国に7,000人ほどしかおらず、お産や不妊治療、オペなどでリソースが足りていません。中でもピルの処方は医療機関にとっても収益性が低いこともあり、社会実装が進まなかったのです。

    最初に『見えている課題にとらわれてはいけない』というお話をしましたが、ピルの服用率が低いというのは、見えている課題です。そして、その根底にはユーザーがピルというソリューションにたどり着くまでのハードルが高いことに加えて、そもそも医療機関の需給がひっ迫しているという課題があります。そして、この課題を解決するためには、単なるピルの普及にとどまらない、何らかのイノベーションを起こす必要がありました」

    日本でフェムテックを前に進めるために必要なコミュニケーションとは

    「事業が成長したあとに直面するのは競合サービスの出現ですが、この差別化に最も必要なのは結局のところ、企業や経営チームのあり方であると考えます。我々には、3つの経営の選択肢がありました。

    1つめの『産婦人科の専門医も含めた活用にしていくのか』 について。日本では、ピルは医師の処方箋が必要な医薬品ですが、実は、婦人科以外にも内科など他の診療科でも処方されています。そこで、産婦人科専門医の知識をベースに、他科の専門医に協力を得る形で運用を考えました。

    2つめは『薬剤師や助産師のようなコメディカルをどう活用していくのか』。彼らを顧客リード獲得のために活用するという考え方もありますが、医師のリソースは限られているため、コメディカルを上手に活用することで、医師の負担を減らしていこうと考えました。

    3つめの『どのような医薬品を提供するのか』は非常に重要なテーマです。国内正規品のピルはそれなりに薬価が高く、逆に海外からの並行輸入品は安く手に入ります。しかし我々は製薬会社出身のメンバーが多いこともあり、健康被害を最小限に抑えること、また、信頼できる医療体験を提供することを第一と考えていることから、国内の正規品を使うこと、未承認の医薬品は使わないことにこだわってきました。

    また、『スマルナ』はサービス立ち上げ当初から現在に至るまで『病院に行かなくていい』『オンラインで簡単』というコミュニケーションを一度もとっていません。その根底にあるのは、既存の医療機関から顧客を奪わない&市場を荒らさず、行ける人は絶対に病院に行くべきであり、行けない人のための次善の策として、ソリューションを提供するという考え方です。なぜなら、我々が解決したい課題は、オンラインだけでは絶対に完結しないからです。

    アメリカでは実際、病院に行かなくていい、といううたい文句でフェムテックのプロダクトやサービスが展開されていますが、それは病院の診察費が非常に高額だからです。一方日本では、保険証を持っていれば、世界最高水準の医療を非常に安価に受けることができます。ここにアメリカと日本の違いがあります。

    ですので、今後新たなフェムテックのデバイスやサービスを日本に広めていく場合にも、スムーズに医療機関につながるサービスとセットで展開することで、より社会実装が進んでいくのではないかと思います」

    強みと悩みを共有することで、コラボレーションが生まれる

    石井氏による講演の終了後は、会員交流会の時間が設けられ、冒頭では会員企業であるシャープ、あすか製薬、Flora、ポピンズファミリーケアの4社より、各社の事業紹介が行われました。その後は、会員企業同士でにぎやかな雰囲気の中でさまざまな意見や情報の交換がなされます。継続して参加しているベルシステム24の岩見統之氏は、コミュニティーとして継続してきた中での気づきについて、次のように振り返りました。

    「ネクイノの石井さんの講演や複数の企業の話を聞くことで、それぞれの強みや切り口で女性に対してのアプローチを考えていることを知ることができました。一言でフェムテックと言ってもどんなフェーズにいるかは企業によってさまざまで、先行している企業の知見や課題感を得られることは、重要だなと感じました」

    また、TOTOの丸山智美氏も、「フェムテック領域に関する企業ごとのさまざまなアプローチについて知ることができ、大きな収穫だった」と岩見氏の感想に同意します。

    「まさにそうですね。私たちTOTOは水まわりの会社ですが、ネクイノさんやシャープさんなど、『トイレ』をフェムテックのタッチポイントとして捉えられている企業さんが他にも多くいらっしゃることを知ることができました。他の企業さんと連携することで何か新しいことができないか、早速社内で検討してみたいと思います。

    コミュニティーがスタートしたころは距離感や遠慮があったように思いますが、そこから参画企業が増え、各企業が抱えている課題や悩みが共有されてきたことで、今後の展開についてより具体的に考えられるようになってきたと感じます」

    回数を重ねるたびに、多様な参画企業が集まり、ますます盛り上がりを見せる「Value Add Femtech Community」。2年目となる2024年の活動にも、ぜひご期待ください。