Creator’s Voice

2023.09.13(Wed)

OPEN HUB Base 会員限定

個人の想いから生まれる「弱い文脈」が社会を変えていく
開発・マーケティングにコンテクストデザインを重ね合わせる
—渡邉康太郎

#イノベーション
連載シリーズ「Creator's Voice」では、さまざまなジャンルの有識者を招き、よりよい社会の在り方を探求していきます。第5回のゲストは、デザイン・イノベーション・ファームTakramのディレクターで、コンテクストデザイナーの渡邉康太郎氏。

渡邉氏が提唱する「コンテクストデザイン」とはどのような概念なのか。なぜいま、コンテクストデザインの考え方が社会や企業に求められるのか。また、ライフワークである音声コンテンツ配信はコンテクストデザインの視点からどう捉えられるのか。OPEN HUBの音声コンテンツ「OPEN HUB RADIO」を立ち上げ、パーソナリティを務めるNTTコミュニケーションズ福嶋麻由佳を聞き手に、お話を伺いました。

コンテクストデザインとは、個人の物語が広がるデザイン

福嶋麻由佳(以下、福嶋):まずは、渡邉さんが提唱されているコンテクストデザインとはどのような概念なのか、教えていただけますか。

渡邉康太郎氏(以下、渡邉氏):「コンテクストのデザイン」と聞くと、企業やブランドの文脈(コンテクスト)を正しく受け手に伝える、ということを連想されるかもしれません。実は、そうした考えの対極にあるデザイン活動で、ラテン語の「con- ともに」と「texere 編む」という語源に近い意味で用いています。

大量生産・大量消費を背景に発展してきた現代のデザインは、基本的に1つのプロダクトに対して、1つの理想的な使い方が想定されています。たとえばフォークだったら、あらゆる人に同じように使ってもらいたい。例外的な使い方は事故につながるかもしれず、想定されていません。
コンテクストデザインで目指したいのは、そのような従来の価値観にのらないものです。使い手一人ひとりに、使い方やその先の物語が開かれていて、むしろ一人ひとりの違いから豊かさが生まれることを目指しています。当然、フォークであっても、使い手一人ひとりが異なる過程で、異なる料理を食べ、異なる思い出を培うものだと思いますが、コンテクストデザインでは、もっと積極的に個々の物語の差分が表出する補助線を引くことを考えています。

福嶋:コンテクストデザインでは使い手も含んだデザインであり、使い手がとても重要ということですか。

渡邉氏:そうですね。一般的なデザインとコンテクストデザインとでは、つくり手と使い手の関係性が変わります。一般的には、つくり手が意図した通りに使ってもらえることが成功でした。

一方、コンテクストデザインでは、使い手につくり手の意図を超えてもらいたい。つくり手のクリエイティビティに対して、使い手もクリエイティビティで応答してほしい。使い手のクリエイティビティを迎え入れてはじめて完成するようなデザイン、とも言えます。そういう意味では、鑑賞者がいてこそ成立するアートの営みと、重なる部分があるかもしれませんね。

渡邉康太郎|コンテクストデザイナー/Takram ディレクター/慶應義塾大学 SFC 特別招聘教授。
使い手がつくり手に、消費者が表現者に変化することを促す「コンテクストデザイン」に取り組む。 サービス企画立案、組織ブランディング、企業研修など幅広いプロジェクトを牽引。ラジオ番組『TAKRAM RADIO』(J-WAVE)やポッドキャスト『超相対性理論』のナビゲーター。

使い手のクリエイティビティをうながす補助線を引く

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