Co-Create the Future

2023.06.09(Fri)

ハイブリッドワークを新たなフェーズに
リアル以上のコミュニケーションを生む、次世代のワークスペース

#働き方改革
コロナ禍を経験し、オフィスワークとリモートワークを組み合わせたハイブリッドワークなどに取り組む企業が増加しました。新型コロナウイルスが5類感染症へと移行した現在でも、業務の質と効率の向上につながる「柔軟な働き方」への要望は強く、また優秀な人材を確保する手段としても「魅力ある働き方」の必要性が高まっています。ただし、働く場所の分散にともない、雑談によるインスピレーションなどが生まれにくいといった問題も指摘されています。

オフィス環境のソリューションを扱うイトーキは、NTTコミュニケーションズ(以下、NTT Com)との共創プロジェクトにより「office surf®(オフィスサーフ)」を開発。実証実験を経てリアルとオンラインの垣根を越える自然なコミュニケーションを実現しました。ハイブリッドワークのあり方を次のステージに押し上げるoffice surfとはどのようなソリューションなのか。その全貌や共創で得た成果について両社のキーパーソンに話を聞きました。

働く場所の分散によって失われた“雑談”

―イトーキはオフィス家具の代表的なメーカーであり、ワークスタイルと密接に関係するビジネスを展開してきました。その立場から見た、昨今の働き方の変化と課題を教えてください。

寺本宜広氏(以下、寺本氏):イトーキは、2017年に制定したミッションステートメント 「明日の『働く』を、デザインする。」でも表現しているのですが、家具だけでなく、コンサルティングやソリューションなども含む、生産性や働きごこちを良くするための事業を行ってきました。また、社会全体の大きな動きとしては、政府が働き方改革を提唱し関連法案を施行するなど、働く環境に関する具体的な取り組みが進められています。

テレワークやシェアオフィスの利用といった根本的な流れは、コロナ禍を経ても大きく変わりませんが、働く場所の分散が強制的かつ急激に進んだことで、コミュニケーションの課題が顕在化しています。それはイトーキの社内でも例外ではありません。例えば新しいプロジェクトが立ち上がるとき、オフィスでは何となく自然に会話する機会があって、そこで初めて一緒に仕事をする相手との関係性を築けていたのに、コロナ禍では仲間の人となりを知るまでに時間がかかりました。そのぶん、プロジェクトの進みが遅くなりかねません。

寺本宜広|イトーキ スマートオフィス商品開発本部

北嶋將人氏(以下、北嶋氏):営業担当者がお客さまから集めた声の中には、例えば開発や研究を行う企業では、雑談の中からイノベーションの種が生まれることが珍しくありませんが、その機会がなくなってしまったことを危惧するものが多かったようです。

ところが、雑談は個人間の関係性の中で自然に発生するものというイメージがあるため、いざ仕組みとしてそうした雰囲気を醸成しようとしても、どのような手を打てばいいのかわからないのです。そこで私たちは、そうしたコミュニケーションの課題に対応するソリューションをつくろうと考えました。

北嶋將人|イトーキ プロダクト開発統括本部 スマートオフィス企画部

それぞれが開発を始めたコミュニケーション課題の解決ソリューション

―どのようなコンセプトで新たなソリューションの開発に着手したのでしょうか。

北嶋氏:一般的なウェブ会議ツールは1対1の利用を想定していますし、利用するたびに接続する手間が必要です。そこで、常時接続されている複数のweb会議をボタン1つで切り替えられるプロトタイプをつくり、弊社のオフィスで検証を行いました。オフィス側では、カメラの隣にいる人にも気軽に話しかけられるかどうかも試しながら、カメラの種類や置き方を変えて、利用状況を検証しました。

寺本氏:検証によってハード面については理想的なかたちを見出せたので、具体的に製品化を目指すことに。しかし、我々はソフトに関する知見がないため、このプロジェクトに最適なソフトを提供してくれるパートナーが必要でした。そこで社内で相談したところ、NTT グループさんを紹介されたのです。

長谷川諒(以下、長谷川):NTTグループでは、お客さまをパートナーと捉え、お互いにアセットを組み合わせて新しいビジネスをつくっていく「BtoBtoXモデル(※)」を推進しています。私はイトーキさまの営業担当として、販売だけでなく共創ビジネスを進めてきました。

今回はコロナ禍における働く場所の分散という課題に対して、オフィスワーカーとリモートワーカーをよりアクティブにつなげ、雑談を生むコミュニケーションを醸成したいという構想をお持ちだったため、それを実現するツールとして「NeWork®(ニュワーク)」をご紹介しました。

※BtoBtoXモデル:連携企業を介して個人や法人向けに付加価値の高いサービスを提供するビジネスモデル

長谷川諒|NTTコミュニケーションズ ビジネスソリューション本部 事業推進部

藤木訓(以下、藤木)NeWorkはNTT Comが提供するオンラインワークスペースです。「コロナ禍において、どうすればリモートワークでもリアルを超えるようなつながりや創造性を持てる場所をつくることができるか」という問いを立てて開発したものです。当時はNTT Comもフルリモートに振り切った働き方を採用していたため、そうした課題が浮き彫りになっていました。

藤木訓|NTTコミュニケーションズ プラットフォームサービス本部 アプリケーションサービス部 担当課長

坂内恒介(以下、坂内):そのような経験も踏まえ、NeWorkでは3つの観点に重きを置きました。1つめは「心理的安全性」です。人となりを知らない関係でも仮想空間で気軽に声をかけて雑談できるようにすることです。2つめはチームとしての「一体感の醸成」です。如何にしてチームの熱意や勢いといったものをリモートワークにおいてもどう共有し、浸透させることができるかについて考えました。

3つめは「創造性」です。対話が少なくなってくると、せっかく思いついたアイデアが共有されにくくなるため、それを補完できる機能を実装することを目指しました。

一般的にバーチャルオフィスサービスは、実際のオフィスを模したデザインを仮想空間上に再現していて、その中を自由に動き回れるタイプのものが多いですが、それだとオフィスの端に集まって話しているのを見て、余計なことを勘ぐってしまいます。そうではなく、フラットな立場で気軽な関係を築ける「リアルを超えるようなオンラインスペース」にすることを意識したのです。

坂内恒介|NTTコミュニケーションズ プラットフォームサービス本部 アプリケーションサービス部

藤木:このNeWorkによって、リモートワークの環境でもリアルな出社時と同等かそれ以上の「一体感や会話が生まれる仕組み」を実現できたと考えています。一方で、バーチャルの世界だけで完結する仕組みで解決しようとすると、ハイブリッドワークになったときにオフィスへ出社している人が取り残されてしまいます。ご相談のあった2021年6月は、世の中がウィズコロナに向かっている最中で、私たちもこの課題に悩んでいたところです。タイミングよく、リアルの世界から同じ悩みにアプローチしようとしていたイトーキさんからお声がけいただいたので、ぜひ協業を進めたいと考えました。

北嶋氏:イトーキの社内検証では、新入社員から「会議が終わった後のシーンとした時間がつらかった」「会社になじめていないまま会議が進むので、自分の存在が放置されている感じがする」といった悩みが集まっていました。NeWorkには、自分の周囲で行われている「会議」や「グループ内の雑談」などの様子を知り社内の気配を感じることができる「聞き耳」機能などもあり、孤立感への対策に応用できると考えました。また、そうした機能を備えるに至った課題認識自体に共感を覚えたことが、協業につながった大きな要因です。

両社のアセットを組み合わせた「office surf」とは

―両社が共同開発したoffice surfには、どのような機能があるのでしょうか。

北嶋氏:リアルオフィスとバーチャルオフィスをつないで、ハイブリッドワークでもコミュニケーションを取りやすくするソリューションで、ハードをイトーキが開発し、ソフトにNeWorkを使わせていただいています。

リモートワークの方はパソコンやモバイルから利用し、オフィスに設置しているoffice surfの筐体を示す「ルームバブル」を指定します。オフィス側はカメラもマイクも常時オンのままつながっているので、オフィスの環境音から様子を把握したり、通りがかった人に声をかけたりできます。オフィスの状況を見渡せるように広角カメラを搭載しており、高さも人と同じぐらいにしてあるので、数人が集まっても見切れることなく自然な感覚で話せます。

ルームバブルに集う様子
オフィス側でのoffice surf利用シーンのイメージ

寺本氏:モニターやカメラなどを買ってきて組み合わせても同じような機能は実現できるかもしれませんが、それだけでは自然なコミュニケーションを生み出すことはできません。office surfの価値は、モニターを介してオフィス側とリモートワーク側が自然に、かつインタラクティブにつながるよう、オフィス空間になじむインテリアとして綿密にデザインされていることにあります。そのために、何気なく人が集まってくるようなシンボリックで柔らかい筐体デザインにしました。

長谷川:機能面では、リモートワーク側はログインしてバブルを押すだけで会話ができるシンプルなつくりなので、利用しやすいのも特徴の1つです。またオフィス側でも、朝と夜に自動でログイン/ログオフする設定にできるので手間がかかりません。

実証実験によって帰属意識の醸成に効果があることを確認

―office surfで行った実証実験とは、どのようなものだったのでしょうか。

北嶋氏:イトーキの本社「ITOKI TOKYO XORK」は、イトーキが考える新しい働き方とそれを実現するためのオフィスとしてデザインされ、社員自ら体現しながらお客さまへのご提案内容を研究するための施設です。この施設の3フロアに各2台のoffice surfを設置して、どのような使われ方をしているか、使用する中でストレスやワークエンゲージメント※への影響はどうか、といったことをアンケートで調査しました。

その結果、自主的にoffice surfを活用する人ほどワークエンゲージメントが高い傾向が読み取れました。

※ワークエンゲージメント:従業員のメンタル面の状態を「熱意」「没頭」「活力」で示す概念

イトーキ社内トライアル実験におけるアンケート結果より

アンケートではそのほかにも「オフィスの様子が見えて雰囲気が把握できる」「会話したい他チームの相手の状況が一目でわかる」「離れた拠点のワーカーと会話できる」「ちょっといいですか?から数分の相談ができる」「チームミーティングに疎外感を感じることなく参加できた」といった感想を得ることができました。

―今回の取り組みを通して、両社のアセットを持ち寄る共創事業にどのような価値を感じましたか。

寺本氏:office surfの開発には約1年かかったのですが、イトーキだけでゼロから始めたのでは何年も必要だったでしょう。私たちにないアセットを活用させていただいたおかげで、スピーディーに開発を進められ、コロナ禍の間に商品化できました。

藤木:NTT Comはインターネットなどのネットワークサービスやクラウドサービスなどアプリケーション領域からのアプローチが得意な一方で、実際のオフィス空間の設計やオフィスを構成するハードウェア領域を提供する術がありませんので、一歩踏み込んだデバイスの開発を自ら進めていくことは本当に難しいことなのです。バーチャルだけでは成り立たないという課題認識のもと、イトーキさんと二人三脚でアセットを組み合わせられたことは本当にありがたかったです。

長谷川:お互いのかゆいところにうまく手が届いた関係性だったと思います。リアルとバーチャルですから、見方を変えるとライバルになりかねないポジションですが、お互いの長所をうまく合わせることでターゲットを増やすことができましたし、解決できる課題の幅を広げられたことも、1社だけでは出せなかった価値です。

藤木:より広い視野を持つことができたのはNTT Comとしても同様です。サービスのさらなる成長につながるような気づきを得られたのも成果でした。

さらにデジタルリテラシーに関係なく使えるサービスを目指したい

―これからoffice surfを普及させていくことで、社会にどのような価値を届けたいと考えていますか。

長谷川:リモートワークの浸透によって、オフィスへの出社が必須ではないことが証明されました。それでもオフィスがなくなっていないという事実から、帰属する場所として欠かせないものなのだろうと考えています。ただ、オフィスのあり方はこれからさらに変わっていくでしょうから、時代の変化に合わせた支援ができるようサービスを発展させたいと思います。

北嶋氏:常時つながっていると、デジタルリテラシーに関係なくフラットにコミュニケーションを築くことが可能です。office surfをきっかけに、ハイブリッドワークにおける新たなコミュニケーションのベースとなるソリューションを今後も提案していきたいですね。

寺本氏:デジタルに不慣れ人はオフィスだけでなく、役所や学校など公共の場や、老人福祉施設にもいます。集合と分散をつなぐ大きなプラットフォームとして、さまざまな場所で使っていただけると新しい気づきがありそうです。必要な機能やUI/UXを磨いていき、サービスを膨らませていきたいという思いがあります。

藤木:たしかに、そうした場所ではリテラシーの差が激しいですよね。私たちの取り組みによって、ITやDXから置き去りにされてしまう方々にも参加の機会を提供し、デジタルに対する心理的なハードルを下げることができると考えています。社会の包括性を高める一翼を担うことで、より多くの人々に利益をもたらしたいと思います。

寺本氏:今回、office surfに関しては「分断されたコミュニケーションの再構築」という課題に着目しましたが、ハイブリッドワークの定着によって顕在化し未だ解決できていない課題は他にも数多くあります。また、上述の通り、オフィス以外のフィールドに関しても同様のことが考えられますので、今後もイトーキ、NTTグループさんのアセットを組み合わせた協業活動を継続し連携することで、社会課題解決にも寄与しうるサービスの開発・拡大を目指していきたいと思います。