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Co-Create the Future
2023.05.12(Fri)
目次
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塚原章裕氏(以下、塚原氏):「Digital Ethics Compass」の事例やベイソンさんの新著『Expand』の内容から、DDCとしても、ベイソンさん個人としても「エシックス(倫理観)」という概念をとても大事にしている印象を受けます。「エシックス」や「エシカルであること」をどう定義しているのか、お考えを聞かせていただいてもよいでしょうか?
ベイソン氏:「エシックス」は、人間によるなんらかのアクションについて、何をすべきで、何をすべきでないか適切に判断するためのものです。
そして、「エシックス」とは法律やルールによって定義されないものです。そのため、「エシカルである」とは、つまり「やる必要性がないにもかかわらず正しい行いをし、他者や世界に価値を生み出すこと」であると私は考えています。
ただし「エシックス」という概念は奥深く、さまざまな意味を持つ言葉なので、より具体的に捉えるには、どういうコンテクストにおける「エシックス」を指しているのかを前提におく必要性があります。SDGsもコンテクストの1つですし、デジタルのコンテクストでいえば、人や地球に害のないデジタルプロダクトをつくることを指すでしょう。
塚原氏:どんなコンテクストにおいても共通するような「エシックス」を個々人が磨くために、より良い方法はあるのでしょうか?
ベイソン氏:他者がどう感じているのかを想像し、共感することも重要でしょう。私はこれまで多くの政策を検討する中で、人類学者やデザイナーと共に広い意味でのヒューマンエクスペリエンスについて考える機会がありました。彼らは、人々が社会システムやモノ・サービスとどうインタラクションし、どんな結果が生じうるか検討するために人間中心のデザインで用いられる共感の手法を用います。
そういった手法も使いながら、ある特定のコンテクストや状況において、人がどのような感情を抱くのかを理解し、人々の感情も踏まえた上で、自分たちは本当にそのアクションをやるべきか否か判断する習慣を身に付けていくのがよいでしょう。
塚原氏:確かに、デザインのプロセスでは基本動作として社会の文脈を捉え、人にとっての価値は何か考えるということをします。そういったプロセスが、「エシックス」を磨き、適切にやるべきこと・やるべきでないことを判断する力を養う一種のトレーニングにもなっている、というのはおもしろい視点です。
企業の競争力向上には持続可能性が必要で、持続可能性を高めるために「エシックス」が求められる。そして「エシックス」を磨くためにデザインの手法が有効である、というつながりが見えてきた気がします。
塚原氏:少し話が戻りますが、DDCの提唱する「Mission-driven approach(ミッション・ドリブン・アプローチ)」において、共創を行う背景をより詳しく伺ってもよろしいでしょうか?
ベイソン氏:私たちが向き合わなければならない社会課題は分野横断的であり、学際的です。例えば若者のメンタルヘルスの悪化という事象は、ソーシャルメディアなどがもたらすデジタルエシックスの問題でもあり、また、都市環境や空間設計、また教育プログラムとも関係があるかもしれません。
非常に多くの要素が複雑に絡み合った課題ですから、人類学やデザイン、政治学、経済学、工学など、1つの専門性だけで解決できるものではありません。より良い解決策を生み出すためには、さまざまな知識を融合する必要があります。社会課題の抜本的な解決策には、セクターや専門分野を横断した共創が必要不可欠といえます。
また、共創を通じ、これまでに存在し得なかった新たな知見・専門性の組み合わせを試すことで、全く新しいカテゴリのソリューション市場も生まれてきます。それこそ、イノベーションと呼ばれる新たな市場機会であり、次世代の経済成長と雇用を支えるものです。
塚原氏:共創しないと解けないような複雑な社会課題にしっかりと向き合う腹決めが、共創を進める上での肝なのかもしれませんね。実際のプロジェクトではDDCのメンバーはどのような役割を担うのでしょうか?
ベイソン氏:DDCメンバーは複数の組織やセクターにまたがるかたちでミッションリーダーシップを発揮します。
具体的には、ミッション達成に向けたカタリスト(触媒)としてのプロフェッショナリズム・責任感を発揮し、誰よりも前線に立って、価値のデザインや新たな市場機会の定義、その可能性の証明やさまざまなステークホルダーの巻き込み・目線合わせを行います。また、スチュワートシップを発揮し、自分たちで描いた未来社会のビジョンを達成できるよう、長期的な目線を持って人々の自立的・自律的なミッション達成をナビゲートします。加えて、社会的インパクトを最優先した全体最適の視点を担保します。
塚原氏:リーダーとしてさまざまな人と協力しながらミッションを成し遂げていく、という意味で、ストラテジスト、オーガナイザー、ファシリテーター的な意味での強さが求められそうです。
DDCが共創の中心的役割を担えるのは、共創パートナーに対してどのような機能を提供できるからなんでしょうか?
ベイソン氏:DDCは中立的な立場で新たな市場機会を発見し、定義し、さまざまなプレーヤーがイノベーションを起こしたくなるようその機会の可能性を確証づけることができます。
そして、その力こそデザインに由来します。デザインは、すでにお伝えしたように基本的にHowに関することです。どのような価値を創出すべきか? そのために、どうプロセスを設計するか? どう他者に参加してもらうか? どう伝えるか? どう形にするか? こういった問題をすべてまとめて考え、解決していくことに関して、デザインはとてもパワフルだといえます。
高見逸平氏(以下、高見氏):それでは最後に、DDCと日本やNTT Comとの今後の関係性についてもディスカッションさせてください。ベイソンさんは2年ほど前からよく来日されていて、デジタル庁などと積極的に意見交換やイベントの開催をされていますよね。DDCとして日本と関わることの狙いや、日本に感じているポテンシャルについて聞かせてください。
ベイソン氏:日本へは何度も訪問しており、発展した社会、テクノロジーの強さ、産業の強さ、高い教育水準を兼ね備えた人々、世界でも飛び抜けている優れたデザインの歴史など、さまざまな魅力を感じています。デンマークとの関係性も良いです。
そして、日本社会がさまざまな困難を抱えていることも注目している理由の1つです。例えば、統計的に見て日本は高齢化の課題先進国です。また、日本の社会は大企業の成功によってかたちづくられ、支えられてきた歴史があります。そのような大企業中心の社会構造の中で、どのようにして改革や変化を導くことができるのか、ということが個人的にも大きな関心事です。デンマークが世界最高ランクのデジタル先進国であり、幸福で経済競争力ある国になる過程で積み重ねてきた経験や学びを日本に共有し、相互に学びを得たいと考えています。
高見氏:今回我々がDDCを訪問させていただいているのは、まさにそういった過程を学ぶことで日本社会に応用できることはないか、という仮説もあってのことでした。今後、何か一緒にできるといいですね。
ベイソン氏:そうですね。最後にミッションの話を少しだけさせていただきますが、我々が取り組もうとしている3つのトランジションはデンマークだけの課題ではありません。DDCとして、国々の責任を考え、国際的なパートナーと、より高次のミッションに取り組み、成果のポートフォリオを広げていきたいと考えています。
高見氏:NTT Comとして、DDCと日本でコラボレーションできそうな部分が色々ありそうな気がしています。今回、DDCがどのような組織なのかも理解が進み、「Mission-driven approach」や「エシックス」について、いろいろとお話を伺うことができました。
KOELとして、今回お聞きした内容をそしゃくしながら、また今後の動きを検討していきたいと思います。ベイソンさん、お話をありがとうございました。
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