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Co-Create the Future
2023.05.12(Fri)
目次
高見逸平氏(以下、高見氏):最初にDDCとはどのような組織なのか、またデンマークの社会においてDDCはどんな役割を果たしているのか、伺わせて下さい。
ベイソン氏:ひと言で言うと「ナショナル・ラボ」です。1978年の設立から、デザインを、業種を超えた共創、複雑な社会課題解決、より良い方向への社会発展に資する有用な手段として捉え、さまざまな施策を実施してきました。この「デザイン」は工業デザイン、サービスデザイン、デジタルデザイン、インフラデザイン、イノベーションのためのデザインなど、幅広いデザインを含みます。
より根本的な社会の課題を発見し、デザインに何ができるかを考え、社会をより良い姿に向かわせるムーブメントや新市場をさまざまなステークホルダーと共に創造していくことが私たちの役割といえます。
高見氏:DDCがその役割を果たしていく上で、どんな姿勢・考え方を大事にしているのか教えてください。
ベイソン氏:1つは、すでに述べたように「デザインで社会に対してどのような価値・インパクトを生み出せるか?」を常に考えています。
そしてもう1つは、「Mission-driven approach(ミッション・ドリブン・アプローチ)」です。
「Mission-driven approach」では、まずデザインを通じて未来のあるべき持続可能な社会像を描き、今の社会がそこへトランジションしていくために達成すべき「ミッション」を定義します。そして、そのミッション周辺の新たな市場を探索し、さまざまなステークホルダーを巻き込みながら、その市場において国際競争力を高め、新規雇用と経済成長を促し、最初に描いた持続可能な社会を実現していきます。
DDCは社会を抜本的に持続可能でより良いものに変化させることをゴールと考えているため、基本的に単一の組織では解決し得ないような複雑な社会の課題に対し、長期的目線で、さまざまなプレーヤーと、クロスセクターで共創を行っていきます。
高見氏:複雑な社会課題を共創で解決し、より良い社会へのトランジションを戦略的に導く中心的な役割をデザイン組織が担っているというのはデンマーク社会ならではのユニークな点ですね。DDC自体はどのような形で運営されているんでしょうか?
ベイソン氏:DDCは日本の経産省にあたる「Ministry of Business, Industry and Financial Affairs」の傘下にある非営利団体です。ボードメンバーは、政府組織やデンマーク産業界から各2名、デザインコミュニティーから3名、アカデミアから1名など、さまざまな方面の代表者で構成され、外部組織とのパートナーシップおよびファンディングに基づいて運営されています。そのため、政府組織ではありますが経営的には独立性が高い組織です。また、プロジェクト単位で外部から資金調達を行うこともあります。
高見氏:社会課題解決に向けた共創を推進する上で、各界からボードメンバーが集められていることに、取り組みの本気度が伝わってきます。具体的にどのような共創プロジェクトに取り組まれてきたのでしょうか?
ベイソン氏:現在は「グリーントランジション」「デジタルトランジション」「ソーシャルトランジション」の3つの領域に注力しています。「グリーントランジション」では循環型経済、「デジタルトランジション」ではデジタル倫理やデジタル化に伴う社会的責任をテーマにさまざまな活動に取り組んでいます。「ソーシャルトランジション」では、若者のメンタルヘルス問題の改善を通じたより明るい未来づくりと、高齢化社会におけるポジティブなエイジングと生産的な働き方の検討を行っています。
例えば「Thriving youth」というプロジェクトでは、若者がメンタルヘルスに苦しんでいるという現状を鑑みて、彼らが社会におけるコミュニティの一員として生き生きと活躍できる未来像を描き、その実現のためにシナリオ設計を行いました。若者のメンタルヘルス問題を引き起こしている既存の社会システムの課題を整理し、新たなヘルスケアシステムの検討を進めています。
高見氏:「Mission-driven approach」における「ミッション」とはどのようなものでしょうか?
ベイソン氏:DDCが注力する3つのトランジション領域は非常に複雑で、巨大で、グローバルな領域なので、アクションのためには一度焦点を絞る必要があります。そこで必要になるのが「ミッション」です。社会に対してどのような変化やインパクトを生み出したいかという長期的なビジョンを描いた上で、いかに自分たちが現状の社会課題を抜本的に解決しながら目指すべき未来を実現していくか、ということをミッションという形でさまざまなパートナーとともに定義していきます。
高見氏:抜本的な社会変革に向けた課題と対応方針ということですね。では、プロジェクトの中で「デザイン」をどう活用しているのでしょうか?
ベイソン氏:私たちは「デザイン」を「Howに関するさまざまな思考・アプローチ・プロセス・ツールのセット」としてみています。何かに色や形を与える行為だけでなく、どう根本的な課題を発見するか? どう情報を構造化するか? どう創造的なプロセスを設計するか? そういった、あらゆるHow(どうやるか)に対し、デザインの方法論や知見は有効です。また、Howを明確にできるが故にコラボレーションを促進する力もあります。
また、DDCは、デザインの可能性そのものを探求する役割も同時に担っているため、先ほどの3つのトランジションの実現に向け「新たなデザインの活用方法を実験し、学び、知見を共有する」こと自体も我々の仕事です。その際に自分たちが新たに生み出したデザインの活用方法をツール化するなどして、形式知化し、我々が先端的にデザインを通じて課題解決していく方法やプロセスを他の人たちが再現できるような工夫も行っています。
塚原章裕氏(以下、塚原氏):DDCのプロジェクトの中で「エシックス(倫理観)」をテーマとしているものについてもお聞きして良いでしょうか?
KOELは「愛される社会インフラをデザインする」を組織ビジョンとしても掲げています。社会的に大きなインパクトのあるものをデザインしていくにあたって、「エシックス(倫理観)」という概念に着目しており、ぜひお話を聞かせて頂ければ幸いです。
ベイソン氏:フィンテックやヘルステック業界などさまざまな分野の企業と協働して「Digital Ethics Compass(デジタルエシックスコンパス)」というツールキットをつくりました。製品やサービスをつくる際の企業の意思決定がより倫理的になるようにデザインされた、シンプルで実務的なツールです。「必要以上に、データを取りすぎてないか?長期間保管していないか?」など、いくつかの問いかけを行い、企業がしようとしていることへの内省を促すと同時に、共創のステークホルダー間で遵守すべきエシックスの考え方について共通認識を生み出すことができます。
「Digital Ethics Compass」は、DDCのWebサイトで誰でも自由にダウンロードできます。また、このツールを用いた、企業研修なども行っています。
(https://ddc.dk/tools/toolkit-the-digital-ethics-compass/)
塚原氏:「Digital Ethics Compass」の作成に至った背景について知りたいのですが、DDCが企業にエシカルな意思決定を促す必要があると考えた理由について教えて頂けますか?
ベイソン氏:TikTokがデンマークを含めたさまざまな国から追い出されている事例が象徴するように、恐ろしいテクノロジーの使い方をすれば、それを行った企業やプロダクトは孤立していきます。それは持続可能なビジネスではありません。
「これができるか?」だけでなく「やるべきか? やることが正しいのか?」を問う姿勢が必要です。現代において競争力のある企業は、デジタル化において倫理や社会的責任を考慮できる企業であり、循環型経済を実現できる企業であり、若者が生き生きとしている社会を実現させられる企業です。
競争力について考える時、持続可能性の視点が必要不可欠であり、その持続可能性を担保するのがエシカルな意思決定であると考えています。
塚原氏:確かに、エシカル“でない”意思決定の先にあるのが「孤立」であり、それが事業としての持続可能性や競争力に影響してくるというのは大事な視点ですね。
特に我々のように「共創」を掲げる企業が「孤立」してしまっては持続可能性や競争力を高めるどころか、そもそも何もアクションが取れない状況に陥ってしまう可能性もあるので、エシックスという概念についてより深く理解する必要性を改めて感じました。
後編では、「社会課題に向き合う上で求められるエシックスの考え方」や「社会課題解決に向けた共創のあり方」の2点について、3者で考えていきます。
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