Manufacturing for Well-being

2023.03.22(Wed)

DXだけでは実現しない?
日本のものづくりを現場からもアップデートする
「Smart Factory」とは

#AI #スマートファクトリー #データ利活用
超高齢社会の到来に加えて、世界的な気候変動による資源の枯渇やエネルギー問題、戦争、パンデミックなどの不安要素が日本の産業に長期的なダメージをもたらす可能性が指摘されています。特に基幹産業である製造業に与える影響は計り知れません。NTTグループはこれらの課題に対し「スマート化」という手段で解決に取り組んでいます。その最前線に立ち、製造業・建設業におけるDXを推進しているNTTコミュニケーションズ(以下、NTT Com) Smart Factory推進室の松島圭佑、Smart Worksite推進室の工藤佑允、川路尚子、NTTコムウェアの田中利享氏に話を聞きました。

目次


    日本の基幹産業、製造業が抱える課題

    —Smart Factory推進室は2020年7月に設立されたとのことですが、立ち上げの背景について教えてください。

    松島圭佑(以下、松島):当時から当社は、DXの実現によってさまざまな社会的課題が解決されて、個人や企業、そして社会が持続的に成長していくことができる「スマートワールド」という未来像を描いています。この構想の流れで「製造業のデジタル変革により貢献できる組織」をつくろうということで立ち上がったのが当推進室です。製造業以外にも、広義では同じ「モノづくり業界」とも言える建設業界のスマート化に取り組むSmart Worksite推進室など、8つの分野で推進室を設立しています。また同じ「ドコモビジネス」ブランドを担いつつ、製造業向けにも多くのソリューションを展開しているNTTコムウェアとも連携しながら社会・産業DXに取り組んでいます。

    Smart Factory推進室が目指しているのは、生産・製造現場のデジタル化/スマート化に取り組みつつ、その製造現場から収集したデータを企業内の他の組織やシステムに連携させることで、経営判断の高度化や生産性の向上を実現することです。さらにはサプライチェーン全体をデータ連携してカーボンニュートラルなどの環境分野にも貢献していく新しい製造業のあり方も実現したいと考えています。

    また、ウクライナ危機およびパンデミックによる原材料の高騰やサプライチェーンの分断リスク、少子高齢化による人手不足といった社会課題も表面化しており、こうした課題を解決しながら、製造業をアップデートしていくことも私たちのミッションです。

    松島圭佑|Smart Factory推進室

    「Smart Factory」の全体像

    —なるほど。具体的にはどのような進め方で構想の実現を行っていくのでしょうか。

    松島:ファーストステップを製造現場のデータ収集、セカンドステップを収集したデータの企業内での利活用とし、サードステップで生産現場のデータを社内の別の拠点や基幹システムと連携させるという3段階で考えています。

    サードステップでは、セキュリティを担保したうえで取引先を含めたサプライチェーン全体にデータを流通させ、1社では対応しきれないカーボンニュートラルなどの取り組みにつなげ、新しい社会課題に対してアプローチできる仕組みを整えたいと考えています。

    では、そうしたプロセスをどのような方法で実行するか。Smart Factoryの考え方は、システムの部分導入ではなく「業界全体で取り組むべき課題への対応」「企業として強みであるコアコンピタンスへの支援」「データ利活用を促進するための安全性の担保」という3つの視点で構造を見直すというものです。

    この3つの視点に基づいたテクノロジーのモデルも構想しています。業界全体で共通の課題を解決する基盤となる「業界協調型デジタルプラットフォーム」、各社それぞれの強みや競争力強化をデジタルで実現する「DX Solution」、そして秘匿性の高いデータを安全に流通させる仕組みとなる「with Trust」です。

    業界協調型デジタルプラットフォームとは、カーボンニュートラルのような業界全体が普遍的に取り組んでいくべき領域を支援する基盤です。一方DX Solutionは、各社の競争の源泉に関わる部分をAIやデータ分析などNTTグループの技術を駆使してさらに伸ばしていく取り組み。そしてwith Trustは、データの所有権を担保したうえで、データを共有した後のトレーサビリティを実現したり、データの信頼性を保証したりといった安心・安全なデータの流通・利活用を可能にする仕組みです。

    デジタル変革から取り残されがちな「最前線の現場」

    —NTTコムウェアやSmart Worksite推進室では、業界のスマート化を進めるにあたってどのような課題を感じていますか。

    田中利享氏(以下、田中氏):製造業や建築業などが抱える現場は、なかなかDX化が進んでいない、と言われています。私たちNTTコムウェアは、こうしたフロントラインワーカーと呼ばれる最前線の現場で働く方々のDX化を進めたいということで取り組みを進めていました。日本はDX化が遅れていると言われますが、本社の企画部門などはDX化が進みつつあります。しかし、ある調査によると「日本の製造業のフロントラインワーカーは世界的に見ても突出してストレスを抱えていて、その一因がDXの遅れ」という結果が出ているほど、現場のDX化が取り残されているんです。

    このフロントラインワーカーの現場のコミュニケーションをデジタルで支援することで、最前線の働き方改革に貢献します。こうした現場改革はSmart Factoryにおけるデータ利活用に寄与し、最終的には経営に資するソリューションになっていくと考えています。現場の働き方という業界課題を入り口にして一気通貫でスマート化を実現できるのがNTTグループの総合力だと思います。

    田中利享|NTTコムウェア ビジネスインキュベーション本部 ビジネスインキュベーション部

    工藤佑允(以下、工藤):私はSmart Worksite推進室で建築分野を担当しているのですが、建築業界で働くフロントラインワーカーには高齢の方も多くいらっしゃいます。スマートフォンに不慣れな方も多く、デジタル化が浸透しないというところも大きな課題です。

    工藤佑允|Smart Worksite推進室 主査

    川路尚子(以下、川路):私が担当している土木分野では、熟練の技術を持った職人さんたちの技術やノウハウをいかに汎用的に継承可能なものにするかが課題です。経験や勘によって支えられてきたノウハウやスキルをデジタルによって可視化・共有化していく必要があります。

    川路尚子|Smart Worksite推進室

    スマート化によって「ウェルビーイングな働き方」も実現

    —スマート化がそうした現場の課題を解決していくことで、働き方そのものも変化していくのでしょうか。

    松島氏:デジタル化が進むことによって、今まで手書きだった業務、集計業務などのルーティンワークから解放されます。そこで浮いた稼働時間を付加価値を高める業務に転換できるので、それが社員の「働きがい」につながることが期待できます。

    また、デジタル化が進むことによってミスが起こりにくくなります。現場におけるミスやトラブルの可能性を減らすことは、心理的安全性にもつながり、ストレス軽減に貢献できると考えています。

    工藤氏:ペーパーワークが減ることで、現場の効率化、省エネが期待できます。実際、ある建設現場でタブレットを導入してペーパーレスにしたところ、大型の複合機が不要になったことで事務所の電力使用量が下がり、使用する電力全体を太陽光発電でまかなえたという例もありました。

    田中氏:NTTコムウェアは電話やチャットなどのコミュニケーション分野も得意領域なので、業務システムのようなかっちりした仕組みだけではなく、暗黙知やナレッジを共有したり、気付きや感謝を伝えたり、会話を促したりするアプリを提供し、現場の満足度が高まる環境をつくりたいと考えています。それによってウェルビーイングへの道筋ができることを期待しています。

    さまざまな業界で進むスマート化

    —皆さんが実際に提供している具体的ソリューションはどういったものなのでしょうか。

    松島氏:Smart Factoryの全体像でも申し上げた「データの収集と利活用」という分野では、例えば「ドコモIoT製造ライン分析」という、工場の設備機械に振動センサーを取り付けて稼働状況を可視化するIoTソリューションがあります。

    製造設備の稼働データは紙で管理されているケースも多いのですが、振動センサーで正確かつリアルタイムに稼働状況を可視化することでボトルネックの早期発見につながり、生産性の向上も期待できます。中小企業のお客さまでも手の届きやすいリーズナブルな価格設定になっていることや現場にデジタルに詳しい人がいなくても簡単に導入できることも大きな魅力で、全国のさまざまな工場で導入が進んでいます。

    また、化学系のプラント設備をAIが自動運転する「AIプラント運転支援ソリューション」というソリューションもあります。プラントの各種センサーから取得した温度や圧力などのデータと、運転員の過去の操作履歴より運転員の操作を学び、AIがプラントを自動運転するものです。(関連ウェビナー

    これにより、運転員が持つ独自のノウハウの活用や手動運転の削減などを実現することができ、運転員の確保や技能伝承、操業の効率化における課題の解決に貢献します。また本ソリューションは、AIに操作業務をすべて委託するのではなく、人とAIが協働しAIが人の技能を学ぶことで運転員のパートナーになっていくような仕組みです。運転員が自身の技能についてAIを通じて残していくことにモチベーションを感じ、AIに教えながらいきいきと働くことが出来ると考えています。

    川路氏:土木現場では、2021年にNTTドコモと小松製作所で設立したEARTH BRAINから提供するソリューションによって建設現場の生産性や安全性の向上を支援しています。

    その1つである「SMART CONSTRUCTION Retrofit」は、お客さまが所有している既存の建設機械に後付けでセンサー類を付けることで建機をICT対応できるソリューションです。これにより経験や勘ではなく、アプリ上で「あと何センチ掘削すれば良いか」ということが可視化され、現場の生産性向上や人手不足対策に寄与することができます。

    SMART CONSTRUCTION Retrofit

    もう1つ好評なのが「Quick 3D」というソリューションです。これはLidarが搭載されたiPhoneやiPadで現場を撮影することで、3次元の点群データを生成できるものです。写真を撮るだけで簡単に3次元データを生成できるので、土木工事における検査工程の生産性を高めることができます。

    工藤氏:建築分野におけるソリューションとしては、竹中工務店との協業で開発した「ドコモ建設現場IoTソリューション」があります。

    これには8つの機能がありますが、そのうち2つの機能を紹介します。1つは「KYアシスト」で、現場で日々行われている危険予知活動(KY)を支援するソリューションです。過去の事故事例の蓄積データを作業員が使うスマートフォンやタブレットに共有することで、KY活動の安全意識を向上させます。通常だと、KY活動においてKYシートは紙で作成されて口頭で伝えられることが多く、周知が形骸化しがちなのですが、KYアシストでは過去の事故事例を活用することで、危険作業に関する気付きを与えることが可能です。導入している現場の方からは「危機意識が向上した」という声を多くいただいています。

    KYアシスト

    もう1つが「段八プラン」と呼ばれるものです。建設現場で使われる用語で「段取り八分」という言葉があります。これは「建設現場の仕事の8割は段取りである」という意味です。段八プランは、これまで個別で行っていた現場への労務や機材、資材の手配、およびその状況把握を可視化し効率化するソリューションです。現場に入っている協力会社に作業予定の情報や実績となる日報を記録してもらうことで、歩掛かりの可視化もできるようになってきます。

    田中氏:NTTコムウェアでは「CollaboWorkSolution」というソリューションを展開しています。具体的には製造業向けの「プラントコラボ」や建設業向けの「ゼネコンコラボ」といったかたちで各分野の現場に特化したアプリケーションをリリースしています。製造業における生産プロセスおよび生産ラインの管理者の約7割は、設備の故障やトラブル時の対応に課題を抱えているといわれています。プラントコラボは、製造設備を運用している工場内の保全員と運転員間でのタスク進捗管理・ノウハウなどの暗黙知を含む情報共有を実現し、収集した情報を、設備管理データなどの情報と紐づけて統合します。これらを分析し、故障予兆を把握し事前に点検整備することで故障予防や保全計画に反映させ、工場設備の長期的な安定稼働に貢献します。また、「ベテランへの質問」や「運転員と保全員の情報共有」など、これまでデータ化されていなかった暗黙知情報をチャットによりデータ化することで、保全業務のノウハウ継承を支援します。

    ゼネコンコラボは「建設現場」にかかわる「人」「情報」「時間」をデジタル技術でつなぎ、様々なコラボレーションを通じて業務効率化および生産性向上を実現するサービスです。建設現場の中でも現場監督は業務が多岐に渡るのに加え、複数の関係者との適切なコラボレーションが不可欠であり、そのマネジメントが非常に煩雑となっています。ゼネコンコラボを利用すると、現場監督は管理する作業毎に関係者と連携するための場を生成することができ、連動して自動生成されるチャットルームや映像通信でコミュニケーションを行うことで、伝達ロスや現場までの移動時間を削減することができます。他にも、別々のチャットサービスを跨いでルームを作れる機能や、位置情報を用いて必要な現場だけで閲覧できるドキュメント配信機能等により、現場監督の業務をサポートし業界課題となっている長時間労働の改善を目指しています。

    理想的なスマート化のための次の一歩

    —すでにさまざまなソリューションが実装段階にある一方で、さらなるスマート化を進めていくためには、どのようなネクストステップが必要であると考えていますか。

    松島氏:製造業のデジタル化はまだ発展途上です。まずすべきは、私たちが開発しているソリューションをスピーディーにお届けするためにお客さまとのコミュニケーションを強化すること。同時に、現在開発中のサービスについてもお客さまと共創するかたちでPoCを展開し、本当にお客さまが求めるサービスのかたちにつくり込んでいくことです。

    工藤氏:建設業界のスマート化において私たちが取り組むべきは、まずはデジタル化に対するハードルを下げることだと考えています。先ほどもお話ししたように、スマートフォンにさえ苦手意識を持っている方がたくさんいる業界なので、たとえばIDとパスワードではなく顔認証カメラを使った認証システムを導入したり、国交省が支援している建設業キャリアアップシステム(CCUS)との連携を進め、セキュリティが保たれたシングルサインオンによる認証システムの導入も重要になると考えています。

    川路氏:国土交通省はICTの活用を推進する「i-Construction」を掲げていますが、土木業界でもICTの活用はまだ浸透していない現状があります。まずは私たちのソリューションを通じて、ICTを活用した工事を進める支援を行うことが第一歩だと考えています。

    田中氏: Smart Factory推進室やSmart Worksite推進室の取り組みと連携して、NTTコムウェアのソフトウェア技術を発揮していきたいと思います。モノに加えて、ヒトを起点としたデータの流れをつくることで、未だ3Kとも言われるような最前線の現場をウェルビーイングにするような価値創造ができると考えており、両者との連携をさらに深めていきたいと思います。

    松島氏:製造業は日本の基幹産業ですが、労働力人口の減少はどうしても避けられない状況にあります。そのなかでSmart Factoryは、現場の環境下において日本の製造業を底上げできる数少ない方法論だと捉えており、日本の製造業をもう一度高いレベルに引き上げることができると思います。そして、それが働く人の意識の変化にもつながっていくことを目指しています。