Co-Create the Future

2023.02.01(Wed)

“第二の開港”が近づく成田空港。地域との共栄で生み出す航空産業の新たな価値

#共創 #スマートシティ #公共
2029年に3本目の滑走路新設が予定される成田空港。コロナ禍による影響を受けながら、2030年の訪日旅客数6,000万人を目標に、日本と世界をつなぐ玄関口としての存在感は高まっています。航空業界の発展と課題について、成田国際空港株式会社の鮫島克一氏と河北雄樹氏、NTTコミュニケーションズ(以下、NTT Com)の千葉栄一と川島美由紀に話を聞きました。

コロナ禍、滑走路新設。成田空港が迎えた激動の時代

―まず航空業界を取り巻く現状について聞かせてください。また、2029年に3本目の滑走路新設が予定されている成田空港の課題があれば、教えてください。

鮫島克一氏(鮫島氏):既知のとおり、コロナ禍を境に航空業界を取り巻く環境は一変しました。コロナ禍以前は、日本政府として6,000万人の訪日外国人旅客を迎える目標を掲げ、成田空港もインバウンド旅客の受け入れ拠点として、業績は拡大基調にありました。

鮫島克一|成田国際空港株式会社 経営企画部門 経営計画部 戦略企画室 マネージャー
入社以降、非航空収入拡大に向けた空港内店舗管理、国際線ネットワーク拡大に向けた航空会社に対する路線誘致活動、成田空港のノウハウを活用した東南アジアでの空港プロジェクトなど幅広い業務に従事。2021年より現部署で空港の機能拡張に合わせた空港周辺地域の発展に向けた取り組みに参画。

ところが、コロナ禍以降は人々の国際的な往来が遮断され、国をまたぐ需要が完全に蒸発するような状況に直面しました。右肩上がりの状況から一転、業績面でも突如として追い込まれる状況になったのです。

また成田空港のこれまでの事業は基本的に空港内で完結するものがほとんどであったため、地域住民や自治体をはじめとした地域との関係も、航空機の騒音対策をはじめとする環境対策・地域共生策の着実な実施が中心となっていました。

しかし今後の空港と地域のあり方を考えた際、これまで行ってきた環境対策・地域共生策だけでなく、それらに既存の枠組みにとらわれないビジネス視点も導入し、自立的かつ持続可能な課題解決を通じて、空港が地域と一体的に発展する姿を描かなければなりません。

さらに、空港で働く従業員の確保についても課題があります。3本目の滑走路新設により、航空機の発着容量は現在の年間30万回から、約1.6倍以上の年間50万回にまで増加する予定で、増加する発着回数に比例して従業員数も増やしていかなければなりません。

最新の調査では、空港内で約4万3,000人の従業員が働いていますが、今後、発着回数が容量いっぱいの年間50万回にまで増えた場合、空港内の従業員は7万人程度必要と試算されています。空港として引き続き安定的な運用を実現するためには、約2万7,000人もの従業員が新たに必要とされるなか、少子高齢化にともなう日本人の生産年齢人口の減少もあり、空港の運用を担う労働力の確保は喫緊の課題として考えられます。

これらの状況を踏まえると、成田空港の中だけに目を向けるのではなく、地域の魅力・資源と成田空港とのシナジー効果を最大化するために、今後増加することが予想される成田空港の従業員が安心して住める「まちづくり」と、地域との共存・共栄を目指すため「地域づくり」を意識することが必要となるのではないでしょうか。

成田国際空港より提供

河北雄樹氏(以下、河北氏):私たちはこれまで、騒音対策など空港が地域にもたらす負の面に目を向けてきましたが、一方で、成田空港はマイナス面ばかりではありません。頭上で飛行機が飛び立っていく迫力のある風景をはじめ、空港というコンテンツは想像以上にポテンシャルを秘めているはずです。そのポテンシャルを生かし、やり方次第では新たな事業やサービスを生み出すことも可能ではないかと考えています。

河北雄樹|成田国際空港株式会社 経営企画部門 経営計画部 戦略企画室 アシスタントマネージャー
2009年入社、保安検査場の運用改善や航空会社に対する路線誘致活動などの業務を担当した後に、航空会社の海外支店への出向を経て、現在は空港の経営戦略策定を担当。空港の機能拡張に合わせた空港周辺地域の発展に向けた取り組みに従事。

千葉栄一(以下、千葉):NTT ComとしてもこれまでオフィスビルなどをはじめとしたICTの提供は数多く経験してきましたが、先ほど鮫島さんがお話ししたような空港周辺地域の共存・共栄まで視野に入れた地域づくりに携わるのは初めての挑戦になります。今回、成田空港のグリーンフィールドからの立ち上げプロジェクトに協力でき、非常にうれしく思いますね。

千葉栄一(左)|NTT Com スマートワールドビジネス部/スマートシティ推進室/主査、川島美由紀(右)|NTT Com 第三BS部/ビジネスデザイン部門/第二グループ/OPEN HUBカタリスト

2040年の未来から逆算して生み出す“Naritaならでは”

―両社は空港や航空産業、地域の未来像を描く共創ワークショップを開催しています。ワークショップの様子や議論された内容について聞かせてください。

川島美由紀(以下、川島):ワークショップは「成田空港従業員を中心としたまちづくり事業コンセプト設計」と題し成田空港さんのさまざまな職種の従業員の方々と OPEN HUBカタリスト・スマートシティ推進室を中心としたスマートワールドビジネス部のメンバーで実施しました。

コンセプト設計では、2029年に新設される3本目の滑走路を起点とし、そのころの空港のあり方や空港周辺地域の未来像が最大のポイントでした。そのため、もう一歩先の2040年の未来はどうなっているかを思い描くところからはじめ、そこからバックキャスティングしていく形で議論を進めました。

身近なことだけでなく、将来の子どもたちや社会について思いをはせながら検討したことで、アイデアや課題もより具体化できたのではないかと思います。

千葉:ワークショップの初回が未来について話し合う「未来検討会」で、2040年の未来を想像することがすべてのベースになっていましたね。また、回を重ねるにつれ、課題と実現のギャップを埋めていくためのアイデアもご提案できたのではないかと感じています。

河北氏:ワークショップで空港周辺地域の未来像についての議論もありましたが、実は当時は社内でも空港周辺地域の未来像に対するイメージがまとまっていませんでした。伝え方や表現によって捉え方が異なり、それぞれの考えが微妙にすれ違っていました。そこで、一旦外部の視点や考え方を交えて検討する必要があると考え、 OPEN HUBカタリストとの共創ワークショップをお願いしました。

実際に未来からのバックキャスティングで考えることによって多くの気づきがありました。少なくともワークショップに参加したメンバー間では、空港従業員を中心としたまちづくりとそこを起点とした空港周辺の地域づくりの未来像に対してどのようにアプローチをしていくべきかイメージができてきたと思います。

鮫島氏:例えば2040年はノマドのように定住しない世界観が広がっているという予想がありました。定住しないのであれば移動は必須であり、私たちとしても提供できる価値があるはずといった気づきです。

「未来検討会」は、空港がそうしたトレンドを取り入れながら発展していく必要があると強く認識させられたテーマでもあり、私たちとしても日々の業務では取得しにくい情報を得られただけでなく、参加メンバー内で共通認識も構築できたことは非常に有意義でしたね。

川島:今回のワークショップでは議論の結果をビジュアル化していく、ビジュアルレコーディングという手法を取り入れたことが、共通認識の構築に役立ったように思います。ビジュアルを見ながら議論を深められ、最後は参加者それぞれが思い描いていたものが共通的なアウトプットで一致するため、合意形成も図られたのではないかと思います。

また、ワークショップは1日目が未来からのバックキャスティングで、空港従業員の理想の働き方や、航空産業に必要な変化、住みたくなる地域について議論しました。そして、そこから生まれたテーマを2日目に深掘りして、将来像と現在の課題とのギャップから取り組むべき課題について議論しました。実際は、従業員に働きがいを提供する仕組みづくりや従業員の働き方を改善するテクノロジーの活用、今後実用化が見込まれる「空飛ぶ車」の活用など、具体的かつ幅広いテーマで議論が深められたと感じています。

河北氏:ワークショップで共通していたのは、成田空港周辺を起点とした地域づくりをするなら、“Naritaならでは”のものにしようということ。ただ、“Naritaならでは”という答えを、実は私たちがはっきりと持っていないことも課題として浮き彫りになりました(ここでのNaritaは成田市を指すものではなく、空港周辺地域を指すものとしてNaritaとして表現)。

そもそも空港がある地として語られるNaritaの定義は、成田空港なのか、成田市なのか、あるいは空港周辺地域なのか、東京も含まれるのか参加者によって捉え方はバラバラでした。もちろん、私たちだけでなく、国や県、自治体も含め、Naritaの定義はバラバラなのかもしれません。それだからこそ世界から見たとき、国内から見たとき、首都圏から見たときでも、それぞれ答えは変わってくるのではないか、という話も印象に残っています。

鮫島氏:首都圏でいえば羽田空港もあり、同じ空港でも羽田と成田では特徴は異なります。まちづくりやその先にある地域づくりを進め、空港としての価値を高めていくにあたって、“Naritaらしさ”や“Naritaならでは”は欠かすことのできないポイントで、今回のワークショップでその点を議論できたことは収穫でした。

千葉:ワークショップを通じて、周辺住民や自治体との共生を重要視されている姿勢が印象的でした。地域の方々と丁寧に合意形成をしていくという点は大変勉強になりましたね。

川島:Naritaは成田空港、成田山新勝寺など多くの名所があり、日本でも名の知れた土地です。それだけに改めて“Naritaらしさ”とは、というキーワードが出てきたことに少なからず驚きがありましたが、それはNaritaという土地が多くのポテンシャルを秘めている表れとも言えるかもしれません。

鮫島氏:おっしゃっていただいたように外から見れば新鮮に映る点があるということは、私たちにとって新たな発見とも言えます。

一方、課題として、社内でも空港および地域との共生・共栄にかかる取り組みを担う地域共生部以外は、地域との継続的な関わりが限定的という点が挙げられます。これまでも空港の運用時間の拡大など、地域の方々と話し合いの場を持ち実現してきましたが、今後は「空港周辺をどのように発展させるか」に関しても地域の方々と丁寧かつ継続的にコミュニケーションしながら考えていく必要があると思っています。

空港を起点に地域の課題解決を。“第二の開港”のポテンシャル

―地域との共創・共栄を図るために、周辺住民の方々との相互理解が重要かと思います。今後はどのような施策を考えていますか。

鮫島氏:成田空港周辺は、日本の他の多くの地域と同様に、過疎化による人口減少と高齢化の進展という日本の社会課題にすでに直面している地域でもあります。私たちとしても、空港を活用したまちづくりとその先にある地域づくりを通じて、いかに地域の課題解決に貢献できるか、地域の将来像をどう描くかが重要なポイントです。

ただし、地域の課題解決への貢献という意味での空港に対する期待は非常に大きなものがある一方で、空港は非常に多くのステークホルダーが関わる施設であることから、私たち空港会社だけで推進できる施策には限りがあるのも事実です。空港周辺のまちづくりやその活動の先にある地域づくりによる持続的な発展を考えていくには、空港会社だけでなく周辺自治体やNTT Comをはじめとする民間企業も含めた広域連携が必要であり、その意味でも多様なステークホルダーに参画してもらい共創していく観点は欠かせません。

そんななか、私たちとしては、これまで以上に密接に地域とのコミュニケーションを取りながら、空港があるからこそできる地域づくりの機運を醸成していくことが当面の目標になりそうです。

千葉:私たちNTT Comは、今までも多くの都市開発案件に携わってきましたが、従来はまちのコンセプトが決まってからICTベンダーというポジションでの参画が多かったのが現状です。しかし現在、ICTは単なるインフラを超え、コンセプトにも関わるような領域にも活用されるようになってきています。今回、成田空港さんがまちづくりやそこから派生する地域づくりにおけるICTの重要性をご理解くださり、コンセプトづくりの段階から我々に声をかけてくださったのを大変ありがたく思っています。

山あり谷ありが予測される今後の過程において、まずはしっかり伴走していきたい。鮫島さんがお話ししたとおり長期のプロジェクトになるため、私たちは新ドコモグループとして、地域づくりまで見据えたまちづくりの方向づけやその実現に向けた機運を高める活動に力を入れていきます。

―滑走路新設にともなう人員増加にあたって、魅力的な人材採用のための施策などは考えていますか。

河北氏:空港従業員が4万人強から7万人に増える場合、空港周辺にあるホテルや機内食工場産業を含めると、実は6万人近くの新しい雇用が生まれる予定です。ただ、6万人を周辺地域のみで集められるかと考えると、現実的には難しいと言わざるを得ません。

コロナ禍以前から人材採用は難しくなりつつあったので、今後は空港で働くことの魅力に加え、住むところとしての魅力、ワークライフバランスやウェルビーイングといった観点からの魅力も高めていかなければ、働く場として選んでもらえなくなるのではないか、という危機感があります。

川島:今後は今まで当たり前だった働き方が、大きく変化する可能性があります。一人ひとりに負荷をかけるのではなく、複数人で業務を担う分散ワークが主流になるかもしれません。ワークショップでは、多様な働き方に対応するため、ロボットや AI(人工知能)を活用するというアイデアも出ていました。

今後、ワークショップや地域との対話を積み重ね、アイデアを具現化していく流れになるかと思いますが、その過程でOPEN HUBを活用いただければうれしいですね。

OPEN HUBは多くの企業が参加しているコミュニティーでもあるため、課題解決に向けて、他企業も巻き込み、仲間づくりをしながら、未来への検討ができるのではないかと考えています。

―最後に10〜20年後に向けたビジョン、今後期待したいソリューションがあれば教えてください。

鮫島氏:まずは地域と連携して、まちづくりへ空港として貢献すること。これに尽きます。それをキチッと実現をしたいですね。

あと、空港周辺でも人口や産業の集積に地域間格差があるのも事実なので、地域を一体的に発展させていけるような地域づくりを実現していきたいです。個人的には、空港の持つポテンシャルを最大限活用して地域が抱える課題を解決することができればと考えています。

現在の戦略企画室に異動する前は、成田空港の運営ノウハウを生かした海外での空港プロジェクトに従事しており、そこでは空港だけではなく周辺も含めた開発にも携わる機会がありました。海外での空港プロジェクトでは、空港だけではなく、空港がもたらす経済効果を取り込んで周辺も含めた地域の一体的な発展を目指すとの考え方が広く浸透しています。

今後は空港を用いて地域の社会課題を解決できるモデルを構築することで、少子高齢化の進行で活力が失われるといわれる日本でも人口増を含めた持続的な成長を目指せる地域を実現し、将来的にはそれを「成田空港モデル」として海外での空港プロジェクトにおいて展開できれば理想ですね。

河北氏:滑走路新設は、空港用地や発着回数、従業員も約2倍となるため、“第二の開港”、あるいは新しい空港を作るといったスケール感になります。

これほどの巨大プロジェクトは今後の日本で再びあるかはわかりません。横浜が港町として栄えたように、Naritaも“第二の開港”によって空港という港町として発展する地域にしていきたいと思いますし、その中心にはきっと地域の方々や空港で働く従業員がいるはずです。

また私たちの事業では、人々や物の移動などフィジカルなものが対象となります。一方、NTT ComはICTの技術など、デジタルをビジネスの主軸にしています。正反対の立場の企業同士だからこそ、協業によって生み出せるものがあり、空港で働く従業員や地域の方々のウェルビーイングを向上できるのではないかと期待しています。

千葉:空港を中心にしたまちづくりやそこから派生する地域づくりのプロジェクトはおそらく日本では前例がなく、手探りで進めることになるため、当然壁にぶち当たることもあるはずです。私たちとしてはその道を伴走することで、ともに課題解決をしながらゴールまで進めればと考えています。

すべての根本にあるのは空港で働く人々の幸せ、地域に住む人々の幸せを生み出すことです。それを実現することを常に優先させて取り組みを進めたいですね。

川島:ゼロからのまちづくりを行う上で、地域との対話によって地域の意見や思いをいかに反映できるかがポイントになるはずです。私たちとしても、対話を促す仕組みづくりなど、貢献できる取り組みを続けていきたいですね。