Food Innovation

2022.09.21(Wed)

“食べる”ことの当たり前をいま一度問い直す―今読むべき「食」の本5選 前編

#サステナブル #環境・エネルギー #Foodtech
安全でおいしく、そして持続可能な食料生産や消費のあり方を問うために、私たちは「食」についてより多くのことを学ぶ必要があります。そこで、OPEN HUB の「Food Innovation」特集のイベントや記事に参加していただいた有識者の皆さんに、今読むべきオススメの一冊を紹介してもらいました。前編は、井出留美氏、岡田亜希子氏、大野次郎氏の3人です。

目次


    「豊かで持続可能な食は、土に目を向けることから始まる」-推薦者 井出留美

    「すべての命は土があってこそ」。そう述べるのは、農場経営者であり、気候変動対策として今世界で注目を集めるリジェネラティブ農業(環境再生型農業)の第一人者であるケイブ・ブラウン氏です。そんなブラウン氏自らが農業を経験し、土からの得た学びを「土の健康の5原則」としてまとめ、カーボン・ファーミング※ のメソッドとして凝縮した一冊が『土を育てる:自然をよみがえらせる土壌革命』です。
    ※土壌により多くのCO2を貯留させる農法

    この本では、やせた土地を回復させ、環境問題への対策にもつながる新しい農業のあり方を提唱しています。例えば、世界で広まりつつある不耕起栽培は、土を耕さずに農作物を育てることで、土壌の劣化を抑制するだけでなくCO2を土の中に貯留し大気中の温室効果ガスを減少させる効果があるとされています。

    環境に優しく、かつおいしいものをつくるためには土にこだわる必要がある、ということは見落とされがちなポイントだと思います。人はどうしても手っ取り早いかたちで成果を求めてしまいますから、土のような目に見えない部分に注意を払ってじっくりと向き合うということを避けてきたのだと思います。しかし、そうした根っこにある部分を変えていかないと実も大きく実りません。

    土のことを考え、ひいては地球のことまで考える。こういう考え方が今の日本の会社には必要なのではないでしょうか。一見無益に見えるけれど実はそれは将来の糧になる、そうした「不便益」についてこの本を通して考えみてください。

    井出留美
    食品ロス問題ジャーナリスト/株式会社office 3.11 代表取締役

    「マーケティングでは浮き彫りにならない論点を与えてくれる、痛快な一冊」―推薦者 岡田亜希子

    親しい人と食を共にする「共食」は、コミュニケーションを生む良い習慣であるとされています。しかし、共食だけが食生活のあるべき姿なのでしょうか。私が紹介する藤原辰史著『縁食論――孤食と共食のあいだ』は、私たちの「当たり前」に新しい視点で切り込み、改めて人にとって「食べること」とはどういうことなのかを、歴史学からひもといた一冊です。本書の中で提唱されているのは、「縁食」という新しい食のあり方です。

    例えば、両親が仕事に出ていて子供が1人で食事をする環境は「孤食」です。これについては、両親はなるべく家にいて食卓を共にした方が良いという考え方に今の社会は陥りがちです。対して藤原先生は、それは家族主義への甘えから来る偏狭な考えだと述べています。藤原先生が提案するのは、いわゆる子供食堂のような場所や、親しくしてくれるご飯屋さんや仲間を見つける「縁食」という考え方です。

    本書はマーケティングや消費者調査では浮き彫りにならないような観点から、多くの考えるべき論点を与えてくれます。例えば、藤原先生が説く「食の脱商品化」という考え方は、食品業界にとっては受け入れ難い提案かもしれません。しかし、そうした新しい視点の話に耳を傾けることで、食に対して私たちが持っていた「当たり前」を取り払うことができます。そして、そこで得られる幅広い視野の中に、昨今のフードテックやフードロス解消のヒントもあるのだと思います。「今、本当に求められているものは何なのか」ということを忌憚なく追求していく。そんな痛快な一冊です。

    岡田亜希子
    シグマクシス Research/Insight Specialist

    「培養肉について学ぶことで、食の奥深さを改めて思い知る」―推薦者 大野次郎

    2020年に発刊されたポール・シャピロ著『クリーンミート 培養肉が世界を変える』は、培養肉という新しい技術・産業を、開発者の背景を含めてかなり幅広く網羅している良著です。

    まず最初に述べておかなくてはならないことは「クリーンミート」という呼び名が英語圏ではすでに禁止されていることです。アメリカの畜産業界などが抗議したことで、現在は「Cultured Meat(培養肉)」で統一されつつあるようです。ちなみに、日本では培養肉の呼び名が一般的に使われていますが、こちらは消費者からの「違和感がある」という声によって、「細胞農業食品」への変更が業界から示されています。

    このように呼称すら固定していない新しい業界で、培養肉の技術や製品は多岐にわたるかたちで発展しています。この黎明期を幅広く、その立ち上がりの過程を含めて紹介していることに本書の意義があると思います。

    現在、培養肉の社会受容性について多くの意見が述べられています。実際に培養肉を食べる習慣を得る前から意見を述べる人が多くいるという事実に、改めて「食」の世界の奥深さを実感します。本書は、培養肉を起点に食について深く考えるきっかけを与えてくれる一冊です。

    大野次郎
    ダイバースファーム 共同創業者 CEO

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