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2024.04.20(Sat)
目次
――近年、企業内のコンタクトセンターではその役割が大きく変化しています。現状、コンタクトセンターは従来業務に加え、どのような役割を担うようになっているとお感じになっていますか?
堀雄一氏(以下、堀氏):企業によってコンタクトセンターの立ち位置は異なりますので一概には言えませんが、総じて「お客さまに対する企業側の窓口」であると同時に、お客さまの声を各部署へ届ける「コミュニケーションのハブ」としての役割が、改めて重要視されていると感じます。

高野展彰(以下、高野):顧客接点の質が企業の印象に直結する時代になったと感じています。だからこそ私たちはコンタクトセンターを単なる顧客対応の窓口ではなく、CXの起点として捉えています。

――では昨今、コンタクトセンターが直面しているのはどのような課題なのでしょうか?
佐々木美穂(以下、佐々木):人員不足や賃金上昇などの影響から、応対の品質や応答率の維持には苦労されているコンタクトセンターが多いと感じています。加えて、電話だけでなくメールやチャットボット、ボイスボットなどの多チャネル化がコンタクトセンター業務を圧迫している側面もあると思います。あらゆるチャネルからのご連絡に対応するため、それぞれのチャネルにあった人員配置や教育、フォローをしなければならず、コスト負担が重くなっている現場が多いのではないでしょうか。

高野:そのようなコストに加え、コンタクトセンターにおける人材の流動性も課題です。コンタクトセンターで経験を積んだ方が、条件に応じて他社に転職するケースは少なくありません。
原田真志氏(以下、原田氏):働き手の側から見ると、ボイスボットやAIが自らの仕事をどれくらい脅かすのかという点と、あるいはどれくらい便利になるのかという点の間で揺れているとも感じます。つまり、企業側と働き手側の双方に異なる課題が顕在化していると考えています。

――そのような状況を背景に、コンタクトセンターはどのような転換点にあるとお考えですか?
高野:クラウド化、オムニチャネル化が多くの現場で前提となり、これまで人だけで運営していたスタイルから脱却しなければならないという転換点にあります。生成AIを活用したCX向上と、コンタクトセンター運営の効率化という2つの目的を見据えなければならない転換期とも言えるでしょう。CX向上のための施策によって迅速な対応が実現すれば、お客さまのストレスは軽減します。ただ、いくら迅速でも素っ気ない対応であれば、お客さまは「自分に寄り添ってくれていない」と感じるかもしれません。応対の効率化とCX向上は、相反する目的と言え、双方を両立させる難しさに直面していると感じます。
原田氏:昨今では急激な生成AIの進化に加え、製品の選択肢も増えました。一方でシステムが進化しすぎたことによって、AIやシステムに何を任せ、人は何を行うべきかという点で、不透明さが増しているとも感じています。そのような状況下、当社で言えば、システムを上手に運用する人材の育成支援であるとか、得られたデータの分析や対応改善に結びつける道筋を作ることに注力しています。
――生成AIと人がどのように業務を分担し、どう融合させるべきかについて、どうお考えでしょうか?
佐々木:頻度が高く定型的な問い合わせや手続きはAIに任せ、複雑な対応や個々のお客さまに合わせた高度な対応は人が行うのが理想です。それぞれのお客さまを認証した上で、これまでの履歴などをもとにボイスボットがパーソナライズされた応対を行うというステップも始まっています。とはいえ、難易度の高いご相談や高価格帯の商品購入時の相談であったり、ご高齢者様とのコミュニケーションであったり、人が担うべき応対はまだまだ残っています。
原田氏:1時間もかけてお客さまのお話を傾聴し、心の声に寄り添うべき相談窓口や、事故対応の際に安心感を与えるため、「お怪我はありませんか」といった人間味のある一言が必要な現場もあります。また、不正なカード利用などを電話口で察知するため、相手の言い淀みや人間特有の勘といったものが役立つ現場もあるでしょう。こう考えると、人が対応すべき領域はたくさんあると感じます。
堀氏:声のトーンや間の取り方など、実は文字情報では伝わらない情報がたくさんあります。ただ文句を言いたい、ありがとうの気持ちを伝えたいというお客さまもいるでしょう。すべてをボイスボットに任せるには、音声認識や感情分析、発話のコントロールなど、現状の技術ではまだ難しい部分があります。結論として、人が担うべき領域はまだたくさん残されています。また、生成AI活用を検討する上で、お客さまがなぜコンタクトセンターへ連絡してくるのかという視点も欠かせません。わざわざコンタクトセンターへ連絡するのは、他の手段では問題を解決できなかったからです。ですから生成AIを利用するにしても、まずはFAQやチャットボットなど、テキストベースで問題解決できる範囲を広げておくという視点も大切ですね。

――お客さまからの要望を振り分ける方法について、理想の形はありますか?
佐々木:私たちが導入を進めさせていただいている現場では、冒頭のアナウンスで「ボイスボットが対応します。オペレーターの対応をお望みの方は○番を押してください」とお伝えする設計ケースもあります。電話をかけていきなり機械の音声が流れると途端に電話を切る方は少なくありません。冒頭から「ボイスボットです」と一言入れるだけでお客さまの感じ方は変わってくるものです。
堀氏:確かに機械の音声を敬遠される方は少なくありません。一方で、人による応対よりロボットの方が気楽だという方も一定数、存在します。相手が人だと緊張するという理由から、ボットの対応が好ましいと感じる若い方は多いようです。あるアンケート調査では、ボットで問題が解決しない時、オペレーターにつないでほしいと思う人が3割しかいなかったという結果も出ています。そのため、ボットとオペレーターのどちらを選ぶかは、お客さま自身が選択できる設計が望ましいと思います。
――従来の自動応答(IVR)と、生成AIを活用したボイスボットでは、現状、どのような違いがあるとお考えですか?
原田氏:従来のIVRは、掃除機などが壊れてイライラして電話をかけると、まずは機械音が流れて「〇〇の方は1を、〇〇の方は2を」とプッシュボタンで選択を迫られます。このような流れは、コンタクトセンター側の都合であって、お客さまの都合を一切考えていません。ですから生成AIを活用したボイスボットでは、用件を言うだけで適切な手続きが進みますよという、ごく自然なコミュニケーションに戻っただけだと言えるでしょう。
高野:最後まで長いガイダンスを聞かずとも、加入や解約などのキーワードを発話することで適切な窓口へ即座にたどり着けることに、価値を感じるお客さまは非常に多いです。まずは適切な窓口へスピーディーに分配するという部分に生成AIを活用することでも、お客さまの満足度は向上します。
堀氏:ご指摘のとおり、接続先案内への生成AI適用は、早い段階で検討すべきだと思います。生成AIが登場する以前から、私はクライアントに「104(番号案内)を思い出しませんか?」とお伝えしてきました。
「104」では人と人との会話から始まり、電話番号の案内は機械音声が担っていました。こうした人と機械の協働が、生成AIの登場により、幅広い領域で現実的になってきたのだと感じています。

――生成AIを活用したボット導入において、企業が意識すべきポイントはどのような部分でしょうか?
佐々木:どの部分をボットに任せるかという設計だけでなく、その企業特有の応対を求める上で、ナレッジをどう整備するかがとても重要です。現在では、人が介在してデータを分析し、ナレッジを構築するのが一般的ですが、数年後には自動的にナレッジが循環して応対の精度が進化していくことになるでしょう。ただ完全なナレッジがすぐに出来上がるということではなく、一定期間、ナレッジを育てていくというプロセスも必要です。
高野:応対の根拠となるナレッジが正しく整備されていなければ、ハルシネーション(間違った回答を出力するリスク)につながります。ナレッジを正確に、フレッシュに保つために、さまざまな部署に点在しているデータや知見をまず集約することから始める必要があるでしょう。
原田氏:例えば「Aと聞かれたらA’と答えましょう」「Bと聞かれたらB’と答えましょう」という業務があったとします。この時、Aに対してB’と答えてしまうミスならまだしも、全く存在しないCという架空の回答を生み出して答えてしまうケースが、ハルシネーションのリスクです。100回のうち99回は正しい応対ができても1回は間違ってしまう特性がある以上、生成AIが答えられる範囲を厳しく制限し、言わばガチガチに生成AIを縛る必要も出てくるでしょう。生成AIはとても優秀ですが、一方で、初めから多くを任せるのではなく、企業側がしっかりと説明責任を負えるシステムとして設計、導入することが肝要かと思います。
――生成AIを導入さえすればコンタクトセンターの質が高まるわけではありません。なぜ生成AI導入が成果に直結しないのでしょうか?
堀氏:生成AI導入そのものが目的化され、生成AIをどのプロセスに導入すべきかという事前の検討が足りないケースは少なくありません。コンタクトセンターは定性的なテキスト情報がどんどん溜まっていく場所であり、生成AIの活用余地の大きい領域だからこそ、目的と適用範囲を明確にすることが重要です。適切な導入ができればコンタクトセンターの品質向上につながりますし、今後はコンタクトセンターで構築した仕組みを、社内の他部門や他領域にも転用できるようになるはずだと私は考えています。
高野:直面されている課題の解決に効果的な手段であるかをPoCを通じて評価しながら、生成AIの適用可能な業務を定めていくことが重要だと思います。生成AIは課題解決の手段の一つに過ぎないため、課題に合わせて適切にツールを選定し、ナレッジの整備、運用ルール、セキュリティの仕組みなどをコンタクトセンターの運営として回せる形で仕組み化することが必要です。ですから私たちは、ソリューションの提供からスーパーバイザーやオペレーターを含めたBPO提案、各プロセスの自動化まで一気通貫でお客さまに併走し、生成AIの実装を含めて支援しています。
佐々木:私は導入にあたって、3つのステップをお勧めしています。ステップ1では最も効果が実感できる応対部分へ試験的に導入し、ステップ2ではCRMや顧客情報など、他のシステムと連携させてパーソナライズされた高度な応対に移行。さらにステップ3ではナレッジを自動生成するためのデータ循環基盤を実現し、生成AIに自動学習をさせていきます。このようなステップに分けることで、お客さまにとって導入のハードルは下がり、かつ、効果も実感しやすくなると考えています。

――今後、進化したコンタクトセンターが企業変革の起点となる可能性は大きいでしょうか?
堀氏:コンタクトセンターは、お客さまと企業をつなぐ窓口であり、コミュニケーションのハブです。そこにはお客さまとの対話から得られる多くの情報が集まり、生成AIによって効果的に利活用できるようにもなっていきます。先日、とある企業のオペレーター向けに研修会を実施した際、「生成AIによって私たちの仕事はなくなってしまうのか」と聞かれました。私は「むしろ、仕事は増えていきます」と答えました。確かに現在担っている業務に限れば、人が行う作業は減っていくでしょう。一方で、技術が進歩すれば、従来は対面でしかできなかった対応もリモートで行えるようになります。その結果、これまでコンタクトセンターの業務ではなかった仕事も新たに加わり、コンタクトセンターが担う領域はむしろ広がっていくと考えています。
原田氏:お客さまへ多様な提案をするコンタクトセンターが、近未来の理想形だと私は考えます。例えば、家電が壊れた状態を人が認識するより先にIoTで検知し、スマホへの通知で「プロフェッショナルサポートと会話しますか? ボイスボットで交換手続きをしますか?」と選べるような状況です。このように、企業側のオペレーターの立ち位置はプロフェッショナルサポートとしてプロフィットを生むポジションに変わり、マネタイズに直結する高度な役割になっていくと思います。堀さんと同様、私もオペレーターの仕事は増えていくと考えていますし、その重要度は間違いなく増していくでしょう。
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