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Creator’s Voice

2026.04.08(Wed)

「AIネイティブカンパニー」になることが、事業の創造と新たな価値を生む
―並河進

連載シリーズ「Creator's Voice」では、さまざまなジャンルの有識者を招き、よりよい社会の在り方について探求していきます。第12回となる今回のゲストは、dentsu Japanのチーフ・AI・オフィサーとして多くの企業のクリエイティブやマーケティング活動におけるAI活用・開発に取り組む並河進氏。

新著『AIネイティブマーケティング 人、企業、AIの幸せな関係をつくる』では、AIを効率化の道具ではなく、創造性を高めてくれる仲間として活用する「AIネイティブ」時代における人、マーケティング、企業、社会にもたらされる変容を示唆しています。
「AIエージェントが第3仲間として人々に寄り添う時代になる」と説くその未来について、NTTドコモビジネスでクライアント企業向けにAIエージェントの開発・提案行うジェネレーティブAIタスクフォースの吉田裕則を聞き手に、お話を伺いました。

この記事の要約

dentsu Japanのチーフ・AI・オフィサーである並河進氏は新著において、AIが単なる効率化ツールではなく、創造性を高める「仲間」となる「AIネイティブ時代」において、人や企業や社会がよりよい関係性となるための課題と可能性を示唆しています。なかでも、企業が、新たな価値を生む「AIネイティブカンパニー」になるためには、AIを経営・業務・組織文化の中核に据えることと、既存業務への部分導入にとどまらず、業務プロセスそのものをAI前提で再設計し、自社データを蓄積して独自AIへ発展させていくことが重要と述べています。また、AIへの依存は思考を止めてしまう状態であり、人間側の専門性や判断力の成長が不可欠だと指摘します。AIエージェントも部分導入から共存、オウンド開発へと進み、今後数年はAI活用力による差が広がる過渡期ですが、最終的な競争力を決めるのは人間の思考力であると強調しています。

※この要約は生成AIをもとに作成しました。

目次


    「道具」から「仲間」へ―問われるAIネイティブパーソンへの変容

    吉田裕則(以下、吉田):並河さんは、電通のクリエイティブディレクターとして多くの企業のマーケティング支援を行いながら、企業と社会を結ぶソーシャルプロジェクトを得意とされ、その延長でAIの活用・開発にも取り組まれてきました。私自身も、お客さま企業に沿ったAIエージェントの開発や導入・活用提案を行っていますので、今回は「企業はどのように生成AIを活用する時代になっていくのか」という視点から、お話を伺いたいと思っています。

    並河進氏(以下、並河氏):『AIネイティブマーケティング』では、マーケティングプロセスそのものがAIによって進化すること、そしてAIが当たり前になる社会で人や企業の在り方がどう変わるのかを論じました。執筆当時から現在でも考え続けているのは、「使う人の能力によってAIの能力も決まってくる」ということです。

    吉田:「AIネイティブパーソン」の重要性ですね。並河さんは著書のなかで世代ごとのAIの捉え方の傾向を図解されており、私が該当するミレニアル世代は「AIにできないこと」を人間に求め「AIもデジタルも当たり前、と冷静に取り入れていく傾向が強い」と書かれていました。私も、日頃からAIソリューションを提案しながら、“人がすべきことは何か”を問い続けているので、まさにその通りだと感じました。

    世代によって異なるAIとの付き合い方 『AIネイティブマーケティング 人、企業、AIの幸せな関係をつくる』から転載

    並河氏:「AIは道具か、仲間か」という問いがありますが、私はその両方と捉えるべきだと思っています。効率化の道具としてAIを見るなら、「どれだけ時間を短縮したか」や「どれだけ成果を上げたか」が指標になる。一方、創造性を高めてくれる仲間として見るなら、「エンパワーメント」や「モチベーション」「心理的影響」といった軸が必要になる。現在は、多くの企業が社員の業務の道具としてAIを取り入れています。でも、理想は企業活動自体の仲間としても取り入れていくこと。道具として導入し、段階的に関係性を深めていくプロセスを踏めるといいのでは、と思っています。

    並河 進|dentsu Japanチーフ・AI・オフィサー/エグゼクティブ・クリエイティブディレクター/主席AIマスター
    コピーライター、クリエイティブディレクターとしてテレビCM制作やブランド開発を担当。2016年頃からAIとクリエイティビティの掛け算を模索し、2017年には電通デジタルにアドバンストクリエイティブセンターを設立。生成AI登場前から、予測モデルによる広告効果測定や自動生成ツールの実験などを行い、現在はプロモーションやクリエイティブ提案におけるAI利活用推進、クライアントのAIトランスフォーメーションの支援も行っている。

    AIネイティブカンパニーとは? 実現のための8ステップ

    吉田:著書のなかでは「AIネイティブカンパニー」というキーワードも挙げられていました。多くの企業が、いかにしてAIを上手く活用していくかを課題にしているなかで、これは非常に興味深いテーマです。改めて、AIネイティブカンパニーとはどんなものであると定義されますか。

    並河氏:AIを単なる道具ではなく、企業活動の中核に据えている企業がAIネイティブカンパニーだと考えています。経営・事業・組織・文化全体にAIが活用されている状態をつくり出せている企業。具体的には、AIネイティブな業務プロセスへのリエンジニアリングを企業の全領域で行い、AIネイティブな顧客を知り、そうした新しい顧客に対してより高い価値を提供し、さらにAIを活用したより良い社会変革を生み出していく会社のことです。

    吉田:「AIを活用する」と一言で言っても、人によってその捉え方には差があると感じています。というのも、私も日々の業務でさまざまなお客さま企業の方々と接していますが、既存サービスのAIを使いながら効率化の試行錯誤をしている方々もいれば、さらにそれよりも踏み込んで、我々がご提案するようなAIエージェントの導入をご検討される企業、さらには独自のAIエージェントを構築されている企業もあります。並河さんが定義されているAIネイティブカンパニーになっていくには、どのようなステップを踏んでいくべきなのでしょうか。

    吉田 裕則|NTTドコモビジネス スマートワールドビジネス部/ジェネレーティブAIタスクフォース
    さまざまな業界のコンタクトセンターへのAI導入を担当しながら、営業組織と連携し、金融系企業などに生成AIを活用したソリューションの提案・提供も行っている。

    並河氏:著書のなかでは8ステップに分けているのですが、前半のステップはどのような企業でもスムーズに移行できると思います。一部の社員が個人でツールを活用しているのが初期の段階で、さらに進むと、業務を効率化していたり、あるいは社内でプロンプトやノウハウが共有される文化が生まれていたりする状態になる。職人技というか、属人化していた業務をAIに学習させることができている企業も、このあたりに含まれます。次に進むと、AIエージェントの一部業務代替や、業務プロセス自体のAIによる再設計がされ始めます。

    ▼AIネイティブカンパニーへの8つのステップ
    ① AIパーソナル期 一部社員が個人レベルでAIツールを試し、業務効率化の実験が始まる段階。
    ② AIガバナンス期 AI利用の社内ルールやリスク管理、セキュリティ体制が整備され始める段階。
    ③ AIカルチャー期 プロンプトや活用ノウハウが共有され、AI活用文化が社内に広がる段階。
    ④ AI実装期 AIエージェントが業務を一部代替し、業務プロセスの再設計が始まる段階。
    ⑤ AI資産蓄積期 社内データや知見をAI資産として蓄積し、独自AI構築が進み始める段階。
    ⑥ AI創造期 効率化で生まれた余力を新規事業や価値創造に振り向ける段階。
    ⑦ AI共進化期 人とAIの協働データをもとにAIも人も能力が進化する循環が生まれる段階。
    ⑧ AIナラティブ期 AIが企業文化に溶け込み、ブランドの物語や価値として語られる段階。

    吉田:「AI実装期」あたりまでは進んでいる企業も多そうですね。

    並河氏:ここまでのステップを端的に説明すると、例えば10ある業務プロセスのうち1から3はAIが担い4から先は人間が行う、というふうに業務を割り振れるようになった状態です。ハードルが上がるのはその次のステップ5からで、「AI資産蓄積期」と名付けていますが、自社の強みとなるデータを蓄積し、独自のAI構築を始めていく段階。この段階に進むことができている企業はまだ少ないです。さらにその先は「AI創造期」「AI共進化期」「AIナラティブ期」へと進んでいき、AIが企業文化に完全に融合するナラティブ期に達した状態が「AIネイティブカンパニー」と呼べるのではないかと考えています。

    吉田:どのような意識をもつと、「AI資産蓄積期」以降のステップへ進んでいけるのでしょうか。

    並河氏:既存の業務プロセスの一部をAIに任せている状態を初期段階だとすれば、ステップを上げていくには業務プロセス自体を抜本的に変える必要があります。「そもそも、この業務はAI時代にこう変わるべきじゃないだろうか」という視点で業務を見直してみてもいいかもしれません。プロセス自体を変えることができない限り、AIの効果が限定的になると私は考えています。

    吉田:既存の業務プロセスにAIを差し込むのではなく、AIの時代に合わせた業務プロセスを一から発想すべきということですね。

    並河氏:そうですね。「そもそも、どうしてその業務をやっているのか」と、立ち戻って考えていくべきです。その視点を持てるかが、飛躍のカギなのではないでしょうか。

    吉田:「AI資産蓄積期」まで進んでいくと業務はどのように発展すると思われますか。例えば、私はコンタクトセンターのお客さまにAIソリューションを提供していますが、コンタクトセンター関連の業務で例えると、どんな未来が考えられるでしょうか。

    並河氏:例えばオペレーターの知見や暗黙知など、企業が持っているデータをAIに学習させ、独自のAIを構築するとします。その能力は、人間にはまだ及ばないかもしれません。でも人間の場合、どうしてもその日のコンディションというものがありますよね。どんなに優秀なスタッフでも体調が悪い日もあれば、業務が重なって手が回らない日もある。つまり、物理的・時間的な制約が人間の能力を有限にする場合があるわけです。ところが、AIはそうではない。そう考えると、人間の物理的な限界がボトルネックになって事業成長を止めていた部分があっても、それをAIに学習させることで成長の可能性が広がるかもしれません。

    「依存しないAI」とは?―人とAIの役割の再設計

    吉田:仲間としてのAIというお話で思い出したのが、弊社が大阪で行った実証実験でのエピソードです。実験では、梅田駅に生成AIを連携させた多言語対応案内ロボット「ugo」を置いて、往来客の反応を観測しました。その際、ロボットに「部下がけんかばかりしているけれど、どうしたらいいか?」と聞いている方がいて。AIが「AさんとBさんのそれぞれの言い分があると思うので、まずはそこを聞きながら進めていきましょうね」と答えたうえで、「遅くまでお仕事お疲れさまでした。明日も頑張ってください」と回答していたのです。すると、相談者の方が「そんなことも言ってくれるんだね。ありがとう」とお礼を言って帰られていました。ロボット相手でも、自分に共感してくれる回答があると反応が親密になってくる傾向を示す出来事だと感じました。

    Osaka Metro御堂筋線梅田駅で行われた実証実験の様子(2025年1月15日から2025年3月15日まで実施)

    並河氏:なるほど。AIは人間による応対を完全に代替するものではありませんが、人間とは違うAIならではの気軽さや、生身の人に言えないことを言うことができる存在にはなり得ると思っています。

    吉田:顧客接点という点では、24時間対応できる良さもありますし、人間ではないからこそ気軽に話せる良さもある。新しいAIサービスを考えるという意味では、人に寄り添っていくAIをつくることが顧客満足度を上げていく可能性があると思っています。

    ところで、生成AIの活用について考えるなかで、私が気になっているのが「依存」というテーマです。活用と依存には、大きな違いがある。しかし、無意識のうちに活用が依存になってしまう場合もあります。AIが人の判断を補完する一方で、思考を奪ってしまう可能性もあるのではないか、というのが私の懸念点です。この境界はどこにあるのでしょうか。

    並河氏:重要な問いですね。私は、依存とは「自分で考えなくなること」だと捉えています。アウトプットが出てきたときに、それをそのまま答えとして受け取ってしまう状態です。ただ、ここには前提があります。私が冒頭で触れたように、AIの能力というのは、使う人の能力で決まってくる、ということです。

    吉田:使う人の能力との関係性について、改めて教えていただけますか。

    並河氏:私は「AIドーナッツパラドクス」という言葉を使っているのですが、人は自分の専門領域ではAIの能力を低く評価し、専門外では高く評価しがちです。例えば、私は元々コピーライターだったのですが、コピーを書くAIに対しては、まだ人間の力が必要だと感じる。一方で料理は専門的な技術を持っていないので、レシピを出してくれるAIを見ると、非常に優秀だと感じてしまう。つまり、自分が熟練した技術や知見を持っていて深い評価ができる領域では依存しにくく、評価できない領域では依存が生まれやすいのです。AIの能力は“使う人の専門性との関係性”のなかで決まってくる、とも言えます。

    吉田:評価軸を持っているかどうか、ということですね。

    並河氏:そうです。自分が評価できない領域では、アウトプットを過度に評価しやすい。そこに依存が生まれる可能性がある。逆に、専門性が高い領域では、AIを教える側になる。働き方や判断軸は人間が教えなければならない。同じAIを見ていても、立場や専門性によって評価が分かれる。それがドーナッツパラドクスです。

    吉田:では、業務に戻って考えた場合、AIに依存しないで仕事をするには、どのような心がけや仕組みが必要でしょうか。

    並河氏:最終的に人が関わる業務であれば、依存しない設計が重要です。ただ一方で、すべての業務に人が関わる必要があるわけではありませんし、人を介在させないほうが、効果が出る領域もあります。難しいのは、そのあんばいの見極めです。重要なのは、AIと人の役割をどう設計するか。依存という問題は、結局「設計の問題」でもあると思います。

    顧客体験の変革―AIエージェントの進化は何を変えるのか

    吉田:『AIネイティブマーケティング』の4章では、弊社も注力しているAIエージェントの具体的な導入事例として、ChatGPTやGeminiに代表される汎用AIエージェント、特定用途に特化した専門AIエージェント、そして企業が自社と顧客を結ぶ存在として開発し提供するオウンドAIエージェントが取り上げられていました。企業は、業務効率化で終わらせず顧客にとっても意義のあるAIネイティブ化を深く進められるほど、個々の顧客に沿った顧客体験の提供が可能になる。利用者側も、AIネイティブになるほど、よりニーズに沿った顧客体験を享受できる、といえますね。

    並河氏:私は、これからの3〜4年は少し特殊な時代だと思っています。企業側も生活者側もAIを使いこなせる人と、使いこなせない人の両方が存在する時期です。この期間は、AIを使える人の能力が一気に底上げされる。ある意味、強化パーツをつけた状態になる。だから短期的には大きな差がつく。

    吉田:私も日々の業務のなかでもそうした差を感じます。

    並河氏:ただし、それが永続するとは限りません。数年後には、ほぼすべての人がAIを使うようになる。そのとき、差分はどこに戻るかというと、結局は人間の力です。AIを使う前提の業務になったとき、最後の差はやはり思考力や判断力、よりよい社会のために応用する力になる。だからこそ教育が難しいと感じます。いま依存できる道具としてAIを使うほうが、短期的には成果が出る可能性もある。でもその先を見据えたときに、人間の成長をおろそかにしてはいけない。

    吉田:まさにそこが悩ましいですね。短期的な成果と、長期的な人材育成のバランスの取り方を個人でも組織でも考えなくてはいけない。

    並河氏:AIをどんどん使うべき時期である一方で、人間の思考を放棄してはいけない。この両立が問われる時代だと思います。

    吉田:いろいろな視点から「AIの活用」についてお話をお聞かせいただき、ありがとうございました。今回のお話を通じて、私自身もまだ生成AIを「道具」として捉えて活用していた部分があったことに気づき、AIとの向き合い方について改めて考えを深める貴重な機会となりました。

    今後は、お客さまにもAIを単なる「道具」としてだけでなく、「仲間」として活用できる段階へとステップアップしていくためのご支援を継続していきたいと考えています。

    そして、お客さまだけでなく私たち自身も学び続けながら、共に「AIネイティブカンパニー」へと成長していけるよう、人とAIのよりよい関係性をこれからも模索していきたいと思います。

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