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2025.07.18(Fri)
目次
――下村さんは、シンガポールを拠点に、アジア地域で事業を展開する日系、非日系企業に対してコンサルティング活動をされています。BPO市場は今、世界的にどのようなトレンドにあるのでしょうか?
下村氏:従来のグローバルBPOは、いわば作業代行的な位置づけで、コスト削減の手段と捉えられてきました。そもそも人事、総務、経理といった非コア業務を外部に委託するのが一般的でしたので、自然な流れだったと言えます。
しかし、近年では競争優位を築くために、企業の収益に直結するコア業務の一部工程や周辺領域で、BPOを活用する流れが出てきています。中身も、人件費の安い国でのコンタクトセンター運営といったモデルから、AI活用や自動化を前提とした高付加価値型へと進化。電話の受け答えや伝票処理といった単純作業から、フィンテックや医療、Eコマースなど、高度な専門性を要する業務が増えています。
企業は、「自分たちで内製できない領域を外部に委託する」という選択肢を取らなければ、グローバル競争の中で劣後してしまう。そうした状況が現実味を帯びてきています。

――コア領域に付加価値をもたらし、競争優位をつくるグローバルBPOとは、具体的にどのようなものでしょうか?
下村氏:例えば、コンタクトセンターでは、オペレーターの熟練度によって、お客さまの満足度も変わります。これが高精度のAIチャットボットに変わると、品質を高いレベルで一定化できるようになります。
また、やりとりから得られたお客さまの情報をリアルタイムでAI分析すれば、電話口のお客さまへの追加のフォローアップや、コンタクトセンター全体のオペレーション変革にもつなげることができます。
――生成AIが活用されるようになったことで、新たにBPOの対象範囲に入ってきた業務というのはありますか?
下村氏:例えば、経営企画やマーケティングです。市場調査やデータ分析といった業務は、これまでコンサルティングファームが担ってきた領域ですが、より幅広いBPOベンダーが短時間で戦略的な示唆を提供できるケースも出始めています。
――日系企業のお客さまのグローバルBPOに関する課題やニーズの変化というのはあるのでしょうか?
徳永:これまでは、多言語対応や24時間365日のサポート、海外拠点の窓口一元化など、国内では対応が難しい部分を補うニーズが中心でした。しかし最近は、海外の情報システム部門の役割そのものを見直す動きが活発になっています。従来、海外の情報システム部門が担ってきた業務のアウトソーシングや複数ベンダーの管理に加え、生成AIやRPAを活用した自動化など、DX支援に関するご相談が増えてきています。


黒宮:NTTドコモビジネスでは、2025年4月にBPOサービスで業界トップシェアを誇るトランスコスモスと戦略的事業提携をし、デジタルBPO事業を強化しています。さらに、トランスコスモスだけでなく、さまざまな専門領域のノウハウや人材を持つ企業と連携し、コンタクトセンターやITアウトソーシング、業務BPRといった領域でお客さまの課題解決に取り組んでいます。

先日は、あるお客さまから「新しいサービスを立ち上げたいんだけど、手伝ってもらえませんか」とご相談をいただきました。必ずしも既存業務の効率化だけでなく、お客さまの攻めの経営や付加価値創出を、テクノロジーや人材の面で支援していくことが求められています。
ただ同時に、企業側の意識の変化はまだまだ一部にとどまっているということも感じています。

――下村さんは、日系企業の状況をどう捉えていますか?
下村氏:私も、非日系企業と比べると、日系企業はグローバルBPOのトレンドに少し乗り遅れているという印象を持っています。高品質重視で、業務は人がやる方が良いという感覚が根強く、海外ベンダーのマネジメントも不得手な場合が多い。そのために、BPO導入に対して二の足を踏んでしまっているのではないかと考えています。
また、日系企業の業務オペレーションはハイコンテクストで属人的な部分が多く、プロセスが明文化されていないケースもよくあります。つまり、外部のベンダーに業務を依頼すること自体が難しいという課題もあります。
――NTT DATA, Inc.ではNTTドコモビジネスのBPOソリューションを下支えする基盤を提供しているとのことですが、どういったサービスを提供しているのでしょうか?
森津氏:NTT DATA, Inc.は、ワークプレイスに関する専門的な知見やエージェント型AIの技術を生かしながら、成果を重視した形で企業の「働き方そのもの」の変革を支援しています。
その基盤となるのが「Digital Workplace Services」(DWS)です。サービスデスクや情報共有、デバイス管理、コラボレーションといった中核機能に加え、生成AIやエージェント型AIを活用した生産性向上や、グローバルな業務プロセスの標準化を、アドバイザリーから構築、運用まで一気通貫で支援します。こうした取り組みは、ワークプレイス全体の体験をより効率的で、変化に柔軟に対応できる、持続可能な環境に高度化させるほか、グローバルBPOを進化させるための基盤としても機能します。
しばしばデバイス導入の文脈で語られがちなDWSですが、現在は、働く体験そのものを設計・改善していくための仕組みへと進化しています。従業員体験を可視化し、業務のボトルネックを継続的に改善していくことで、従業員体験や生産性の向上といった成果を生み出すとともに、その知見をBPOサービスの高度化にも生かしています。
当社Webサイト上で公開している範囲では、DWSはグローバルで数百万人規模のユーザー、年間のサービスコンタクト数は数千万件規模を支える実績を有しています。

――具体的な事例があればご紹介いただけますか。
森津氏:一例として、サービスデスクにおけるAI活用があります。まずAIが問い合わせを受け付け、対応可能な場合はその場で完結し、オペレーターは例外的な対応に専念します。
パスワードリセットやネットワーク接続に関するトラブルについては、Microsoft Teamsを通じて問い合わせを受け付け、AIが端末の状態を把握した上で、自動的に解決策を提示します。あるケースでは、問い合わせのおよそ6割がAIによって解決しました。
こうした事例は、人による対応に過度に依存しないオペレーションが、顧客側で特別な仕組みを構築することなく、すでに実現可能な段階にあることを示唆しています。
AIを活用することで、従業員の働き方改革はもちろんのこと、BPOのサービスレベルも高めることができます。現在、NTTドコモビジネスと連携し、グローバル事業を展開する日系企業のお客さまに対して、DWSを活用したBPOサービスを提供していこうとしています。
――AIを活用することで、業務のやり方は大きく変わっていくのですね。
森津氏:今ご紹介した問い合わせ対応にとどまらず、AIはオペレーターの応対を支援したり、応対品質のモニタリングを高度化したりする役割も担います。近年では、従来のシステム構築に対する報酬モデルではなく、得られた成果に基づく報酬モデルを採用するケースも増えつつあります。
ある取り組みでは、NTT DATA, Inc.が、従業員の離職率の高さを課題とする企業に対し、満足度向上を目的とした支援を行いました。ただし、満足度の改善は容易ではありません。デバイスの刷新やサービスデスクなどの個別機能を改善するだけでは、必ずしも満足度の向上につながらない場合があるからです。
そこで体験価値を可視化する手段としてExperience Level Agreements(XLA)を導入しました。指標の例としては、ノートPCの納品までのリードタイム、業務上重要なアプリケーションの利用可否、デバイスの起動時間、利用者の集中を妨げる通知の抑制状況などが考えられます。
こうした従業員満足度に関わる課題は、日々の業務が一見滞りなく進んでいるように見える場合ほど、経営層からは認識されにくい傾向があります。一方で、現場の従業員は、解決しない操作の繰り返しや、サービスデスクからの回答待ちによって、知らず知らずのうちに生産性や体験価値を失っています。このギャップを埋めるためには、業務を外部に委託するだけの旧来型のBPOでは不十分である可能性があり、DWSによる技術的な下支えが必要となります。
一例ではありますが、従業員満足度が10段階中およそ6から約9.5へと改善し、結果として離職率の低下につながったケースもあります。離職率の低下は、人材育成コストの抑制にも寄与するほか、より良い業務成果も生み出しやすくなります。体験価値を高めることは、組織としての能力を強化し、持続的な成長を支える有効なアプローチであると言えます。

――日系企業が次の一歩を踏み出すためには、どういった対応が必要になるのでしょうか?
下村氏:コア業務だからこそアウトソースするという発想の転換が必要です。例えば、AIを導入するとなれば、多くの企業は自社では対応できません。それであれば、専門的なノウハウや人材を持つ外部企業に積極的にアウトソースして、競争優位をつくっていく方がよいでしょう。海外の企業はそういった方法で競争力を高めているわけですから、日系企業もBPOベンダーとより密なビジネスパートナーとしての関係性を構築していくべきです。場合によっては、出資の検討も必要です。
もう少し経営者観点で考えてみると、これまでは正しい経営戦略があってはじめて正しいオペレーションがあるという、戦略至上主義の考え方が中心でした。それがいま、戦略とオペレーションが横並び、時にはオペレーションの強みを前提に戦略を組み立てていくなど、双方を行ったり来たりしながら会社全体のグランドデザインを描くようになっています。
戦略と同等の位置づけになりつつあるオペレーションの変革を進めていくには、経営戦略を描けて、オペレーションも実装できるBPOベンダーとのタッグが欠かせなくなっています。
――そうした変革を現場で実行し成果につなげるために、今後どのようなことに取り組んでいきますか?
森津氏:お客さまが持つコア領域の技術やアセットの価値をさらに高めるために、お客さまと密に連携しながら一緒に専門性を高めていくことが必要です。AIを含めてテクノロジーは日々進化していますので、NTT DATAのビジネスモデル、オペレーションモデルを常にアップデートし、お客さまに価値を提供できるようにしていきたいと考えています。
徳永:多くの企業がAI活用を進めていますが、生成AIを導入しただけで業務プロセスが変革できるわけではありません。例えば、ヘルプデスク業務でチャットボットを導入しても、現場では依然として人手で対応しているケースも少なくありません。なぜ利用が広がらないのかを分析した上で、問い合わせポータルのUI改善など、BPOサービスをより効果的に活用してもらうための支援を強化していきたいと考えています。その先に、リソースの再配置やコア業務への注力が可能になると考えています。
黒宮:私たちNTTグループは、お客さま企業のグローバル事業展開をサポートするために、現地の通信キャリアと連携してネットワーク回線を接続するなど、他社と連携しながらコア業務を進めることを当たり前のように行ってきました。しかし、お客さまの中には、自社の主要な業務をアウトソースすることに抵抗感を持つ方もいらっしゃいます。まずは、そういった感覚の違いを丁寧に説明しながら、他社の力を借りていくことの有効性を伝え、デジタルBPOサービスの活用により企業の競争力強化につなげられるよう貢献していきたいと思っています。
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