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2025.07.18(Fri)
目次
――そもそも、コネクテッドカーとは、どのようなクルマを指すのでしょうか。
玉井:シンプルに言えば、クルマにモバイルSIMが搭載されており、ネットワークにつながっていればコネクテッドカーです。すでにEUでは、新型車に自動緊急通報システムの搭載が義務付けられており、それだけのためにモバイルSIMを搭載しているクルマもあります。
――クルマにおける『コネクテッド』という表現は、2016年9月のパリモーターショーでメルセデス・ベンツグループが提唱したCASE戦略のCであるConnectedから普及した印象です。
玉井:確かに、その頃からコネクテッドカーという名称が使われ始めたと記憶しています。それ以前はテレマティクスと呼ばれており、早い自動車メーカーでは2014年頃からつながるクルマの開発に取り組んでいました。
コネクテッドカーが普及した技術的な背景では、IoT向けの通信が3GからLTE(4G)へと本格的に切り替わったことが挙げられます。スマートフォンで動画ストリーミングが一般的になったように、クルマの通信もできることが飛躍的に増えました。とはいえ、LTEに代わってすぐにサービスが一変したわけではありません。 当初の7〜8年は、あくまでテレマティクスの延長線上。エンジンの回転数やオイルの劣化状況など、走行中の車両データを吸い上げて交換時期などを通知する、いわゆる車両管理の用途が主でした。
変化が加速したのは、クルマとスマートフォンとの連携が進んでからです。これにより、LTE回線を利用して離れた場所からのエアコン操作などが可能になりました。また、以前はCD-ROMやUSBメモリを使って更新していたナビの地図も、ダウンロードが主流になります。2018年頃からは、音楽や動画のストリーミングサービスを車内で楽しめるようになり、その流れもあって今では車内ディスプレイも大型化しています。
これらの流れの先にSDV(Software Defined Vehicle)があり、音楽や動画、地図だけでなく、クルマの挙動を司るOSやソフトウェアそのものを、サーバーからアップデートする時代が到来しています。

――コネクテッドカーのビジネス的な可能性をどう見ていますか。
玉井:自動車産業は、グローバルかつ巨大な産業構造であり、このスケールの大きさこそが、ビジネスとしてのダイナミズムです。今後、コネクテッドカーの割合は増え続け、2035年には新車販売の9割近くに達するという予測※もあります。つまり、これから販売されるクルマは、ほぼ全てがコネクテッドカーであり、通信が不可欠になるということ。それに伴い、通信が担う責任も重くなります。
例えば、事故などのときの自動緊急通報。工場や家庭などで使われるIoTであればデータ通信のみで事足りますが、クルマの場合は音声通話機能が必須となります。また、セキュリティに関しても、ハッキングが人命に関わるクルマでは、かなり早い段階で外部からの侵入や操作への対策が講じられてきました。さらに、大容量のデータを扱うため、通信帯域の広さも求められます。こうした高い要求水準に、いち早く応えていくことはやりがいでもあり、大きなビジネスチャンスでもあり、本領を発揮する場所です。
澁谷:技術的な先進性はもちろんですが、自動車メーカーのビジネスモデルそのものが大きく変化してきていると思います。これまでのクルマは、売り切り型が主流でした。しかし現在は、販売後の車内空間でユーザーにどう楽しんでもらうか、インフォテインメントなどを通じていかにマネタイズしていくかという方向へシフトしています。そのベースとなるのが通信。どのようなモデルでサービスを提供していくのか、各メーカーともに模索を続けている段階です。だからこそ、新しいビジネスをゼロから一緒に創り上げていける面白さがあります。
※出典:富士キメラ総研「2019次世代カーテクノロジーの本命予測と未来自動車像」

――NTTドコモグループはBMWと協業してサービスを提供していますが、サービス内容を教えてください。
玉井:BMWとは4つのプロジェクトで協業しています。一つ目は、2022年3月に発表した、NTTドコモとドイツ本社のBMWグループによる「5GおよびコンシューマeSIMに対応したコネクテッドカーサービス」です。BMW車両がドコモのワンナンバーサービス(NTTドコモが提供する、一つの電話番号をスマートフォンとアクセサリ端末でシェアできるサービス)に対応。スマートフォンの電話番号や料金プランをBMW車両での音声通話やデータ通信にも使えて、スマートフォンと車両をBluetoothで接続しなくても車内での音声通話やインターネット通信が利用できるようになります。
二つ目は、NTT Com(現NTTドコモビジネス)が2022年11月に実施した「BMW 7シリーズ購入者向けのUbigi無料キャンペーン」です。Ubigiは、フランスをベースにグローバルで事業を営むNTTのグループ会社『Transatel』が提供するグローバル4G/5Gデータ通信・eSIMサービス。消費者向けIoT・旅行者・モバイルワーカー・コネクテッドカー向けのデータ通信を提供しています。このUbigiを利用して、移動中にストリーミングサービスによる映画や音楽、ゲームなどを楽しむことができます。7シリーズは、後部座席に31.3インチモニターがオプションで設定されており、その設備を十分に活用できます。
三つ目は、BMWのコネクテッドカーの本丸に当たる部分。ドライバーがエンターテインメントで使う通信ではなく、さまざまな車両状態をやりとりする通信のために、クルマの電子部品そのものに組み込むeSIMとネットワーク基盤をBMW本社からグローバル案件として受注しました。
四つ目は、前述した日本国内でBMW7シリーズだけに提供していたUbigiを、欧州各国にも展開したサービス。欧州では、BMW7シリーズに限らず、複数のBMWモデルで使えるように拡大しました。日本での成功事例をドイツ本社に提案した結果で2024年7月にニュースリリースを発表しました。
一連の取り組みを通じ、スマホからナビを設定したり、契約しているサブスクの動画や音楽を車内で楽しんだりと、自動車メーカーのコネクテッドサービスを通じて得られる便利さの根幹を我々が担うことができたと自負しています。

澁谷:今後は通信によるエンターテインメントの提供だけに留まらず、車両購入後の機能アップデートが普通になっていくでしょう。例えば、クルマを買い替えなくても、運転支援機能がより自動運転に近づくアップデートがされるかもしれません。そういった未来でも通信は黒子として、自動車メーカーを支え続けます。
――澁谷さんのお話は、世界の自動車メーカーが舵を切っている「SDV」につながると思います。お二人が考えるSDVの定義とはどのようなものでしょうか。
玉井:「エンターテインメントだけでなく、動作部分もソフトウェアで更新、制御できるクルマ」と考えています。代表的な自動車メーカーがテスラです。かなり前から、通信を使ったOTA(Over The Air)によって車両の機能を更新する取り組みを進めてきており、今のSDVの先駆け的な動きだと思います。
澁谷:私も同じで、より駆動系のところに通信が関わっていくイメージです。クルマの通信といえば、位置情報などを送る最低限のテレマティクスと動画や音楽を楽しむエンターテインメントでしたが、SDVでは、駆動系を含めたクルマの機能そのものを通信でエンハンス(拡張)することが求められます。
――そうなると、ビジネス構造も変化しますか。
澁谷:各社とも、車両販売後のリカーリングビジネスを見据えている印象です。ただ、難しいのはエンドユーザに受け入れられるためのさじ加減。このあたりは、自動車メーカーも試行錯誤している印象です。また、購入後にクルマの機能が進化するSDVが浸透すれば、モデルチェンジのサイクルは長期化してくる可能性が高い。現状のサイクルは5〜6年ですが、もう少し長くなるのではないでしょうか。
――コネクテッドカーと比較して、SDVでは求められる通信も変わってくるのでしょうか。
澁谷:これまではエンターテインメントに関わる通信がメインでしたが、SDVではソフトウェアアップデートも重要になります。ソフトウェアアップデートの場合は動画や音楽のストリーミングと異なり、大容量ファイルのダウンロードが必要になります。その際にWi-Fiにオフロードするのか、セルラー回線だけで対応するのかなど、自動車メーカーとそうしたネットワークの設計ポリシーの話をする機会は増えてきました。
玉井:そういった時代に向けて、より通信設備を強固にしていく必要があります。特にSDV向けの通信をグローバルで展開するには、通信設備とクルマの物理的な距離を近づけなくてはいけません。例えば、BMW案件でも登場したTransatelのインフラを活用するにしても、世界各地に通信設備を設置し、アメリカを走るクルマならアメリカの、欧州なら欧州の、日本なら日本のネットワーク設備で処理をする。それによって通信品質が向上し、遅延も防げるようになります。このようなネットワーク強化ができなければ、SDVへの対応は難しいでしょう。
澁谷:10年前に通信事業者が求められていたのは、とにかくつながること。しかし今は、回線にどんなデータが流れているのか、いつ重要なソフトウェアアップデートが行われるのか、自動車メーカーはどういった回線の使い方をしているのかなど、さまざまな点についての理解が求められています。我々には、自動車メーカーの課題や希望を細やかに読み取り、トラブルがないようにサポートする黒子としての役割がより求められると感じています。

――最後に、SDVも含め、通信により自動車はどのように進化していくか、お考えを聞かせてください。
玉井:大きな方向性では、SDVの流れの先に自動運転の普及があると考えています。もちろん、人間の運転が完全になくなるわけではなく、システムが可能な限りの補助を行う。その気になればすべてを任せられるし、自分でハンドルを握ることもできるといった選択の自由がある形に着地する気がしています。それに伴い、車内空間のあり方も変わるはずです。この先、自動運転車両が増えていくことは間違いありません。ただ、例えば走行車両の半分以上が自律走行する、自動運転が普及した状態というのは5年や10年といった短いスパンの話ではありません。個人的な予測ですが、2050年あたりを見据えて、ようやく世界的にそうした方向へシフトしていくのではないでしょうか。
そのような時代において、コネクティビティは不可欠な機能です。特に自動運転車の普及率が高まってきた段階では、個々のクルマ同士や交通インフラ全体とリアルタイムにコミュニケーションを取ることが求められます。コネクテッドカーが一定数、普及すれば、クルマが周辺環境の情報を吸い上げ、逆にインフラ側から全体の交通状況をフィードバックする。そうした双方向のやり取りによって交通全体を最適化していくことになるでしょう。
澁谷:玉井さんが話しているのは、例えばトヨタが進めている『Woven City』でも見られるインフラとの協調ですね。今はまだ実証実験や構想の段階ですが、確実にその方向へ進んでいくでしょう。ここでNTTドコモビジネスの強みが活きてきます。IoT機器の提供はもちろん、セルラー通信にとどまらないネットワークインフラ、そしてその先にあるIOWN構想。クルマだけに留まらず、それを取り巻くさまざまな領域全体をカバーできていることが、大きな価値提供につながると確信しています。
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