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2025.07.18(Fri)
目次
登壇したのは、アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社 パートナー技術統括本部 テクノロジーソリューション本部 機械学習パートナーソリューションアーキテクトの久保田 弾氏です。久保田氏はまず、コンタクトセンター業界が抱える課題と、それを解決するためのAWSの取り組みについて語りました。
久保田氏:コンタクトセンターの典型的な課題は、顧客にどのようにして価値の高い体験を提供できるかという点です。問い合わせを受けた際の顧客満足度やロイヤルティをどう向上させるか。そしてこれを実現するためには、慢性的な人材不足の解決にも取り組まなければなりません。これらの課題を解決するために、AIや機械学習の活用が求められています。

久保田氏は、顧客体験価値(CX:Customer Experience)の重要性について、具体的なデータを交えながら説明しました。現在、企業は提供する商品やサービスそのものの価値と同じように、「顧客接点での体験価値」が問われています。実際に、不適切な体験をした32%の顧客が、そのブランドの利用をやめてしまうというデータもあるといいます。
久保田氏:お客様は、過剰なサービスを求めているわけではありません。できるだけ手間をかけず、自分が欲しい情報にすぐたどり着ける環境を求めています。そのニーズに応えられるかどうかが、企業の競争力を左右します。
こうした課題を解決するために生まれたのが、AWSのコンタクトセンター向けクラウドサービス「Amazon Connect」です。Amazonが自社のECサイト運営で培った経験をもとに開発した同サービスは、世界32カ国で数百万件の問い合わせに多言語で24時間対応し、10万人を超えるオペレーターの品質を支えてきました。特に注目を集めているのが、新たに追加された生成AI機能です。久保田氏は講演の中で、その主要機能を紹介しました。
久保田氏:まず「Amazon Connect Contact Lens」では、オペレーターと顧客の会話をリアルタイムで文字起こしし、AIが顧客の感情変化を分析・可視化します。これにより、「対応内容を後からしか確認できない」「録音チェックに多くの時間がかかる」といった従来の課題を解決できます。

もう1つの重要なAI機能が、生成AIが社内ナレッジなどを検索し、対話中のオペレーターに推奨対応アクション候補を提示できる「Amazon Q in Connect」です。

久保田氏は保険業界での活用例として、実際の画面を見せながら同機能のデモンストレーションを行いました。
久保田氏:オペレーターの画面上には、過去のやり取りやAIとの対話内容、問い合わせを行ったお客様のプロフィール情報が自動で表示されます。その上で、お客様からの質問に関連する情報を、Amazon Q in Connectが社内ナレッジから検索・抽出して提示します。これにより、対応のスピードと精度を両立することが可能です。
デモンストレーションでは、顧客がWebサイト上のチャットボットで問い合わせを開始し、AIが対応できない複雑な質問の場合には、人間のオペレーターにシームレスに引き継がれる様子が実演されました。また、チャットから音声・ビデオ通話への切り替えもスムーズに行われ、単一のプラットフォーム上で包括的な顧客サポートを実現できることが示されました。
続いて登壇したのは、NTTドコモビジネス BS本部 ソリューションサービス部 デジタルソリューション部門の橋本莉彩です。橋本はまず、コンタクトセンター業界が抱える人材不足について指摘しました。
橋本:コンタクトセンター業界全体で共通して見られる課題のひとつが、高い離職率です。人材が定着しにくく、年間で30〜40%の従業員が入れ替わるというデータもあります。それに伴い、採用競争も非常に激化しています。業界の有効求人倍率は3.69倍、つまり1人の求職者に対して約3.7件の求人がある状態です。他業界の平均がおよそ1倍であることを考えると、その厳しさがわかります。

こうした課題を背景に、橋本はNTTドコモビジネスが提供するクラウド型コンタクトセンターソリューション「Your Connect」の特徴を紹介しました。同サービスは、Amazon Connectをベースに独自機能を拡張し、すでに約1万席以上の導入実績があると言います。
橋本:Your Connectは、単に電話をつなぐためのソフトフォンではありません。オペレーターやスーパーバイザーの業務効率化を支援しながら、CXを向上させる“業務ハブ”として機能します。NTTドコモビジネスが自社のコンタクトセンターの現場で日々使っているからこそ、細かな使い勝手や改善ポイントを肌感覚で把握し、利用者の声をスピーディーに開発へ反映できる体制が整っています。
Your Connectでは、生成AIの導入を段階的に進めるアプローチを採用しています。橋本は、現場担当者の約80%がAIのハルシネーション(誤出力)に不安を感じているという調査結果を示し、「まずは安全性と信頼性を確保しながら、段階的に適用範囲を広げることが重要」と語りました。
橋本:最初のステップは全オペレーターが毎回行う終話後作業の効率化です。短縮効果が大きく、導入効果を実感しやすい領域と言えるでしょう。次の段階では、通話中の業務支援にAIを適用し、応対中の業務効率化を図ります。さらにその先のステップとして、スーパーバイザーや管理者業務への展開を進め、コンタクトセンター組織としての対応力を底上げします。このように段階的に進めることで、最終的には優れた顧客体験を実現できると考えています。
橋本は、Your Connectに搭載された生成AI機能のうち、特に注目すべき2つの機能を紹介しました。1つ目は、通話内容をリアルタイムで文字起こしし、通話終了後に自動で要約を生成する「要約機能」。2つ目は、オペレーターが通話中に疑問を感じた際に、社内ナレッジを自動で検索し、最適な情報を即座に提示する「ナレッジレコメンド機能」です。これらの機能によって、オペレーターの業務効率化だけでなく、顧客対応の品質向上も期待されています。
橋本:Your Connectを導入いただくメリットは3つあります。1つ目は、単一のソフトフォンでシンプルに利用できること。2つ目は、お客様ごとのプライベート環境で安全に運用できること。そして3つ目は、お客様の業務内容に合わせて柔軟に要約を出力できることです。コンタクトセンターの現場では、業務ごとに必要とされる情報が異なります。要約機能を導入すること自体が目的ではなく、本当に使える要約機能を実現することが重要です
続いては行われたのは、Your Connectの開発チームメンバーであるNTTドコモビジネス BS本部 ソリューションサービス部 デジタルソリューション部門の稲生華佳と、Your ConnectのユーザーであるNTTドコモビジネスエンジニアリング サービスネットワーク部 東京オペレーションセンター(TOC)の新田浩貴氏による対談です。実際の現場での利用状況をもとに、生成AI導入における課題とその解決策について意見が交わされました。まず、新田氏がTOCの業務内容について説明しました。
新田:TOCは、NTTドコモビジネスが提供する法人向けネットワークサービスの故障受付を中心とした、24時間365日稼働のコンタクトセンターです。「Arcstar Universal One」をはじめとする多岐にわたるサービスを取り扱っており、問い合わせ件数も多く、オペレーターが習得すべき知識は非常に膨大です。

稲生:私たちYour Connectチームは、TOCをはじめとするコンタクトセンターの現場見学やヒアリングを定期的に行っています。そこで得た現場の声をプロダクトに素早く反映していくという、DevOpsの考え方を実践しています。その中で、生成AIを活用できる場面はいくつもありますが、まず「どこから手をつけるか」を戦略的に見極めることが重要だと考えています。TOCでは要約機能から導入されましたが、その背景を教えていただけますか。
新田:電話対応後の処理作業をいかに効率化するかが大きな課題でした。単に作業時間を短縮するだけでなく、処理内容の品質がオペレーターによってばらつくという問題もあります。迅速さを重視する人もいれば、慎重に確認する人もいる。その差がパフォーマンス管理を難しくしていました。そうした課題に対して、要約機能は非常に有効だと判断しました。導入にあたっては、現場の混乱を防ぐために、既存の運用フローへの影響を最小限に抑えられることも要約機能から始めた理由の一つです。


コンタクトセンターへの生成AIの導入において避けて通れないのが、現場での戸惑いや業務プロセスの変化に対する抵抗感です。この点について、新田氏は次のように語りました。
新田:私たちの現場でも、やはり一定の戸惑いや抵抗が見られました。電話対応後の処理作業へのサポートは非常に便利ですが、それだけでは経験豊富なベテランオペレーターの仕上がりにはまだ届かない部分があります。ベテランの方々は、長年積み上げてきた経験と誇りがセンターを支えているという自負を持っています。そのため、「自分はAIに頼らない」という方がいるのも事実です。
しかし、時代の流れを考えると、AIを排除するのではなく、活用を前提とした考え方に変えていく必要があります。例えば新人は生成AIを活用して、できるだけ早く成果を出せるようにする。一方でベテランは、これまで培ってきた暗黙知を生かしてAIを育て、組織全体に還元していくという新しい役割を担うことが大切です。
また新田氏は、生成AIの正しい理解を促すために、「AIを盲信せず、どう付き合っていくか」をテーマとしたリテラシー向上の研修を実施していると言います。さらに、AI特有の課題であるハルシネーション(誤出力)への対応についても、実践的な議論が展開されました。
新田:要約機能の利用によって、重大な問題は特に発生していません。ただし、人間には聞き分けられる部分をAIが正確に認識できないといった、文字起こし精度の限界はどうしてもあります。そのため、出力された記録やログに誤った情報が混じってしまうケースは一定程度あります。
稲生:Your Connectの要約は、通話終了後に要約文が自動で生成されますが、それを自動的にCRMに転記するのではなく、いったん人が確認して転記していただくようにしています。ハルシネーションのリスクを最小限に抑えるためには、いわゆる「ヒューマン・イン・ザ・ループ」と呼ばれる考え方で、AIの業務フローにあえて人の判断を組み込むことが重要だと考えています。

イベントの終盤では、参加者が4つのグループに分かれてワークショップを実施。NTTドコモビジネスのメンバーも加わり、コンタクトセンター運営の課題や生成AI導入時の悩みについて活発な意見交換が行われました。
議論では、「人材不足」や「新人育成の負担」「ナレッジ整理の難しさ」といった共通課題が挙げられたほか、「現場をどう巻き込み、抵抗感をなくすか」という点も多くの関心を集めていました。その他にも「要件定義の段階から現場を参加させるべき」「AI導入の目的を現場と共有することが重要」といった意見が出るなど、AI導入に向けた具体的な進め方の意見交換をしているのが目立ちました。
参加者からは「他社の課題や工夫を直接聞けて参考になった」「もっと議論を深めたかった」といった声が上がり、業界共通の課題への関心と前向きな姿勢が感じられる時間となりました。

今回のイベントでは、AWSの最新技術からNTTドコモビジネスの実践事例まで、生成AIがコンタクトセンターにもたらす可能性が多角的に示されました。新田氏の体験談にもあったように、導入の鍵となるのは「小さく始めて改善を重ねる姿勢」と「AIと人が共に働く仕組みづくり」です。
NTTドコモビジネスの「Your Connect」は、今後も現場の声を取り入れながら進化を続けます。2025年度末に予定されているナレッジレコメンド機能の提供をはじめ、業務効率化と顧客体験の両立を支える新機能を順次展開していく予定です。
コンタクトセンター業界が抱える人手不足や育成課題の解決に向けて、NTTドコモビジネスはAIと現場の知見を融合させながら、次の進化を見据えています。
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