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2025.07.18(Fri)
目次
——生成AI活用は多くの企業の重要テーマになっています。生成AIを組織に浸透させるためには、トップダウンとボトムアップ、どちらのアプローチが有効なのでしょうか。
岩瀬:理想は両方です。生成AI導入には相応のコストがかかるため、トップダウンがなければ全社展開は難しいでしょう。その際、「コストがこれだけ改善できる」といった短期的なROIを厳密に求められると、初期段階でうまくいきません。なぜなら、自由な試行錯誤が必要だからです。指定したROI達成を強く求められると、それなりの数字を作り出してしまう可能性すらある。そのため、トップが「これにベットする」と決め、短期的なROIに目をつぶる理解が必要です。
一方で、ボトムアップでの実験も不可欠です。どの業務にどのツールが適しているかは、実際に現場で使ってみないとわかりません。生成AIの領域は変化が激しく、最適なツールも1週間単位で変わります。アジリティを確保するには、ボトムアップの活動が重要です。
安斎氏:同感です。面白がって取り組む人が少数でもいないと、絶対にうまくいきません。
ただ、それだけでは不十分で、社内の情報管理やデータベース化はトップダウンでなければ実現できません。そこに手をつけない限り、組織としての効果は出ません。ボトムアップとトップダウンを同時に進める必要があります。

岩瀬:現場で熱心に取り組んでいる人たちは、多くの場合は趣味のように面白がりながら使っています。トップの役割はそうした熱心な人たちを支援し、組織全体に広めていくことだと思います。
——実際のところ、生成AI導入によって組織全体の生産性は上がっているのでしょうか。
岩瀬:生成AIがブームになりはじめた当初、コンサルティングファームなどが「生成AI導入で生産性が何十%改善します」といったレポートを出していましたが、最近の調査では実は10〜20%程度だというデータもあります。現状では、「微増」というのが実感です。
安斎氏:組織全体で見ると、議事録作成の自動化など個別の業務効率化は進んでいますが、根本的な変革には至っておらず、部分的な業務サポートに留まっているように感じます。
一方で、個人の生産性は劇的に向上しています。私はこれまでに書いた著書やブログの膨大なテキストをすべて生成AIに学習させています。すると、Voicyで話した内容をほぼそのまま記事にすることもできる。自分のコンテキストを把握した生成AIは、私の生産性を劇的に向上させています。
また、これまで自分に足りないスキルだったビジュアル制作や動画制作をかなり補完できるようになりました。自分の専門性と生成AIの補完によって、少人数チーム、あるいは1人でできることが格段に増えています。
その結果、「組織的な生産性」を「個人の生産性」が圧倒的に上回る状態になっている。個人のROIが高くなりすぎて、組織づくりの手間やコストが勝ってしまっている感覚があります。
正直、起業当時が今の状況だったら、私は会社という組織を作らず、個人で活動していたかもしれません。
岩瀬:そうなると、チームづくりの考え方も今後は変わっていくはずです。かつてはAmazonが提唱した「ピザ2枚ルール」、つまり、ピザ2枚で足りる約5~10人が最適なチームと言われていました。
しかし、これからは生成AIの活用を前提に、できる人を2〜3人集める「ピザ1枚ルール」が最強になる時代が来るかもしれません。

——生成AIの導入が進む中で、組織における人の役割はどう変わっていくのでしょうか。
安斎氏:膨大な情報を収集・処理する作業は、今後どんどんAIに委託されていくでしょう。一方で、情報の手前にある暗黙知、感情、信頼、人間関係といった要素は、生成AIでは代替できません。
例えば、仕事を依頼するときには、必ずしも仕事が早い方に頼むわけではありません。「地元の信頼できる人に頼みたい」「一緒に仲間として面白いことをやりたい」といった、人間関係や熱量を優先してパートナーを選ぶことはよくありますよね。そこには、非合理な人間の感情や関係性が存在しており、これは生成AIには代替不可能です。
そして、こうした一見非合理に見える判断は、「誰と働くか」という関係性の側面だけでなく、「どの仕事を人間がやるべきか」という業務プロセスの側面にも当てはまります。
生成AIが登場したことで、一時的に短期合理性に目を奪われがちですが、「この仕事は人間がやるべきだ」という長期的な判断を見失ってはいけません。
例えば、生成AIが「新作のゲームを代わりに2時間でクリアしておきましょうか」と提案してきたとしても、50時間かかっても自分でやりたいですよね。仕事でも「これはどうしても自分でやりたい」というものがあるはずです。

岩瀬:営業における「人間関係の構築」も、今後はより重要になってくると思います。
私自身、昔は飲み会が苦手でしたが、今思えば人間関係をつくるすごく大事な場でした。夕方に打ち合わせをした流れで食事に行く。そんな、人間関係を築く力がAI時代にはますます大切になっていると感じます。
もう1つが、「説明責任」です。タスクを確実にこなす「実行責任」は生成AIが非常に得意ですが、その仕事のスポンサーに対する「説明責任」は生成AIには負えません。AIが出してきたアウトプットが正しいか精査し、会社の文脈に合わせて翻訳し、説明する。その説明責任は人間にしか担えません。
加えて、生成AIは前のトークンから次のトークンを予測するため、決められた路線を進むのは得意ですが、「前提を問い直す」のは苦手です。生成AIは「この仕事をどう進めるか」は考えられますが、「そもそもこの仕事いらなくない?」とは問えません。その前提を疑う役割ができるのも、人間だけです。
——AIが高度化する中で、意思決定のあり方も変わるのでしょうか。
安斎氏:AIを「答えを出力してくれるツール」と思うと失敗します。AIは本来、壁打ちをしながら自分の学習を深めていくための「相互学習ツール」です。
AIでうまくアウトプットを出せない人の特徴は、最初にAIに「出してほしいアウトプット」を依頼してしまうこと。AIに「企画を出して」と丸投げしてしまうと、こちら側に明確な意思がないため、AIの案をそのまま採用することになりがちです。
AIの活用は会議と同じで、思考の種まきや切り口を探すプロセスとして、壁打ち相手と考えるのがいいでしょう。そのうえで、答えを出す主体は自分でなければなりません。
つまり、「AIに従わされる人」ではなく、「AIを従える人」になることが大切です。

——AI時代の組織において、どのような人材が活躍できると思いますか。
安斎氏:知的創造の領域で何かいいものを作ろうとするとき、対象へのこだわりなきクリエーションは、AIの普及によって消滅していくと思います。
例えば、スタートアップで突出したビジネスを作っている人は、攻略本通りにそろばんを弾いて事業を作っているのではなく、その対象領域に対して強烈な興味を持っているはずです。
AIが普及する中で、人間に残された優位性は「好奇心」です。AIを使いこなしている人も、結局はAI自体に強い興味を持っているからこそ、ずっと使い続けているのです。
岩瀬:私は採用を担当していますが、最近はジョブディスクリプションに記載する要件の優先順位が大きく変わりました。今もっとも重視しているのが好奇心です。
面接ではたとえば、「あなたの1番好きなことについて語ってください」といった質問を通じて、その人が何かに強烈な好奇心を持っているかを確認します。それだけ夢中になって探求できる好奇心という原動力が、これからの時代には必要だと考えています。

安斎氏:その好奇心こそが、「学び続ける力」の原動力ですよね。これからの時代、専門性は非常に重要ですが、同時にAIに代替されやすいため、専門性の賞味期限はどんどん短くなっています。
だからこそ、これからは「専門性を形成する技術」が重要になります。新たな専門性を取り込み、自分の専門性を変容させていく技術、つまり「学び続ける力」です。
そして、生成AIはこの「学び続ける力」を強烈にエンパワーメントしています。興味がある人はAIを使ってものすごい速さで専門性を再構築できる一方で、興味がない人はそこで止まってしまう。
今、この「好奇心格差」がものすごく開いてきていると感じます。
組織づくりにおいても、今後は個人が持つ興味やこだわりをいかに引き出し、増幅できるチームを作れるかが重要になっていくでしょう。
——個人の好奇心を組織として育んでいくには、どのようなアプローチをすればよいのでしょうか。
岩瀬:多くの組織では、「レールから外れると強く引き戻される」という軍事的な価値観が根付いています。だからこそ、組織として「やっていいんだよ」と後押しすることが重要です。
ミドルマネージャーがあえてレールを外す姿を見せるのもいいでしょう。コンプライアンス違反は論外ですが、「このルールは昔のものだから、今は必要ないのでは?」とあえてプロセスを外してみせる。メンバーはマネージャーの背中を見て「やっていいんだ」と学習します。実際に行動したら、マネージャーが認めてあげる。その蓄積が組織文化になっていきます。
安斎氏:マネージャーの背中を見せることに加えて、ルールデザインも重要です。日本企業は「~してはいけない」「~しなければならない」というルールが多すぎます。「~してもいい」と許可・許諾するルールを意識的につくることも必要だと思います。
また、あらゆる組織で言えることですが、お互いの自己紹介が十分に足りていないと感じます。組織の課題はさまざまありますが、突き詰めると「お互いをよく知らないから仲が悪い」というシンプルな理由に辿り着くことが多いのではないでしょうか。
これまでの組織は、軍事的な世界観に基づき、個人の自我を殺して組織に従う「過剰適用」を前提に作られてきました。しかし、言われたことをこなすだけのネジや歯車のような役割ならAIのほうが強い。
これからは、今まで抑圧されてきた「自分はどういう人生を歩んできて、何を大事にし、何にストレスを感じるのか」といった部分を職場で開示し、お互いに知り合うプロセスが不可欠です。それこそがチームビルディングの深さにつながります。

岩瀬:非常に共感します。私のチームでも、先日2時間かけてメンバー同士が自己紹介をする機会を設けました。自分の価値観や苦手なこと、周囲からどう期待されていると思うかを各自が自己開示し、それに対して他のメンバーがフィードバックするという会です。
私たちは月1回程度の頻度でこうした時間を取っていますが、油断するとお互いの価値観などを話す機会は本当になくなってしまうため、意識的に実施することが必要だと思います。
安斎氏:対話と合わせて重要なのが「振り返り」です。職場での振り返りは、往々にして「なぜできなかったのか」という課題ベースの反省会になりがちです。そうではなく、「この半年でどの仕事が一番楽しかったか?」「どこにやりがいを感じたか?」を振り返るべきです。自分の好奇心センサーがどこで働いたのかを知る癖をつけることが、自分の探究心を言語化することにつながります。
AIという合理的な存在がパートナーになるからこそ、人間側がこうした自分の内面にある「楽しさ」や「やりがい」といった感情に向き合い、それをチームで共有するプロセスが不可欠です。合理性だけではたどり着けない、人間中心の組織づくりへ。
こうした感情に向き合うプロセスを組織のルーティーンに組み込んでいくことこそが、AI時代に求められる組織の再設計の第一歩になるのだと思います。
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Generative AI: The Game-Changer in Society
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