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2025.03.06(Thu)
この記事の要約
AIエージェントが「デジタル同僚」となり一緒に働く時代が近づいています。AIエージェントは生成AIを中核とし、外部ツール、記憶機能、役割定義を組み合わせて目標達成に向けて自律的に行動するシステムです。コンテンツ生成に特化した生成AIとは異なり、「指示待ち型」から脱却しています。
NTTドコモビジネスは20種のAIエージェントを開発し、金融や製造業界で活用を進めています。効果的な活用には、業務の「暗黙知」を言語化するプロセスが不可欠です。人が無意識に行っている判断や、マニュアルに明文化されていないルールを一つひとつ明らかにし、AIに埋め込むことで、アウトプット品質の向上が期待できます。
今後は「AI中心の業務に人が入り込む」という可能性も視野に入れ、200種への拡張を目指します。AIエージェントと働く未来では、人だからこそ生み出せる創造的な価値の追求が、新たな競争力の源泉になると展望しています。
※この要約は生成AIをもとに作成しました。
目次
――「生成AI」と「AIエージェント」の違いについて教えてください。
南葉潤一(以下、南葉):生成AIとは、大規模な学習データをもとに、主に確率的な推論にもとづいて自然言語や画像、動画、音声などのコンテンツを生成するAI(人工知能)を指します。一方、AIエージェントは生成AIを中核に据えつつ、外部ツールとの連携、記憶機能、役割定義などを組み合わせることで、目標指向型の行動を自律的に実行するソフトウェアシステムを指します。
生成AIとAIエージェントは、どちらもAIのカテゴリーに含まれますが、AIエージェントはその構成要素の1つとして生成AIを活用しています。コンテンツ生成や出力に特化した生成AIとは異なり、AIエージェントは生成AIの出力を利用して、目標達成に向けたさらなるアクションを行う点が大きな違いといえます。
――AIエージェントはどのような仕組みで成り立っているのでしょうか。
南葉:少しテクニカルな観点でAIエージェントの仕組みをひもとくと、大きく4つの要素で構成されています。
1つめは、頭脳に当たる「大規模言語モデル(LLM)」、つまり生成AIそのものです。生成AIによって、言語または非言語情報の処理・生成を行い、理解、推論、行動することができます。
2つめは、手足に当たる「ツール」です。一般的にFunction Calling、API、MCPサーバーといったツールを使うことで、外部情報にアクセスしたり、外部のデータやシステムを操作したりといったことが可能になります。
3つめは、記憶に当たる「メモリー」です。これにより、ユーザーとの過去のやり取りを参照してコンテキストを維持することで、パーソナライズされた応答を行うことができます。一般的には、短期記憶と長期記憶の種別に分けることができます。
4つめは、人格や役割に当たる「ロール」です。多くの場合は「プロンプト」や「インストラクション」として定義されますが、ロールによって、AIエージェントが果たすべき役割や期待される振る舞いを行うことができます。

――さまざまな業務での活用が期待されますが、AIエージェントによってどのようなことが実現できるのでしょうか。
南葉:AIエージェントは生成AIやツールをはじめとする複数の機能を組み合わせることにより、従来の「指示待ち型」のAIから、自律的に業務を遂行する「デジタル同僚」へと進化しつつあります。NTTドコモビジネスはAIエージェントを活用し、バックオフィス業務の効率化、営業支援、顧客対応など、さまざまな業務領域においてEX(従業員体験)の向上を目指しています。
具体的には「業務ヒアリングエージェント」「セールスデータ分析エージェント」「外部情報リサーチエージェント」「提案資料作成エージェント」「文書チェックエージェント」など、多様な業務に対応する20種のAIエージェントを開発し、顧客のニーズに合わせて最適なエージェントを組み合わせて提供しています。
これまでにインフラ業界向けの申請業務支援、製造業界向けの知財文書の作成支援などの事例がありますが、AIエージェントの活用により、業務効率化やナレッジ活用の高度化、スピードと精度の両立などさまざまな成果が期待されています。
――AIエージェントにおけるNTTドコモビジネスの強みはどのような点ですか。
南葉:旧来の音声通話サービスやセキュリティ関連サービスなど、弊社が強みとする領域にAIを活用したり組み込んだりできる技術力があること、またそうしたサービスをラインアップするだけでなく、データマネジメント基盤や生成AI、GPU向けの高発熱サーバーに対応したデータセンターを運用していることも強みと考えています。
AIエージェントを使う上で欠かせないデータ管理やセキュリティポリシーへの適合まで幅広くカバーし、業務に使える品質を実現するAIエージェントの提供を行っています。
――業務においてAIエージェントはどのような存在となり得るのでしょうか。
荒川大輝(以下、荒川):例えるなら、業務経験は浅いけれど膨大な知識を持っていて、自律的に動いてくれる新メンバーがチームに加わるイメージですね。ただし会社や業務のことをまだよく知らないので、足りない部分を補いながら育てていく必要があります。
南葉:デジタル同僚と人が協働する未来は着実にリアルなものになりつつありますね。
荒井直樹(以下、荒井):「AIエージェント」がバズワード化するほど注目が集まっていますし、2025年6月にエクサウィザーズとの資本業務提携を通じて提供を開始した、20種のAIエージェントを活用した業界別ソリューションにも大きな反響をいただいています。期待値が高まる一方、実務でどのように活用するかが重要ですが、私たちはお客さまと密にコミュニケーションを重ねAIエージェントの活用を進めています。
――AIエージェントの活用に向けたクライアントとの取り組みについて教えてください。
荒井:具体的な業界名は伏せますが、あるお客さまの業務プロセスにおいて、専門知識を要する確認作業に膨大な工数をかけておられました。大量のドキュメントと複雑な参照資料を照合し、細かな確認項目を一つひとつチェックしていく根気のいる作業です。
複数名の担当者が長期間にわたってこの作業に従事しており、業務全体の一定割合でもAIエージェントで自動化できれば大きな負荷軽減になると期待されていました。とはいっても、導入から活用に進むにはさまざまな課題を乗り越える必要がありました。

――どのような課題があったのでしょうか。
荒井:まずAIエージェントに既存のマニュアルなどの内容をそのまま与えてチェックをさせてみたのですが、お客さまが期待するような精度は出ませんでした。人が使いやすいようにつくられたマニュアルなので、AIが読み込みやすいよう変換していく作業が必要となりました。その後、再びチェックをさせてみたのですがなかなか思うような結果は得られませんでした。
そこでお客さまへのさらなるヒアリングを進めて分かった1つの要因が、マニュアルには記載されていない「暗黙知」がいくつも存在することでした。これまで見えていなかったルールやお客さまの知識を一つひとつ明らかにし、AIエージェントに埋め込む作業が必要だと認識しました。
――AIエージェントを活用するには、業務を言語化するプロセスが必要なのですね。
荒井:そうですね。例えば、ドキュメント上で特定の表現や用語の使用を避ける場合、その派生形や関連語なども含めてチェックをする必要がありますが、熟練した担当者は具体的な指示がなくても対応することができます。
しかしそうした細かな指示や判断基準を明確に定義しなければ、AIエージェントが人と同じ精度を出すことは難しいのです。お客さまの業界や業務を深く理解し、丁寧に言語化することがAIエージェントの活用に欠かせません。
荒川:AIエージェントを“膨大な知識を持ち自律的に動ける新メンバー”と表現しましたが、その職場の「当たり前」を明らかにしてインプットしてあげなければ、AIエージェントは十分に能力を発揮できず、人が期待するアウトプットを出すことはできません。全力で走るための準備運動が必要なのは、人もAIも同じです。
また、AIエージェントを使いこなすにはさまざまな課題を乗り越える必要がありますが、業務効率化が進めば、コスト削減にとどまらず事業そのものに大きなプラスの影響をもたらすことも期待できます。AIエージェントは単なる人の代替ツールと捉えられがちですが、人や事業を成長させる、重要なファクターとなり得るのではないでしょうか。

――AIエージェントの活用が進むと、AIと人の関係性はどう変わっていくのでしょうか。
荒井:ここまでの活用例はいずれも「人中心の業務にAIエージェントを組み込む」という考え方がベースですが、反対に「AIエージェントを中心とした業務に人が入り込んでいく」という形も大いにあり得るのではと考えています。
例えば、申請業務であればそもそも前段階の書類作成からAIエージェントに任せることができれば、書類の精度自体が高まる可能性があります。そうすればチェック業務の負荷が減り、一連の業務において大幅な効率化が実現できるでしょう。
AIの中に人が組み込まれる“Human in the loop”、あるいはAIの動きを人がモニタリングする“Human on the loop”、さらにはAIエージェント同士が連携する“Agent to Agent”など、新たな仕組みを模索していきたいと考えています。

南葉:AIエージェントの基本原理は「ツールとインストラクションを与えられた生成AIが、状況に応じて適切な順序でツールを呼び出して使う」というシンプルなものですが、実際の業務適用では、複数のツールの組み合わせや状態管理、コンテキストエンジニアリング、複数エージェントの協調など、業務実態に合わせた設計・運用が求められます。AIエージェントは銀の弾丸でも魔法の杖でもありません。そもそも人がプロセスをよく理解していない業務をAIエージェントに任せることはできないのですから。
「こんな時はこう判断/行動している」と人が言語化し、インストラクションに落とし込み、AIエージェントにツールを使わせる。この仕組みをうまく回していけばAIエージェントの活用レベルを高めていくことができます。
AIエージェントが人にとって「あると便利」から「不可欠な存在」になるにはまだまだ壁がありますが、AIエージェントを使って何がしたいのか、どんな効果を得たいのかを常に可視化しながらプロジェクトを進めることで、より良い成果が得られると考えています。
荒川:今はどの業界も企業も手探りの時期ではあると思いますが、あと1年もすれば活用事例が増え、さらに流れが変わってくると感じています。ChatGPTなどによって生成AIの民主化が進み、AI活用のイメージはかなり具体的なものになってきていますよね。
顧客が実現したい未来をより早く着実に実現するのが私たちの役目であり、クライアントとの取り組みを通じて今後もノウハウを蓄積していきたいと思います。
――NTTドコモビジネスは現在20種のAIエージェントを200種まで拡張することを目指していますが、そのために注力していることを教えてください。
南葉:前提として私たちは200種という数字の達成をゴールに据えているのではなく、お客さまの業務課題を本質的に解決し、AIと人が協働する新しい働き方を実現したいと考えています。
注力していることの1つが、現場起点の開発です。金融、製造、エネルギー、公共などさまざまな業界のお客さまと現場の業務プロセスをひもとき、場合によってはAI中心の仕組みを構築しながら、現場で活用できるAIエージェントの共創に取り組んでいます。
同時に、各業界で共通する業務に使える「汎用型」と、専門性の高い業務に適している「業界特化型」の両軸でAIエージェントの開発と拡張を進めています。お客さまのご要望に合わせてカスタマイズし、スピーディーに現場に導入してPoCに進める体制を整えています。

――セキュリティやガバナンスの観点ではどのような取り組みをしていますか。
南葉:お客さまによっては厳格なセキュリティ要件やデータガバナンス要件があるため、プライベートクラウドやオンプレミス環境でもAIエージェントを実行できるような環境づくりに取り組み、さまざまなケースに対応できる実行環境の整備を進めています。
今後も、エクサウィザーズをはじめとするパートナーと協力し、先進技術の導入にも力を入れ、多種多様な業務課題に柔軟に対応できる体制づくりに取り組んでいきます。
荒川:200種のAIエージェントへの拡充は、こうした取り組みを継続していくことで結果的に実現されるものだと考えています。私たちにとっては、実用的な武器とユースケースをいかに開発していくかが重要であり、さまざまなお客さまとの共創を通じて得られる知見を今後に活かしたいと考えています。
――AIエージェントは今後、人々の働き方をどのように変え、企業や社会にどれほどのインパクトをもたらす存在なのでしょうか。未来のイメージをお聞かせください。
荒井:これまでのシステムは人が中心でしたが、従来のシステムを維持したまま業務効率化に取り組んでも、やがて限界が来ると感じています。そこで登場したのがAIエージェントです。AIエージェントを軸にシステムを再構築していけば、業務の9割はAIエージェントが実行する、そんな未来が現実になるのはそう遠くはないと考えています。
その時、人はどんなことに時間を使うべきなのか、明確な答えはありませんが、これこそが今後の企業価値を左右する大きなポイントになるのではないかと考えます。AIエージェントに任せられない、人だからこそ生み出せる価値とは何か。例えば、長年蓄積された社内データや企業同士のネットワークを活用することが、他社との差別化につながるかもしれません。

荒川:スマートフォンやリモート会議をはじめ、私たちはこれまでさまざまなツールを取り入れ、それに合わせて自然と業務スタイルが変わってきましたよね。AIエージェントとの協働が当たり前の世界が実現されていくにつれ、私たちの働き方もまた徐々に変化を続けていくのではないでしょうか。
南葉:AIエージェントによって新しいEX(従業員体験)が実現され、それが企業価値や社会全体の生産性向上、さらには働きがいの創出につながっていくと期待しています。お客さまの声を聞き、現場に寄り添って、新たな価値や変革を提供していきたいと思います。
荒川:AIエージェントは「人のためのツール」という認識が浸透していますが、ここからさらに意識をシフトして「一緒に仕事をするデジタル同僚」という世界観をどれだけリアルなものにしていけるかが重要だと感じています。お客さまと試行錯誤を繰り返し、ワクワクしながら新たな未来を一緒につくっていきたいと考えます。
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