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2025.03.06(Thu)
目次
映像や音声などあらゆる情報を、長距離間でも共有できるようになった現代社会。しかしまだ、共有が困難な分野がある。私たちが日々肌で感じているさまざまな「触覚」である。
引っ張られる・押されるなどを感じる「力覚」、堅さや柔らかさを感じる「圧力」、触り心地を感じる「表面材質感」。これらの「三原触」を遅延なく伝送できれば、遠隔にいる他者との触覚の共有が可能になる。
このプロジェクトを実現すべく、村田製作所と同社の傘下のミライセンス、超低遅延性通信インフラ「IOWN APN」(※)を擁するNTTドコモビジネスがタッグを組み、世界初の実証実験が進行中だ。※ 正式名称はdocomo business APN Plus powered by IOWN®
プロジェクトの発端は、NTTドコモビジネスIOWN推進室の莊司哲史とミライセンス代表取締役CEO/CTOの香田夏雄との出会いだった。ミライセンスが開発する3DHaptics技術の存在を知った莊司が、IOWNと組み合わせられないかと香田に提案した。
「低消費電力・大容量・超低遅延を可能にするIOWNを、いかに社会に実装していくか。一緒に組んでいただけるパートナーを探していたときに、ある展示会でミライセンスと出会いました。感触を伝送するという最先端技術を有し、村田製作所グループとして、研究開発の域を超えて実際にモノをつくれる環境をお持ちです。ユースケースに合わせた実装への道筋がある点も、非常に魅力的でした」(莊司)

3DHapticsは 振動によってリアルな感触を生み出す技術だ。特殊な波形パターンがデバイスを持っている人の脳内に錯覚を起こし、押されたり引っ張られたりするような感触が伝わる。
「聴覚や視覚に錯覚があるように、触覚にも錯覚があることを世界で初めて発見したのが、ミライセンス創業者の中村則雄博士です。3次元空間で感じる触力の体感をビジネス化していこうとミライセンスが生まれ、2019年に村田製作所グループに参画したことで、ものづくりを手がける事業会社としての強みも持てるようになりました。では、3DHapticsを社会に実装させていく上で最も重要なものは何か。それは、“強力な通信インフラ”にほかなりません」(香田)
触覚はデータ量が大きい一方、映像や音声の伝送と少しでもズレが生じればリアリティーが失われてしまう。同じ空間にいるかのように動ける同時性を実現するためには、IOWNの超低遅延技術がなければ難しいだろうと、香田は早々にIOWN構想に関心を持っていたという。
「莊司さんから声をかけてもらったときには『最高のパートナーシップが組める』ととてもうれしかったですね」(香田)
動きや感覚を共有するという新しい体験を味わってもらうためには、インフラ構築と同時にハード機器も欠かせない。
村田製作所の乗越誠也は、同社が誇るものづくりのノウハウと生産体制もまた、実証実験を推進する大きな強みになったと話す。
「制御技術において村田製作所は世界トップレベルの開発実績を持っています。今回、3DHapticsデバイスで振動をどう伝え、相手を誘導するように動かすか、試行錯誤しながら社会実装のカタチを見出せたことは、当社にとって非常に大きな学びになりました」(乗越)

実証実験の一環として、24年10月に行われた「docomo business Forum’24」では、方向感の伝送を体感できる「離れた相手とシンクロ作業チャレンジ」を実施した。触覚の遠隔伝送という革新性はどう表現するとわかりやすいのか。
約半年間の議論の末、展示ブースでは、小売店の商品棚を想定したセットのなかで、3DHapticsデバイスを通し、ナビゲーターがオペレーターを商品の場所へ誘導していくという体験を提供した。ナビゲーターの動きに合わせて、オペレーターの腕が誘導され「もう少し右」といった微妙なニュアンスも共有できる。

このチャレンジはつまずきも多かったが、それは社会実装を目指すうえでも非常に重要な気づきだったとミライセンス・事業開発部部長の生島寛之は振り返る。
「理論上では伝達可能な動きでも、うまく伝わらないことが多々ありました。実際にデバイスを持って手首を動かすと、ある角度には動かしにくいという身体性の縛りにも気づかされました。人間工学を理解したうえで設計を考える必要があるということは、本プロジェクトを通じて得た重要な発見でした」(生島)

今後の社会実装に向け「振動だけで方向感を伝えられる」というアウトプットのシンプルさは、3DHapticsの画期的な点だと香田は言う。
「大事なのは振動で脳に錯覚を起こすことで、高価なロボットや大型の機材は必要ありません。だからこそ、私たちの身の回りにある、さまざまな機械に搭載できる可能性が非常に高く、活用範囲も多岐にわたるでしょう。例えばリモコン型のデバイスに搭載することで、視覚障がい者のナビとして活用できるかもしれませんし、高齢者の方に一緒に体を動かしてもらうツールにもなり得ます。介護・福祉領域以外にも、ゲーム機や医療機器など、いかようにも応用していける可能性があるのです」(香田)

この技術の実用性は、すでに実証されている。25年の大阪万博では、バッテリー内蔵・無線LAN対応のスタンドアローン型3D Hapticsデバイス、ふしぎな石ころ“echorb”が4,000台稼働し、来場者に新たな感覚体験を提供した。
「研究段階を超えて、すぐにでも製造・提供可能な段階に達している」と香田は強調する。
セールスマーケティングの観点からプロジェクトにかかわるNTTドコモビジネスの大塚雅代は、小売・流通業で増えつつある、無人店舗での顧客誘導や、工場で働くスタッフが危険なエリアに入らないよう安全に誘導する仕組みなどでの活用にも可能性を見出している。
「今までの遠隔コミュニケーションは、離れれば離れるほど遅延が発生し、ちぐはぐになっていました。でも、音声や映像だけではなく触覚さえも距離を気にせずコミュニケーションが取れる社会が来れば、誰とでも空間を共有でき、あらゆる分野で協業が可能になるでしょう。人と人とのかかわり方も、より自由に多様に広がっていくと思っています」(大塚)

ユースケースに基づいた試作を進めるにあたり、共創はこれからの重要なテーマだ。IOWN APN×3DHaptics技術の活用がどんな社会課題の解決を実現できるのか、仮説づくりから一緒に動いていける企業とパートナーシップを築いていきたいと莊司は話す。
「感覚の伝送技術は、もはや“未来の技術”ではなく、実用化が可能なものです。どう活用すればビジネスのスケールアップやサービス価値の向上につながり、業務効率化を実現できるのか。ともに議論しながら、事業貢献を考えていける方とぜひお会いしていきたいですね」(莊司)
Promoted by NTTドコモビジネス / text by Rumi Tanaka / photographs by Yoshinobu Bito / edited by Kaori Saeki
 
                                     
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