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2024.10.02(Wed)
New Technologies
2025.05.28(Wed)
この記事の要約
SXSWは音楽・映画・ITを軸にした世界最大級のイノベーションイベントで、オースティンの街全体を舞台に1700以上のカンファレンスが展開される。2025年はAIエージェントや量子コンピューティング、気候変動と経済成長の両立といったテーマが注目を集めた。QualcommはAIを搭載した自律的エージェントの近未来を提示し、GoogleとIBMは量子技術の進展とその実用化への道筋を強調。政府・企業・研究機関の連携によるイノベーション・エコシステム構築の重要性も語られた。AIと量子技術は互いを補完し、人類社会の変革を促す可能性があると強調されている。そして、感性や創造性といった人間特有の力をいかにテクノロジーやビジネスと共鳴させるかが、持続可能な未来の鍵として浮かび上がった。SXSWは今や“未来知”の交差点として、世界の最前線を映し出している。
※この要約は生成AIをもとに作成しました。
目次
世界最大級のイノベーション・クリエイティブ・カンファレンスイベントとして30年以上の歴史を持つSXSWは、1987年に音楽フェスとして始まり、94年に映画、そして98年にIT新技術の祭典としてインタラクティブの要素が加わることで、現在まで続く「音楽・映画・ITビジネス」の三本柱のフォーマットになりました。
その規模は年々拡大しており、注目のイノベーターやインフルエンサーによる講演、モデレーターによるディスカッション、ワークショップ、メンタリング、ネットワーキングなどで構成されるカンファレンスは9日間でなんと1700以上。参加企業による体験型アクティベーション・スポットも200カ所以上にのぼります。
各カンファレンスのテーマは、さまざまなテクノロジーや業界、トレンドを掛け合わせて設定されており、実に多種多彩です。
2025年の今回、頻出していたトピックは以下の5項目。
1)AIエージェントがもたらす新しいユーザー・エクスペリエンス(UX)
2)量子コンピューティングと次世代のビジネスモデル
3)技術開発競争と安全保障
4)イノベーション・エコシステムとしての産官学連携
5)気候変動対策と経済成長を両立させるテクノロジー
特にAIについては、いずれの業界においても積極的に活用することがもはや前提となっています。その上で「AIを活用することでどのような価値が生まれ、その価値をどのようにビジネスモデルへと転化するか」「AIの進化によりビジネスのあり方が変わることで、安全保障や気候変動対策、産官学の関係性はどのように変わっていくのか」といったディスカッションが盛り上がりを見せていました。
ここからは、いくつかのカンファレンスを振り返りながら、テーマを掘り下げていきましょう。
■AIの5年後は
「おそらく5年のうちに、AIを搭載したPCが登場する」と語るのは、携帯電話からスマートフォンへの進化をリードしてきた半導体メーカー、Qualcomm CEOのクリスティアーノ・アモン氏です。
スマートフォンやスマートウォッチ、スマートグラス、自動車など、今後はさまざまなエッジデバイスにAIが搭載され、ユーザーに代わって複雑なタスクを自律的に実行する「AIエージェント」が登場すると予見。ユーザーとの会話や行動データ、消費傾向などを学習したAIエージェントがバックグラウンドでさまざまな機能やアプリを自律的に使いこなし、ユーザーをサポートする時代が近づいています。「AIはウェアラブルなものになり、アプリ中心から人間中心へと変わっていきます。ユーザーはAIと会話をし、新しい魅力的な提案をしてもらい、行動を代行してもらう。自らアプリを選んで操作することはなくなるでしょう」と同氏が語るように、AIはより身近な存在になることが予想されます。
さらにステージには、講演前日にサプライズ発表されたスペシャルゲスト、大人気ヒップホップグループ「ブラック・アイド・ピーズ」の中心人物であるウィル・アイ・アム氏が登場。「AIの進化は、さまざまな表現のあり方を再定義します。時代を変えるようなまったく新しいアプローチも生まれるでしょう」と期待を寄せるウィル氏は、自身が考案したAIアプリ「RAiDiO.FYI」を使用した即興でのAIエージェントデモンストレーションを披露しました。感情豊かな抑揚、リズミカルなつなぎ言葉を駆使してラジオホストもこなすRAiDiO.FYIの音声AIキャラクター「ペルソナ」たちとの会話は、まさに人同士の自然なやり取りのようなクオリティ。観客からは驚きの声があがりました。
■AIに次ぐゲームチェンジャー「量子コンピューティング」とは
そんなAIエージェントと並び、今回のSXSWでもっとも注目を集めたトピックのひとつが量子コンピューティングです。AIに次ぐゲームチェンジャーと目される量子コンピューティングは、世界にどのように変化をもたらすのでしょうか。Google量子AIチームの最高執行責任者(COO)であるチャリーナ・チョウ氏は、2024年12月にGoogle量子AIチームが発表した最先端の量子チップ「Willow」の成果に触れながら、ビジネスに活用するビジョンを語りました。
「最新鋭のスーパーコンピューターが10セプティリオン年(10の25乗年)かかる計算を、Willowは5分以内に終えました。しかしそれはベンチマークに過ぎず、まだ便利なアプリケーションにはなっていません。私たちは、人々が本当に求めるサービスへの活用を5年以内に実現したいと考えています」
量子コンピューティングは、物質やエネルギーをミクロレベルで観測したときに確認される不思議な存在である「量子」の性質を活用した「量子ビット」を情報の最小単位とするコンピュータ技術で、情報単位が「ビット」の従来のコンピュータでは時間を要する、複雑な計算問題を短時間で処理する能力に長けています。
「実用的なアプリケーションに活用するには、少なくとも10万、あるいは100万かそれ以上の量子ビットが必要で、量子ビットの品質も、アルゴリズムの100万ステップごとに1つのエラーが発生する『10のマイナス6乗』程度のエラー率まで高める必要があると予想しています。
Willowはエラー率『10のマイナス3乗』を計測しており、これは量子コンピューティング研究で報告されたエラー率で過去最高のものです。さらにあと3桁の改善に取り組んでいきます」
量子コンピューティングが実用化されれば、まったく新しい素材やエネルギー、治療法などの開発、また製造や物流、創薬といったプロセスの劇的な高速化・効率化など、ビジネスや気候変動対策に多大な効果が見込めます。一方でチョウ氏は、研究投資や安全保障における政府支援の重要性についても言及しました。
「量子ビットをコントロールするためには、宇宙の温度より低い10ミリケルビン(約−273℃)で、かつノイズに非常に弱い量子ビットの脆弱な状態を維持できる環境が求められます。また、こうした環境を構成するさまざまなコンポーネントは世界中で製造されており、政府主導での国際協調や研究投資も必要です。
さらに、量子コンピュータによって通信の暗号化が破られるリスクもあります。国際社会をリードしていくためにも、イノベーションや安全な暮らしを守る能力を持つことを多くの人が望むはずです」
■イノベーション・エコシステムの重要性
企業と政府・自治体、研究機関が連携してイノベーション・エコシステムを構築する重要性は、IBM CEOのアービンド・クリシュナ氏とイリノイ州知事のJ.B.プリツカー氏による「AIと量子コンピューティングの次世代」をテーマにしたカンファレンスでも議論されました。
「イリノイ州にはシカゴ大学やイリノイ大学など5つのR1(カーネギー分類における最高クラス)研究機関と2つの国立研究所があり、州知事に当選した2018年当初から、量子コンピューティング分野でリードするチャンスがあると感じていました。そこで、2019年から大規模な投資を継続しています。
2024年には、IBMとパートナーシップを結び、シカゴでの量子コンピューティングキャンパスの建設と、さらにそのキャンパス内に国立量子アルゴリズムセンターを設立する発表を行いました。州として飛躍するためにも、ほかの誰よりも早く“アリーナにいなければ”と考えているのです」(プリツカー氏)
「私たちが推進したいのは、こうしたエリアに集まってくる世界中の優秀な研究者たちにユースケースを開放すること。価値は発明からではなく、それを使用する人々から生まれるからです。大きなイノベーションが起きれば、GDPは向上し先行者利益も得られ、それがまた原資になります。
量子コンピューティングは、あと4年のうちに驚くべき成果をあげるでしょう。そして同じころ、AIのほとんどのモデルは今のモデルの1%程度のエネルギー消費量になると予測しています。こうした進化は、電力の消費増加や水不足といった環境負荷の軽減にも大きく寄与するでしょう。
AIが過去の知から学習するものであるのに対し、量子研究はまだ未知の多い自然現象への学びです。相互に補完し合うであろう2つの先進分野で世界をリードできれば、GDPを10倍にできると信じています」(クリシュナ氏)
■経済成長と気候変動対策の現在地
経済成長と気候変動対策の両立は、いかなる企業においても切実なテーマです。大手EVメーカーのRivian CEO、ロバート・ジョセフ・スカリンジ氏は、SXSW 2025の公式スポンサーについた理由に触れながら、時代の転換点をむかえる世界で企業に求められる役割について語りました。
「化石燃料は、動植物の死骸が何億年という時間をかけて変化し、蓄積されたものです。それもあと2〜4世代分残っているかどうか。何億年もかけて蓄積された炭素を、私たちは100年ですべて大気圏に戻そうとしていますが、石炭や天然ガスを燃料とする発電所を停止するには非常に多くの変化が伴います。エネルギー政策の変更であり、ビジネスの変更です。再生可能エネルギーにシフトしなければなりません。
ところが、EVで考えてみると、クリーンで効率的であるというだけではまだ不十分です。大規模な影響を与えるためには、信じられないほど魅力的で、適正な価格である必要があります。自動車の開発工程ではおそらく5000万〜1億もの決定が下されますが、そのすべてにおいてクリーンな選択を最優先すべきなのか。車両の価格が顧客の手の届かないものになったり、魅力が失われたりするかもしれません。そういった慎重な判断が求められるときにいつも考えるのは、子どもたちの未来です。子どもを愛することが全人類の共通項のひとつだとすれば、その点でまず同意を得ることは、緊迫した議論であるときほど役に立ちます。
この歴史的転換は、誰もがすぐに受け入れられるようなものではないでしょう。数十年かけて、時には政治的緊張の高まりの中で進行していくもの。だからこそ、こうした状況を変えようと新しいビジネスに挑戦する人々に注目してもらいたいのです。その新しい選択肢が解決策の一部だという認識が広がるほど、皆さんの行動が促進されます。SXSWが究極的に表現しているのは、多様でユニークな視点の美しい融合です。私たちは、誰もが安心してオープンな議論ができる環境づくりに努めていきます」
SXSWでは、カンファレンスに加えて、企業や自治体による技術展示「Expo」や没入型エンターテインメントイベント「XR Experience」、そして新興技術やデジタルメディア関連のスタートアップを対象とする「SXSW Pitch」と、革新的な技術やプロジェクトを称える「Innovation Awards」の2つのコンペティションがあり、イノベーティブなソリューションのフックアップも盛んに行われています。
今年は日本からの出展企業・団体が24組で、過去最多となりました。またコンペティションでは、SXSW Pitchファイナリスト45社のうち2社、Innovation Awardsファイナリスト45社のうち1社が、日本企業からノミネートされました。
Innovation Awardsにノミネートされた住友金属鉱山のブースでは、太陽光をコントロールする素材テクノロジー「SOLAMENT®」を展示。赤外線を遮断し、光合成に必要な可視光線を透過させる農業ビニールハウス向け遮熱ネット「SOLAMENT AgriCool Shade™」や、海水や汚水を太陽光で熱して蒸発させ、蒸留水に変える装置「Solar-smart Water」などのユースケースが話題を呼びました。
コンペティションにおいては、データ取引を安全に行うためのAIインフラストラクチャー「Polygraf AI」がSXSW Pitchで、また電力やインターネット接続が限られた地域に教育リソースを提供するソーラー駆動のデジタルライブラリ「SolarSPELL」がInnovation Awardsで、それぞれ最高賞を獲得。
過去にはAirbnb、Twitter(現:X)、Foursquareといった企業がPitchでの受賞やノミネートを経て飛躍しており、ウィナー企業のクルーは、次世代のビジネスリーダー誕生の瞬間に立ち会おうとする観客と喜びを共有しました。
そんなコンペティションのファイナリストたちから、エネルギー、ロボティクス/XR、ヘルステックの分野で注目を集めた3社を紹介します。
◾️Fast Sense(イスラエル)
水素エネルギーへの世界的な移行は、段階的かつ慎重に進むと見られています。その初期フェーズでは、水素と天然ガスを組み合わせた「水素混合ガス」が導入され、徐々に水素の比率を高めていく戦略が採られます。この移行段階においては、ガス中の各成分の割合を正確に測定・監視することが不可欠です。
これまでは、分析に数十キログラムの重量と数万ドルものコストがかかる「クロマトグラフ」という大型機器が用いられてきましたが、Fast Senseは世界初の画期的なチップ型高性能センサーを開発。クロマトグラフと同等の分析能力を持ちながら、サイズは硬貨ほど、重さはわずか10グラム、価格は1個あたり10ドルという低コストを実現しています。この小型センサーをパイプラインや供給網に組み込むことで、遠隔からのガス成分のリアルタイム監視が可能になり、漏洩防止と同時に成分分析も行えるようになりました。すでに日欧米の大手企業と協業を進めています。
◾️Fluid Reality(アメリカ)
Fluid Realityは、ペンシルベニア州カーネギー・メロン大学のインタラクション技術研究チーム「Future Interfaces Group」から生まれたスタートアップで、VR/AR体験にリアルな触感をもたらす軽量・低価格の触覚グローブを開発しました。このグローブは、各指先に32個、合計160個の水圧アクチュエーターを備えており、感電や水滴、風、機械の振動など、細やかな触感を再現します。
アクチュエーターは厚さ5mmのロープロファイル設計で、外部の配線やチューブを必要としません。全体の重量は約207gで、バッテリー駆動により約3時間の連続使用が可能です。製造コストは1,000ドル未満とされ、従来の数千ドルの高価な触覚グローブと比較して、手ごろな価格で提供されることが期待されています。この技術は、仮想空間でのリアルな触覚体験を可能にし、VR/ARの没入感を大幅に向上させると注目されています。
◾️Glidance(アメリカ)
Glidanceが開発した「Glide」は、視覚障がい者や弱視者の自立した移動を支援するAI搭載の次世代モビリティデバイスです。2輪のベースに人間工学にもとづいたハンドルが取り付けられ、ユーザーが握って歩くだけで、Glideが障害物を回避しながら安全なルートへ導きます。ステレオカメラやセンサーを活用し、階段や交差点、エレベーターなどの環境情報をリアルタイムで把握し、触覚フィードバックや音声案内を通じて利用者に伝えます。
価格は約1,500ドルで、ガイド犬の訓練費用と比較して手ごろな選択肢となっています。創業者のアモス・ミラー氏自身も視覚障がい者であり、自らの経験をもとに「誰もがすぐに使える、学習コストの低い補助具」を目指して開発されました。Glideは2025年の「AI for Good Innovation Factory」で最優秀賞を受賞し、CES 2025でも注目を集めました。現在、プレオーダーが完売し、次回の予約受付が待たれています。このデバイスは、視覚障がい者の移動の自由と安全性を革新する可能性を秘めています。
5つの共通テーマがうかがえたカンファレンス、そして新しい技術やソリューションが会場をにぎわせたExpo&コンペティション。SXSWでは、全体を通して「体感すること」へのこだわりが強く感じられました。それは「体感すること」が、ビジネスとクリエイティブ/カルチャーをつなげる架け橋として機能するよう設計されていたからだと考えられます。
グローバルマーケティングにおける「人の心を動かすストーリーテリング」の重要性を紐解いたカンファレンスでも、そうした特徴はより顕著に表れていました。ドイツの自動車メーカー、Volkswagenによるプロモーション事例では、1960〜70年代の世界的なブラジル音楽の流行を牽引した後に早世したブラジルの国民的シンガー、エリス・レジーナ氏をAIで再現。実娘で同じく歌手のマリア・ヒタ氏との、一度もかなわなかった母娘のデュエットを“実現”させる映像が流れると、彼女たちのすばらしい歌声の中で感涙にむせぶ声が周囲からいくつも漏れ聞こえてきました。
多民族が集う現地において、異文化という人種や言語の壁の“向こう側”への理解とリスペクトが込められたグローバル戦略が観客に深くリーチしたその瞬間は、ビジネスとカルチャーの融合を掲げるSXSWならではの価値創出が体感された場面のひとつでした。
いま日本では、人口減少に伴う国内市場のシュリンクから、グローバル市場を目指す企業が増加傾向にあります。また、イノベーションの不足も長年指摘され、イノベーション・エコシステム構築へのヒントを模索しているビジネスパーソンも少なくありません。社会課題が複雑化する昨今、“ひとつの視点”から意識的に逸脱し、多様な視点、多様な技術や分野を体感しようとするニーズの高まりが、SXSWの盛り上がりからうかがえました。
SXSWでは、新しいインサイトやイノベーションとの出会い、ビジネスパートナーとなるような人や企業との出会いなど、オースティンの街のいたるところに「新しい価値」が溢れています。興味を持たれた方は、ぜひ来年のSXSWで、グローバルビジネスの最前線を体感されてみてはいかがでしょうか。
■docomo businessのAIの取組はこちら
https://www.ntt.com/business/dx/smart/generative-ai.html
■docomo businessのカーボンニュートラルの取組はこちら
https://www.ntt.com/business/lp/docomobusiness/db2024_sol/green-transformation.html
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