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2025.01.15(Wed)

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ドミニク・チェン × 渡邊 淳司
テクノロジーは、近未来のウェルビーイングにどう、貢献するのか?

社会の様々な領域で語られるようになった「ウェルビーイング」の概念。そのあり方は近未来、どのような姿をしているのでしょう。テクノロジーの進展と人間の身体のよりよい関係性は?企業活動におけるテクノロジー活用がめざすべきウェルビーイングの地平とは?
『ウェルビーイングのつくりかた 「わたし」と「わたしたち」をつなぐデザインガイド(共著)』(ビー・エヌ・エヌ刊、2023)などを通じて親交のある、気鋭の情報学者 ドミニク・チェン氏とNTT コミュニケーション科学基礎研究所上席特別研究員でOPEN HUB Catalyst/Advisorの渡邊淳司氏が、テクノロジーとウェルビーイングの関係性の未来について語らいました。

これまでとは異なる切り口でテクノロジーを見つめる

—長年、情報学者の立場からテクノロジーと人間の関係性について研究、考察を続けてきたドミニク・チェン氏。コンピュータ上のタイピング行為を時間情報とともに記録し再生できるソフトウェア「Type Trace」の開発は、様々なアーティストとのコラボレーションにも発展し、多くの芸術祭やアート展でもインスタレーションなどを通じて注目を集めました。
通常のアウトプットでは可視化されることのない“思考の痕跡”を可視化することに成功したともいえる、このソフトウェアへの想いを発端に、まずはお話を伺いました。

ドミニク・チェン氏(以下、チェン氏):近年のわたしたちの世界は、SNSなどでいかにユーザーのアテンションを獲得するかといったことに注力するあまり、メンタルヘルスの問題や社会的な分断が生じてきてしまっている時代だと言えます。大局的な視点でテクノロジーの状況を見ると、決して楽観的な見方だけではいられないということにここ数年、多くの人々が気づき始めているように思います。つまりこれまでとは異なる切り口でテクノロジーを捉え直す必要性が増しているとも言えます。

自身の実践で言えば、たとえば「Type Trace」では書き終わった結果ではなく、書く途中のプロセスを送り合うということを行ってみました。興味深いのは、タイピング時の収録動画を再生しているだけなのに鑑賞者はある種のリアルタイム性を感じてしまうという点。過去の、非同期なデータなのに、リアルタイムに同期しているように感じる。読者が今、書き手とともに同じ時間に存在しているような“共在感覚”が生まれるわけです。このような「プロセスをいかに共有するか」という視点を、テクノロジーを見つめ直す上で活かせないものか。そのようなことを私は考え続けています。

dividual(遠藤拓己+ドミニクチェン+松山真也)《タイプトレース道~舞城王太郎之巻》,「文学の触覚」 東京都写真美術館、東京(2007年12月〜2008年2月)
2007年、覆面作家として知られる第16回三島由紀夫賞受賞作家、舞城王太郎氏による描き下ろしの新作が、「Type Trace」によって執筆された。次々と入力されていく文字、小説が構築されるプロセスを目視することで、作家の心象風景が垣間見える

渡邊淳司氏(以下、渡邊氏):お話を聞いて感じたのは、僕が関わる「触覚」の領域の体験との親和性です。たとえば、画面の向こうで歩いている人の様子を、映像と音声に加えて、踏みしめることで生じる振動を同時に伝送して、遠隔で感じるテクノロジーがあります(※1)。視覚・聴覚に合わせて、砂などを踏みしめる触感が感じられ、その人と一緒に歩いているような感覚が味わえるわけです。そして、その時、相手が直接の知り合いである場合と、まったく知らない相手である場合とでは、得られる感覚が異なると思っています。チェンさんは「Type Trace」で似たような印象を抱いたことがありますか。

※1) 2025年4月開幕の大阪・関西万博に併せて、同年10月13日まで関西国際空港第1ターミナル 1階国際線・国内線到着フロアに設置される、NTTの研究技術「バイブロスケープ」活用の観光地映像体験の様子
(NTTグループ 2024年10月1日ニュースリリースより抜粋)

チェン氏:その感覚、とても分かります。“ザクザク”という感覚を相手の人格・体格・年齢なども含めた完全な情報として再現するパターンと、足跡や足音だけで再現するパターンとでは、それを受け取る側の想像力に大きな差が出てくるでしょう。言い換えれば、「認知的な自律性」とでも呼べるものでしょうか。
分かりやすく例えると、3Dホログラムが「ドミニク・チェンです」と名乗った上で情報を提供すれば、受け取る側に想像の余地はあまりなくなります。一方で、あえて情報量を制限したり、情報のチャネルを制限したりすることで、見る人は相手のイメージを能動的に想像するようになるでしょう。
こうした側面は、現状のテクノロジーの設計や作動に対してインスピレーションを与えてくれます。できるだけ臨場感を増すために、できるだけハイデフィニションな情報を作るという思想による設計とは、かなり異なる設計思想につながるのではないかと考えているのです。

渡邊氏:余白というか、すべての情報を与えすぎるのでもなく、まったく与えないのでもない、真ん中の領域をどう作るかというのは大切な視点だとあらためて思います。もし、テクノロジーを機能として捉えると、結果として何ができたという「道具」としての評価のみが行われます。そうではなく、お互いを想像し合うといった認知的な自律性が保たれたプロセスが、テクノロジーとの関わりに内包されていれば、使い手やその周囲の人々のウェルビーイングを生み出す契機となるのではないでしょうか。

ドミニク・チェン|情報学研究者、早稲田大学文学学術院教授
1981年生まれ。NTT InterCommunication Center研究員、株式会社ディヴィデュアル共同創業者を経て、早稲田大学文学学術院教授に。テクノロジーと人間の関係性、デジタル・ウェルビーイングなどの研究を続ける。著書に「コモンズとしての日本近代文学/イースト・プレス刊」「未来をつくる言葉/新潮文庫」などがある。 
Photo by Takaya Sakano

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