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Smart City
2024.11.22(Fri)
この記事の要約
宿毛市のマイナンバーカード市民カード化構想「宿毛ID」の実現過程と課題を紹介。当初は誤解や不安の声もあったが、利便性とセキュリティの両立を目指し、関係者間で議論を重ねて最適解を模索。
サービス開始後3カ月で1,000人以上が登録し、好調なスタートを切る。今後の課題として、若年層や働く世代への利用拡大、さらなる機能向上が挙げられた。
また、産官学の連携などを通じて多様なステークホルダーの意見を取り入れることの重要性も認識。マイナンバーカードを活用した自治体DXは、行政の業務効率化と市民の利便性向上の両立が成功の鍵と結論づけている。
※この要約は生成AIをもとに作成しました。
目次
――前編では、マイナンバーカード市民カード化構想がスタートした経緯を皆さんに振り返ってもらいました。今回の後編では、構想の実現に向けて、乗り越えなければならなかった壁や、皆さんが工夫されたことなどについて伺っていきたいと思います。
中上大輔氏(以下、中上氏):苦労したことはいろいろとあります。当初は議会で「マイナンバーカードの持ち歩きは危なくないのか?」という質問が出たりもしました。それ以外の場面でも、自分たちのやろうとしていることが、マイナンバーカードの「空き領域の活用」だということがそもそも理解されていなかったり、「日本国内に住民票がある全員に付与される12桁の番号」であるマイナンバーと「(マイナンバーも記載された)顔写真付き身分証」であるマイナンバーカードの区別が認知されていなかったりと、誤解から生じる不安の声が多かったように思います。
そんなこともあって、まずは市役所内での周知を徹底すべく、係長級以上の職員を全員集めて研修会を実施しました。その際、NTT Comさんには、マイナンバーカードを利活用することの意義やシステムの概要などについて専門的な立場から話をしてもらい、正しい理解が促進されたと感じています。
岡西強(以下、岡西):NTT Comが担ったシステム構築においては、マイナンバーカードにさまざまな用途・目的のアプリケーションを搭載する上で、利便性とセキュリティをどのように両立させるか、というのが一番の問題でした。
どちらかひとつを優先することはできないので、技術的な部分については、マイナンバーカードのバックエンド側の基盤システムや、空き領域におけるアプリケーション(AP)搭載システムの開発などにも知見を持つ、ビジネスソリューション本部のメンバーと連携を図りながら何度も検討を重ね、実現可能な方法を模索しました。
高浪晃暉(以下、高浪):当初は、空き領域に標準で提供されているカードAPを搭載する予定でしたが、宿毛市さんと何度も協議を重ねる中で、「利便性は高く、セキュリティも担保する」という部分はどうしても譲れないことがわかってきました。
この両立はとても難しい試みでしたが、協力各社を取りまとめるドコモビジネスソリューションズ四国支社の尽力もあり、宿毛市さんの運用に合わせてカスタマイズしたカードAPを新たに設計し、提供することで解決できました。
少し細かい話をすると、保育園の登降園を管理するシステムと、各種施設を利用できるようにしたシステムにおいて、それぞれの利用シーンに適した異なるカードAPを用いていたり、施設に設置した読み取り機でマイナンバーカードをタッチする時と、利用者がスマートフォンでマイナンバーカードを読み取る時とで認証方法を変更したりするなど、求められるセキュリティレベルを考慮しながら、可能な限り柔軟な処置を施しました。こうした細かい運用に合わせたカードAPのカスタマイズができるのは、マイナンバーカードやカードAPに知見があるNTT Comならではだと考えています。
上村秀生氏(以下、上村氏):思い返せば、宿毛IDでためたポイントや施設の利用履歴を確認する方法も、構想段階では専用サイトを設け、一人ひとりがマイナンバーカードでログインして見にいく、というものに決まりかけていました。
最初は特に疑問を持たなかったのですが、今回のプロジェクトで多くのアドバイスを賜った高知大学次世代地域創造センターの岡村健志准教授をはじめ、多くの方たちと議論を交わしていく中で、「自宅にマイナンバーカードのリーダーがある人が果たして何人いるのか」「そもそもパソコンを持っていない人だっているはずだ」という話になって、最終的には、スマートフォンで簡単に確認できるように専用のアプリを開発してもらおう、という結論に落ち着きました。
それが、宿毛湾のだるま夕日をイメージしたかわいいキャラクターがアイコンになった「宿毛愛デ」というアプリです。そのあたりから、会議をするたび本当にコロコロと違う要望が出てきて、「NTT Comさんは今、どういう気持ちで私たちの会議を聞いているのだろうか?」と、当事者ながら考えたりしていました(笑)。
谷本裕子氏(以下、谷本氏):最初は「これで大丈夫です」とOKを出すのですが、なにぶん役所のほうが慣れておらず、走り出した後に「こうしたほうがもっといいのでは……」という思いが芽生えたり、新たに気づいたりすることがたくさんありました。しかも通常、自分たちだけではうまく要望に落とし込めなかったりするところを、今回は高知大学の岡村准教授がわかりやすく言語化してくれたこともあり、かなりギリギリまで、妥協せずに知恵を絞っていたように思います。
いつも私たちの要望を聞いてくれていた岡西さんが、スケジュールと照らし合わせながら、委託会社さんの進捗状況を「晴れ」とか「曇り」マークで共有してくれていたのですが、もっとも要注意なのはきっと私たち宿毛市だったはずで……ずっと「土砂降り」マークだったのだろうなと、思い出して苦笑いしてしまいました。
岡西:もちろんそんなことはありませんが、皆さんにはお見せしていない別の管理表も作成して、スケジュールが破綻しないように、実は綿密に管理していました。
高浪:私は日ごろ、マイナンバーカードの利活用に関するプロジェクトでさまざまな自治体の皆さんとご一緒する機会が多いのですが、宿毛市の皆さんは、実現したい目標が明確だったため、開発もスムーズに進めることができ、そういった部分ではむしろ非常に助かっていました。
――プロジェクトの進行局面においても、常に意見を出し合ってブラッシュアップを繰り返されていたのですね。宿毛IDは、「デジタル田園都市国家構想交付金事業」採択から1年後、2024年の3月にサービス提供を開始されますが、リリースされての反響はどうだったのでしょうか。
西田幸氏:市民の方たちの反応は、最初はやはり「ちょっと怖いけん、持ち歩かん」と言われる方が多かったです。ただ、利用できる場が広がり、周りにも宿毛IDの登録を済ませた人たちが出てくると、自分も登録して持ち歩こうという人が増えてきました。
名倉早耶香氏:あと、読み取り機にカードをかざした際に鳴る「すくもあいでぃー♪」という読み取り音がとても特徴的なのですが、その音を聴いて「あれは何やろか?」と質問されることが多く、その場の勢いで登録してくれた人も結構いました。また、ポイントをためると景品が当たったり、未来投資型寄付にあてられたりすることを説明すると、その後、継続的に健康サロン「すくもいきいきサロン」へ通うようになった方たちも見られるようになりました。
上村氏:実は今回、一番心配で「頑張らなければいけない」と思っていたのが、宿毛IDの登録でした。先ほど高浪さんが説明してくれたように、宿毛IDは、カードの空き領域にアプリケーションを入れて、そこに個人の情報を載せていく仕組みなので、利用者に宿毛ID登録の申請手続きをお願いしなければなりません。この数をいかに伸ばすかが最初の難関で、かなり伸び悩むことも予想していました。
ところが、スタートして3カ月ほどで登録者が1,000人を超えて、もちろんこれは現場の職員たちの努力の賜物なのですが、うれしい誤算でした。施設やイベントに足を運んだ際、市民の方たちが読み取り機にカードをかざしているのを見ると、今でも、ほっと安心します。
中上氏:現在はさらに登録者が増え、1,100人を超えました。これは宿毛市民のおよそ17人に1人に当たる数字ですが、半年も経たない間にこれだけの人たちに使ってもらえるようになり、希望を感じています。この先、さらに登録者の数が5,000人、10,000人と増えていけば、利活用の可能性はますます広がっていくでしょう。
――宿毛IDが普及し始めて新たに気づいたことや、見えてきた課題があれば教えてください。
谷本氏:登降園管理システムで小さなお子さんがマイナンバーカードに触れられるようになったのはとてもうれしいことですが、例えば、小・中学生や高校生が日常的にマイナンバーカードを使うシーンなどは、まだ提供できていません。また、現在は公共施設や市が開催するイベントでの利用拡大を目指していますが、それだと20代〜50代の大人世代に意外とリーチできないのではないかと、最近思い始めました。
具体的にも、塾やゲームセンターなどでも活用が広がれば、青少年の見守りサービスが構築できそうだとか、大人世代の行動履歴も分析した上でEBPM(エビデンス・ベースト・ポリシー・メイキング:証拠にもとづく政策立案)の実践が進めば、働き方を考える場面などでこれまでになかったきめ細やかな支援が可能になるのではないか、といった検討を進めています。期待できる活用法は本当にたくさんあるので、利用シーンも登録者の数も、さらに増やしていくのが自分たちの使命だと感じています。
上村氏:登録者の数が伸びており、具体的なネクストステップが見えていることは喜ばしく思っていますが、ただ最初にも言った通り、あくまで「市民の皆さんがマイナンバーカードを持ち歩きたくなる仕組みづくり」が目的です。今の状況には満足していません。
あらゆる世代の人たちに、マイナンバーカードを「持ち歩きたい」「使いたい」と思ってもらえるように、機能/運用両面でさらなるブラッシュアップを続けていきたいと考えています。NTT Comさんには、これからもぜひご協力をお願いしたいと思います。
岡西:そうさせてもらえるとうれしいです。NTT Comとしても、今回の構築で終わりではなく、今後も宿毛市さんと連携を図りながら、サービスの改善や新たな機能の提案などを続けていきたいと思います。
平岡美希:私も今回のプロジェクトに携わったことで、宿毛IDの素晴らしさを十分すぎるほど実感しました。実はすでに近隣の自治体からも、宿毛IDに関する問い合わせを度々もらっています。注目度は間違いなく高いので、今後はこうした横展開を推し進める場面でも、橋渡し役を担っていければと考えています。
渡邉:今回、実際に現場で運用されている様子を拝見して、宿毛IDをきっかけに市民が地域とより密接につながっていくような、優しいコミュニティーの醸成を垣間見た気がしました。これまでいろいろとマイナンバーカード利活用の事例に携わってきましたが、空き領域を活用した事例はまだまだ少なく、宿毛IDは、先進的なロールモデルとなるひとつの理想形だと思います。
高浪:今後は、運転免許証や健康保険証との一体化の話もあり、ますます市民がマイナンバーカードを持ち歩く時代が訪れます。氏名・住所・生年月日・性別といった個人の4情報以外にも、例えば、すでに書き込みを行っている障がいの有無や免許返納の有無といった情報をさらに活用することができれば、自治体が提供する高齢者向けのタクシーチケットや、温泉利用時に使えるクーポンなどとしてもマイナンバーカードを活用できる、といった具合に、その可能性はますます広がっていくでしょう。マイナンバーカードを携帯するだけで、割引を受けられたり支払いを済ませられたり、簡単に施設が利用できるような社会の実現を目指していきたいです。
――では最後に、改めて上村副市長から、今回のプロジェクトの感想と、今後の展望をお伺いできますか。
上村氏:私が今回痛切に感じたのは、このようなプロジェクトを行政の職員だけで進めるのには限界がある、ということでした。各課を横断し、担当も年齢も性別も問わず多くの職員に携わってもらうことで貴重な意見をたくさん聞くことができたのですが、それを踏まえてなお、「行政の目線」を超えられない瞬間がありました。
市民の皆さんの利便性を考える際には、本件でいうところの高知大学のような第三者や、さまざまな経験、知見を持たれた有識者、NTT Comの方たちのような事業者など、地域社会を構成するさまざまなステークホルダーの意見に耳を傾けることが大事です。今回の取り組みが好調なスタートを切れた理由も、そういうところにあったと感じています。
マイナンバーカードによる自治体DXは、利便性とセキュリティが両立可能であったように、行政の業務効率化と市民の利便性向上の両方がそろって、はじめて成功といえるのではないでしょうか。今後も引き続き、業務改善やEBPMを推進していくとともに、市民の皆さんにもさまざまな豊かさや気づきが生まれるような取り組みに成長させていけたらと思っています。
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