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2024.08.09(Fri)

デジタル化で社会は、暮らしはどう変わる?
アナログ規制見直しから踏み出す一歩先の未来

#法規制 #スマートシティ
デジタル技術の進化は、人手不足の解決や生産性の向上などの課題を解決する一手として期待が寄せられています。ところが、日本にはアナログ的な方法を規定する法令や社会制度、いわゆる「アナログ規制」により、デジタル技術が開発されていながらも、その活用が阻まれているという問題がありました。

そこでデジタル庁主導のもと行なわれたのが「アナログ規制の見直し」です。今後、新たな技術やソリューションの開発・導入が進んでいくと、社会はどのように変化していくのでしょうか。デジタル化が進んだ未来の社会をイラスト化しながら、注目技術とともに4つの事例を解説します。

本記事は、アナログ規制の見直しとテクノロジーマップの策定に参画した三菱総合研究所・高橋久実子氏と、インフラ分野のDX支援に携わる同・宮﨑文平氏の監修のもとに作成しています。

この記事の要約

「アナログ規制の見直し」は、旧来の法制度を見直し、デジタル技術の導入を促進するデジタル庁主導の改革です。

2023年10月、約1万条項を対象に「テクノロジーマップ」が公開され、デジタル化の道筋が示されました。

テクノロジーのスムーズな導入により、災害対策、建設、物流、都市計画などの様々な分野で大きな変革が期待されています。

実現には政府の努力だけでなく、企業の積極的な働きかけが不可欠です。

この施策は日本の経済成長と国際競争力向上を目指すものであり、より便利で安全な社会の実現につながることが期待されます。

※この要約は生成AIをもとに作成しています。

目次


    デジタル化の遅れを取り戻す「アナログ規制の見直し」

    現行の法制度の中には、現場、対面、書面など人が対応することを前提としたアナログ手法を規定した法令が数多く存在していました。河川やダム、公園の巡視点検業務において、人が目視で確認することを義務付ける河川法や都市公園法は、その具体例の1つです。こうした「目視規制」のほか、人が現地に赴いて確認する「実地監査規制」、講習を対面で実施する「対面講習規制」など、「アナログ規制」には7つの類型があります。

    これらのアナログ規制は、もともとデジタル技術が誕生・発展していない時代に、政府が戦略的に策定してきた歴史があります。政府が細かく方法を指定することで、各事業者や企業が「独自のルールや手法を持たずとも、決められた規制を守ることで安全が担保される」などのメリットがありました。

    しかしデジタル技術の進展に伴い、法令改正の速度がデジタル技術の高度化に追いつかない状況になりました。センシング技術を導入すれば人の手を介さずとも安全確認ができるのに、「目視規制」があるからデジタル技術を導入できない。そんなジレンマが生まれてしまっているのです。

    海外に目を向けると、デジタル技術の活用によって自動化・効率化が進み、事業者の競争力が向上しています。例えば欧米にも安全を守るための規制はあるけれど、「人の目で確認する」「現地に赴く」「フロッピーディスクに保存する」など、手段までは法令上で規制していなかったことが、デジタル技術の導入の追い風となったのです。

    こうしたデジタル化の遅れは、日本の実質GDPや所得の伸びが欧米諸国と比べ緩やかになっている要因の1つだと指摘されています。そこで、法令のあり方から抜本的に改革するべく進められたのが「アナログ規制の見直し」でした。

    2021年に始動した構造改革のなかで約1万条項の規制が抽出されました。これらを迅速に見直していくことを目指して作成されたのが「テクノロジーマップ」です。このマップは、先に洗い出した条項にもとづき、データの取得とそれを解決するのに役立つ技術を可視化したもので、仮に最先端の技術動向にそれほど詳しくない人であっても、このマップを見ればスムーズにアナログ規制の見直しに取り組めるよう設計されています。

    例えば、「目視規制」はドローンやモバイルカメラ、ロボットなどで代替できます。「実地監査規制」はセンサーなどで常時監視し、異常は自動で通知するといった方法でリモート対応が可能になる。このように、テクノロジーマップでは約1万条項すべてが何らかの技術を用いてデジタル化できるよう道筋を示しています。

    では、アナログ規制の見直しとデジタル技術の開発・導入が加速していくと、どんな社会が実現するのでしょうか。危険な現場に人が行かずに済み、安全・安心・快適に効率的な仕事ができるかもしれない。そんなふうに、未来で起こりうるポジティブな変化を描きました。

    宇宙や空からのデータで減災レジリエンスを高める

    宇宙衛星やドローン、AIを活用できるようになれば、広域・遠隔でのデータ取得が可能になります。早期に異常・災害を検知し、住民に行動を促すことで津波などによる災害の被害を減らすことができるかもしれません。

    すでに、衛星データの気象、環境、防災、測位への応用はされていましたが、近年は「SAR衛星」が注目を集めています。このSAR(Synthetic Aperture Radar)技術は、電磁波を地表に向けて照射し、はね返ってきた情報をもとに地表の状態を解析するというものです。従来型の人工衛星(光学衛星)は画像でデータを取得していましたが、SAR衛星は気象状況にかかわらず24時間365日、微細な変化を把握できます。

    衛星で広域なデータを取得するのに対し、ドローンはより詳細な状況の把握やモニタリング、点検に活用されます。これらのデータにAIを組み合わせることで自動的な異常検知も可能になります。

    現在は自然災害発生時の取得データを各機関で処理し、防災機関へと共有する仕組みの構築が進められていて、発災直後のスムーズな避難や復旧が目指されます。さらに解析技術の開発が進めば、自然災害の発生を事前に予測できる日がくるともいわれています。宇宙衛星やドローンなどの技術が、災害から人命を守るために使われる——。そんな平和な未来が訪れるかもしれません。

    無人の「はたらく車」が街中や月面を行き交う時代は近い

    建設現場の中には過酷で危険な環境も少なくありません。建設機械の自動化・自律化により、人間は現場から離れた場所、つまり完全に安全性が担保された状況の中で遠隔監視・作業をすることが可能になります。

    実際に一部ダムなどの現場では、大手建設会社が建設機械の自動運転システムの実装を開始している状況です。今後は大規模な建設現場だけでなく、狭隘(きょうあい)な都市での自動化も目指されます。

    人と技術の分業が進めば、安全帯を作る際に必要な道路の通行止めもなくなることが予想され、社会的な損失を減らしながら道路を適切に整備することが可能になるとされています。

    また、月面での作業も研究開発が行われ、地上から遠隔で操作しながらの建設が可能になる未来が近づいているともいわれています。竹取物語で月への憧れが描かれた時代には誰も想像しなかったような壮大な事業がいま動きはじめています。

    物流クライシスを技術でどう乗り切るか

    AI×GPS技術の活用で、物流業界が抱える問題の解決が目指されます。国土交通省による「AIターミナル」は、コンテナ船の大型化による荷役時間の長期化や、コンテナ数の増加によるターミナルのゲート前の渋滞の深刻化を解決し、生産性を飛躍的に向上することを目的に打ち立てられた構想です。

    その項目の中には、RTGと呼ばれるゲート状の荷役作業用クレーンの遠隔操作化・自動化が挙げられており、オペレーターの労働環境の改善が見込まれています。

    また、連結トラックや隊列走行の導入も拡大しています。これは、1台で従来の大型トラック2台分、もしくはそれ以上の荷物を運ぶことができるというものです。陸上の輸送効率向上によって、ドライバー不足の解決やトラック輸送によるCO2排出量の削減が目指されます。

    さらに自動運転という観点からは、高速道路の管制ポールやドローンによるデータ取得技術の掛け合わせで、道路上の異常や混雑状況を知らせてくれる安全走行システムの構築も急がれます。

    「もう1つの街」に実社会の未来を映し出す

    現実にある街並みや建物をデジタル空間に再現する「デジタルツイン」が近年注目を集めています。この技術は、センサーなどを通じて建物や道路などのインフラ、経済活動、人の流れなど現実空間のさまざまな要素を取得し、バーチャル空間上に再現するというものです。「双子」のように忠実に再現することから「デジタルツイン」と呼ばれています。

    デジタルツインのポイントは、仮想空間上でシミュレーションを高速かつ何度も繰り返し行えること。東京都では、このデジタルツインをオープンソースのフレームワークを用いて構築し、各業界と連携することで、気候変動や、首都直下型地震などさまざまな課題の解決に取り組もうとしています。

    また海外の他都市でも、この分野は注目されています。例えばオランダ・ロッテルダムでは、エネルギーの消費分析や地下インフラの資産管理、都市洪水予測に活用したり、カナダ・トロントでは水道管や廃棄物、輸送に関わるインフラのデータを IoT センサーで収集し、デジタルマップ上でリアルタイムの監視を行ったりもしています。

    街の状態を可視化し、その未来のあり方を示すデジタルツインは、防災・都市計画・モビリティ・環境・産業(地域観光等)といった多岐にわたる分野で現実世界をよりよくするための洞察を与えてくれます。

    デジタル化の実現に向けて、各企業がすべきこと

    ここまで見てきたイラストは、現在のテクノロジーが進化した先に、そう遠くない未来に日本でも実現可能になると考えられています。

    そのためには、デジタル庁などの官側がその準備を進めるだけでなく、企業側の意識改革やデジタル技術の導入が不可欠です。その際に重要なのが、ユースケースの創出と共有で、技術実証の結果を社会に向けて発信し、業界内で情報交換しながら連携を進めていくことが企業には求められます。

    すでに建設業界でもその萌芽といえるものは生まれていて、設計、施工、維持管理といった建設生産システムの各段階において産官学が連携し、協調領域の形成に向けて取り組んでいます。各業界内で協調領域を明確化し、ルールづくりから見直していく。このように、複数の企業を巻き込みながらDXを推進しやすい環境をつくっていくことも望まれます。

    デジタル化の遅れによって市場がシュリンクしてしまうと、どんな企業にとっても大きな損失となりかねません。だからこそ、まずは企業間の連携から、デジタル化の加速、市場の活性化へと発展させることが重要なのです。

    このアナログ規制見直しの動きを、企業が実装するフェーズに入っています。ここに紹介した未来の姿を思い描きながら、デジタル化を進めるための一歩を踏み出してみませんか。

    <監修者プロフィール>
    三菱総合研究所 研究員
    高橋久実子
    官公庁を対象に産業の安全に係るDXや安全ガバナンス・マネジメントの高度化に向けた支援や、企業に対するリスクマネジメント戦略立案の支援を担当。アナログ規制関連のコンソーシアムイベント「Reg Tech Day」に出演。

    三菱総合研究所 主任研究員
    宮﨑文平
    魅力的な建設業界の実現に向けて、国土交通省やインフラ関連企業を中心に、i-Constructionやインフラ分野のDXに関連した制度・仕組みの検討、革新的な技術の開発、実装支援を担当。

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