Carbon Neutrality

2024.07.24(Wed)

従業員が原動力。
気候変動から見つめ直すカーボンニュートラルへの道筋

#環境・エネルギー #サステナブル
毎年のように記録的な猛暑が報じられ、近年は最高気温40度以上の「酷暑日」という言葉もよく耳にするようになりました。いうまでもなく地球温暖化は刻々と進んでいます。持続可能な脱炭素社会の実現が急がれますが、社会の転換は一足飛びにはいきません。企業においても積極的な環境経営が求められる一方で、その推進力となる従業員の意識や行動変容の重要性が明らかになってきました。

2024年5月29日に開催されたイベント「気象予報士と考えるカーボンニュートラル 求められる従業員個人の行動変容」では、第1部で気象予報士・お天気キャスター・ウェザーマップ代表取締役社長である森朗氏をお招きし、NTTコミュニケーションズ(以下、NTT Com)の宮田吉朗とともに、地球温暖化をはじめとする気候変動の問題と、その向き合い方について議論しました。第2部では企業の対策として従業員個人の行動変容の重要性にフォーカスし、メンバーズの萩谷衞厚氏とNTT Comの奈良部達也と上田耕佑による、企業の取り組み事例を紹介。本記事では第1部のトークと第2部の模様をレポートします。

この記事の要約

この記事は、企業の脱炭素化に向けて、従業員一人ひとりの意識改革と行動変容が重要であることを指摘しています。

気象予報士の森朗氏は、地球温暖化による異常気象の深刻さを示し、企業の積極的な取り組みと消費者の環境意識向上が必要だと述べています。

次に、従業員の行動変容に成功した企業の取り組み事例が紹介されています。
メンバーズは従業員の脱炭素アクションを評価制度と連動させ、NTT Comはカボニューアンバサダーを設置するなどしてグループ内への浸透を図っています。

さらに、13社が連携した「ONE TEAM CHALLENGE」では、アプリを活用してエコアクションを実践し、CO₂削減に一定の成果を上げました。

最後に、企業と従業員が一丸となって取り組むことで、社会全体の脱炭素化につながるとまとめられています。

※この要約は生成AIをもとに作成しています。

目次


    気候変動で知る脱炭素社会の実現が急がれる背景

    宮田吉朗(以下、宮田):近年は地球温暖化による異常気象や気候変動が激甚化を極め、日々の生活でもその重大さを突きつけられてはいますが、気象予報士というお立場からどのような変化を感じていらっしゃいますか。

    森朗氏(以下、森氏):テレビ番組などで天気の解説をする立場としては、近ごろ気象現象が非常に激しくなっているので、解説時間もどんどん長くなっていると感じます。

    とはいえ地球における気候変動は、ここ最近に始まった話ではありません。たとえば45万年前は火山が噴火したり、氷が溶けたりして気温も大きく変化していました。およそ2万年前までは100年につき0.08℃のペースで温暖化が進み、その後は約100年で0.025℃の変化と、安定した状態が続いてきました。気温は変化し続けているのですが、問題はそのペースです。2000年以前は100年あたりの換算で0.73℃のペースだったところ、2000年以降は1.95℃のペースで気温が上昇しています。日本も去年の夏は、全国平均で史上最も高い気温を観測しました。

    森朗|気象予報士 お天気キャスター 株式会社ウェザーマップ代表取締役

    森氏:まず、とにかく暑さが厳しい。日本で最初に40℃の気温が観測されたのは1927年愛媛県の宇和島市、次が1933年に山形県の山形市です。ところが1990年代から観測範囲と頻度が上がり、2000年を越えたあたりからは、関東、東海、北陸などでも次々と40℃以上を記録しています。2010年以降は熱中症で亡くなる方が年間1,000人を超えることが増えて、命に関わる危険な暑さだということがデータ上に表れています。

    また、1日に100㎜以上の大雨も増えています。総雨量だけではなく1時間に80㎜以上という、局地的で短時間に降るゲリラ豪雨も頻発するようになりました。その仕組みは、気温上昇に伴う海水温の上昇により、水蒸気量が増加、さらに雲が発達することで雨や雪が激しく降るというものです。冬には毎年のように豪雪で立ち往生が生じ、物流などに大きな影響が出るなど、企業活動にも影響が及んでいます。

    企業の脱炭素経営を促すのは消費者の声

    宮田:環境問題は誰にとってもひとごとではないですからね。このような時代だからこそ、企業はどのような取り組みが必要だと思われますか。

    宮田吉朗|NTT Com ソリューションサービス部  デジタルイノベーション部門

    森氏:地球温暖化の原因になっているCO₂の排出量を考えると企業のアクションは非常に大切です。まず自社のCO₂排出量をしっかりと可視化、把握することが求められます。そのうえでどのような活動をするのか、また社会全体にどのように働きかけていくのかを考えていく必要があります。

    こうした問題はともすると「削減」や「抑制」ばかりがフォーカスされがちですが、企業の「発想」と「技術」で状況を好転させる方法もあると思っています。1つの例としてブラジルのコーヒー農園の話があります。ある農園主がバイヤーから化学肥料は地球温暖化の加速や土壌汚染の原因になる懸念があるため、環境にやさしい豆しか仕入れないと言われて、非常に困ったわけです。そんななか、ふとアマゾンに生い茂る木に着目し土壌を調べてみると、微生物に秘密があることがわかりました。

    採取した微生物を最新の技術で約1,000倍に培養してコーヒーの木に散布した結果、生育がよくなり品質のいい豆がたくさん採れたそうです。いわゆる有機農法ですが、これはおじいさんの時代から続く農法です。昔の知恵と最新の技術を掛け合わせて、自然のバランスを崩さずに生産性を向上するアイデアが生まれた。環境負荷の削減は必ずしも経済活動を減速させるものではないということを伝えたくてこの話を紹介させてもらいました。

    宮田:企業主体の取り組みはもちろん、社会全体のCO₂排出削減という視点も重要になっていると感じます。そういう意味では、社会の構成員としての従業員が一人ひとり環境問題への意識を持つべきだと思うのですが、どのようなことに取り組んでいくべきでしょうか。

    森氏:実は一人ひとりのアクションが一番難しい。私もマイボトルやコンポスト(生ごみを焼却せずに各家庭で堆肥化すること)を取り入れていますが、一人の力で構造的に何かが変わるわけではありません。こうした取り組みは社会全体で当たり前に実践されてこそ意味を成すと思います。

    また、ウェザーマップでは気候変動の深刻さを次の世代に伝えるために学生向けの講演も行っています。先日ある高校生から「企業や団体が『こうしなさい』『これはエコですよ』と言うけれど、ビジネストークじゃないの?と思ってしまう」 という話を聞きました。その気持ち、よくわかります。ですが、企業には消費者が求めるものを提供し、利益を出すというミッションがあります。大切なのは消費者が、何が本当に環境にいいのかを学習して、企業に「こういうものを作ってほしい。こういうものでなければ買えません」と発言をしていくことではないでしょうか。消費者の声が企業活動の変容を促す力を秘めていると思います。

    脱炭素経営の重要性と社内浸透の推進

    イベント後半は、従業員一人ひとりの脱炭素意識を高めて行動変容を促すことに成功した事例にフォーカスしました。登壇したのは、メンバーズの萩谷衞厚氏、NTT Comの奈良部達也と上田耕佑の3名です。紹介された取り組みをレポートします。

    萩谷衞厚氏(以下、萩谷氏):メンバーズは、1995年に設立され今年30期目を迎える会社です。企業の脱炭素支援事業を行い、気候変動問題をビジネスで解決しようとしています。脱炭素が新しい価値を生み出し、ビジネスとしても成立するように、プロジェクトマネジメントスキルとカーボンリテラシーを持ったGX人材が企業に並走します。

    萩谷衞厚|株式会社メンバーズ 脱炭素DX研究所 Social Good Company 編集長 アースデイジャパンネットワーク 共同代表

    萩谷氏:我々が企業の脱炭素を支援する背景として、3つの社会変化が挙げられます。まず「社会ルールの変化」。2020年10月に当時の日本政府がカーボンニュートラルを宣言し、日本も脱炭素へ舵を切りました。2つ目は「ビジネスの変化」。2020年7月、自動車のEV化をけん引したテスラの時価総額が初めてトヨタを上回り、社会の潮流が変わったことを象徴するニュースとなりました。ESG(環境E:Environment、社会 S:Social、ガバナンス G:Governanceの総称)関連のイニシアティブが企業にとっても重要なことが見て取れます。3つ目は「生活者の意識の変化」。メンバーズは2015年から生活者にアンケート調査を実施してきましたが、気候変動に関心を持つ層は多数派で、環境に配慮した商品に対する購入意向も毎年高い数値が続いています。サステナビリティ経営や環境配慮商品を提供することは、マーケティング上極めて合理的で有効な施策であるといえます。

    こうした社会の変化を踏まえて、自社内の脱炭素経営の浸透も重視しています。脱炭素経営が浸透するメリットは、ビジネス価値の向上、従業員の帰属意識や社会への貢献実感の向上など多面的です。一人ひとりが脱炭素を進められるように、2023年4月には「脱炭素アクション100」を立ち上げました。これは従業員の理解と行動を促すことを目的に、本業を通して脱炭素アクションにつながる項目を19カテゴリーで100個定義したもので、従業員には自分が当てはまるアクションを申請してもらいます。設計上、最も気をつけたのはアクションを評価制度にひもづけて社員のモチベーションを醸成することでした。

    1年間の計測の結果、当初の予定を大きく上回る2,300件のアクションが生まれました。脱炭素を従業員それぞれが納得感を持って取り組めた事例のひとつとして、今後もさまざまな企業とともに取り組んでいきたいと考えています。

    従業員の環境意識浸透に向けた取り組み

    NTTグループは新中期経営戦略で、サプライチェーン全体の「2040年度ネットゼロ」を発表しています。NTT Comも同様に「2040年度ネットゼロ」を目指していますが、従業員一人ひとりの意識改革について、同社サステナビリティ推進室の奈良部はジレンマを感じていたといいます。

    奈良部達也(以下、奈良部):NTT ComグループではGHG(温室効果ガス)排出量のゼロ化を目標に、自社が直接排出するScope1、間接的に排出するScope2、さらにサプライチェーンの上流と下流で排出するScope3を念頭に事業活動を行っています。通信を担う会社の宿命として電力は使わざるを得ないのですが、Scope1、2についてはICTを活用した社内電力の合理的な削減や、データセンターでの再生エネルギー、液冷装置の導入など、GHG排出量の抑制に向けた取り組みがあります。

    奈良部達也|NTT Com ヒューマンリソース部 サステナビリティ推進室(所属はイベント当時)

    奈良部:近年リモートワークが増えてオフィスのGHG排出量は減ったものの、自宅などで発生する分はそれぞれの環境意識に委ねられているところに、サステナビリティ推進室として課題を感じていました。また社外からの企業評価では、「ネットゼロ」という数値もさることながら、従業員のエンゲージメント指数も重視されますが、NTTグループ全体で調査を実施したところ、会社として企画する社会貢献活動に参加する機会があるかという部分については、NTT Comグループでは全体平均より低い結果が出ました。こうした結果を受けてNTT Comの環境経営は、従業員に浸透しているのかという問題意識が生まれたのです。

    そこで私たちが注目したのは、ドコモグループが行なっていた対策プログラムです。環境意識の定着に向けた取り組みを、社員の環境意識・スキルの観点から5段階に分け、各段階に応じた施策を展開しています。ここでは第1、第2段階としてより対象者数の多い「カボニューアンバサダー」と「Green Program® for Employee」の取り組みを紹介します。

    奈良部:カボニューアンバサダーは、環境問題に対する意欲のある社員を主体に、活動実践や情報発信をすることで全社の環境意識を醸成するプログラムです。会社側は環境にいいことを学ぶ勉強会や体験イベントの提供など、働きかけを行います。知識を身につけたアンバサダーが組織の中でさまざまなイベントを企画したり、環境課題解決に向けた知見やノウハウを社内外にシェアしたりすることを奨励しています。

    Green Program® for Employeeは、社員一人ひとりに働きかけるプログラムです。勤務中だけでなく、プライベートにおいても環境意識の向上を目指しています。具体的には、毎日の食事メニューや洗濯の仕方といった日常の行動の中でCO₂を減らす方法を学びながら実践記録をつけるというものです。組織対抗形式で進めるなど、多くの参加者が意欲的になれる仕掛けを交えながら取り組んでいます。

    どちらの取り組みにおいても重要なのは、自分ごととして捉えられる身近なレベルに落とし込むこと。またみんなで取り組める環境をつくることで活動は自ずと持続しやすくなり、長期的な視点では課題意識と新しいビジネスを生む力も培われていくのではないかと考えています。

    13社横断型の取り組みから見えた成果

    最後に登壇したNTT Comの上田からは、企業の垣根を越えた取り組み事例「ONE TEAM CHALLENGE」が紹介されました。

    上田耕佑(以下、上田):一人ひとりの行動が重要なことはわかっていても、個人で継続することにハードルを感じている方も多いと思います。そこで我々は所属企業や組織が活動を推奨することが、消費行動の変容やライフスタイルの変革につながるという仮説からこの取り組みを開始しました。

    「従業員参加型エコアクションチャレンジ」、通称ONE TEAM CHALLENGEは、従業員一人ひとりのエコアクションから脱炭素活動を加速させることを目指すプログラムです。これは環境省が展開する「脱炭素につながる新しい豊かな暮らしを創る国民運動(デコ活)」の一環で、企業横断型で実践していきます。直近では、このチャレンジに共感した13社とともに2023年7月〜10月の期間で実施しました。

    上田耕佑|NTT Com ソリューションサービス部 デジタルイノベーション部門

    上田:その内容として、まず参加企業が21日間の実施期間を設定し、参加企業の従業員がアプリケーション上で行動を入力します。アプリケーションには「エコアクション」としてクールビズやウォームビズなど業務時間内の実践項目から、プライベートでも実践できる項目がリストアップされていて、内容ごとのCO₂削減量を記録することが可能です。また、そのアクションがなぜ環境にいいのかを表示する機能も備えています。

    実施期間を経てトータルの参加人数とCO₂削減量を集計した結果、約1,300人の参加者による約3万回のエコアクションから、約15tのCO₂削減が実現しました。イベント後の参加者アンケート調査では77%が「環境に対する知識や関心が高まった」、63%が「環境に配慮した行動を実際に取った」と回答するなど、一定の成果が得られています。また、本業との関連性の高いエコアクション数が全体平均よりも高くなる傾向もデータから明らかになりました。

    2024年夏はさらにバージョンアップしたONE TEAM CHALLENGEを開催し、環境省とも連携します。アプリケーションはさらに強化してエコアクションだけでなく環境知識や生活スタイルのアンケート分析からも実力スコアの算出が可能になっています。また新たにダッシュボード上で企業がそれぞれのデータを確認・ダウンロードする仕組みも導入しています。ぜひ一緒にエコアクションをして、暑い夏を乗り切りましょう。参加を検討される企業の方はお声がけください。

    ◾️ 2023年のONE TEAM CHALLENGEについてはこちら
    「企業の垣根を越え13社1,348名が参加した従業員参加型エコプロジェクト『ONE TEAM CHALLENGE』の裏側」
    https://openhub.ntt.com/project/8498.html

    年々異常気象の脅威が増すなか、環境に対する企業の役割はますます大きくなっています。ビジネスは異なる立場の人々をつなぐ活動であり、企業はビジネスのさまざまなフェーズを通して社会課題を解決する架け橋になることが求められています。担い手は従業員一人ひとりです。今回紹介された取り組みからは、個人・社内・社内外横断型のプロジェクトによる、従業員の意識改革と行動変容のヒントが見えてきました。さらにこの動きが事業共創という形でいっそう社会全体に波及していくことも期待されます。

    地球温暖化を引き起こしている原因が人間活動であるならば、一人ひとりの行動変容がやがて大きなうねりとなって社会を変えられるはずです。持続可能な社会を実現する日々の一歩を支えるために、今後もOPEN HUBでは事例を創出、発信していきます。

    オンデマンド配信はこちら(視聴には会員登録が必要です)

    EVENT
    気象予報士と考えるカーボンニュートラル 求められる従業員個人の行動変容
    ※本ウェビナーは、2024年5月29日にOPEN HUB Parkで開催されたイベントの模様を録画、編集したものです。 地球温暖化が進む昨今、企業は積極的な持続可能性への取り組みを求められており、個々の従業員の意識と行動を中心に据える必要があります。 気象予報士の森朗氏をお招きし、気象予報士の視点を通じて、地球温暖化や気候変動の影響を理解し、対処するための「従業員個人の行動変容の重要性」についてお話いただきました。 後半では、実際に従業員の環境意識を変え、脱炭素経営を推進させた成功事例をご紹介します。 ▼こんな方におすすめ ・自社のカーボンニュートラル推進を担当する立場である方 ・脱炭素経営に対して興味や課題がある方
    ※本ウェビナーは、2024年5月29日にOPEN HUB Parkで開催されたイベントの模様を録画、編集したものです。 地球温暖化が進む昨今、企業は積極的な持続可能性への取り組みを求められており、個々の従業員の意識と行動を中心に据える必要があります。 気象予報士の森朗氏をお招きし、気象予報士の視点を通じて、地球温暖化や気候変動の影響を理解し、対処するための「従業員個人の行動変容の重要性」についてお話いただきました。 後半では、実際に従業員の環境意識を変え、脱炭素経営を推進させた成功事例をご紹介します。 ▼こんな方におすすめ ・自社のカーボンニュートラル推進を担当する立場である方 ・脱炭素経営に対して興味や課題がある方
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