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2024.05.29(Wed)

「治験」参加者をどう集めるか? 日本の医療をDXで変える

#Smart World #ヘルスケア #データ利活用 #スマートライフ
薬の候補となる物質の効果や安全性を臨床的に確かめ、国の承認を得ることを「治験」といいます。この「治験」という言葉を聞いて、多くの人が「興味がない」「自分には関係ない」と思うかもしれません。なかには、映画や小説といったフィクションの影響で、治験に対してあまり良い印象を持っていない人もいるでしょう。しかし、治験に対するこのような関心の薄さ、ポジティブではないイメージは、日本の医療が世界に大きく後れを取る要因の一つと言えます。

日本は高度な医療技術や設備、優れた衛生環境により、長寿国の地位を確立していますが、死因の上位であるがん、免疫疾患、神経変性疾患、また比較的罹患者の多い糖尿病や精神疾患などについては十分な治療法はまだまだ確立されていません。こうした疾患への新薬開発ニーズはあるものの、新薬の開発に不可欠となる治験の実施においてその参加者の確保が難しい点、治験を実施する医療機関のリソースが不足している点、治験のインフラが未整備である点などの理由から、日本は海外と比較して治療薬の承認・流通までに要する時間が長期化する傾向にあります。

このような治験における諸問題の解決のため、株式会社アイロムグループとNTT Comは、治験参加者を早期に確保し、治療薬の開発期間短縮を目指す「治験DX」を、共創によって進めようとしています。アイロムグループで企業向けウェルネスサービスを展開する株式会社アスポの紙田裕二氏・山中和仁氏と、NTT Comの田村祐子の3者が、共創に向けた意気込みを語ります。

目次


    「日本の医療は先進的」という大きな誤解

    ―― 日本の医療は優れているという印象を持っている人が多いと思いますが、実際はどうなのでしょうか。

    田村祐子(以下、田村):おそらく日本に住んでいたら「良い薬がない」と感じることはないでしょう。確かに多くの医療機関では清潔な環境、先進的な設備が整っており、かかりつけの病院に足を運べば、すぐに薬の処方を受けることが可能です。

    しかし実際には、海外では処方されるのに、日本では処方されない薬は数多く存在します。医療業界ではこのことを「ドラッグ・ロス」や「ドラッグ・ラグ」と呼びます。

    田村 祐子│NTT Com スマートヘルスケア推進室
    治験コーディネーターおよび臨床試験のIT化推進事業設立を経て、2022年NTTコミュニケーションズ入社 。主に製薬企業・医療機関向けサービスの企画をはじめ、NTTグループのアセットを活用した治験環境のIT化促進とDX化事業に取り組んでいる。

    なぜ「ドラッグ・ロス」「ドラッグ・ラグ」が起こっているかというと、海外では治験が行われていても日本で同じ新薬の治験が行われるとは限らないためです。その要因はいくつかありますが、日本で「治験」を行うと時間がかかることが原因の一つです。海外で開発された薬を日本で製造・販売するためには、その安全性や有効性を確認するために日本でも治験を行う必要がありますが、治験参加者の確保に時間がかかることで、治験期間の長期化が起こっています。海外の製薬会社から見ると、日本で治験を実施すると時間がかかり、コストもかかってしまうことがリスクにとらえられ、日本での治験が減少してしまう要因となっています。

    ある調査では、世界中の革新的な新薬のうち、6つに1つが日本では使えない状況になっていると報告されています。さらに、欧米における承認薬のうち70%が、日本では未承認のため処方できないというデータも存在します。


    治験は新薬の開発と承認に必要なプロセスです。医師や患者にとって、最新の治療薬が最善の治療法になる可能性があります。ところが、ドラッグ・ロス、ドラッグ・ラグにより、海外では承認されている新薬でも日本では未だ承認されていなければ使用することはできません。

    もちろん海外に行けば、その国で承認された新薬を使用した医療を受けることもできますが、渡航費や医療費を考えると現実的ではありません。日本でも最新の治療方法を選択できるようにするために日本での治験は必要不可欠です。その実現のために、治験の正しい情報を提供し認知度を上げること、その結果、日本での治験参加者が増えて治験期間が短縮されること、日本での治験実施数が増え新薬の承認が促進されることが必要だと考えています。

    がんや希少疾患など、患者数が少ない治験では、また別の課題もあります。治験は全国の医療機関で実施されていますが、がんや希少疾患などについてはこの限りではありません。たとえ治験に参加できる患者がいたとしても、その患者が地方在住者の場合、治験を実施する都市部への医療機関への通院が難しく、結果として治験への参加を諦めるケースも存在しています。

    治験の認知拡大に加え、治験の地域格差を解消することも、今回の共創の取り組みの目的です。

    プル型からプッシュ型へ。治験の専門企業との共創

    ――アイロムグループをパートナーに選んだ理由を教えてください

    田村:私は長年、治験業界で働いていましたが、業界の中での取り組みだけではなく、他業種・外から治験の課題解決に取り組むことで治験の底上げを加速させたいと思いNTT Comに入社しました。NTT Comの強みであるITとセキュリティ管理のノウハウを治験に活かすには、治験に精通し、多くの医療機関にコネクションを持ち、患者さんの近いところでサポートを行うSMO(治験施設支援機関)のパートナーが必要だと考えました。

    そこで、日本トップクラスの提携医療機関を持ち、医療機関の支援、治験参加者のフォローアップを全国で提供できる環境、豊富な経験と知識を持つ専門家を有するという理由から、アイロムグループにパートナーのお声がけしたのがきっかけです。

    山中和仁氏(以下、山中氏):我々もかねてより、医療の地域格差を解消するために、ITを医療に活用したい思いはあったものの、医療系では個人情報の取り扱いが特に厳しいため、絶対に情報漏えいなどの事故を起こすことはできないというプレッシャーから、なかなか取り組みがスタートできませんでした。万一、事故が発生すると、ITや治験に対するネガティブキャンペーンが広がり、取り組みが頓挫したり、後戻りしたりする懸念もありました。

    今回、NTT Comとパートナーを組むことにより、個人情報をストア(保存)するデータセンターから、個人デバイス~データセンターをつなぐネットワークまで、全体的なセキュリティを担保できるようになりました。我々にとってもベストな選択だと思っています。

    山中 和仁│株式会社アスボ 取締役
    2000年サーバエンジニアとしてキャリアをスタートし、以降NWも含めたエンジニアとして業務に従事。2013年アイロムグループ入社後はエンジニアとしての業務に加え、SMO・CRO等、グループ全体の業務に従事、職掌し、現在はエンジニアとしての経験とSMO・CROの知見を活用し、NTTグループとの協業に取り組んでいる。

    ――具体的にどのような取り組みを進めているのでしょうか。

    田村:私たちの強みの1つが、dポイントクラブ会員基盤です。今回の取り組みでは、dポイントクラブ会員内のプレミアパネルと呼ばれる約700万人に対して、治験の情報提供とリクルートを行います。従来の治験では治験参加者を募る「プル型」が一般的でしたが、私たちは個人にリーチする「プッシュ型」のアプローチを取ることができます。

    こちらから治験の情報を提供することについて、事前に許諾が得られている会員に対し、年齢、性別、習慣や居住地域などの属性に応じた治験の情報提供により、効率的に治験参加者候補を掘り起こし、参加者候補に対してeリクルートメント(オンライン上の治験参加者獲得活動)を行い、参加可能な治験実施施設を紹介します。その際、アイロムグループが全国で支援体制を築く4,500超の提携医療機関があるという点は大変意義があると考えています。

    この体制を構築することで、これまで治験の情報を届けることができなかった患者・家族に対して、治験に関する広く適切な情報や治験実施施設が紹介できることで、治験を実施する側と治験に参加する側の双方のニーズを満たせるようになるでしょう。その結果、日本における治験参加者の募集期間の短縮につながると考えています。

    もう1つの課題である「地域によって治験への参加・通院が困難になる」という課題については、ITを活用した「オンライン治験」で解決できると考えています。私たちはIT事業者としての強みを活かし、アイロムグループの提携医療機関に対してのDXとオンライン治験を実施できる環境づくりを進めています。

    オンライン治験では、臨床試験の評価精度を向上するデータ収集サービス「SmartPRO®」を活用することで、オンラインでの同意説明や電子署名サービスが可能になります。これにより地域の医療機関でも都市部の大学病院とビデオ通話を活用し、医療機関に通院することなくオンラインで治験の説明や同意、問診を受けられるようになります。大学病院とかかりつけ医、患者の三者で情報共有が容易になり、安心して治験の説明を受けることができ、参加するか否か十分に検討して決定することが可能になると考えます。

    さらに、治験に参加した後も、都度通院する必要はありません。「SmartPRO®」により患者側でスマートフォンから体調などを入力して医師と共有できるため、治験そのものの負担を抑えることもできます。もちろん、情報漏えいが起こらないよう、セキュリティ対策も徹底しています。

    全国の医療機関同士をネットワークでつなぎ、最適かつ安全な環境で情報連携を取りながらオンラインでの治験を行っていきます。これらの取り組みを実施することで、オンライン治験を推進し、通院が困難な治験参加者でも治験に参加することのできる環境づくりをめざしていきます。

    誰もが適切な医療を受けられる仕組みを作りたい

    ――eリクルートメントの成果はいかがでしたか。

    田村:第1回目のアンケートから「治験に関する情報をお送りしてよいか」という許諾を取っていますが、結果として約4割の方から「治験の情報提供に対する許諾」をいただいています。これまでに4回のアンケートを実施していますが、いずれも約4割の方から許諾をいただくという結果でした。

    紙田裕二氏(以下、紙田氏):これまで治験に触れることがなかった方に対して、プッシュ型で情報提供できたことは非常に画期的な取り組みだったと感じています。プレミアパネルを活用することで、年齢やお住まいの地域を限定した高精度、ピンポイントで対象に対して配信ができることも効率的だと思いました。

    そして4割の方が治験の情報提供に許諾、つまり治験に興味を持たれている事実にも驚いています。今後は、この割合をさらに増やすことができたら素晴らしいですね。この数値を5割、6割と上げていくことで、治験の認知度が上がり、ポジティブなイメージも変えていく力になっていくでしょう。

    紙田 裕二│株式会社アスボ 取締役副社長
    日本電信電話株式会社入社後、 IT関連のメーカー、SIer等を経て、2022年株式会社アスボ入社。主に経験したコンタクトセンタ関連のソリューションの経験を活かし、 全ての人が居住地域や年齢に捉われず均質な医療サービスを受けることが出来る社会の実現に向け、NTTグループと取り組んでいる。

    田村:次に私たちがやりたいのは「治験の啓蒙」、きちんと正しい情報を伝え続けることだと思っています。私たち通信キャリアのコンセプトは「つなぐ」ことです。正しい情報、必要な情報の安全な発信で製薬会社と患者、医者と患者などをつなぎ、治験のスピード、効率を高めるマッチングに力を入れていきたいと考えています。

    山中氏:今回、治験に興味を持っていただいた方の相談窓口であるコールセンター業務は、アイロムグループが担当しています。議論の中ではNTT Com側が持つという意見もあったのですが、治験は専門的な領域であるため最終的には我々が担当することになりました。得意領域はお互いが担うことで、より大きなシナジーを生むことにつながると感じています。

    ――直近の目標、将来的に目指すゴールを教えてください。

    田村:直近は、いま目の前にいるドコモのdポイントクラブ会員に正しい情報を届けることで、治験に対するマインドを変えることです。続いてNTT Comが提供する医療情報などの機微な情報を安全・安心に扱える「Smart Data Platform for Healthcare」による治験情報統合プラットフォームを構築し、アイロムグループとともにデータ活用を推進することをめざします。その後は、私たち独自のヘルスケアデータベースをつくり、利用者の健康に関するデータはもちろん、dアカウントと紐づくライフログも一緒に蓄積したいと考えています。

    ここで蓄積したデータを活用した製薬業界、医療業界向けのデータベースを構築し、新薬開発の促進、医療費削減、さらには健康の維持による個人の医療費削減にも役立てていきたいです。

    いまでは、個人のそばに1台、必ずスマートフォンがあります。そこにはさまざまなデータが紐づいており、創薬や医療はもちろん、個人に健康管理にも役立てられます。もちろん、私たちは個人情報やプライバシーの保護を徹底した厳重な管理など、お客さまに安心感、信頼感を与える対応を行います。

    最終的に、ヘルスケアデータベースにデータを預けておけば、利用者に必要なデータがタイムリーに届く仕組みを実現し、検索しなくても気にするべき健康状況、通うべき病院などがわかるようにしたいです。「こんなに良いサービスなら入っておこう」と誰もが思えるようなサービスを生み出すことが最終のゴールです。

    紙田氏:まず私たちが目指すのは、薬というトリガーから健康全般へ、「SmartPRO®」が集める情報領域を広げていくことです。導入にコストはかかりますが、結果的により大きな医療費削減の効果が出れば、国としてもメリットが生まれるでしょう。続いて「Smart Data Platform for Healthcare」についても、治験に限らず、全国の医療機関のさまざまな患者データが収容できるようになれば、医者ではなく患者がデータの主導権を持ち、自身の判断で最適な医者が選べるようになるでしょう。NTT Comの安全・安心なデータプラットフォームのもとに国民が集まり、医療の構造を変えることが最終的なゴールだと思っています。

    田村:私はヘルスケア事業を推進することで、日本がヘルスケア幸福度ナンバー1になる仕組みをつくりたい。日々の安心を感じられる暮らし、最適な医療を選択し受けられる環境をつくりたいと考えています。今回、お話したことは、途中でかたちが変わるかもしれません。それでも、私たちは日本が最適な医療を受けられる国になることを信じています。

    本プロジェクトのクロストークの模様やソリューションの詳細は、下記ウェビナー(動画)でもご覧いただけます。

    EVENT
    持続可能な医療の実現に挑むNTT Comの治験DX
    近年、医療、ヘルスケア分野のDXによりオンライン診療やオンライン服薬指導などが可能になってきました。一方で、新薬開発における治験期間の短縮が課題となっており、デジタル活用による解決に期待が集まっています。 本ウェビナーでは、現状の製薬業界や医薬品開発の動向と、NTTコミュニケーションズが取り組む治験DXについてご紹介します。 また、クロストークセッションでは、アイロムグループ社より紙田氏、山中氏をお招きし、治験のリクルートメントに関する取り組みや今後の治験DXの展望について語ります。 ▼このような方におすすめです▼ ・治験DXに興味関心がある方 ・製薬会社、医療機関、研究機関において研究開発に従事している方 ・治験・臨床試験領域の業務に従事している方
    近年、医療、ヘルスケア分野のDXによりオンライン診療やオンライン服薬指導などが可能になってきました。一方で、新薬開発における治験期間の短縮が課題となっており、デジタル活用による解決に期待が集まっています。 本ウェビナーでは、現状の製薬業界や医薬品開発の動向と、NTTコミュニケーションズが取り組む治験DXについてご紹介します。 また、クロストークセッションでは、アイロムグループ社より紙田氏、山中氏をお招きし、治験のリクルートメントに関する取り組みや今後の治験DXの展望について語ります。 ▼このような方におすすめです▼ ・治験DXに興味関心がある方 ・製薬会社、医療機関、研究機関において研究開発に従事している方 ・治験・臨床試験領域の業務に従事している方

     

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