Generative AI: The Game-Changer in Society

2024.05.08(Wed)

OPEN HUB Base 会員限定

誰もが“理想的なキャリア”をつくれる社会に?
リスキリングでエンパワーする、AI時代の企業と私

#教育 #AI #法規制
生成AIの活用による生産性向上が注目される昨今。多くの企業が生成AI導入へ動き出し、デジタル人材の重要性が日増しに高まる中、政府はそれに先駆ける形で2022年、労働者のリスキリング支援予算として5年間で1兆円を投資していくことを明言。さらに、DXや生成AI活用を推進する人材の役割、習得すべきスキルなどを定義した「デジタルスキル標準(DSS)」を発表するなど、いまや日本におけるデジタル人材育成/リスキリング支援は、企業の成長戦略において欠かせないトピックとなっています。

今回は、継続的なリスキリングによって新たなスキルを獲得し続ける「π(パイ)型人材2.0」モデルを提唱する、パロアルトインサイトCEO/AIビジネスデザイナーの石角友愛氏と、NTTコミュニケーションズ(以下、NTT Com)のスマートエデュケーション推進室で、AIマッチング技術を活用した自律型人材育成プラットフォーム「BoostPark(ブーストパーク)」や次世代リーダー/DX人材育成を実現する学びのプラットフォーム「gacco(ガッコ)」の導入を推進する新高勇飛がクロストーク。企業はこれから人材育成にどのように向き合い、そしてビジネスパーソンはどのような意識でリスキリングに向き合うべきか——AI時代における人材育成の重要性、そこから見出される企業戦略の新しい可能性について語り合います。

この記事の要約

石角友愛氏と新高勇飛氏の対話では、DX人材不足やリスキリングの重要性、キャリア形成の変化などに焦点が当てられた。

DX白書によれば、日本企業はデジタルツールの導入は進むがトランスフォーメーションが追いついておらず、DX人材不足も深刻。

キャリア形成は「4 to 4」に変化し、スキルの賞味期限が約4年と言われる現代では、持続的なスキルの獲得と拡張が求められる。

特に、新たなスキルを既存スキルと組み合わせて付加価値を生む「π型人材2.0」が重要視される。

また、リベラルアーツ思考力や問いを立てる力の育成、新技術の積極的活用、現場経験を生かした人材育成も不可欠。企業は人事戦略とタレントマネジメントを見直し、実践的なリスキリングの場を提供すべきだ。

※この要約はChatGPTで作成しました。


AI時代に求められる力とは。なぜ今リスキリングが注目されるのか

新高勇飛(以下、新高):石角さんは、パロアルトインサイトCEOとして日本企業のDX推進やAI導入を支援されるかたわら、一般向けにリスキリングの方法論やその重要性を伝える著作も刊行されています。昨今、リスキリングが重要視されるようになった理由について教えてください。

石角友愛氏(以下、石角氏):2023年にIPA(独立行政法人情報処理推進機構)が発表した「DX白書2023年版」に、『進み始めた「デジタル」、進まない「トランスフォーメーション」』というサブタイトルが付けられていたのをご存じでしょうか。

このサブタイトルが示す通り、デジタルツールの導入(デジタライゼーション)は進んでいる反面、ビジネスモデルや働く社員のマインドセット、産業のあり方といった「DX」の「X」に当たる「トランスフォーメーション」部分での変革が追いついていないのが、日本の実情です。2022年度に実施されたアンケートにおいては、米国でDXに取り組んだ企業の89%が「成果が出た」と答えましたが、日本企業は58%に留まりました。

これらの原因のひとつとして挙げられたのが、「DX人材不足」。本来は、生成AIの登場に象徴されるような環境の変化を踏まえ、企業は人材戦略の方向性を見極め、DXに向けたビジョン設定をしなくてはなりません。しかし、日本企業の多くでこの過程が不十分でした。そして、DXを進めるために必要な人材も、市場の需要に対して供給が追いついていませんでした。そもそも「DX人材」の定義すら固まっていなかったのです。そこで、政府の予算も投じてDX人材を積極的に育成していこうとしているのが、日本の現在地というわけです。

石角友愛(いしずみ・ともえ)|パロアルトインサイトCEO/AIビジネスデザイナー
2010年にハーバード・ビジネス・スクールでMBAを取得した後、シリコンバレーのGoogle本社で多数のAI関連プロジェクトをシニアストラテジストとしてリード。その後HRテック・流通系AIベンチャーを経てパロアルトインサイトをシリコンバレーで起業。多くの日本企業に、最新のDX戦略提案からAI開発まで一貫したAI導入・DXを支援。順天堂大学大学院医学研究科データサイエンス学科客員教授(AI企業戦略)、東京大学工学部アドバイザリー・ボードなども務める。著書に『AI時代を生き抜くということ ChatGPTとリスキリング』(2023年)など

新高:なるほど。そうしたDX人材がより一層求められていくAI時代において、ビジネスパーソンのキャリア形成ではどのような考え方が重要になるとお考えでしょうか?

石角氏:これまでは、大学4年間で学んだことで40年間仕事しようという「4 to 40」のキャリア形成モデルが前提にされてきました。ですが、生成AIの急速な進化などに象徴されるように、市場が急速に変わる中で、いまやスキルの賞味期限は約4年しかないといわれています。つまり「4 to 4」を繰り返して、新しいスキルを継続的に獲得・拡張していくことが求められているのです。

さらに、発展的なキャリア形成を考えるならば、新しく獲得するスキルは、すでに修得しているスキルと相乗効果を発揮して付加価値を生むようなものであることが理想的です。こうしたキャリア形成モデルを、私は「π型人材2.0」というワードで表現しています。

「π」の左脚を専門分野のスキル(ドメインスキル)、右脚をリスキリングで身につける「スパイクスキル」、そしてこれらのスキルをつなぎ合わせ、発展的に統合する「マスタースキル」によって人材価値を高める「π型人材」の概念はすでに一般化している。そこからさらに、リスキリングで得たスパイクスキルを新たなドメインスキルにすることで、また新たなスパイクスキルの獲得に向かい、マスタースキルの軸をより太くする成長を繰り返していくのが、石角氏の提唱する「π型人材2.0」の考え方だ(出典:日経クロストレンド「AI時代を生き抜くということ」)

例えば、「マーケティング」というドメインスキル(すでに獲得しているスキル)があって、「データ分析」をスパイクスキル(新たに獲得するスキル)として習得すれば、「データドリブンなマーケター」になれるでしょう。そして、4~5年の実績を積んだら「データドリブンマーケター」がドメインスキルになり、次に「アナリスト」という新たなスパイクスキルを会得する、といった具合にどんどんスキルを拡張していくのが「π型人材2.0」です。

このとき、「マーケティング」という元来のスキルは、新たな「データ分析」スキルの価値を高める役割を担っています。つまり、スキルとスキルをつなぐ「マスタースキル」へと昇華されているわけです。英語では、これを「Cohesiveness(統合力)」と呼びます。この「統合力」が、リスキリングにおいてはとても重要なのです。

新高:たしかに、何かしらのドメインスキルを身につけたビジネスパーソンが、そのスキルをほかのスキルと効果的に掛け合わせることに難しさを感じるケースは多いですね。スキルを増やすのみならず、マスタースキルを育てていけるかどうかがリスキリングのポイントということでしょうか。

石角氏:その通りです。スキルの獲得自体が目的化され、履歴書に資格を20個書ける、といった状態を推奨しているわけでは決してありません。あくまでもマスタースキルのもとでの統合力が重要で、こうしたリスキリングによるキャリア形成は、「環境変化に適応する速さ」、あるいは「新しい教科が目の前に降ってきたときに学習・会得する速さ」といった能力として言い換えることもできるでしょう。

「現場のエキスパート」ほどリスキリングに向いている? なりたい自分を見つける方法

この記事は OPEN HUB BASE 会員限定です。
会員登録すると、続きをご覧いただけます。